143 / 257
第15歩目 掴めない手
呪いに勝つ方法
しおりを挟む「なあ、ムーシャンでした約束を覚えてるか?」
シュルクはふいに、フィオリアへそう訊ねた。
訊ねられたフィオリアは、少しだけ不思議そうな顔で首を傾げる。
そんなフィオリアの頬に手を添えて、シュルクは柔らかく微笑んだ。
「俺はお前より先に死なないし、お前を俺より先に死なせもしない。今度こそ、二人揃って生き残ろうって言っただろ。」
こんなことを言う日が来るなんて、故郷にいた頃は思いもしなかった。
夢物語の中でしか聞かないようなこんなセリフ、普段の自分なら頼まれたって言えやしない。
でも、彼女になら―――
「不安なら、何度だって誓ってやる。お前をまた、孤独になんてさせない。もしもこの先、本当に何をやってもだめで、もう死ぬのを待つしかないって時が来たんだとしたら……」
ぐっとフィオリアの体を引き寄せ、互いの吐息すら聞こえてきそうなほどに顔を近付ける。
「その時はいっそのこと、一緒に死んでやろう。」
「!!」
フィオリアが瞠目して息を飲む。
シュルクは躊躇わずに言葉を連ねた。
「俺は中途半端が嫌いだって言ったろ? お前を残して死ぬくらいなら、お前も一緒に連れて死んでやるよ。誰がセイラの思いどおりになんかなってやるか。」
「シュルク……」
「まあ、これは俺の勝手な理想論だ。俺も結構極端なことを言ってる自覚はあるから、適当に聞き流してくれてもいいよ。」
あらかじめそう断っておき、シュルクはまた語り始めた。
「この命は、この後も何度も生まれ変わっていくんだろう。でも、今ここに立っている俺たちは、今この瞬間にしか存在できない。なら俺は、俺として存在している今の人生を最後まで生き抜くよ。」
堂々と宣言するシュルク。
「どんな結末になろうとも、俺は、俺が勝ったと思える死に方をしてやる。で、考えたわけだ。呪いに命を食われてる俺が、どうやったら呪いに勝ったと言えるのかって。もちろん、一番は呪いを解いてやることだろうと思う。でもそれ以上に―――お前を孤独にしないことが、本当の意味で大事なんじゃないかとも思うんだ。」
それは真正面から呪いについて考えた時、真っ先に思ったことだった。
「お前に寄り添おうとする奴らはみんな、お前を残して死んでいく、だったか? 上等だ。だったら俺は、意地でもお前を残して死んでやらない。最期に二人で笑って死ねるなら、それが呪いのせいだろうとなんだろうと、呪いの悪意には勝って死ねたと思わないか? だって、お前は少なくとも、生きてるうちは一人きりにならないんだぜ?」
たとえ呪いのせいで自分が死ぬことになろうと、それは運の悪かった事故みたいなものだ。
話を聞いた限りでの考察だが、呪いの真の目的は、ルルーシェを永遠に孤独にすること。
対の相手や彼女に深い情を持った者が死んでいくのは、その目的を達するための手段に過ぎない。
ならば、彼女を独りにさえしなければ、呪いの価値も脅威も瓦解する。
屁理屈だというなら、勝手にそう批判すればいい。
だが、こちらの捉え方次第では、呪いなどないも同然なのだ。
「………」
フィオリアは、どこか茫然とした表情でこちらを見上げている。
自分が提示したのは、きっと彼女の中には微塵もなかった価値観と選択肢。
そのぶっ飛んだ内容に心底驚いて圧倒されながらも、どこか強く惹かれている。
そんな顔だった。
このままこちらの世界に引きずり込まれて、こちらの色に染まってしまえばいい。
今まで蓄えてきた知識と経験、それらを糧に築いてきた理想と価値観。
その全てを総動員して、彼女の存在を肯定しよう。
呪いの存在など、忘れさせてやろう。
彼女が笑えるのなら、彼女を自分の道連れにする覚悟も決めようじゃないか。
「どうだ? そう考えたら案外、この呪いって怖いもんじゃないだろ?」
シュルクはすっと、フィオリアの耳元に口を寄せる。
これから彼女の耳に囁くのは、甘くて危険な誘い。
「だから、どうせなら―――二人で一緒に、地獄にでもどこにでも堕ちてやろうぜ?」
フィオリアが、呼吸すら忘れて固まる。
別に、彼女の答えを聞きたいわけではなかった。
なので―――
「ま! 俺は、そう簡単にくたばってやる気はないけどね!!」
パッと体を離し、底抜けに明るい声で言ってやる。
「ふぇ……えっ……ええっ!?」
フィオリアは混乱したように、目を白黒とさせる。
まだ半分夢見心地といった風ではあったが、先ほどまで彼女の瞳で揺れていた恐怖は、かなり和らいでいるように見えた。
「少しは、怖いのがどっかに飛んでいったみたいじゃん?」
意地悪い口調で指摘してやると、フィオリアは目をぱちくりとしばたたかせて、自分の胸に手を当てた。
「あ……本当だ……」
「本当だ……って。お前なぁ…。単純すぎて、ちょっと心配になってくるんだけど。」
「なっ…! それは、シュルクが反論できないことばっか言うから、何も言えない私がそう見えるだけだもん!」
「へぇー? どうだか?」
よしよし。
言い返してくる元気が出たなら大丈夫そうだ。
シュルクは、にやりと口の端を吊り上げる。
「ってか、俺程度に言いくるめられてどうすんだよ。俺に口で勝てるようにならないと、まーた俺におもちゃにされて終わるぞー?」
「おもちゃにしてる自覚はあったの!?」
「え? 俺、昨日ミシェリアさんに、堂々とお前で遊んでたって言ったじゃん。」
「そ、そんなの聞こえなかったもん!」
「そっか。じゃあ、今ちゃんと聞こえたよな? 頑張って、おもちゃから脱出しろよ?」
最後にフィオリアの髪の毛を少し乱暴に掻き回し、シュルクは颯爽と屋敷へと帰る道を歩き始めた。
「ううぅ…っ。シュルクの意地悪!!」
「そろそろ聞き飽きたなー、それ。」
「馬鹿!!」
後ろで喚く、フィオリアの声。
それを聞いて心底ほっとしたとは、今は言わないでやろう。
