11 / 86
ラウンド9 やっぱり可愛い…?
しおりを挟む
それからどっぷりと日が暮れるまで、ジョーは貴賓室に押し込められて、根掘り葉掘りの質問攻めに遭っていた。
そして、包み隠さずに情報を渡したにもかかわらず、移籍は無理でも特別研究員として定期的に通ってくれないかと、所長や副所長に土下座までされての勧誘を受けることになった。
「だあぁー…。あの程度で、みんな大袈裟なんだよ。」
ようやっと研究所から出ることが叶い、ジョーは深く溜め息をつく。
ちなみにキリハは、特別支援学校の体験授業に行っているシアノを迎えに行くと、先に退出していった。
「お前は馬鹿か。いつもは情報の調整なんざ完璧にできるのに、得意分野となった瞬間に下手くそか。あれは常人の領域じゃないと、客観的に見れば分かるだろう。」
車の後部座席から窓の外を眺めていたノアは、呆れた表情で隣のジョーを見やった。
「逆にお伺いしますけど、薬の世界における調整ってなんです? 下手に力量を調整すれば、苦しみを長引かせるだけなんです。僕が手を出す以上、生かすにしろ殺すにしろ、不要な苦しみは与えません。」
きっぱりと言い切ったジョーは、自身も窓の外に視線を向ける。
相変わらず、根本的なところで融通が利かない奴だ。
その矜持を曲げなければならないとなった瞬間、研究をやめてしまいそうな勢いである。
まあ裏を返せば、筋が通っている頑固な職人気質ということでもあるのだけど。
「………」
なんだろうな。
可愛くない嫌な奴だと散々喚いていたはずなのに、こうして顔を合わせると離れ難くなるものだ。
半年ぶりだからか、こんな会話でも楽しいと思えてしまう。
「なあ。」
「はい?」
「この後、食事にでも行かんか?」
「……は?」
想定に全くなかったお誘いだったらしい。
目がまんまるになった心底驚いた表情を見ると、彼の本来の年齢が垣間見えるようだった。
「えー…」
しかしその表情は、すぐに不本意そうな渋面に取って代わる。
「あのですね……僕、一応今は休暇中なんですよ? どうしてわざわざ、あなたと食事になんて―――」
「私は!」
ノアは、ジョーの眼前にビシッと指先を突きつける。
「私は、お前のことをその名前で呼びたくない。」
「………っ」
「どうせお前のことだから、二人きりにでもならないと、本当の名前で呼ぶことを許してくれんだろう? だから、食事という建前を取ったのだ。」
「………」
「いいから付き合え! 私の連絡は無視するわ、肝心なことは何一つ報告せんわで、お前に言いたい文句が山のようにあるのだ!! 今日の今日なら、私がお前を誘ったところで、研究所へのスカウトだろうと思われるだけだ!!」
「………」
「な、何か言わんか! この―――」
言葉は、途中で途切れてしまう。
「………」
ジョーは、こちらを見ていなかった。
窓の向こうに視線を固定し、睨むような険しい目つきで外の景色を眺めている。
時おり街灯に照らされるだけの暗い車内では分かりづらいが、その頬は仄かに染まっているようで……
(あれ…? やっぱり可愛い……のか?)
