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第24歩目 特訓の始まり
一歩目から大きな壁に
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行動は早いに越したことはない、と。
そう思っていたはずなのに、それから三日は何もしない日々が続いた。
原因は言うまでもなく、ダントリアンとリドーで溜まりに溜まった疲労だ。
最近はろくに眠っていなかったのも相まってか、ベッドに潜り込んだ自分とフィオリアは、ほぼ丸一日夢の中から抜け出せなかった。
翌日以降もガルドに〝霊子が心配しすぎていて、勉強どころじゃない〟と言われてしまい、しっかりとした食事と休息を繰り返すだけでさらに二日が経過した。
あまりにも暇だったのでフィオリアを連れて里を散策しまくり、里の人々とは一通り顔馴染みになった気がする。
里の人と積極的に交流した目的は情報収集だったのだが、結果としてそこまで大きな収穫は得られなかった。
ここは、深い霧に閉ざされた場所だ。
里から出ずに生きてきた彼らは、世界的な地理や歴史にはかなり疎かったのである。
ならば恵み子や霊子のことを教えてもらおうと思ったのだが、それは自分たちの役目じゃないからと、話をはぐらかされてしまった。
とはいえ、自力で分かることも多少はあった。
里の人々が扱っている言語はナナリア語なのだが、所々にロアヌ語独特のイントネーションが見られ、ロアヌ語が元になっていると思われる方言も聞かれた。
時おり里の外へ物資の買い出しに行くという人に話を聞いたところ、外に出て言語で苦労したことはないと言う。
ならば、ここはナナリアかロアヌのどちらかに属する土地。
二つの言語がここまで混ざり合うくらいだから、二ヶ国の国境が近い場所だと推測できる。
大陸の北方に面するペチカから、南方に面するナナリア・ロアヌに飛ばすなんて。
霊子たちも、とんでもない労力を使ったものだ。
そんなことを考える一方、里の人の訛りがちょっとばかり懐かしく感じられた理由が分かって複雑にもなったのだけど……まあ、個人的な感想なので放っておくことにした。
「―――さて。そろそろ、霊子の言葉を聞く練習を始めようか。」
里に来て五日目の朝、ガルドがようやくそんな一言を口にしてくれた。
「やっとか…。暇すぎて、頭がおかしくなるかと思った……」
勉強&訓練ということで二人きりで訪れたガルドの部屋で、シュルクは辟易とした雰囲気を漂わせる溜め息をつく。
「何をこの世の終わりみたいな顔をしているんだ。」
「暇って嫌いなんだよー。なんか、家から出られなかった頃のことを思い出しちゃって。調べものをしようにも、ここの人って本当に何も教えてくれないし。」
「シュルクは短気で働き者すぎるって話だからね。しっかりと休ませるためにも何も教えるなと、霊子からお達しが出ていたんだ。」
「過保護集団か! 調べものくらい、大した労力じゃないじゃん!」
「それで夜更かしばかりしたら、いつまで経っても疲れなんか取れないね?」
「うぐ…っ。霊子たちめ、余計なことばっか言いやがって……」
華麗に文句を潰され、シュルクはもどかしげに奥歯を噛む。
霊子から散々聞いているからなのか、里の人々は初めから親戚だったかのような詳しさで自分の性格や過去を知っている。
おかげで、ガルドとも敬語なしで話すくらいに打ち解けた。
なんだかこそばゆくて、とても不思議な気分。
初めて訪れるこの場所が、ふとした拍子に故郷のウェースティーンと重なって見えるのだ。
ここにいる人々は、両親やザキたちのように暖かな眼差しと思いやりをくれる。
違うところがあるとすれば、ここには自分に無知故の悪意をぶつけてくる奴らがいないことで―――
「……さっさと始めようぜ。」
ちょっとばかり物悲しい気分になってしまい、シュルクはそれを振り切るように目を閉じた。
「そうだね。……じゃあ、まずはそれを外そうか?」
「うっ…」
