Fairy Song

時雨青葉

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第18歩目 観光ツアー

見事な膨れっ面

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 さて、これで本当に用もなくなっただろう。


 そう判断したシュルクは、今度こそまっすぐにダントリアンを出ることにした。


 高いへいを抜けてからしばらくは警戒したが、その警戒に反して、自分を追いかけてくるようなやからはいなかった。


 もしかしたら、バーティスが新たな伝令を出したのかもしれない。
 それなら、石売りを通して彼に釘を刺したかいがあったというもの。


 ダントリアンから少し離れた位置に待機してもらっていた馬車に乗り、隣町のリドーへ。


 そこで野暮用を済ませるためにいくつか寄り道をし、町一番の高級レストランへと向かう。


 移動中にしたためたヒンスへの手紙を託し、ここまで送り迎えをしてくれた男性と別れた。




(まあ、こうなるとは分かってたけどよ……)




 レストランの個室へと通されたシュルクは、後ろでドアが閉じられるや否や渋面を作った。


 出迎えてきたのは、フィオリアの見事な膨れっ面だったのだ。


 彼女の前には、空になった皿がいくつも。
 これは、不満からやけ食いに走ったと見える。


「ただいま。すごい食いっぷりだな。」


 かばんを床に置いて、憎まれ口を一言。


「シュルクが置いていくからだもん。」


 返ってきたのは、いつものように癇癪かんしゃくを起こしたような喚き声ではなく、やけに静かなトーンの声。


 どうやら、激情も静まるほどにご機嫌斜めのようだ。


 とはいえ、フィオリアを一人でここに押し込めておいたのは、それなりの理由と目的があってのこと。


 何度考えたってこの判断はくつがえらなかっただろうから、自分には下手に謝ることもできない。


「あんな危ない町になんて、さすがに連れていけるかよ。」


 端的に、フィオリアをダントリアンから遠ざけた理由を述べる。
 すると、彼女はますます頬を膨らませてしまった。


「分かってる……分かってるもん。でも、一言くらい相談してくれてもよかったじゃない。」


 ぶつぶつと不平不満を垂れ流しながら、フィオリアは皿に乗ったケーキをどんどん口に放り込んでいく。


「さすがにもう、全部を丁寧に説明されなくたって分かるよ。馬鹿正直に一人で行くって言えば、私が絶対に反対するって分かりきってたから、あえて何も言わなかったんでしょ?」


「まあな。」


「今だって、どうせ後悔してないよね? 一人で勝手に動くって、イストリアでちゃんと断っといたじゃんとか思ってるでしょ?」


「おっしゃるとおりで。」


 なんだかんだと、共に旅を始めてから半年以上。


 自分がフィオリアの性格や考え方を熟知しているように、彼女もこちらの性格や考え方を把握しつつあるようだ。


「やっぱりね。分かってるけど……」


 フィオリアの声が、そこで一気に沈む。
 ケーキを運んでいたフォークも止まってしまった。


「やっぱり、一言でもいいから言ってほしかった。迷夢に飛び込む前みたいに、絶対に帰ってくるからって言ってくれれば……私だって、絶対に戻ってきてって、そう言って送り出してあげられたのに……」


「………っ」


 それを聞いたシュルクは、思わず口をつぐんでしまう。
 今の言葉には、先ほどまでのように軽口で相づちを打てなかったのだ。


 何も言えずにいるシュルクを上目遣いで見上げたフィオリアは、ねたように唇を尖らせる。


「だから、約束して。私も理性的に物事を判断するように意識して話を聞くから、シュルクも何も言わないまま私を置き去りにしないで。今回みたいに何も分からないまま待つって、本当に不安になるんだから。」


「……分かった、約束する。今回は悪かったよ。」


 下手に謝ることもできないと思っていた約一分前はなんだったのか。
 だけど、ここは変な意地を張らずに謝るべきだろう。


 フィオリアの指摘は、何一つとして間違っていない。
 彼女が不満や不安をいだくのも道理。
 そして、自分はそれを分かっていて、あえて独断で行動した。


 場合によっては、今回の運命石集めは一人でやりきる算段もあったからだ。


 どうするか判断できるまでは、多少強引にでもフィオリアを部外者という安全圏に置いておきたかった。


 フィオリアを危険にさらすか、彼女に散々文句を言われるか。
 どちらが楽かは明白だ。


 だけど……彼女を一人で残していくなら、ちゃんと不安をやわらげてから行くべきだった。


 そこは、明らかな自分の落ち度だ。


「……シュルクはずるいよ。」


 フィオリアは、また頬を膨らませる。


「いつも自分勝手なくせに、こういう時は簡単に謝ってくるの。言い訳っぽく私のためにやったんだって言ってくれれば、もっと色々と意見できたのに。ほんと、自分にも私にも言い訳を許してくれないんだから。私に、文句を言う隙をくれたっていいじゃない。」


「別に、文句なら言いたいだけ言えばいいじゃねえか。」


「そしたら、シュルクの思うつぼでしょ。なんか、まんまと乗せられてるみたいで悔しい。」


「……で、八つ当たりした結果がこれか。」


 どんどん積み上げられていく皿を指して問う。


 フィオリアにも意地があるのは分かる。
 しかし、彼女に何かを溜め込ませると、それが爆発した時に痛い目を見るのはこちら。


 今回は自分の配慮が至らなかったこともあるし、上手く誘導して吐き出しきれていない不満や不安も聞いてあげよう。


 そう思って、あえて嫌味っぽく言ってやったのだけど……


「ううん! これは違うの!」


 そこで、フィオリアの口調が一気に明るくなった。

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