Fairy Song

時雨青葉

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第23歩目 恵み子の里

導きの詩を遺した人物

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「ところで……ガルドさんは、例の運命石にまつわる話を、どこまでご存知なんですか?」


 長期戦になることが確定したところでようやく食事に手を伸ばしていたシュルクは、ずっと気になっていたことの一つをガルド訊ねた。


 今回の運命石は他のものと違い、きちんと人の手で管理されている。
 当然、それを管理してきたガルドたちも、何かしらの事情を聞き及んでいるはずだ。


 これまでは数少ない文献とフィオリアの記憶くらいしか頼れるものがなかったが、この運命石との関わりを持つ第三者に出会えたことはかなり大きな収穫と言えた。


「ふむ…。私たちの一族は、あの運命石にかけられた呪いの真相までは知りません。どちらかというと、知っているのはその後のことなのです。」


「その後…?」


「ええ。もう少し、私たち一族の話をしましょう。」


 一度食事の手を止め、ガルドは記憶を手繰たぐるように目を伏せる。


「私たちの先祖がこの場所を住処すみかとしたのは、単なる偶然でした。当時はめぐの力が徐々に弱まり、またその数も少なくなってきていました。先祖たちは自分と同胞を守るために今まで生きていた土地を捨て、安寧を得られる別の土地を探していたところ、霊子に守られたこの場所に辿り着いたのです。」


「………」


 出だしから、とんでもなく重い話になってしまった。


 恵み子に関する血生臭い記録を知っている手前、それ以上の事情を知ろうとは思えない。


「とあるご老人が先祖を訪ねてきたのは、先祖がここで暮らし始めて十年も経っていなかった頃だと聞いています。先祖はそこで初めて、ここで霊子が守っていたものの正体と、そこに込められた呪いの存在を知ったそうです。」


「とあるご老人、ですか…?」


「ええ。……フィオリアさん。おそらく、あなたならこの名前に聞き覚えがあるのではないでしょうか?」


 フィオリアをまっすぐに見つめるガルド。
 その唇が、どこか重々しく次の音を刻む。


「ライオルト・ヴィルムンテ」
「―――っ!!」


 その名前を聞いた瞬間、フィオリアが明らかに表情を変えた。


「その、名前は…っ」


 弱々しくかすれた声は、彼女がいかに動揺しているかを物語っている。


「フィオリア。まさか、ライオルトってのもルルーシェやセイラの関係者か?」


 フィオリアが動揺する理由なんてそれしかないので直球で訊ねると、彼女は青い顔でこくりと頷いた。




は―――セイラお嬢様のお父様なの。」




 やっとの思いでの人物が誰かを語ったフィオリアは、震える手を胸元で強く握る。


「マジかよ……」


 ルルーシェの父親であるジルの次は、セイラの父親がご登場とは。
 驚くと同時に、自分たちが確実に過去に眠る真実へ近付いていることを知る。


「それで、ライオルトとご先祖の間に何があったんですか?」


 フィオリアの手に自分の手を握らせてやりながら、シュルクはガルドに先をうながす。


 フィオリアのフォローを後回しにして申し訳ないが、今はガルドの話を聞くことが優先だと判断した。


「これといって、大きなことは。ライオルトさんはここに眠る運命石を回収しようとされましたが、資格がないためにそれは叶わず、先祖に資格を持つ者が現れるまでの守りを頼んだ。ただ、それだけのことです。」


「資格…? なんか、これにも似たようなことが書いてあったな。」


 かばんから取り出すのは、イストリアで見つけた古い手記。


「それもそうでしょう。その手記をイストリアに隠したのも、あなたたちを導くためのうたを遺したのも、ライオルトさんですからね。」


「―――っ!?」


 さも当然のように告げられたのは、衝撃の事実。
 シュルクもフィオリアも、両目を大きく開いて絶句することになってしまった。


「ど、どういうことだ!? ライオルトは、ルルーシェやジルを追い出した張本人だろ!?」
「………っ」


 思わずフィオリアに確認を取るが、フィオリアは動揺のあまり、こちらの質問に答えを寄越せずに震えているだけ。


 意味が分からない。


 この手記をつづった誰かは、ジルのことを〝大切な友〟だと表現していた。
 これの筆者がライオルトなら、彼は何故友であるジルを追い出したのだ。
 しかも、その後にジルと再会してルルーシェの運命石を集めていたと?


「そこまでは、私たち子孫には語り継がれていません。先祖が子孫に語り継ぐことをやめたのか、あるいはライオルトさんが語らなかったのでしょう。」


「……そうですか。今はフィオリアも立ち直れそうにないし、深掘りするのはやめておきます。」


 仕方ない。
 ここでこの話を引きずっても、誰のためにもならない。


 自分自身にそう言い聞かせることで動揺を押し殺し、シュルクは何度か深呼吸を繰り返して冷静さを取り戻すように意識する。


「……その〝資格〟ってやつは、何なんですかね? ここまで順調に運命石を集められてきたってことは、俺には資格とやらがあるんでしょう? ルルーシェのついになる相手が、恵み子の血を引いている必要があったとか?」


「もちろん、それも一つの資格です。ただ、それはあくまでも副次的な資格でしかなく、最も重要な資格とは―――あなたという存在そのものなのです。」


「俺…?」


 それこそ、意味が分からないんですけど?


 まるで要領を得られないシュルクは、怪訝けげんそうに眉を寄せる。


「ここからはライオルトさんではなく、霊子が語るお話です。呪いを穿うがたれて散った運命石の欠片かけらたち……その中には、呪いの残滓ざんしだけではなく、当時の想いそのものが閉じ込められてしまったものもある、と。」


「当時の想いそのもの…。平たく言えば、心とか魂ってところか…?」


「その解釈で問題ないかと。想いが閉じ込められた欠片かけらには、その想いが求めている人の声しか届かず、それ以外は全てを拒絶してしまうのだそうです。」


「………っ」


 ガルドの話を聞くシュルクは、息を飲まざるを得ない。


 ―――君の声なら、あの子たちにも届く。
 ―――君の声しか届かない。


 ガルドの話は、霊子たちが自分に訴えてきたことと完全に同じだった。


「ただ、その声を持つ人は呪いの余波で遥か遠くに飛ばされてしまった。だから、その人がもう一度彼女たちを見つけるまでは、ひたすらに待つしかないのだと。そんな霊子の語りを受けて、先祖はこの役目を担うことを決めたそうです。」


?」


 その言葉が、脳裏に引っ掛かった。
 引っ掛かりはすぐにこれまで得た情報と繋がり、自分が求めていた答えを導き出す。


「おいおい、嘘だろ…?」


 呪いの余波を食らうほど、その呪いに近しい人物。
 そして、呪いの根元たるルルーシェやセイラが求めていた人物。


 そんな人物、一人しかいないじゃないか。




「まさか、俺は……―――ルルーシェを愛した、セイラのついの相手の生まれ変わりってことなのか?」



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