こいつが可愛いなんて幻想だと。
半年かけてそう結論づけたのに、再会して数時間で早くもそれを覆してくるなんて。
おかげでこっちは、印象のアップダウンについていけない。
「……仕方ないですね。」
やがて、ぽつりと。
一向にこちらを向かないまま、ジョーが口を開いた。
「今日は想定外の労働が入ったんで、その見返りだと思うことにします。」
「あ、ああ……」
なんだ、この微妙な空気は。
単純に食事に誘っただけなのに、何故こんなにぎこちなくなる。
「……ウ、ウルド。早く店に向かってくれ。」
胸の内の動揺をごまかすように、ウルドへと指示を飛ばした。
そして、包み隠さずに情報を渡したにもかかわらず、移籍は無理でも特別研究員として定期的に通ってくれないかと、所長や副所長に土下座までされての勧誘を受けることになった。
「だあぁー…。あの程度で、みんな大袈裟なんだよ。」
ようやっと研究所から出ることが叶い、ジョーは深く溜め息をつく。
ちなみにキリハは、特別支援学校の体験授業に行っているシアノを迎えに行くと、先に退出していった。
「お前は馬鹿か。いつもは情報の調整なんざ完璧にできるのに、得意分野となった瞬間に下手くそか。あれは常人の領域じゃないと、客観的に見れば分かるだろう。」
車の後部座席から窓の外を眺めていたノアは、呆れた表情で隣のジョーを見やった。
「逆にお伺いしますけど、薬の世界における調整ってなんです? 下手に力量を調整すれば、苦しみを長引かせるだけなんです。僕が手を出す以上、生かすにしろ殺すにしろ、不要な苦しみは与えません。」
きっぱりと言い切ったジョーは、自身も窓の外に視線を向ける。
相変わらず、根本的なところで融通が利かない奴だ。
その矜持を曲げなければならないとなった瞬間、研究をやめてしまいそうな勢いである。
まあ裏を返せば、筋が通っている頑固な職人気質ということでもあるのだけど。
「………」
なんだろうな。
可愛くない嫌な奴だと散々喚いていたはずなのに、こうして顔を合わせると離れ難くなるものだ。
半年ぶりだからか、こんな会話でも楽しいと思えてしまう。
「なあ。」
「はい?」
「この後、食事にでも行かんか?」
「……は?」
想定に全くなかったお誘いだったらしい。
目がまんまるになった心底驚いた表情を見ると、彼の本来の年齢が垣間見えるようだった。
「えー…」
しかしその表情は、すぐに不本意そうな渋面に取って代わる。
「あのですね……僕、一応今は休暇中なんですよ? どうしてわざわざ、あなたと食事になんて―――」
「私は!」
ノアは、ジョーの眼前にビシッと指先を突きつける。
「私は、お前のことをその名前で呼びたくない。」
「………っ」
「どうせお前のことだから、二人きりにでもならないと、本当の名前で呼ぶことを許してくれんだろう? だから、食事という建前を取ったのだ。」
「………」
「いいから付き合え! 私の連絡は無視するわ、肝心なことは何一つ報告せんわで、お前に言いたい文句が山のようにあるのだ!! 今日の今日なら、私がお前を誘ったところで、研究所へのスカウトだろうと思われるだけだ!!」
「………」
「な、何か言わんか! この―――」
言葉は、途中で途切れてしまう。
「………」
ジョーは、こちらを見ていなかった。
窓の向こうに視線を固定し、睨むような険しい目つきで外の景色を眺めている。
時おり街灯に照らされるだけの暗い車内では分かりづらいが、その頬は仄かに染まっているようで……
(あれ…? やっぱり可愛い……のか?)
こいつが可愛いなんて幻想だと。
半年かけてそう結論づけたのに、再会して数時間で早くもそれを覆してくるなんて。
おかげでこっちは、印象のアップダウンについていけない。
「……仕方ないですね。」
やがて、ぽつりと。
一向にこちらを向かないまま、ジョーが口を開いた。
「今日は想定外の労働が入ったんで、その見返りだと思うことにします。」
「あ、ああ……」
なんだ、この微妙な空気は。
単純に食事に誘っただけなのに、何故こんなにぎこちなくなる。
「……ウ、ウルド。早く店に向かってくれ。」
胸の内の動揺をごまかすように、ウルドへと指示を飛ばした。
0
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました
大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』
鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、
仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。
厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議――
最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。
だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、
結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。
そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、
次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。
同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。
数々の試練が二人を襲うが――
蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、
結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。
そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、
秘書と社長の関係を静かに越えていく。
「これからの人生も、そばで支えてほしい。」
それは、彼が初めて見せた弱さであり、
結衣だけに向けた真剣な想いだった。
秘書として。
一人の女性として。
結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。
仕事も恋も全力で駆け抜ける、
“冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる