Fairy Song

時雨青葉

文字の大きさ
132 / 257
第14歩目 ぶつかり合う感情

いじるのが楽しい彼女

しおりを挟む

「えっ…」


 思ってもみなかったシュルクの言葉に、フィオリアは目を見開いて固まる。
 そんな彼女に、シュルクは真摯しんしに続けた。


「先に言っておく。俺はこれからも、こうやって一人で動き回ることがあると思う。危険だって分かりきってるなら、なおさらにな。だからその時は、俺を信じて待っててくれないか? 勝手だと思うかもしれないけど、お前がちゃんと安全だって分かってると、俺も安心できる。俺が守りたいって思ったものくらい、ちゃんと俺に守らせてくれ。」


(あーあ、俺も大概自分勝手だな……)


 フィオリアに向けて言葉をつむぎながら、その発言の一方的さを痛感する。


 守らせてくれ、だなんて。


 さもフィオリアのためのように聞こえる言葉だが、本当は自分のためでしかないのに。


 ただでさえ呪いのせいで傷ついているフィオリアが、これ以上傷つくのは見ていたくない。


 というより、自分が守ると決めたのだから、彼女が傷つくのは許せない。


 そんな独りよがりなわがままだ。


 もし自分が同じことを言われたなら、自分の身くらい自分で守れるとぶちギレているだろう。


 それでも彼女が大切だから、こう言わずにはいられないのだ。


「今まで、足手まといとか言って悪かったな。それは謝るよ。あれはお前との距離感が掴めなかった時の戯言ざれごとだから、もう忘れてくれ。」


「………っ」


 ちょうどいい機会なので以前の発言を取り消すと、フィオリアは顔を真っ赤にし、ぐっと唇を噛み締めた。


「……ずるい。そんなこと言われたら、私が何も言えなくなるって分かってるくせに。」
「そうだな。知ってる。でも、一度腹をくくったからには引くつもりもないから。」


「ほんとに……ほんとに勝手だよ。馬鹿。」
「悪い。」


 フィオリアの目の端に浮かんだ涙を、シュルクは丁寧に拭い取ってやる。


 今は、どんな文句でも真剣に受け止める心づもりだ。


傲慢ごうまん。自信家。自分勝手の分からず屋。」
「………」


「……大好き。」
「………っ」


 突然の告白に、それをまったく予測していなかったシュルクは面食らってしまう。


「好き……大好き。なんでこんなに好きにさせるのよ、馬鹿。」


 泣きじゃくるフィオリア。


 そんな彼女を抱き締めたくなる衝動をあえてこらえたのは、なんとも子供じみた意地がなせるわざだった。


「ふーん? 言うようになったじゃん。」


 シュルクはにやりと笑い、フィオリアの涙を拭っていた手をゆっくり下ろした。


「遠慮しなくていいって言ったのは、シュルクだもん。」


「ああ、言ったな。今のお前の方が、今までのお前よりもずっといいと思うよ。ただなぁ……」


 シュルクはそこで、意味ありげに笑みを深める。


「前々から思ってたけど、お前って割とスキンシップが大胆だよな。この体勢、どうすんの?」


「ふぇっ…?」


 フィオリアはパチパチとまぶたを叩き、次に自身の体を見下ろした。


 フィオリアは今朝の件を問い詰めるために正面に立ってから、会話が進むごとにその距離を詰めてきていた。


 その結果、彼女は今、椅子に座る自分にほぼのしかかっているような状態。


 片膝をこちらの太ももの間についているその体勢は、見ようによっては、彼女がこちらを誘っているようにも見える。


「~~~~~っ!?」


 ようやく状況を把握したフィオリアが、顔を真っ赤にして目を白黒させる。


 パニックのまま離れていこうとしたフィオリアの腰に手を回し、シュルクはその体をがっちりと椅子に固定した。


「逃がしてやーらない。」
「ふぇっ……ええっ!?」


「お前から寄ってきたんだからな。さて―――どうする?」


 間近から灰色の瞳を見つめ、少しだけ甘さを込めた声音で問いかけてみる。


 フィオリアは空気を求めてあえぐ魚のようにパクパクと唇を震わせ、まるで石像になったかのように全身を硬直させた。


 熟れた果実並みに赤い顔でぐるぐると目を回すウブな反応は、普段から平然と抱きついてくる奴と同一人物だとは思えないほどだった。


「―――よっ、と。」
「ふにゃあああっ!?」


 突然視界が回ったからだろう。
 フィオリアが面白い悲鳴をあげる。


 そんなフィオリアと自分の位置をくるりと反転させたシュルクは、椅子に深く腰かけることになった彼女の両頬を軽くつまんで引っ張ってやった。


「ばーか。客が来たみたいだから、今日はこのくらいにしてやるよ。」


 間抜けな顔をするフィオリアが、面白いこと面白いこと。
 最後につんと額をつついてやり、シュルクはあっさりと椅子から離れた。


「……シュ、シュルクーっ!!」


 後ろから、フィオリアの絶叫がとどろく。


「また私で遊んだのね!? 馬鹿ーっ!!」
「はっはっはー。お前で遊ぶの、面白いな。」


「も、もう! 真に受けた私が馬鹿みたいじゃない!!」
「んー? 真に受けたって、何を?」


「なっ、何をって……」


 それまで大声で喚いていたはずのフィオリアが、途端に言葉に窮する。


