Fairy Song

時雨青葉

文字の大きさ
215 / 257
第22歩目 形に囚われない想い

契約交渉

しおりを挟む

「シュルク!! 何を言ってるの!?」


 シュルクの発言に、フィオリアはたまらず声を荒げる。


「なんだよ? 何か不服か?」


 対するシュルクがフィオリアに向けた視線は、あまりにも冷たかった。


「お前も知ってんだろ? 俺は、命令されて飼われるのが大嫌いなんだよ。飼うか飼われるかの二択なら、迷いなく飼う側を選ぶさ。それに、めぐの能力を持ってるって知られた時点で、俺に選択肢なんかないだろ。情報をばらまかれて裏社会全域で賞金首になるなんざ、それこそごめんだし。」


「そんな……でも…っ」


「―――もう、疲れたんだよ。」


 鼓膜を揺らすのは、空っぽな声。


 今までの彼とは正反対のそれに、ただでさえ少なかった制止の言葉がゼロになってしまう。


「んで? お前が俺に提示する対価は?」


 黙り込んだフィオリアをさっさと意識から追い出し、シュルクは淡泊にラミアへと訊ねる。


「そうねぇ…。とりあえず、契約金はあんたの言い値でいいわよ。あんたなら、すぐに倍にして返してくれるだろうし。」


「金銭以外の要求は?」


「あたしで叶えられるものなら、なんだって。」


「随分と破格なんだな。」


「それだけ、あんたの見た目と能力を高く評価してるんだって思ってちょうだい。それに、中途半端が嫌いそうなあんたなら、一度決めたことを曲げるなんてしなさそうだし。」


「そりゃどうも。ま、俺もお前の仲間に対する情の厚さは信用してもよさそうだと思ったから、交渉に応じる気になったんだけどさ。」


「あら。そこを決定打にするなんて、あんたの洞察力には恐れ入るわ。」


「この体質を隠して生きる以上、周りの機微には敏感でなきゃいけなくてね。その辺の話は追い追いしてやるよ。じゃあ……俺からお前に、第一の条件提示といこう。」


 そう告げたシュルクは、ラミアの前でひざまずいている男性を見やる。


「俺に比べたら、ここにいる奴らははしたがねみたいなもんだろ? 俺に免じて、今回だけ呪術を解除した上で解放してやってくれ。」


「こいつらを?」


 第一の要求としては、かなり予想外だったのかもしれない。
 それを聞いたラミアは、きょとんとまぶたを叩いた。


「あんたも、妙なことを言うわね。あたしの仲間になるって言った同じ口で、奴隷落ちした奴らを解放しろだなんて。」


「おいおい。堅気がすぐに裏の色に染まれるなんて思わないでくれ。」


 溜め息混じりに述べたシュルクは、悲しさ半分、自嘲半分といった複雑な笑みを浮かべる。


「フィオリアがあんなに必死になったのに、大して真面目に取り合わなかった馬鹿な奴らだけどさ……ついさっきまで一緒に旅を楽しんできた人が目の前で捕まるのは、ちょっとな……」


「あー…。いきなりこれは、刺激が強すぎたかしら。」


「そういうこった。ま、最後の罪滅ぼし的な善意だと思ってくれよ。どうせ、そのうち慣れてこういう罪悪感も湧かなくなるだろ。」


「よくも悪くも、慣れって怖いものねぇ。……いいでしょう。そのくらい、安い対価だわ。」


 最終的なラミアの答えは了承。
 それを受けて、シュルクは交渉を次のフェーズへ。


「もう一つ。……フィオリアだけは、俺の手で安全な屋敷まで届けさせてほしい。」


 翡翠ひすいの瞳が、うれいと共にフィオリアを映す。


「俺と一緒に来いって言ったところで、こいつは頷かないだろう。なら、せめて今の仕事を全うしてから縁を切りたくてな。」


「………」


「もちろん、なんの保険もなしに要求を飲んでもらおうとなんか思っちゃいないから安心しろ。」


 ラミアの無言に含まれた疑念に先手を打つように、シュルクは右手をひらめかせた。
 そこから放り投げられた物は、光の帯を描きながらラミアの手に落ちる。


「俺の身の保険には、それを。」
「―――っ!!」


 シュルクがラミアに渡した物が彼の運命石だと悟り、フィオリアは声にならない悲鳴をあげる。


 呪術を扱える奴隷商に運命石を渡す。
 それは、自分の命を渡すことにも等しい。


「―――オッケー。その要求も、受け入れましょう?」


 故に、ラミアは不服そうな表情を取り下げて笑った。


「一応、偽物じゃないかだけ確かめさせてもらうわよ?」


 念には念を入れよというやつか。
 ラミアがそう言うと、仲間の一人である女性が無言で運命石を受け取った。


「間違いなく本物です。……というか、これを偽物だと論じられる根拠がありません。」
「ほんと、すごいわねぇ……」


 シュルクの運命石に群がる霊子の量に、呪術師の女性もラミアもなかば引いているよう。


「留め金を留めて円環にしないと、まじないが効果を発揮しない代物だからな。まじないがないと、このとおり。一目で異常者だってばれちまうわけよ。」


「あたしにとってはお宝だけど……ま、普通じゃないのは確かね。」


「だろ? とまあ、そんな与太話は置いといて。今後の雇用条件はともかく、契約条件としては俺もこれで満足だ。俺は保険になる物を渡したんだから、次はお前が行動するターンだぜ?」