出だしから課題が一つ。
ガルドに首のチョーカーを指差され、シュルクは無意識のうちに肩を震わせていた。
「慣れてないから躊躇うのは分かるけど、それを外さないことには、それがいらない生活を手に入れられないよ?」
「それは、俺も分かってるけど……」
「ほら、じゃあさっさと外す。まーたシノンに怒られてしまっても、今度からは助けないからね。」
「分かった分かった。ちゃんと外すから、シノンからは助けて…っ」
ガルドの孫である双子の片割れ・シノン。
彼女は、訓練が始まるまではチョーカーをつけると言った自分にひどく憤慨している。
毎朝ミオンと共に家に飛び込んできては、チョーカーを外せと言いながらまとわりついてくるのだ。
そりゃあ、自分だって外したいとも。
でも、チョーカーを外せばとんでもない量の霊子が寄ってくるし、いくら周りが気にしないと言っても、自分が落ち着けないのである。
とはいえ、慣れるまでは勘弁してくれと言ったところで、年端もいかぬ子供には通じないもの。
今朝までは、ガルドの言いくるめとフォローのおかげでなんとか難を逃れてきた。
すぐにチョーカーを外せるようになるとは限らないので、ガルドの助けがなくなるのは非常に困る。
「うっ…」
チョーカーを外して、五秒足らず。
あっという間に光に包まれたシュルクは、反射的に顔をしかめて身を引いてしまう。
「こら。逃げない、引かない、拒絶しない。条件反射でそうなるのを、今はこらえて。」
「うう…っ」
そうは言われても、この十数年で徹底的に鍛えた拒絶癖はすぐに直らないって。
あと、単純にまぶしすぎてうざったい。
「うーん……―――シノン。」
「えい!」
「うっわ!?」
ガルドがシノンの名前を呼んだ瞬間、脇腹に軽い衝撃が走る。
まさに奇襲とも言える不意打ちに、シュルクは思わず椅子から飛び上がっていた。
「シ、シノン! お前、いつの間に!?」
「えへへー♪」
バクバクとうるさい心臓を押さえて後ずさるシュルクに、その背後から脇腹をつついたシノンはにんまりと笑う。
―――…き
その時、脳裏で声のような何かが聞こえたような気がした。
そう思っていたはずなのに、それから三日は何もしない日々が続いた。
原因は言うまでもなく、ダントリアンとリドーで溜まりに溜まった疲労だ。
最近はろくに眠っていなかったのも相まってか、ベッドに潜り込んだ自分とフィオリアは、ほぼ丸一日夢の中から抜け出せなかった。
翌日以降もガルドに〝霊子が心配しすぎていて、勉強どころじゃない〟と言われてしまい、しっかりとした食事と休息を繰り返すだけでさらに二日が経過した。
あまりにも暇だったのでフィオリアを連れて里を散策しまくり、里の人々とは一通り顔馴染みになった気がする。
里の人と積極的に交流した目的は情報収集だったのだが、結果としてそこまで大きな収穫は得られなかった。
ここは、深い霧に閉ざされた場所だ。
里から出ずに生きてきた彼らは、世界的な地理や歴史にはかなり疎かったのである。
ならば恵み子や霊子のことを教えてもらおうと思ったのだが、それは自分たちの役目じゃないからと、話をはぐらかされてしまった。
とはいえ、自力で分かることも多少はあった。
里の人々が扱っている言語はナナリア語なのだが、所々にロアヌ語独特のイントネーションが見られ、ロアヌ語が元になっていると思われる方言も聞かれた。
時おり里の外へ物資の買い出しに行くという人に話を聞いたところ、外に出て言語で苦労したことはないと言う。
ならば、ここはナナリアかロアヌのどちらかに属する土地。
二つの言語がここまで混ざり合うくらいだから、二ヶ国の国境が近い場所だと推測できる。
大陸の北方に面するペチカから、南方に面するナナリア・ロアヌに飛ばすなんて。
霊子たちも、とんでもない労力を使ったものだ。
そんなことを考える一方、里の人の訛りがちょっとばかり懐かしく感じられた理由が分かって複雑にもなったのだけど……まあ、個人的な感想なので放っておくことにした。