 対するシュルクは、半身だけでフィオリアの方を振り返ると、悪戯いたずら心全開でこう訊いてやった。


「なーんか、期待でもしてた?」


 もうこの後の展開が明らかすぎるほどに見えていて、顔がにやけるのを我慢できない。


 そして案の定、質問の意図を察したフィオリアは何も答えられず、唇を戦慄わななかせるだけで……


「ぶふっ」


 こちらが噴き出す方が早かった。


「おもしれ……真に受けた自分が馬鹿みたいって言った直後なのに、また真に受けてるよ。くくく…っ」


「~~~っ!! シュルクの馬鹿!! 意地悪!! 好きだけど嫌い!!」


「はいはーい。誰ですかー?」


 フィオリアの罵倒には構わず、シュルクは先ほどノックされたドアを開いた。


「あれ、ミシェリアさんじゃないですか。どうしたんですか?」


 ドアの向こうにいたのは、大量の本を抱えたミシェリアだ。


「エヴィーさんが戻られたから、そろそろいいかと思って来たのですが……お邪魔だったかしら、わたくし。」


 ほのかに顔を赤く染めるミシェリア。
 どうやら、さっきのやり取りを聞いていたらしい。


「大丈夫ですよ。聞こえてたなら、分かるでしょう? 俺があいつで遊んでただけだって。」


 悪びれる様子もなく、当然のことのように告げるシュルク。
 それを聞いたミシェリアは、その顔に複雑そうな色をたたえた。


「特別な相手にくらい、少しは優しいのかも……と、期待してましたが、どうやら間違いだったようですわ。意地悪を通り越して、下衆げすでしてよ。」


「おー。顔を見合わせて早々、ひどい言われよう。俺、そんなに嫌われるようなことをしました?」


「そ、そこに関しては、もう引きずらないでくださいまし! それよりも!!」


 ミシェリアは、強引に話を変えようとする。


 話を振ってきたのはそっちなのに。


 物言いたげなシュルクに、ミシェリアは持っていた本をずいっと押しつけた。


「もしお邪魔でなければ、今度こそちゃんと勉強を教えてくださらない?」
「ああ……」


 反射的にそれらを受け取り、シュルクはミシェリアが訪ねてきた理由にすっきり納得した。


「ええぇー…」


 ぼやきながら、受け取った本の背表紙を眺める。


「!!」


 それらを見たシュルクの目が丸く見開かれ、そして―――


「…………仕方ないですね。どうぞ。」


 軽い吐息とともに、シュルクはミシェリアを部屋の中へと招き入れた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

【完結保証】科学で興す異世界国家 ~理不尽に死んだ技術者が、「石炭」と「ジャガイモ」で最強を証明する。優秀な兄たちが膝を折るまでの建国譚~

Lihito
ファンタジー
正しいデータを揃えた。論理も完璧だった。 それでも、組織の理不尽には勝てなかった。 ——そして、使い潰されて死んだ。 目を覚ますとそこは、十年後に魔王軍による滅亡が確定している異世界。 強国の第三王子として転生した彼に与えられたのは、 因果をねじ曲げる有限の力——「運命点」だけ。 武力と経済を握る兄たちの陰で、継承権最下位。後ろ盾も発言力もない。 だが、邪魔する上司も腐った組織もない。 今度こそ証明する。科学と運命点を武器に、俺のやり方が正しいことを。 石炭と化学による国力強化。 情報と大義名分を積み重ねた対外戦略。 準備を重ね、機が熟した瞬間に運命点で押し切る。 これは、理不尽に敗れた科学者が、選択と代償を重ねる中で、 「正しさ」だけでは国は守れないと知りながら、 滅びの未来を書き換えようとする建国譚。

勘当された少年と不思議な少女

レイシール
ファンタジー
15歳を迎えた日、ランティスは父親から勘当を言い渡された。 理由は外れスキルを持ってるから… 眼の色が違うだけで気味が悪いと周りから避けられてる少女。 そんな2人が出会って…

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

最初から最強ぼっちの俺は英雄になります

総長ヒューガ
ファンタジー
いつも通りに一人ぼっちでゲームをしていた、そして疲れて寝ていたら、人々の驚きの声が聞こえた、目を開けてみるとそこにはゲームの世界だった、これから待ち受ける敵にも勝たないといけない、予想外の敵にも勝たないといけないぼっちはゲーム内の英雄になれるのか!

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !

本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。  主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。 その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。  そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。 主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。  ハーレム要素はしばらくありません。

処理中です...