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第23歩目 恵み子の里
不思議な双子
しおりを挟む「目が、見えないって……」
フィオリアに起こっていた、まさかの異変。
それに、シュルクは青い顔で固唾を飲むしかなかった。
「本当に何も見えないのか? 薄ぼんやりとでも?」
「うん、全然…。目の前が真っ白で、自分の手とかシュルクの顔も見えないの。」
「………っ」
真っ白という単語を聞いて、シュルクは反射的に首を巡らせる。
「まさか、この霧が原因か…?」
一寸先の世界を隠す、とてつもなく濃い霧。
自分が正常な視界を保っているのに対し、フィオリアが視界を失っているということは……
(どうして……どうして、フィオリアにこんなことを……)
かざした手に集まってきた霊子たちに問うても、答えは返ってこない。
その時―――
「こっちこっち!」
遠くから、誰かの声が聞こえた。
それと同時に、茂みをガサガサと掻き分けるような音も聞こえてくる。
(まさか、俺たちを捜してる…?)
迷いなく近付いてくる物音と声。
突然の出来事が重なっていつもの機転が利かないシュルクは、とっさにフィオリアを抱いて身を強張らせた。
「いたよ!」
すぐそこにあった茂みが揺れて、何かが飛び出してくる。
現れた人物を見たシュルクは、それまでの警戒も忘れて目を丸くしてしまった。
「子供…?」
自分たちの前に現れたのは、七~八歳くらいの女の子が二人。
双子なのか、その容姿は非常によく似ている。
「こんにちは! 私はミオン!」
「わたしはシノン!」
「え…? あ、ああ……」
黒髪に赤いリボンのミオン。
白髪に青いリボンのシノン。
明るい雰囲気の二人に、まるで近所ですれ違ったかのように挨拶をされてしまい、シュルクは戸惑うしかなかった。
「……ありゃりゃ。びっくりさせちゃったみたい。」
「じじ様が待ってって言ったのに、シノンが走っていっちゃうからだよー。」
少し意外そうに目を丸くするシノンに、ミオンは少しばかり呆れ顔。
「……近くに、人が住んでるのか。」
こんなに小さな子供が普通に歩いてくるのだ。
ミオンの口からじじ様という言葉も出てきたし、近くに大人がいると見て間違いないだろう。
「うんうん。私たち、お兄ちゃんたちを迎えに来たの!」
「お兄ちゃんは道が分からないし、お姉ちゃんは目が見えないでしょー?」
「―――っ!! フィオリアの目が見えないって分かるのか!?」
シノンの発言に、シュルクは目を剥いた。
こんな子供がすぐにフィオリアの状況を言い当てたということは、これは特に珍しくもない現象だということ。
それならば、この現象を解決する方法も確実にあるはずだ。
「ミオン、シノン。お前たちなら、フィオリアの目を元に戻す方法も知らないか? それか、その方法を知ってる人のところに連れていってほしいんだけど。」
期待を込めて訊ねるシュルク。
それに対する、ミオンとシノンの答えは―――
「んー…。ここにいる間は、無理じゃないかなー?」
「前に来たお兄ちゃんも、森を出てからじゃないと治らなかったもんねー。」
安堵も落胆もできない、なんとも微妙なものだった。
「ど、どういうことだ…?」
さすがにすぐには状況を理解できず、シュルクは呻く。
すると、待っていましたと言わんばかりにミオンとシノンが表情を輝かせた。
「教えてあげる! ここはね、私たちの隠れ里なの!」
「だからね、よその人はみーんな目が見えなくなるんだよ! 隠れ里の場所を知られないためなの!」
「え、待った。俺もよそ者なんだけど?」
「お兄ちゃんは、よその人じゃないよ?」
シュルクが思わず口を挟んで告げた違和感。
それに、ミオンもシノンも不思議そうに小首を傾げた。
「だって、お兄ちゃん―――ちゃんとした恵み子でしょ?」
異口同音に紡がれた一言。
完全に想定外だっただけに、すぐには何も言えなかった。
なかなか抜けない衝撃でフリーズ状態のシュルクとフィオリア。
そんな二人の懐に、シノンが音もなく忍び込む。
「!!」
突如として周囲がまぶしくなって、シュルクはハッと我に返る。
「こ、こら!」
「やーだ。返してあげなーい♪」
反射的に手を伸ばしたが、勝手にチョーカーを取っていったシノンは悪戯っぽい笑顔ですぐに逃げてしまった。
「もう! 霊子たちはすっごくお話ししたがってるのに、どうしてこんな物をつけてるの? 無視したら、霊子が可哀想だよー。」
「……へ?」
どこか拗ねたようなシノンの言葉に、シュルクはパチパチと瞼をしばたたかせる。
すると、今度はミオンが口を開いた。
「ずっと待ってた人がやっと来てくれるって、霊子たちはお兄ちゃんが来るのをものすごーく楽しみにしてたんだよー。あんなのつけてちゃだめなの!」
「ま、待って…。話についていけない……」
情報過多で頭が痛くなってきた。
一方的にしゃべり続けるミオンとシノンに、シュルクは渋い顔で待ったをかける。
「とりあえず……じじ様とやらのところに連れてってくれないか?」
端から、小さな子供に話を聞こうとした自分が間違い。
ここは、理路整然とした会話を見込める大人に助けを求めよう。
「はーい。」
「こっちだよー。シュルクお兄ちゃん、フィオリアお姉ちゃん!」
シノンが先頭を切り、ミオンが笑いながらそこに続く。
「いつの間にか、名前も知られちゃってる……」
「多分、霊子に教えてもらったんじゃないか…?」
茫然と呟くフィオリアに、シュルクは極力冷静にそう告げる。
当然のように霊子の気持ちを語り、これまた当然のように自分が恵み子であることも見抜いた。
これまでの話の流れからも、ミオンとシノンが自分と同じく能力持ちの恵み子であることは明らかだ。
「詳しい話は、あいつらの家で聞くしかないな。フィオリア、ちょっと揺れるぞ。」
一言断りを入れた後、シュルクはフィオリアに荷物を持たせた状態で彼女を抱いて立ち上がった。
「シュルク…っ。私、支えてくれれば歩けるのに…っ」
「すまん。お前には見えないだろうけど、辺り一面霧で真っ白でな。引っ張るより抱えた方が楽なんだわ。それに、目が見えないお前を歩かせるとか、心配すぎて無理。」
「………っ」
シュルクがさらっと放った言葉。
それに胸をときめかせたフィオリアは、最終的に無言で顔を隠してしまうのだった。
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