Fairy Song

時雨青葉

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第14歩目 ぶつかり合う感情

わだかまるもやもや

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「……ただいま。」


 フィオリアは、おずおずとシュルクの部屋のドアを開けた。


 本当は、今日くらいシュルクと距離を置きたかったのだけど、やむを得ない事情があった。


 何せ今自分の部屋は、絶賛猛反省中のミシェリアに占領されてしまっているのだから。


 お願いだから一人にしてくれ、と。
 必死にそう訴えられては、こちらとしても意地の張りようがなかったのだ。


「おかえり。もう落ち着いたのか?」


 シュルクはいつもどおりの口調でそう言うだけで、すぐに読んでいた本に目を落とした。


 結局、空回っているのは自分だけ。
 なんとなく、面白くなかった。


「シュルク、さっきの騒ぎ声聞こえてた?」


 シュルクの隣の椅子に腰かけながら問う。


「いや? なんかあったのか?」


 シュルクはあっさりと答えた。


 無駄に性能のいい防音設備が憎い。


「ミシェリアさんとヒンスさんが、また喧嘩を始めちゃったの。間に挟まれて、大変だったんだから。」


「うわ、マジか…。お疲れ。それは本当に大変だったな。」


 シュルクは露骨に嫌な顔をして、次にぽんぽんと頭をなでてくれた。
 その手つきは、こちらの苦労を心底労うように優しい。


 いつもはこれで満足してしまうところだけど……


 機嫌がよくないフィオリアは、むすっと頬を膨らませる。


「大変どころじゃないよ。あの二人、ほんっとうに言うことが勝手なんだよ? だから思わず、ミシェリアさんと大喧嘩してきちゃった。」


「……はっ!?」


 読んでいた本から顔を上げたシュルクは、ぎょっとして目を見開いた。
 フィオリアはお怒りモードで先を続ける。


「だってミシェリアさんったら、シュルクをだしにしてヒンスさんの気を引くんだよ? 腹も立つよ。」


「あー……なるほど……」


 状況を把握して苦笑いをするシュルクだったが、彼は自分がいいように使われていることに驚きはしなかった。


 やはり、ある程度のことには目をつむる心づもりだったらしい。


「大丈夫だったか? 慣れないことして、疲れただろ?」
「疲れたっていうか、なんていうか……」


 また胸がもやもやする。
 それを我慢しながら、フィオリアは深く溜め息を吐いた。


「何をやっても意味がないなら、いっそのこと出会わなければよかったって言われたの。」
「はあっ!?」


「私もその気持ちは分かるから、何も言い返せなかったな……」
「ちょ、ちょっと待った。ミシェリアさんがそう言ったのか?」


 シュルクが、慌てた様子で椅子から腰を浮かす。


「そうだけど?」


 事実をそのまま伝えると、一度言葉をつまらせたシュルクは、次に息を吐きながら椅子にどっかりと座り込んだ。


「はあぁー……そこまで言わせちまったのかよ…。あんのくそ野郎。」


 額を押さえるシュルクは、この状況に心の底から絶望でもしているよう。


「………」


 フィオリアはふてくされたような表情をする。


 やっぱり、シュルクはミシェリアのことを少なからず特別視しているように見える。


 まだ出会ってから三日だというのに、彼女の何をそこまで心配するのだろう。
 一体、彼女の何がシュルクを引き寄せるのだろう。


 それを考えると、胸にわだかまる不快感が脳内までをも埋め尽くしていくような気がした。


「そういえばシュルク、何読んでたの?」


 とりあえず話を変えようと思って、フィオリアはシュルクの手元にある本を指差した。


「ああ、これか?」


 シュルクは自分が読んでいたページにしおりを挟み、その本をこちらに差し出してくる。


「〈夢とうつつ狭間はざま〉に関する学術資料だよ。こっちのは、迷夢と霊神に関する歴史書。勉強の本に紛れ込ませて、ミシェリアさんが持ってきてくれた。」


「ミシェリアさんが?」


「そう。昨日今日と、俺がずっと考え込んでるのに気付いてたんだろうな。俺とヒンスさんのそりが合わないってことも分かってたからか、気をかせて持ってきてくれたみたいだ。その分、昨日の事故に関する俺の考えを根掘り葉掘り訊かれたけどな。情報と情報の等価交換ってやつかな。わざわざ筆談にしたのは、多分聞き耳を立ててるだろうヒンスさんに、話を聞かれたくなかったからだと思うけど。」


 ミシェリアがシュルクに渡した対価とは、これらのことだったのか。
 ミシェリアがした交渉のやり方とその中身を理解し、少しだけ溜飲が下がる。


「ねぇ、シュルク。」


 別の本をパラパラとめくる、その横顔を見つめる。


 情報と情報の等価交換。
 シュルクはそう言ったけど……


「本当に、それだけ?」


 不快感で満たされる心のまま、ずっと持っていた疑問を彼にぶつけてみた。

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