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【第5幕】白霧の迷いの中心
幕間~知られずの協力者~
しおりを挟む「―――うん。報告、ありがとう。」
リドーの片隅。
小さなガラス工房にある、隠された一室。
そこで部下の帰りと報告を待ちわびていた彼は、ようやく得られた報告にほっと息をついた。
「本当にお疲れ様。無茶の連続で、大変だったでしょう?」
「あなたの無茶なんて、いつものことですよ。」
おやおや、これは手厳しい。
部下の物言いに、彼はくすくすと笑った。
「じゃあ、君の仕事も終わりだね。次の名前と仕事場は用意してあるから、脱走に気付かれる前に逃げちゃいな。」
「はーい。しばらくは休みたいんで、比較的平和な仕事を回してくださいよー? 大事な〝シューちゃん〟のための事前シュミレーションなんて、危なすぎてもうこりごりですから。」
「ごめんってぇ~。差し出した運命石が偽物だってことは最後までばれなかったんだし、今回は勘弁してよぉ~。」
「そんなことを言いながら、シューちゃんが絡んできたら容赦なくこき使うくせに。」
「そこは許して? なんたって、この情報屋はシューちゃんのために作ったものだから。」
「ま、それを知っててここに身を置いてるんで、今さらとやかくは言いませんけど。ちゃんとした報酬さえくれれば、自分はそれで。」
「君も相変わらずだなぁ~。僕に惚れ込んだって、いつになったら素直に言ってくれるの?」
「気色悪い。」
ぞんざいな一言を最後に、部下の姿は空気に溶けるようにして消える。
「教育って、馬鹿にできないなぁ…。あんなに霊神使いが上手くなるなんて、拾った時は思いもしなかったよ。」
部下が消えた場所を見つめて、彼は感心したように呟く。
「はあぁー……」
そして次に、全身の力を抜いてソファーへ身をうずめた。
「何かあったらいけないと思って、念のために一人潜り込ませておいたけど……さすがはシューちゃん。あのくらい、大した障害でもなかったか。」
これまでの旅路は見守っているだけでよかったけど、奴隷の町ともなれば話は別。
いずれシュルクがここを訪れることを想定して、四ヶ月前から仕込みを始めておいてよかった。
ラミアのアジトに潜入させていた部下は日の目を見なかったけど、彼を使って実験と改良を繰り返した偽物の運命石は役に立ったようだ。
「それにしても、シューちゃんったら、お姫様まで利用して自分が死んだことで決着をつけるなんて……」
いやはや、本当にお見事。
海の底に飲み込まれていったシュルクたちを見送るしかなかったラミアたちは、面白いくらいに動揺していたそうだ。
その隙に乗じて、部下がシュルクの運命石を模した偽物をかすめ取ってきてくれた。
持ち主が死ねば、運命石も共に消える。
運命石が跡形もなくなっていることに気付けば、ラミアたちがシュルクの死を疑うことはまずないだろう。
いずれ生きていることが知られたとしても、その時には色々と手遅れ。
シュルクに手を出すことは不可能になっているはずだ。
「一体、誰に似て図太くなっちゃったのかしら。箱入り娘のように育てられた反動なのか、可愛さが霞むくらい好戦的で大胆ねぇー…」
これまでの旅路を見守ってきて、シュルクなら大丈夫だと確信はしていた。
だけど、こうもそつなく困難を突破されてしまうと、手を貸したいこちらとしては些か複雑である。
「次は白霧、か…。長老さん、上手くやってくれるかな…?」
おそらく、シュルクたちは霊子の手によって次なる運命の場所へ導かれただろう。
そこで紡がれる物語は、残念ながら自分でも覗くことはできない。
「シューちゃんは、あそこから出てくるかな…? なーんて、長老にあんなことを頼んだ僕が言うのもおかしいか。」
本当に、とっさの出来心だった。
あの場所は、シュルクにとって第二のふるさととなるだろう。
ずっと異常だと思っていた自分が普通になれるあそこで、あの子は今までにない安らぎを得るはずだ。
だから……思わず、そこを束ねる長老に無茶を言ってしまった。
もしも永遠に会えなくなるとしても、大切なあの子が幸せになれる場所があるなら、そこに送り出してあげたかったんだもの。
「どっちを選んだとしても……それがシューちゃんの意思なら、僕は喜んで受け入れるさ。と、いうわけで―――」
一瞬で表情から憂いを消した彼は、勢いをつけてソファーから立ち上がった。
「僕も次の仕事だ。シューちゃんがあそこを出た時のためにも―――マイハニーと一緒に、次の舞台への招待状を用意しなきゃね。」
底抜けに明るいその声は、誰にも聞かれることなく消えた。
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