Fairy Song

時雨青葉

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第22歩目 形に囚われない想い

やっとの告白とやり直しのキス

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 ごめん。
 頼むから、今回ばかりは今からでもリドーに戻って、俺を安心させてくれ。


 これ以上酷な現実を見せるのは、俺の方が耐えられないから―――


 本当は、彼女がラミアの悪事を知った時から、こう言ってしまいたかった。


 中途半端に油断してしまって、最後まで彼女に目隠しをしてやれなかった自分に、死ぬほど嫌気が差した。


 そして、そんなことを思う自分を認識した時―――彼女だけではなく、自分も自分自身に過度な期待をかけていたんだというおごりに気付いた。


 自分にはできないと認めて一歩を踏み出して、さらに自分にはできないと認めて……


 今回の旅路では、認める勇気をとことん鍛えられたと思う。


「色々と考えたけど……結局、最後まで残った人たちを助けるので精一杯だった。お前にも、かなりつらい思いをさせちまったな。」


 こう言ってはまた怒られるだろうけど、ツアー客を全員助けられなかったことより、フィオリアにつらい思いをさせたことの方が何倍も悔しくてやるせない。


 過保護になっているのは自覚している。
 それでも、彼女は自分にとってたった一人のお姫様だもの。


 ちょっとした危険や害意からでも守ってやりたい。
 自分の腕の中でとことん甘やかして、自分だけが最大の愛情を注いでやりたい。


 それで―――彼女には、永遠に自分しか見ないでいてほしい。


 彼女が好きだと認めてから、そんな独占欲が暴れて仕方ないんだから。


「ううん……ううん…っ」


 涙声を振り絞って、フィオリアは何度も首を横に振った。


「シュルクは、十分すぎるくらいに最善を尽くしてくれた。いつも私を守ってくれようと一生懸命だった。それなのに……私は、こんなのシュルクらしくないって、何も考えずにシュルクを責めてばかりで…っ」


「………」


「ごめんなさい…っ。今回は、私の方が悪いことがたくさんあった。確かにみんなを助けられたらって思ってたけど……だからって、シュルクにあんな捨て身みたいなことをさせたかったわけじゃなかった。今回は演技だったからいいけど……あれが本当のことだったら、私……私…っ」


「まあ俺としては、呪術の危険がなけりゃ、本物の運命石を渡したってよかったけどな。」


「そんな!」


 慌てて顔を跳ね上げるフィオリア。
 深刻そうな彼女と目を合わせるシュルクは、不思議そうな表情で首をひねるだけ。


「だって、あれを手放したところで、惚れた女を忘れるわけでもないんだ。大事なものはここにあるのに、あんな石ころ一つに固執する必要がどこに?」


 自分としては、単に思ったことを言ったまで。
 しかし、それを聞いたフィオリアは―――


「―――……」


 感情という感情を手放して、茫然とする。
 大きく見開かれた丸い目からも、思考が停止していることが如実にうかがい知れた。


「……どうした?」


 沈黙があまりにも長くなってきたので、やんわりと訊ねてみる。
 すると、それがきっかけでようやくフィオリアの唇が震え始める。


「……って。」
「ん? なんて?」


「今……惚れたって…?」
「………ああ、そこ?」


 どこにそんな驚いたのかと思ったら、そんなところだったのか。


「俺、別に博愛主義じゃねぇから。気のない奴を守るためにあそこまでの労力なんか払わないし……いくらなんでも、惚れてもいない女にキスなんかしねぇって。」


 お前は、何を今さらのように驚いてるんだ?


 つい流れでそんなことを言いかけて、はたとイストリアでの出来事を思い出した。


『シュルク……一度も、私のことが好きだって言ってくれない……』

  
 自分がミシェリアに優しい理由を知った時、フィオリアは涙をたたえてそう言っていた。


 そういや、あのことを気にしてはいたものの、肉体的にも精神的にも忙しい日々に押し流された結果、ちゃんとした告白もまだなら、ファーストキスのやり直しもまだだったっけ。


「フィオリア。」


 さらり、と。
 触り心地のいい白銀の髪に指を通す。


 しくも、今は幻想的な風景の中。
 やり直しをするには、うってつけのシチュエーションかもしれない。


「実際に呪いが始まって、思うところはたくさんあったけど……やっぱり、俺は自信を持ってこう言えるよ。」


 壮絶が予測される未来を前に、シュルクは光を宿した瞳をなごませて笑う。




「俺は、お前が好きだ。」




 二人で故郷を旅立ってから半年以上。
 ようやく、この想いを口にする。


「呪いが始まったからこそ、改めて言う。俺は、呪いが進むとしてもお前を選ぶよ。最後の時までお前をひとりにしないって、何度だって誓ってやる。」


「………本当?」


「ははっ。この顔を見て、俺が強がってるとでも思うのか? こんなんでへこたれるくらいなら、初めからチャパルシアに逃げてただろうよ。……って言っても、一度は弱ってるところを見せちまったし、お前としては怖かったよな。」


 ただの人でしかない以上、自分だって弱る時はある。
 だが、今回はそのタイミングが悪すぎた。


 昨夜吐き出した弱音の数々だって自分の一部だから、冗談だと言って発言を取り消すことはできないけれど。


 その分、昨日の弱音を上回る希望でこれからを彩ればいいのだ。


 それをバネにして今より前に進めるなら、時々後ろを向いて落ち込んだりすることは悪いことじゃない。


 以前フィオリアに告げたこの言葉は理想論なんじゃなくて、自分を支えてきた確固たる信念の一つなんだから。


「なあ、フィオリア。これからもきっと、色んなことが起こるだろう。その中で怒ったり弱ったりって、そういう情けない姿を見せないとは言えない。俺、我慢って苦手だからさ。でも、俺がどんな姿を見せようとも、これだけは覚えておいてほしい。」


 髪をいていた手を、ゆっくりと頬へ。
 次に、愛しさを込めてそっと唇を重ねる。


「絶対に呪いを解いて、二人で生き残れる未来を掴む。どんなに後ろを向いて遠回りをしたって、俺の心はこの想いに帰ってくるよ。お前の傍を離れるなんて、今となっちゃ俺の方が無理だもん。我ながら、呆れるくらいの惚れっぷりだよな。」


「………っ!!」


 恥ずかしげもなくそんなことを告げたシュルクに、フィオリアは一瞬で顔を真っ赤に。


 どうやら、ド直球の告白とキスのやり直しが同時に襲ってきたせいで、頭がパンクしてしまったようだ。


「だからさ……」


 フィオリアの可愛い反応にくすりと笑いながら、シュルクはただ甘くささやき続けるだけ。


「どうか、俺を信じてくれないか? 不安になる時は、遠慮せずに俺を頼ってくれ。何度だってお前をひとりにしないって誓うし、何度だってお前が好きだって言って安心させてやるから。」


「―――っ!!」


 途端に、フィオリアの双眸から大量の涙があふれる。
 思い切りしがみついてくる体温が愛しくて、たまらず強く抱き締めていた。


「うん……うん! どんな時でも、シュルクを信じる。私も、シュルクが大好きだもん…っ」


 耳朶じだを打つのは、嬉しくてたまらなくなる言葉。
 衝動的に顔を上げさせれば、潤んだ瞳がさらに衝動を強くさせる。


 再度重ねる唇。
 今度のキスは、互いを貪り尽くすように深くなっていった。

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