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第26歩目 出るか、残るか―――
幼い頃のフィオリア
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難しげに眉を寄せて考えたフィオリア。
やがて、その口からこんなことが語られる。
「私の家族の話って楽しいものでもないし、そもそもよく知らないのよね。私が生まれる前にみんな亡くなってるから、お父様やお祖父様たちのことも肖像画でくらいしか見たことがないし。」
「……なんか、すまん。」
照れ隠しとはいえ、家族の話の段階でフィオリアに振るんじゃなかった。
地味に後悔するシュルクの機微に気付いたのか、フィオリアが慌てて両手を振る。
「そんな、気にしないで! その分、城にいる人たちが家族みたいなものなの。私一人っ子だし、王位争いとかも特になかったから、みんな優しくて!」
「あー、らしいな。小さい頃は結構な構ってちゃんで、一般人が出入りする場所にも頻繁に顔を出しては、慌てた城の人たちに連れ戻されてたんだとか?」
「え…?」
「ちなみに、城門近くにある薔薇庭園がお気に入りスポットのようで? 植え込みが迷路みたいで、かくれんぼにはうってつけだもんな。機嫌がいいと鼻歌が出るから、割とバレバレだったらしいけど?」
「え…? え…? なんで…?」
ズバズバと指摘してやると、フィオリアの表情が面白いくらいに百面相を見せる。
よし、このまま先ほどの気まずさをうやむやにしてやるか。
そう思ったシュルクは、にやりと笑う。
「俺の親、二人とも全言語マスター。全言語マスターは、依頼によって城からも召集がかかる。どういうことか、お分かり?」
「え…? まさか……私、ご両親にお会いしたことある…?」
「♪」
答えは言葉ではなく、グッドサインで示してやる。
「えええええーっ!?」
「まあ、あくまでも小さかった時の話だけどなー。」
「じゃ、じゃあ! なんでシュルクがそれを知ってるの!?」
「二人からの手紙に、しこたま書いてあったんだよ。絶対に可愛い子だから、邪険にしてくれるなよって。青や緑が好きってことだったり、可愛いけど繊細なものが好きっていう好みも、小さい頃から変わってないようで助かったよ。」
「……あああーっ!!」
こちらの発言を受けて、何かに気付いたのだろう。
フィオリアがにわかに慌て始める。
「じゃあ、これとか、あれとか…っ」
フィオリアがヘアピンを指差し、次に外套を表すジェスチャーをする。
うんうん。
予想どおりのいい反応だ。
可愛らしい姿を拝めて、にんまりのシュルクであった。
「そういうこと。今まで渡したやつは、母さんたちに加えて俺の観察結果も入ったもんだ。」
「だから、あんなに私の好みに忠実だったのね…っ。っていうか、シュルクもそうだけどご両親の観察眼と記憶力はどうなってるの!?」
「いくら全言語マスターっつったって、訛りがある以上、耳だけで全部を把握できるわけねぇじゃん。相手が何を言いたいのかを正確に認識するために、表情やジェスチャーも細やかに見るんだよ。」
「通訳って、難しい仕事なんだね……」
「ま、能力以上に適性が必要な職ではあるかもな。」
「確かにそうかも。……うーん、悩ましいなぁ。」
話に一区切りついたところで、フィオリアが腕を組んで唸る。
「こうして考えてみると、どっちも選び難いね。いっそのこと、欲張れないかな? まずは呪いを解いて、どっちでも暮らせる基盤を整えるの。……まあ、現実的じゃないけと。」
「まったくだな。」
自分で自分のアイデアを否定したフィオリアに、シュルクは間髪入れずに同意する。
それは、フィオリアの立場と複雑な心境を慮っての行動だった。
「話してるうちに、俺よりお前が外になびいたみたいだな。王族としての責任ってやつを、思い出しちまったんだろ?」
彼女からは言いにくいだろうと思ったので、あえてこちらから。
すると―――
「……うん。」
途端にしおらしくなったフィオリアが、小さく肩を落とした。
一人っ子で、王位争いもない。
それはつまり、ティーンの次代を担う役割がフィオリアにしかないということ。
話しながら、フィオリアはそのことを思い出したのだろう。
その発言をしてから、彼女の表情がどこかぎこちなくなった。
それを見逃すほど自分の観察眼は鈍くないし、そこを無視するほど自分勝手でもないつもりだ。
王族としての責任。
それは生まれた時から彼女が背負うもので、彼女自身が大切にしている信念だと知っているのだから。
「……よくよく、考えなきゃね。」
「だな。急いで結論を出さずに、じっくりと考えてみようか。」
「シュルク。考えるっていっても、私に合わせる方向に自分を説得しないでよ?」
「お前が言うな。いつも、すぐにあれこれと飲み込むくせに。」
「ああ! 言ったわね!? 今回は遠慮せずに、喧嘩覚悟で正面衝突してやるんだから!」
「その挑戦、受けて立ってやるよ。俺相手に、どこまで食らいつけるかなー?」
「……ふふふ。」
「ははっ。」
最後には二人で面白おかしく笑う。
