Fairy Song

時雨青葉

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第24歩目 特訓の始まり

理想の光景

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 結局、この日は苦戦一方で終わることになってしまった。


 ガルドとシノンが出ていった部屋で一人きり。
 自分なりに、できる限りのことはやったつもりだ。


 とりあえず、しばらくはチョーカーを外したまま平常心を保てるように意識。
 しかし、最初は耐えられて五分が限界だった。


 頭がパンクしそうな量の声と、目を焼くほどに強い光。


 慣れようと思っても、ひどい頭痛と眩暈めまいに負けて、たまらずチョーカーをつけてしまう。


 正直、霊子の声を聞いて彼らを受け入れるどころじゃない。


 昼食を挟んで午後も訓練に明け暮れたけど、今日はチョーカーを外した状態に耐えられる時間を三十分に拡大するのが精一杯だった。


「お疲れ様。まさか、初日から缶詰めになるとは思わなかったよ。期限は設けないって言ったのに……」


「じいちゃんの中に期限がなくても、俺の中にはなるべく早くって期限があるんだよ。」


 疲れのせいか、つきつきと痛む胸。
 そこにさりげなく触れながら、シュルクはまぶたを伏せる。


 呪いの効果が表面化する前だったなら、自分ももう少しゆとりを持って訓練に挑んだかもしれない。


 しかし、現実はこのとおり。


 自分にどれだけのゆうが残されているか分からない以上、一分一秒でも無駄にできないのだ。


 それに―――


「早く、フィオリアの目を元に戻したいしな……」


 そう呟いたシュルクの目には、深いうれいが。


 何も見えない世界とは、人をどれだけ不安にさせるものだろう。


 焦らなくていいと笑うフィオリアが無理をしていないかと思うと、居ても立ってもいられないのだ。


「こう言っても、気休めにしかならないかもしれないけど……霊子たちは、フィオリアに害を与えるつもりで目を閉ざしたんじゃないよ。」


 ぽん、と。
 しわだらけの大きな手が頭に触れる。


「もちろん、里の場所を知られないためというのもあるけど、シュルクでこれだよ? めぐでもない人が、霊子がここまで強く見える世界に耐えられると思うかい?」


「それは……」


 自分で三十分耐えるのが限界の頭痛と眩暈めまいだ。


 普段は霊神召還を通してしか霊子と触れ合わない人なら、どのくらいの苦痛になるだろう。


 少し想像して、背筋に寒気が走った。


「ね? 厳しいだろう? むしろ、目が閉ざされているのは霊子に好かれている証拠だよ。やろうと思えば、あえてこの光景を見せて目を潰したり、精神をおかしくしたりすることだってできるんだから。」


「た、確かに……」


「それに、視界が閉ざされて他の感覚が鋭くなれば、普通の人でも霊子の声を聞くことができる可能性がある。あれは、霊子なりの好意と配慮が表れた結果なんだよ。」


「う…っ」


 ガルドがそう告げた瞬間、チョーカーをつけているのに光を帯びた粒子がわらわらと寄ってくる。


 どうやら、霊子たちもガルドが言っていることは本当だと言いたいらしい。


「分かった。別にお前らが悪者だなんて思ってないから、今日はもう勘弁して……」


 疲労困憊こんぱいの声でシュルクが言うと、一度群がった霊子が瞬く間に散っていく。
 すると、それを見たガルドが軽く目をみはった。


「朝はどうなることかと思ったけど、一日で結構前進したじゃないか。朝と比べたら、かなりシュルクの言うことを聞くようになっているよ。」


「なんでだろ…? また明日付き合うから、今日は許してくれって頼みはしたけど……」


「また明日、か…。その一言が嬉しかったんだろうね。これまでの無視一方の生活じゃ、次がいつ来るかなんて分からなかっただろうから。」


「ええ…? もう、よく分かんないんだけど…。初めからちゃんと受け入れてた方が、完全制御には早かったってことか…?」


「だから言っただろう? 君の近くにいるうざい人と霊子は別だって。」


「………」


 そう言われると、自分としては何も言い返せない。


「……まあ、私もあの子の溺愛っぷりには思うところがあったから、同情はするけどね。」


 ぽそりとガルドが呟いた言葉。


 脳裏に思い浮かべていたとある人物に気を取られていたシュルクはそれを聞き取れず、顔を上げて首を傾げる。


「今、なんか言った?」
「いや、ただのひとり言だよ。さ、今日は授業も訓練も終わりだ。」


 年の功がうかがえる笑みでシュルクの疑問を流したガルドは、到着したリビングのドアを開く。


「おかえりー。」


 自分たちを出迎えてくる明るい声。


 そちらに目を向けると、ダイニングテーブルで談笑していたらしいフィオリアとミオン、シノンが手を振っていた。


「お疲れ様。どんな感じ?」
「てんでダメ。頭が割れそうだよ……」


 フィオリアに訊ねられ、シュルクは正直にそう答えて肩を落とした。


「シュルク君は、変に力みすぎてるみたいだからねぇ…。もっとリラックスできるといいんだけど……」


 フィオリアの隣で、ガルドの妻であるサクナがほうと息をつく。


「シュルクお兄ちゃん! こっち見て!」


 次に声をあげたのは、霊子に次ぐ頭痛の種であるシノン。
 逆らわずに視線を下に向けると、シノンはミオンにぎゅーっと抱きつく。


「ミオーン、大好きー♪」
「私も大好きー♪」


 シノンの愛情表現に応えて、全力で彼女を抱き締め返すミオン。
 それに嬉しそうに目元をなごませた後、シノンは再度シュルクを振り返った。


「ほら、お手本!」
「……うん。今は、純粋な子供心がうらやましいわ。」


 余計な経験はリセットしろ。


 ようは、シノンもガルドと同じことを言いたいのだろう。
 しかし、ここまで成長した今となっては、それが逆に難しいのである。


「ふふふ…。シュルクがそこまで悪戦苦闘してるなんて、なんか新鮮。ちゃーんと、私と同い年だったんだね。」


「おい。お前は俺をなんだと思ってる。」


「同い年とは思えないくらい迷いなく行動できて、誰にでも配慮と気遣いができる、本当に素敵な人。」


「………っ」


 ……こいつめ。


 こちらの表情が見えないのをいいことに、べらぼうにいじらしいことをさらっと言いやがって。


 自分が言葉につまって赤面すると、周囲の人々が朗らかに笑う。
 そんな光景を眺めて、ふと感慨深い気分に陥った。


(初めてかもな…。フィオリアも一緒に、こんな穏やかな時間を過ごすってのも……)


 目が見えないという不都合はありつつも、フィオリアはとても安らいだ様子。
 優しいガルドやミオンたちと、彼女は気の抜けた会話を楽しんでいる。


(……最後には、こんな日がずっと続く未来になればいいな。)


 目の前にあるのは、理想と掲げるにふさわしい光景。
 それを見つめるシュルクは、自分の表情がやわらいでいたことに気付いていなかった。

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