Fairy Song

時雨青葉

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第18歩目 観光ツアー

異変の原因は―――

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「―――ふむ。大病の兆候はないですね。至って健康です。」


 胸の痛みという症状から手厚めの検査を受けた結果、医者にはそんな判断を下された。


「ですよね。たまに痛むくらいですし、その痛みも長く続くってわけでもないですし。」


 フィオリアに告げた言葉のとおり、大したことはないだろうと思っていたシュルクは、医者の診断結果にすんなりと同意した。


 やれやれ。
 思わぬところで時間を食ってしまった。


 まあ、これでフィオリアの不安が解消されるなら安いもんだ。


「ほらな? 大丈夫だっただろ?」


 後ろで診察を見守っていたフィオリアに一言。


「………」


 しかしながら、フィオリアの表情は晴れない。


 不安……というよりは、少しお怒りのご様子。
 その理由は、言われずとも伝わってきた。


「はいはい、黙ってて悪かったよ。今度から自己判断せずに、ちゃんと医者にてもらうって。」


「……約束だよ?」


「そう言う割には、絶対に信用しませんって顔だな。」


「だって、シュルクはいつも周りを優先して自分のことを後回しにするじゃない。何が自分のためにしか動けない、よ。」


「あー、分かった。その話は、後でじっくりと聞いてやる。次の患者だっているんだから、先生の手をわずらわせないようにしようぜ。」


 ていのいい言い訳を口にして、シュルクは医者へと向かい直った。


「可愛らしい恋人にここまで心配してもらえるなんて、幸せ者ですね。」


 笑いながら、そんなことを言われてしまった。
 なんと答えればいいのか分からないので、ここはスルーさせていただこう。


「さて…。肉体的な原因が見つからないとなると、次は精神的な原因を疑うことになりますが……胸が痛む時を思い返して、何か共通する状況はありませんか?」


「そうですね……」


 腕を組み、シュルクはうなる。


「……あ。そういや、大体何かを深く考え込んでる時とか、いつも以上に苛立ってる時かも。」


「ふむ…。そうなると、ストレス性の痛みである可能性が高いですね。」


「ストレス……」


 なんだか、そう言われてもピンとこない。
 そんな心境は筒抜けだったのか、医者がすぐに口を開いた。


「実際にいらっしゃるんですよ? ストレスが肉体的な不都合となって現れる人って。最近、ストレス負荷が高くなるようなことはありませんでしたか?」


「うーん……ストレス負荷が高くなったとは感じないんですけど、ストレスの種類は変わったかもしれません。半年前に旅に出るまでは、一度も故郷の街から出たことがなかったので。」


 シュルクが思うところを述べると、医者が思案深げに頷いた。


「確かに、それは体調に支障が出てもおかしくないほど大きな変化ですね。」


「やっぱり、原因ってそれですかね? 俺も、このくらいしか思い当たる節がなくて……」


「ふむ…。とりあえず、今は経過を見るしかないですね。今回は、リラックス効果のある薬茶をいくつか紹介しましょう。」


「ありがとうございます。」


「とはいえ、無理な環境変化が続くと体調が悪化するおそれがあります。急ぐ事情がないなら、旅のスケジュールに余裕を持たせて、しっかりと休養を取るように。」


「はい。」


「それから……」


 トントン拍子で話を進めていく医者とシュルク。
 そんな二人を見ながら……


(ねえ……もっと他にあるでしょ…?)


 フィオリアは一人、大きな恐怖にさいなまれていた。


 肉体的な疾患はない。
 精神的なストレスはあるだろうけど、シュルクとしてはさしたる問題でもないレベル。


 だからって、この体調不良が大したこともないなんて言える?
 考えられる要因は、本当にそれだけ?


 普通の人ならまだしも―――シュルクは違うはずだよね?


 医者に言ったって意味がないから、あえて言わないでいるだけ?
 それとも、本当に気付いてないの?


 ドクン、ドクンと。
 考えれば考えるほどに、芽生えたばかりの恐怖が大きく育っていく。




(もしかして……―――呪いが、進行し始めたんじゃないの…?)




 いつかはこんな日が来るって。
 何度もそんな場面を想像しては、覚悟を決めてきたつもりだった。


 だけど、いざ呪いが疑われる場面に直面すると、その覚悟がまだまだ甘かったんだと痛感する。


 この懸念を口に出すのが怖い。
 呪いの効果を自覚したシュルクが何を言うのかを聞くのも怖い。


 そして何より……目の前にある愛しい温もりが、この手から零れ落ちて消えていくのが怖い。


 今は、そんな恐怖たちの一つにだって勝てやしなかった。

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