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第14歩目 ぶつかり合う感情
いじるのが楽しい彼女
しおりを挟む「えっ…」
思ってもみなかったシュルクの言葉に、フィオリアは目を見開いて固まる。
そんな彼女に、シュルクは真摯に続けた。
「先に言っておく。俺はこれからも、こうやって一人で動き回ることがあると思う。危険だって分かりきってるなら、なおさらにな。だからその時は、俺を信じて待っててくれないか? 勝手だと思うかもしれないけど、お前がちゃんと安全だって分かってると、俺も安心できる。俺が守りたいって思ったものくらい、ちゃんと俺に守らせてくれ。」
(あーあ、俺も大概自分勝手だな……)
フィオリアに向けて言葉を紡ぎながら、その発言の一方的さを痛感する。
守らせてくれ、だなんて。
さもフィオリアのためのように聞こえる言葉だが、本当は自分のためでしかないのに。
ただでさえ呪いのせいで傷ついているフィオリアが、これ以上傷つくのは見ていたくない。
というより、自分が守ると決めたのだから、彼女が傷つくのは許せない。
そんな独りよがりなわがままだ。
もし自分が同じことを言われたなら、自分の身くらい自分で守れるとぶちギレているだろう。
それでも彼女が大切だから、こう言わずにはいられないのだ。
「今まで、足手まといとか言って悪かったな。それは謝るよ。あれはお前との距離感が掴めなかった時の戯言だから、もう忘れてくれ。」
「………っ」
ちょうどいい機会なので以前の発言を取り消すと、フィオリアは顔を真っ赤にし、ぐっと唇を噛み締めた。
「……ずるい。そんなこと言われたら、私が何も言えなくなるって分かってるくせに。」
「そうだな。知ってる。でも、一度腹をくくったからには引くつもりもないから。」
「ほんとに……ほんとに勝手だよ。馬鹿。」
「悪い。」
フィオリアの目の端に浮かんだ涙を、シュルクは丁寧に拭い取ってやる。
今は、どんな文句でも真剣に受け止める心づもりだ。
「傲慢。自信家。自分勝手の分からず屋。」
「………」
「……大好き。」
「………っ」
突然の告白に、それをまったく予測していなかったシュルクは面食らってしまう。
「好き……大好き。なんでこんなに好きにさせるのよ、馬鹿。」
泣きじゃくるフィオリア。
そんな彼女を抱き締めたくなる衝動をあえてこらえたのは、なんとも子供じみた意地がなせる業だった。
「ふーん? 言うようになったじゃん。」
シュルクはにやりと笑い、フィオリアの涙を拭っていた手をゆっくり下ろした。
「遠慮しなくていいって言ったのは、シュルクだもん。」
「ああ、言ったな。今のお前の方が、今までのお前よりもずっといいと思うよ。ただなぁ……」
シュルクはそこで、意味ありげに笑みを深める。
「前々から思ってたけど、お前って割とスキンシップが大胆だよな。この体勢、どうすんの?」
「ふぇっ…?」
フィオリアはパチパチと瞼を叩き、次に自身の体を見下ろした。
フィオリアは今朝の件を問い詰めるために正面に立ってから、会話が進むごとにその距離を詰めてきていた。
その結果、彼女は今、椅子に座る自分にほぼのしかかっているような状態。
片膝をこちらの太ももの間についているその体勢は、見ようによっては、彼女がこちらを誘っているようにも見える。
「~~~~~っ!?」
ようやく状況を把握したフィオリアが、顔を真っ赤にして目を白黒させる。
パニックのまま離れていこうとしたフィオリアの腰に手を回し、シュルクはその体をがっちりと椅子に固定した。
「逃がしてやーらない。」
「ふぇっ……ええっ!?」
「お前から寄ってきたんだからな。さて―――どうする?」
間近から灰色の瞳を見つめ、少しだけ甘さを込めた声音で問いかけてみる。
フィオリアは空気を求めて喘ぐ魚のようにパクパクと唇を震わせ、まるで石像になったかのように全身を硬直させた。
熟れた果実並みに赤い顔でぐるぐると目を回すウブな反応は、普段から平然と抱きついてくる奴と同一人物だとは思えないほどだった。
「―――よっ、と。」
「ふにゃあああっ!?」
突然視界が回ったからだろう。
フィオリアが面白い悲鳴をあげる。
そんなフィオリアと自分の位置をくるりと反転させたシュルクは、椅子に深く腰かけることになった彼女の両頬を軽くつまんで引っ張ってやった。
「ばーか。客が来たみたいだから、今日はこのくらいにしてやるよ。」
間抜けな顔をするフィオリアが、面白いこと面白いこと。
最後につんと額をつついてやり、シュルクはあっさりと椅子から離れた。
「……シュ、シュルクーっ!!」
後ろから、フィオリアの絶叫が轟く。
「また私で遊んだのね!? 馬鹿ーっ!!」
「はっはっはー。お前で遊ぶの、面白いな。」
「も、もう! 真に受けた私が馬鹿みたいじゃない!!」
「んー? 真に受けたって、何を?」
「なっ、何をって……」
それまで大声で喚いていたはずのフィオリアが、途端に言葉に窮する。
対するシュルクは、半身だけでフィオリアの方を振り返ると、悪戯心全開でこう訊いてやった。
「なーんか、期待でもしてた?」
もうこの後の展開が明らかすぎるほどに見えていて、顔がにやけるのを我慢できない。
そして案の定、質問の意図を察したフィオリアは何も答えられず、唇を戦慄かせるだけで……
「ぶふっ」
こちらが噴き出す方が早かった。
「おもしれ……真に受けた自分が馬鹿みたいって言った直後なのに、また真に受けてるよ。くくく…っ」
「~~~っ!! シュルクの馬鹿!! 意地悪!! 好きだけど嫌い!!」
「はいはーい。誰ですかー?」
フィオリアの罵倒には構わず、シュルクは先ほどノックされたドアを開いた。
「あれ、ミシェリアさんじゃないですか。どうしたんですか?」
ドアの向こうにいたのは、大量の本を抱えたミシェリアだ。
「エヴィーさんが戻られたから、そろそろいいかと思って来たのですが……お邪魔だったかしら、わたくし。」
仄かに顔を赤く染めるミシェリア。
どうやら、さっきのやり取りを聞いていたらしい。
「大丈夫ですよ。聞こえてたなら、分かるでしょう? 俺があいつで遊んでただけだって。」
悪びれる様子もなく、当然のことのように告げるシュルク。
それを聞いたミシェリアは、その顔に複雑そうな色をたたえた。
「特別な相手にくらい、少しは優しいのかも……と、期待してましたが、どうやら間違いだったようですわ。意地悪を通り越して、下衆でしてよ。」
「おー。顔を見合わせて早々、ひどい言われよう。俺、そんなに嫌われるようなことをしました?」
「そ、そこに関しては、もう引きずらないでくださいまし! それよりも!!」
ミシェリアは、強引に話を変えようとする。
話を振ってきたのはそっちなのに。
物言いたげなシュルクに、ミシェリアは持っていた本をずいっと押しつけた。
「もしお邪魔でなければ、今度こそちゃんと勉強を教えてくださらない?」
「ああ……」
反射的にそれらを受け取り、シュルクはミシェリアが訪ねてきた理由にすっきり納得した。
「ええぇー…」
ぼやきながら、受け取った本の背表紙を眺める。
「!!」
それらを見たシュルクの目が丸く見開かれ、そして―――
「…………仕方ないですね。どうぞ。」
軽い吐息とともに、シュルクはミシェリアを部屋の中へと招き入れた。
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