そうやって気軽に話を終えながらも……それぞれの心には、ずっしりと重たい迷いがのしかかっていた。
やがて、その口からこんなことが語られる。
「私の家族の話って楽しいものでもないし、そもそもよく知らないのよね。私が生まれる前にみんな亡くなってるから、お父様やお祖父様たちのことも肖像画でくらいしか見たことがないし。」
「……なんか、すまん。」
照れ隠しとはいえ、家族の話の段階でフィオリアに振るんじゃなかった。
地味に後悔するシュルクの機微に気付いたのか、フィオリアが慌てて両手を振る。
「そんな、気にしないで! その分、城にいる人たちが家族みたいなものなの。私一人っ子だし、王位争いとかも特になかったから、みんな優しくて!」
「あー、らしいな。小さい頃は結構な構ってちゃんで、一般人が出入りする場所にも頻繁に顔を出しては、慌てた城の人たちに連れ戻されてたんだとか?」
「え…?」
「ちなみに、城門近くにある薔薇庭園がお気に入りスポットのようで? 植え込みが迷路みたいで、かくれんぼにはうってつけだもんな。機嫌がいいと鼻歌が出るから、割とバレバレだったらしいけど?」
「え…? え…? なんで…?」
ズバズバと指摘してやると、フィオリアの表情が面白いくらいに百面相を見せる。
よし、このまま先ほどの気まずさをうやむやにしてやるか。
そう思ったシュルクは、にやりと笑う。
「俺の親、二人とも全言語マスター。全言語マスターは、依頼によって城からも召集がかかる。どういうことか、お分かり?」
「え…? まさか……私、ご両親にお会いしたことある…?」
「♪」
答えは言葉ではなく、グッドサインで示してやる。
「えええええーっ!?」
「まあ、あくまでも小さかった時の話だけどなー。」
「じゃ、じゃあ! なんでシュルクがそれを知ってるの!?」
「二人からの手紙に、しこたま書いてあったんだよ。絶対に可愛い子だから、邪険にしてくれるなよって。青や緑が好きってことだったり、可愛いけど繊細なものが好きっていう好みも、小さい頃から変わってないようで助かったよ。」
「……あああーっ!!」
こちらの発言を受けて、何かに気付いたのだろう。
フィオリアがにわかに慌て始める。
「じゃあ、これとか、あれとか…っ」
フィオリアがヘアピンを指差し、次に外套を表すジェスチャーをする。
うんうん。
予想どおりのいい反応だ。
可愛らしい姿を拝めて、にんまりのシュルクであった。
「そういうこと。今まで渡したやつは、母さんたちに加えて俺の観察結果も入ったもんだ。」
「だから、あんなに私の好みに忠実だったのね…っ。っていうか、シュルクもそうだけどご両親の観察眼と記憶力はどうなってるの!?」
「いくら全言語マスターっつったって、訛りがある以上、耳だけで全部を把握できるわけねぇじゃん。相手が何を言いたいのかを正確に認識するために、表情やジェスチャーも細やかに見るんだよ。」
「通訳って、難しい仕事なんだね……」
「ま、能力以上に適性が必要な職ではあるかもな。」
「確かにそうかも。……うーん、悩ましいなぁ。」
話に一区切りついたところで、フィオリアが腕を組んで唸る。
「こうして考えてみると、どっちも選び難いね。いっそのこと、欲張れないかな? まずは呪いを解いて、どっちでも暮らせる基盤を整えるの。……まあ、現実的じゃないけと。」
「まったくだな。」
自分で自分のアイデアを否定したフィオリアに、シュルクは間髪入れずに同意する。
それは、フィオリアの立場と複雑な心境を慮っての行動だった。
「話してるうちに、俺よりお前が外になびいたみたいだな。王族としての責任ってやつを、思い出しちまったんだろ?」
彼女からは言いにくいだろうと思ったので、あえてこちらから。
すると―――
「……うん。」
途端にしおらしくなったフィオリアが、小さく肩を落とした。
一人っ子で、王位争いもない。
それはつまり、ティーンの次代を担う役割がフィオリアにしかないということ。
話しながら、フィオリアはそのことを思い出したのだろう。
その発言をしてから、彼女の表情がどこかぎこちなくなった。
それを見逃すほど自分の観察眼は鈍くないし、そこを無視するほど自分勝手でもないつもりだ。
王族としての責任。
それは生まれた時から彼女が背負うもので、彼女自身が大切にしている信念だと知っているのだから。
「……よくよく、考えなきゃね。」
「だな。急いで結論を出さずに、じっくりと考えてみようか。」
「シュルク。考えるっていっても、私に合わせる方向に自分を説得しないでよ?」
「お前が言うな。いつも、すぐにあれこれと飲み込むくせに。」
「ああ! 言ったわね!? 今回は遠慮せずに、喧嘩覚悟で正面衝突してやるんだから!」
「その挑戦、受けて立ってやるよ。俺相手に、どこまで食らいつけるかなー?」
「……ふふふ。」
「ははっ。」
最後には二人で面白おかしく笑う。
そうやって気軽に話を終えながらも……それぞれの心には、ずっしりと重たい迷いがのしかかっていた。
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