Fairy Song

時雨青葉

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第23歩目 恵み子の里

里に眠る運命石を得る方法

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「あの……まずは、フィオリアの目についてお聞きしたいんです。」


 勧められた椅子に座るや否や、シュルクは真っ先にそう切り出した。


 目の前に出されたお茶や食事は一切無視で、翡翠ひすい色の双眸はガルドだけを映している。


「ミオンたちからすでに聞いているかもしれませんが……残念ながら、この里を守るきりの外に出ない限りは。」


「そうですか……」


 ガルドの答えを聞き、シュルクはしゅんと肩を落とす。


 里を代表する長老でもこう言うのだ。
 こればかりは、自分が訴えたところでどうにもならないと推測できる。


「じゃあ、ここの運命石はどこにあるんですか?」


 すぐに方向性を改めたシュルクは、単刀直入に次の質問を飛ばす。


 先ほど会った女性は、自分たちがここに導かれた理由は里の誰もが知っていると言っていた。


 ならば、余計は前置きや説明は必要ないだろう。


 この里にいる間はフィオリアの目が見えるようにならないと言うのなら、早く目的を達して里を出るまで。


 正直、めぐの集落であるこの場所には興味をそそられるけれど、自分としてはフィオリア以上に優先することはないもので。


「それなら……」


 ガルドの視線が、ふと窓の外へ向かう。


「うちの側に、大きな鳥居があったのは見ましたか?」


「はい。」


「あの鳥居の奥は、代々の長老しか立ち入ることができない場所なのですが……くだんの運命石は、鳥居の向こうで霊子の試練を突破して初めて得ることができます。」


「霊子の、試練…?」


「試練に挑む資格と覚悟の強さがあれば、そんなに難しい試練ではないと聞いています。ただ、シュルクさんの場合は一つ看過できない問題が……」


「……なんでしょう?」


 おっと。
 これは早くも、一筋縄にはいかない雰囲気が漂ってきたぞ。


 緊張で固唾かたずを飲み込むシュルク。
 そんな彼に、ガルドはこう告げる。


「試練においては、霊子と自由に意思疎通できることが必須となります。もちろん里の者が試練に同行することはできないので、シュルクさんご自身にそのすべを身につけていただかなくてはならずでして。」


「うぐ…っ」


 明かされた問題の内容に、シュルクは苦虫を噛み潰したような顔でうめくしかなかった。


 なるほど。
 それは確かに、看過できない問題だ。


 今まで、恵み子であることを隠すために霊子を拒絶してきた自分だ。
 それとは逆に霊子と意思疎通を図れと言われても、方法がとんと思い浮かばない。


「それって、最短でどのくらい……」


「さあ…。技術を得たかどうかの見極めをするのは霊子ですし……正直なところ、私たち里の者は物心がついた頃には自然と霊子と意志疎通ができているもので、具体的な期間を気にしたこともないのです。」


「……そりゃそうだわな。」


 ここは、能力持ちの恵み子しかいない集落。
 霊子との意志疎通なんて、言葉を覚えるようなノリで会得しているだろう。


 理屈は分かるのだけど、自分の状況と違いすぎて軽いカルチャーショック。
 目が回ってきた。


 思わず天を仰いで溜め息をつくシュルク。
 その隣で、これまでずっと黙っていたフィオリアが小さく笑った。


「シュルク。私なら大丈夫だから、しばらくはここでお世話になろうよ。」
「はあ…?」


 まさか目が見えない本人からそう言われるとは思っておらず、シュルクは間の抜けた表情でフィオリアを見る。


「だって、目が見えないっていっても、ここにいる間だけでしょ? ミオンちゃんたちも、前に来た人は森から出たら目が見えるようになったみたいなことを言ってたし、それなら特に問題もないんじゃない?」


「いや、理屈としてはそうかもしれないけど―――」


「シュルク。」


 ちょん、と。
 細い指先が唇にふたをしたのはその時。


「私の目を一番に考えてくれたっていう、その気持ちだけで十分。せっかく恵み子の里に来られたんだよ? ここでしか学べないことがたくさんあるだろうし、シュルクの今後のためにも、ここは焦らずにいこうよ。」


「う…っ」


 仕上げと言わんばかりに間近から微笑みかけられて、シュルクは口ごもってしまう。


 普段は口では負けなしの自分だけど、今の意見をくつがえせる切り口が全然見えない。
 というか、こんなフィオリアの顔を見たら何も言えない。


(やべ…。俺、本格的にこいつに勝てなくなってきたかも……)


 そんなことを思いながら、地道な努力を覚悟して肩を落とすシュルクだった。


「フィオリアさんに見えていなくてよかったですね。今、結構面白い顔になってますよ?」


「……自覚はあるんで、言わないでください。」


 ガルドに面白おかしそうに突っ込まれ、シュルクはフィオリアの指を離してさりげなく顔も逸らす。


 仲睦まじい二人を眺めてほっこりとしていたガルドは、軽いひと息と共に姿勢を正した。


「何はともあれ、フィオリアさんが説得してくれて助かりました。実は意志疎通の技術以外にも、色々と教えておきたいことがあったもので。」


「ええ…。他にも…?」


「そんな面倒そうな顔をしない。技術をマスターすれば、外でまじないに頼る必要もなくなりますから。」


「………っ」


 ピクリ、と。
 シュルクの肩が大きく震える。


 それは、ガルドの話の中でシュルクが一番の反応を見せた瞬間だった。


 まじないに頼らずとも、自分の正体を隠すことができるようになる?
 それが実現すれば、今までの苦労が半減すると言っても過言ではないぞ。


「シュルク。私の目のことも時間のことも一旦置いといていいから、まずはちゃんと勉強してきて。」


「……はい。」


 とどめの一発は、やはりフィオリアの言葉。
 反論できる余地などなかった。

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