シュルクは慈愛に満ちた笑みを浮かべ、フィオリアに気付かれないうちにその笑みを隠した。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~
ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。
王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。
15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。
国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。
これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。
【完結保証】科学で興す異世界国家 ~理不尽に死んだ技術者が、「石炭」と「ジャガイモ」で最強を証明する。優秀な兄たちが膝を折るまでの建国譚~
Lihito
ファンタジー
正しいデータを揃えた。論理も完璧だった。
それでも、組織の理不尽には勝てなかった。
——そして、使い潰されて死んだ。
目を覚ますとそこは、十年後に魔王軍による滅亡が確定している異世界。
強国の第三王子として転生した彼に与えられたのは、
因果をねじ曲げる有限の力——「運命点」だけ。
武力と経済を握る兄たちの陰で、継承権最下位。後ろ盾も発言力もない。
だが、邪魔する上司も腐った組織もない。
今度こそ証明する。科学と運命点を武器に、俺のやり方が正しいことを。
石炭と化学による国力強化。
情報と大義名分を積み重ねた対外戦略。
準備を重ね、機が熟した瞬間に運命点で押し切る。
これは、理不尽に敗れた科学者が、選択と代償を重ねる中で、
「正しさ」だけでは国は守れないと知りながら、
滅びの未来を書き換えようとする建国譚。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
最初から最強ぼっちの俺は英雄になります
総長ヒューガ
ファンタジー
いつも通りに一人ぼっちでゲームをしていた、そして疲れて寝ていたら、人々の驚きの声が聞こえた、目を開けてみるとそこにはゲームの世界だった、これから待ち受ける敵にも勝たないといけない、予想外の敵にも勝たないといけないぼっちはゲーム内の英雄になれるのか!
真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます
難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』"
ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。
社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー……
……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!?
ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。
「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」
「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族!
「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」
かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、
竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。
「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」
人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、
やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。
——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、
「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。
世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、
最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕!
※小説家になろう様にも掲載しています。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !
本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。
主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。
その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。
そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。
主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。
ハーレム要素はしばらくありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる