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第26歩目 出るか、残るか―――
家族について
しおりを挟む「え、なんで…?」
昔話をしようと提案された意図が分からず、シュルクは目をしばたたかせる。
そんなシュルクの前で、フィオリアはどこか自慢げに指を立てた。
「今の私たちって、ここでの生活しか考えてないじゃない? 試しに、それと同じくらい外のことを思い出してみるの。そしたら、改めてどっちがいいか考えられるんじゃないかと思って。」
「ああ……なるほど。いいかもな。」
確かに、視野を広げるのは一手としてあり。
というか、今こそ必要なことだと言える。
「やった♪ 実は、シュルクのことって知ってるようで知らないから、一度ゆっくりと話を聞いてみたかったの。」
「それはお互い様だな。」
彼女の言うとおり。
出会いも旅立ちも突然で特殊だった自分たちは、普通ならもう知っていることだって知らない。
これはいい機会だろう。
「じゃあ、私からね。シュルク、誕生日はいつ?」
「七月九日。ちょうど梅雨が明けた日だったって聞いてる。」
「あら、私の方がちょっとだけお姉さんだった。私はね、六月二十四日なの。」
「何がお姉さんだよ。二週間も変わんねぇじゃん。」
なんとなくフィオリアにお姉さん面をされるのは気に食わなくて、ついひねくれたことを言ってしまう。
すると、彼女は可愛らしく唇を尖らせた。
「だから、ちょっとだけって言ったじゃない! それにしても、 対の相手ってやっぱり誕生日も近いんだね。」
「みたいだな。母さんと父さんも、一ヶ月も離れてないし。」
「あ、ご両親といえば! シュルクって、ご両親の他に家族っている?」
表情のきらめきと話への食い付きようが半端ない。
どんだけ知りたかったんだ。
「まあ、母方のじいちゃんたちも父方のじいちゃんたちも、まだ生きてるな。どっちも遠くに住んでるから、年に一度くらいしか会ってないけど。」
「へえ…。どこに住んでるの?」
「母方はティーンの南部地方。父方はナナリアなんだけど……案外、ここから近い場所に住んでるかもしれん。」
「え…? どういうこと?」
「この里の人たちの訛りって、父さんが酔った時に出てくる訛りやじいちゃんたちの訛りと結構似てるんだよ。普通に考えて、ご近所さんだろ。」
「……あ! だからシュルク、やけに里の人たちの訛りを聞き取るのが上手かったんだ!」
「そういうこと。もしかしたら、父方の先祖はこの里から外に出た人なのかもな。」
「確かに…。意外なご縁だね。ちなみに、兄弟はいないの? シュルクって面倒見がいいから、弟か妹がいそうって思ってたんだけど。」
「………」
次の質問が飛んだ瞬間、それまで滑らかに回っていたシュルクの舌が固まる。
顔も無表情というか、ぎこちなく強張ったものへ。
その変化を雰囲気で察知したフィオリアが、こてんと小首を傾げた。
「どうしたの?」
「……いや、別に。兄弟は、五つ上に兄ちゃんがいる。」
「お兄さん……」
ポツリと呟いたフィオリアは、ふと何かに思い至った顔をした。
「ご、ごめんなさい。もしかして―――」
「早とちりストップ。〝いる〟って言ってんだろ。生きてるし、無駄に元気だから。」
青くなったフィオリアが何を考えているかなんてお見通しなので、シュルクは早々に先手を入れる。
すると、彼女はあからさまにほっとした様子で息をついた。
「びっくりしたぁ…。急に黙るんだもん。何か触れちゃいけない事情があるのかと……」
「仕方ねぇだろ。別に嫌いじゃないけど、なんとなく苦手なんだ。うっかりあいつのことを口にしたら本人を召還しちまいそうで、つい……」
「シュルクが苦手な人って珍しいね。旅に出てから苦手って言ってたの、ルーウェルさんくらいしかいなかったよね?」
「ルーウェル……ああー……」
その名前を聞いたシュルクは一度虚空に目をやり、次に顔を覆ってうなだれる。
「ど、どうしたの…?」
「いや…。よくよく思い返してみると、割と似てるかもしれないと思って。」
「似てるって、お兄さんとルーウェルさんが?」
「うん。無駄にうざいところが特に。」
「うざいところ……ふふっ。」
「おい、なんで笑う。」
「だってそれ、好かれすぎちゃって扱いに困るから苦手ってことじゃないの?」
「うぐ…っ」
見事に核心を突かれてしまい、シュルクは呻くしかない。
なんだ?
もしかして、フィオリアも感覚派の天才か?
どうしてこれだけの情報で兄ちゃんの性癖を見抜けるんだよ。
「あー、やめやめ。あいつの話はこれ以上しない。つーか、俺にばっかしゃべらせんな。」
「あ、ごめんなさい。シュルクのことを知られると思うと、訊いてみたいことがたくさんありすぎて…。今度は私の番……っていっても……」
生き生きとしていたフィオリアの表情。
それが、複雑そうにしかめられた。
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