「―――さて。そろそろ、霊子の言葉を聞く練習を始めようか。」
里に来て五日目の朝、ガルドがようやくそんな一言を口にしてくれた。
「やっとか…。暇すぎて、頭がおかしくなるかと思った……」
勉強&訓練ということで二人きりで訪れたガルドの部屋で、シュルクは辟易とした雰囲気を漂わせる溜め息をつく。
「何をこの世の終わりみたいな顔をしているんだ。」
「暇って嫌いなんだよー。なんか、家から出られなかった頃のことを思い出しちゃって。調べものをしようにも、ここの人って本当に何も教えてくれないし。」
「シュルクは短気で働き者すぎるって話だからね。しっかりと休ませるためにも何も教えるなと、霊子からお達しが出ていたんだ。」
「過保護集団か! 調べものくらい、大した労力じゃないじゃん!」
「それで夜更かしばかりしたら、いつまで経っても疲れなんか取れないね?」
「うぐ…っ。霊子たちめ、余計なことばっか言いやがって……」
華麗に文句を潰され、シュルクはもどかしげに奥歯を噛む。
霊子から散々聞いているからなのか、里の人々は初めから親戚だったかのような詳しさで自分の性格や過去を知っている。
おかげで、ガルドとも敬語なしで話すくらいに打ち解けた。
なんだかこそばゆくて、とても不思議な気分。
初めて訪れるこの場所が、ふとした拍子に故郷のウェースティーンと重なって見えるのだ。
ここにいる人々は、両親やザキたちのように暖かな眼差しと思いやりをくれる。
違うところがあるとすれば、ここには自分に無知故の悪意をぶつけてくる奴らがいないことで―――
「……さっさと始めようぜ。」
ちょっとばかり物悲しい気分になってしまい、シュルクはそれを振り切るように目を閉じた。
「そうだね。……じゃあ、まずはそれを外そうか?」
「うっ…」
出だしから課題が一つ。
ガルドに首のチョーカーを指差され、シュルクは無意識のうちに肩を震わせていた。
「慣れてないから躊躇うのは分かるけど、それを外さないことには、それがいらない生活を手に入れられないよ?」
「それは、俺も分かってるけど……」
「ほら、じゃあさっさと外す。まーたシノンに怒られてしまっても、今度からは助けないからね。」
「分かった分かった。ちゃんと外すから、シノンからは助けて…っ」
ガルドの孫である双子の片割れ・シノン。
彼女は、訓練が始まるまではチョーカーをつけると言った自分にひどく憤慨している。
毎朝ミオンと共に家に飛び込んできては、チョーカーを外せと言いながらまとわりついてくるのだ。
そりゃあ、自分だって外したいとも。
でも、チョーカーを外せばとんでもない量の霊子が寄ってくるし、いくら周りが気にしないと言っても、自分が落ち着けないのである。
とはいえ、慣れるまでは勘弁してくれと言ったところで、年端もいかぬ子供には通じないもの。
今朝までは、ガルドの言いくるめとフォローのおかげでなんとか難を逃れてきた。
すぐにチョーカーを外せるようになるとは限らないので、ガルドの助けがなくなるのは非常に困る。
「うっ…」
チョーカーを外して、五秒足らず。
あっという間に光に包まれたシュルクは、反射的に顔をしかめて身を引いてしまう。
「こら。逃げない、引かない、拒絶しない。条件反射でそうなるのを、今はこらえて。」
「うう…っ」
そうは言われても、この十数年で徹底的に鍛えた拒絶癖はすぐに直らないって。
あと、単純にまぶしすぎてうざったい。
「うーん……―――シノン。」
「えい!」
「うっわ!?」
ガルドがシノンの名前を呼んだ瞬間、脇腹に軽い衝撃が走る。
まさに奇襲とも言える不意打ちに、シュルクは思わず椅子から飛び上がっていた。
「シ、シノン! お前、いつの間に!?」
「えへへー♪」
バクバクとうるさい心臓を押さえて後ずさるシュルクに、その背後から脇腹をつついたシノンはにんまりと笑う。
―――…き
その時、脳裏で声のような何かが聞こえたような気がした。
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