Fairy Song

時雨青葉

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第18歩目 観光ツアー

明らかになった異変

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「観光ツアー?」


 シュルクが告げたその言葉に、フィオリアはこてんと首を傾げた。


「そ。」


 シュルクは一つ頷く。


「ネラみさきとその周辺は、一昔前は景勝地としてそれなりに観光需要が高い地域だったらしい。ダントリアンも、観光客に一夜の夢を売る花街だったみたいだな。」


「へえ……」


「時代の流れに伴ってダントリアンの土地柄が変わり、ほとんどの奴らが観光業から手を引いたわけだが、そんな今でもしぶとく観光客を取り入れてる奴もいるらしい。今回紹介してもらったのは、そのうちの一つだ。」


「うーん……」


 シュルクの話を聞きながら、フィオリアは思案げな顔をする。


 この辺りが、かつてはそこそこ名を馳せた観光地であったこと。
 それは、各国の歴史を学んだ時に聞いたことがある。


 でも、なんだか腑に落ちない。 


「……でも、こんなに危ない場所で観光ってできるものなの?」


 端的に違和感を投げかける。
 完全に素人しろうとの意見だけど、こんな場所で未だに事業が成り立つとは思えなかったのだ。


 すると、途端にシュルクが重たい息を吐き出した。


 不愉快そうに寄せられた眉間みけんのしわを見るに、何かしら彼の価値観にそぐわない事情があるのだろう。


 嫌そうな顔をしながらも、シュルクはすぐに口を開く。


「競争相手が減るんだ。踏ん張れば、今まで奪い合っていた利益を独占できると考えたんだろう。今ここに残っている奴らは、防犯サービスをとても厚くしているらしい。それが功を奏してか、ツアーは半年先まで満員御礼だとよ。」


「えええ…?」


「とはいえ、一歩間違えば奴隷人生に転落しかねない。そのスリルが、逆に魅力になってんのかもしれねぇな。俺から言わせれば、ツアーを開催する側も参加する側も大馬鹿者だけど。」


 にべもなく切り捨てるシュルクに、フィオリアは苦笑するしかない。


 さすがはシュルクだ。
 言葉を選ばないというか、ストレートすぎるというか……


 だけど、今回は自分もシュルクに同意する。
 するのだけど、気になることが一つ。


「シュルク。それ、ツアー中に言っちゃだめだからね? 喧嘩になっちゃうから。」


 シュルクが不機嫌な理由には、今からその大馬鹿者たちの中に入らなきゃいけないという要因もあるのだろう。


 冷静なくせに、短気で喧嘩っ早い彼のこと。
 周りの観光客と言い争いにならないといいのだけど。


「……極力、我慢はするよ。」


 返ってきたのはこれである。


「あー、自信ないんだぁ?」


 珍しく消極的なシュルクの発言。


 それが面白くて突っ込んでみると、彼はぐっと言葉に詰まった後に思い切りそっぽを向いてしまった。


「う、うるさいな。我慢はするっつってんだろ!」


 それでも、シュルクは決して〝喧嘩をしない〟とは言わない。
 本当に、正直な人だ。


 そして、自分に嘘を許せなくて今の言い分を押し通すのが、なんだか子供みたいに見えて可愛い。


「その生ぬるい目をやめろ。」


 とうとう、シュルクはこちらから逃げるように歩く速度を早めてしまった。


(可愛いなぁ、もう。)


 普段の頼もしさはどこへやら。
 ああいうギャップを見ると、彼もちゃんと自分と同じ年なんだと思う。


 こちらがくすくすと笑っている間に、シュルクはどんどん前を行く。


 そこに追いつこうと、自分も歩く速度を上げようとした時―――シュルクが、ふいに立ち止まった。


「シュルク…?」


 なんだか、様子がおかしい。
 そう思って、急ぎ足でシュルクに追いつく。


「………」


 無表情でたたずむシュルク。
 しかし、よく見ればその顔は少しばかり青く、呼吸も何かをこらえるように苦しげだ。


「どうしたの…?」
「いや……」


 言葉をにごすシュルク。


 これは、何か都合の悪いことを隠している。
 そう確信して無言の圧力をかけると、やがて彼は諦めたように肩を落とした。


「イストリアを出てから、たまに胸が痛む時があってな…。今もちょっと……」
「え…」


 それは、全く想定していなかった回答。
 先ほどまでの楽しさなんか、一瞬で消え失せてしまった。


「なんで黙ってたの!? 観光ツアーなんて後にして、まずは病院に行かないと!!」
「え、病院…? 大した痛みじゃないから、別に―――」


「思わず立ち止まっちゃう時点で、大したことあるよ! ほら、早く!!」
「でも、これからこなさなきゃいけない用事が……」


「そんなの、シュルクならすぐに立て直せるでしょ!? ドリオンに襲われた後遺症が今さら出てきたとかだったらどうするの!?」


 いつもは押し負けてばかりだけど、こればかりは絶対に譲らない。


 シュルクの手を問答無用で引っ張り、フィオリアは病院の場所を訊ねるために集会所を探すのだった。

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