Fairy Song

時雨青葉

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第22歩目 形に囚われない想い

全ては策士の思いのまま

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 半分は想定どおり。
 半分は想定外。


 フィオリアの協力もあって上手く飛び込めた海の先で、シュルクは思案げに眉を寄せていた。


 案の定、あの高さから海に飛び込んだにもかかわらず、自分の身には傷一つつかなかった。


 ―――連れてってあげるから、こっちに来て。


 海から噴き上げた霊子の思念に従って、正解だったというわけだ。
 まあ、さすがに四回目ともなると、従わない方がおかしくなるか。


 そして想定外なのは、海に飛び込んだはずなのに、今いる場所が水の中じゃないこと。


 辺り一面、闇の中に霊子がキラキラと舞う無重力空間。
 ゆっくりと落ちていく自分の頭上には、紫と白のオーロラが。


 まさに〝紫縞しじまとばりの降りる先〟というフレーズにピッタリな光景だ。


 ―――と、この空間について考えるのはこの辺りでやめておこう。


 さっくりと思考を切り替えたシュルクは、腕の中に目を落とす。
 そこでは、こちらの胸に顔をうずめたフィオリアがぐずぐずと嗚咽おえつを零していた。


 彼女がこんなにも泣いている理由は言わずもがな。
 とりあえず、その原因を取り去ってやることにするか。


「フィオリア。」
「………」


「フィオリア。とりあえず、顔を上げてみ?」
「………」


 幼子おさなごに諭すような口調で優しく言うと、フィオリアが静かに顔を上げる。
 そのタイミングで、涙で濡れた瞳の真ん前にとある物をちらつかせた。


「これ、なーんだ?」


 自分の指先で揺れるのは、蝶の形をした若草色の石。
 それを見たフィオリアが、涙を引っ込めてぱちくりとまばたきを繰り返した。


「………えええぇぇーっ!?」


 次いで、彼女の口からとんでもない声量の叫び声がとどろく。


「な、なんで!? シュルク、それ、確かにあの人に…っ」


「あんなん、偽物に決まってんじゃねぇか。さすがに、自分の命を預けるほどあの女を信用しちゃいないって。俺、そんなに安く他人を信用しないもんで。」


「だ、だって! あの女の人、シュルクが渡した運命石は確かに本物だって……」


「裏に黒い情報屋や呪術師がいりゃ、表には白い情報屋や呪術師がいるってね。」


 未だにパニック継続中のフィオリアに、シュルクは悪戯いたずらっぽいウインクを一つ。


「リドーにあったガラス工房を覚えてるか? 実はあそこ、バーティスに負けず劣らずの力を持った情報屋の窓口の一つなんだわ。」


「へ……そうなの…?」


「ああ。ダントリアンで呪術の存在を知った後、それに対抗するすべはないものかって、あのガラス工房に情報を買いに行ったんだけど……結論、運命石を奪われないようにするしかないって話でな。どうしたもんかと悩んでたら、情報屋に所属する呪術師があの偽物を作ってくれたわけよ。」


「そうだったんだ…。でも……本物と間違うくらいに精巧な偽物って、あんなに早く完成するものなの?」


「う…っ」


 くそ。
 純粋な奴って、ふとした拍子に鋭いところを突いてくるんだから。


 少し返答に悩んだシュルクは、すぐに白旗を降って肩を落とす。


「あの情報屋のオーナー、俺の知り合いなんだよ。オーナーがあらかじめ手を回してたらしくて、俺が工房を訪ねた時には、知りたい情報と完成一歩手前の偽物がセットで待ってたんだ。」


「知り合い? シュルク、ウェースティーンから出たことないのに?」


「俺が街を出なくても、街に入ってくる奴はごまんといる。両親も俺も全言語マスターの上に集会所で働いてたんだから、知り合いだけは無駄に増えていくわけよ。」


「あ、そっか……」


 よし。
 これで納得してくれてよかった。


 内心、これ以上深く突っ込まれたらどうしようかとひやひやしていたシュルクは、こくりと頷いたフィオリアに心底ほっとした。


「……え、待って!?」


 少し落ち着いたかと思いきや、フィオリアはまた目を回し始めてしまう。


「じゃ、じゃあ……あの人の仲間になるみたいな空気を出してたの、全部演技だったってこと!?」


「当たり前じゃん。お前とあの女が口論を始めた時、間に割り込むのを我慢して寝たふりを決め込んでおいてよかったよ。めぐだってことを隠す必要がなくなった分、打てる手も増えて交渉もかなり有利に進められたからな。なんだ? お前もだまされてたわけ?」


「昨日の今日だったら、普通に本気にするよ!! だって、あんなにつらそうにしてたじゃない…っ」


「あー……あれなぁ……」


 いやはや。
 昨日の醜態しゅうたいを話に出されてしまうと、こちらとしても耳が痛い。


「あれはすまん。自分の判断でお前には何も言わないって決めてたくせに、逆上してかなり大人げないことを言っちまった。久々に、夜を明かしての大反省会をしたわ。」


「反省会って……ええ? シュルク、昨日のあれでかなり弱ってたんじゃないの…?」


「え? んなわけねぇだろ。確かに自己嫌悪でイライラはしたけど、それも一晩でリセットだって。あの女に弱った姿を見せたのは、単純に油断させるため、で……」


 シュルクの言葉は、途中で途切れる。
 いつの間にか、フィオリアが頬をパンパンに膨らませていることに気付いたからだ。


「な、なんだよ…?」


 種明かしをすれば安心するかと思ったのに、どうしてそんな不服そうなんだ。


 シュルクが怪訝けげんそうに首を傾げると、フィオリアはさらに頬を大きくして顔を真っ赤にする。


 そして、シュルクの胸にポカポカと拳を振り下ろし始めた。


「もう! 馬鹿馬鹿馬鹿!! 私がどんなに心配して、どんなに不安だったと思ってるの!? そういう演技をするなら、最初から言っといてよーっ!!」


「だって……お前、感心するくらい演技が下手なんだもんよ。正直、あの女たちと一緒にだまされる側にいてくれた方が、俺としてはやりやすかったっていうか。」


 正直、これが本音である。
 というか、これでも結構柔らかい言い回しを選んでいる方だ。


 理性的に物事を判断して話を聞くようにするって言った数日前のお前はどこに行ったんだ、とか。


 敵だと分かりきっているラミアの言葉に、なんであんな素直に踊らされてるんだ、とか。


 油断したら、そういうダメ出しがうっかりと出てしまいそうなんだから。


 でも……


「ごめんな。」


 こう伝えたい気持ちも本物で―――

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