「そうね。じゃあ、さっそく……」


 シュルクにうながされ、ラミアは捕らわれた人々へと目を向けた。


「あんたたちは、これから何をしても自由よ。好きにしなさいな。」


 彼女がそう言うと、その前にいた男性が情けない悲鳴をあげながら彼女との距離を取る。


 それと同時に魔法陣の全てが消えて、鎖に捕らわれていた人々も解放された。


「結構簡単に解除できるんだな?」


「服従の呪術なんて、主人が自由を命令すればそれで終わりよ。呪術をかけるのは一晩かかるけどね。」


「だからぐっすりと眠ってもらう必要があったってわけね。」


 納得の表情で頷いたシュルクは、寄せ集まって震えている人々に向けて手をかざす。


「霊子凝集。詠唱開始。召還、第七霊神。―――出でよ《次元の旅人 ワーパリア》」


 シュルクが淡々と呪文をつむぐと、強い光が人々を包む。
 その光が消えた頃には、ツアー客は一人として洞窟に残っていなかった。


「まさか、たったの一回で全員を運ぶなんて……」


「この場所は、俺にとっちゃ力が枯れない永久機関みたいなもんだから。このくらいの芸当をしないと、霊子が散っていかないんだよ。」


「へえぇー……あたしたちも、そのうち運んでもらおうっと。」


「おい。この場所ではって話だ。普段は、同時に送れても五人が限界だ。それより、早いところここを出ないか? のんびりしてたら、せっかく散った霊子がまた集まってきちまう。」


 辟易としながら、シュルクが洞窟の出口の方向へ一歩。


 次の瞬間―――海に突き出した岩場の向こうで、間欠泉のように大量の光が噴き上げる。


「げ…っ。何これ!?」


 初めて見る現象なのか、ラミアを始めとした全員が驚愕に目をく。
 そんな中―――


「あー…。色々とあったせいで、本来の用事を忘れてたわ。」


 一人だけ心当たりのあるシュルクが、げんなりと肩を落とした。


「そういや、俺がネラみさきを目指したのは、ここの霊子たちに呼ばれたからなんだった。」


「ってことは、あんたが原因なわけ!?」


「そうだな。さくっと、野暮用を済ませてくるわ。そんなに時間はかからないから。」


 スタスタと岩場の先端へと向かうシュルク。
 それを、フィオリアはただの傍観者の一人として見つめるしかない。




「さあ、フィオリア―――ここからは、お前の仕事だ。」




 どこか明るい声が彼女の脳裏を揺さぶったのは、その時だった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

【完結保証】科学で興す異世界国家 ~理不尽に死んだ技術者が、「石炭」と「ジャガイモ」で最強を証明する。優秀な兄たちが膝を折るまでの建国譚~

Lihito
ファンタジー
正しいデータを揃えた。論理も完璧だった。 それでも、組織の理不尽には勝てなかった。 ——そして、使い潰されて死んだ。 目を覚ますとそこは、十年後に魔王軍による滅亡が確定している異世界。 強国の第三王子として転生した彼に与えられたのは、 因果をねじ曲げる有限の力——「運命点」だけ。 武力と経済を握る兄たちの陰で、継承権最下位。後ろ盾も発言力もない。 だが、邪魔する上司も腐った組織もない。 今度こそ証明する。科学と運命点を武器に、俺のやり方が正しいことを。 石炭と化学による国力強化。 情報と大義名分を積み重ねた対外戦略。 準備を重ね、機が熟した瞬間に運命点で押し切る。 これは、理不尽に敗れた科学者が、選択と代償を重ねる中で、 「正しさ」だけでは国は守れないと知りながら、 滅びの未来を書き換えようとする建国譚。

勘当された少年と不思議な少女

レイシール
ファンタジー
15歳を迎えた日、ランティスは父親から勘当を言い渡された。 理由は外れスキルを持ってるから… 眼の色が違うだけで気味が悪いと周りから避けられてる少女。 そんな2人が出会って…

最初から最強ぼっちの俺は英雄になります

総長ヒューガ
ファンタジー
いつも通りに一人ぼっちでゲームをしていた、そして疲れて寝ていたら、人々の驚きの声が聞こえた、目を開けてみるとそこにはゲームの世界だった、これから待ち受ける敵にも勝たないといけない、予想外の敵にも勝たないといけないぼっちはゲーム内の英雄になれるのか!

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !

本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。  主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。 その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。  そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。 主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。  ハーレム要素はしばらくありません。

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

処理中です...