Fairy Song

時雨青葉

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第15歩目 掴めない手

呪いに勝つ方法

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「なあ、ムーシャンでした約束を覚えてるか?」


 シュルクはふいに、フィオリアへそう訊ねた。
 訊ねられたフィオリアは、少しだけ不思議そうな顔で首を傾げる。


 そんなフィオリアの頬に手を添えて、シュルクは柔らかく微笑んだ。


「俺はお前より先に死なないし、お前を俺より先に死なせもしない。今度こそ、二人揃って生き残ろうって言っただろ。」


 こんなことを言う日が来るなんて、故郷にいた頃は思いもしなかった。


 夢物語の中でしか聞かないようなこんなセリフ、普段の自分なら頼まれたって言えやしない。


 でも、彼女になら―――


「不安なら、何度だって誓ってやる。お前をまた、孤独になんてさせない。もしもこの先、本当に何をやってもだめで、もう死ぬのを待つしかないって時が来たんだとしたら……」


 ぐっとフィオリアの体を引き寄せ、互いの吐息すら聞こえてきそうなほどに顔を近付ける。


「その時はいっそのこと、一緒に死んでやろう。」
「!!」


 フィオリアが瞠目して息を飲む。
 シュルクは躊躇ためらわずに言葉を連ねた。


「俺は中途半端が嫌いだって言ったろ? お前を残して死ぬくらいなら、お前も一緒に連れて死んでやるよ。誰がセイラの思いどおりになんかなってやるか。」


「シュルク……」


「まあ、これは俺の勝手な理想論だ。俺も結構極端なことを言ってる自覚はあるから、適当に聞き流してくれてもいいよ。」


 あらかじめそう断っておき、シュルクはまた語り始めた。


「この命は、この後も何度も生まれ変わっていくんだろう。でも、今ここに立っている俺たちは、今この瞬間にしか存在できない。なら俺は、俺として存在している今の人生を最後まで生き抜くよ。」


 堂々と宣言するシュルク。


「どんな結末になろうとも、俺は、俺が勝ったと思える死に方をしてやる。で、考えたわけだ。呪いに命を食われてる俺が、どうやったら呪いに勝ったと言えるのかって。もちろん、一番は呪いを解いてやることだろうと思う。でもそれ以上に―――お前を孤独にしないことが、本当の意味で大事なんじゃないかとも思うんだ。」


 それは真正面から呪いについて考えた時、真っ先に思ったことだった。


「お前に寄り添おうとする奴らはみんな、お前を残して死んでいく、だったか? 上等だ。だったら俺は、意地でもお前を残して死んでやらない。最期に二人で笑って死ねるなら、それが呪いのせいだろうとなんだろうと、呪いの悪意には勝って死ねたと思わないか? だって、お前は少なくとも、生きてるうちは一人きりにならないんだぜ?」


 たとえ呪いのせいで自分が死ぬことになろうと、それは運の悪かった事故みたいなものだ。


 話を聞いた限りでの考察だが、呪いの真の目的は、ルルーシェを永遠に孤独にすること。


 ついの相手や彼女に深い情を持った者が死んでいくのは、その目的を達するための手段に過ぎない。


 ならば、彼女をひとりにさえしなければ、呪いの価値も脅威も瓦解する。


 屁理屈だというなら、勝手にそう批判すればいい。
 だが、こちらのとらえ方次第では、呪いなどないも同然なのだ。


「………」


 フィオリアは、どこか茫然とした表情でこちらを見上げている。


 自分が提示したのは、きっと彼女の中には微塵みじんもなかった価値観と選択肢。
 そのぶっ飛んだ内容に心底驚いて圧倒されながらも、どこか強く惹かれている。
 そんな顔だった。


 このままこちらの世界に引きずり込まれて、こちらの色に染まってしまえばいい。


 今まで蓄えてきた知識と経験、それらをかてに築いてきた理想と価値観。
 その全てを総動員して、彼女の存在を肯定しよう。
 呪いの存在など、忘れさせてやろう。


 彼女が笑えるのなら、彼女を自分の道連れにする覚悟も決めようじゃないか。


「どうだ? そう考えたら案外、この呪いって怖いもんじゃないだろ?」


 シュルクはすっと、フィオリアの耳元に口を寄せる。


 これから彼女の耳に囁くのは、甘くて危険な誘い。




「だから、どうせなら―――二人で一緒に、地獄にでもどこにでもちてやろうぜ?」




 フィオリアが、呼吸すら忘れて固まる。


 別に、彼女の答えを聞きたいわけではなかった。
 なので―――


「ま! 俺は、そう簡単にくたばってやる気はないけどね!!」


 パッと体を離し、底抜けに明るい声で言ってやる。


「ふぇ……えっ……ええっ!?」


 フィオリアは混乱したように、目を白黒とさせる。


 まだ半分夢見心地といった風ではあったが、先ほどまで彼女の瞳で揺れていた恐怖は、かなりやわらいでいるように見えた。


「少しは、怖いのがどっかに飛んでいったみたいじゃん?」


 意地悪い口調で指摘してやると、フィオリアは目をぱちくりとしばたたかせて、自分の胸に手を当てた。


「あ……本当だ……」


「本当だ……って。お前なぁ…。単純すぎて、ちょっと心配になってくるんだけど。」


「なっ…! それは、シュルクが反論できないことばっか言うから、何も言えない私がそう見えるだけだもん!」


「へぇー? どうだか?」


 よしよし。
 言い返してくる元気が出たなら大丈夫そうだ。


 シュルクは、にやりと口の端を吊り上げる。


「ってか、俺程度に言いくるめられてどうすんだよ。俺に口で勝てるようにならないと、まーた俺におもちゃにされて終わるぞー?」


「おもちゃにしてる自覚はあったの!?」


「え? 俺、昨日ミシェリアさんに、堂々とお前で遊んでたって言ったじゃん。」


「そ、そんなの聞こえなかったもん!」


「そっか。じゃあ、今ちゃんと聞こえたよな? 頑張って、おもちゃから脱出しろよ?」


 最後にフィオリアの髪の毛を少し乱暴に掻き回し、シュルクは颯爽さっそうと屋敷へと帰る道を歩き始めた。


「ううぅ…っ。シュルクの意地悪!!」
「そろそろ聞き飽きたなー、それ。」
「馬鹿!!」


 後ろで喚く、フィオリアの声。
 それを聞いて心底ほっとしたとは、今は言わないでやろう。


 シュルクは慈愛に満ちた笑みを浮かべ、フィオリアに気付かれないうちにその笑みを隠した。

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