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ラウンド10 彼に本音を言わせる方法
しおりを挟む「……なんか、こういう場にやたらと慣れているな。」
高級レストランにある、最上ランクの防音個室。
そこでふるまわれるのは、レストラン自慢の最高級フルコースだ。
急にこんな場所に連れてこられたら、さすがのこいつも狼狽えるだろうか。
そんな悪戯心は、ものの数分で打ち砕かれた。
所作にしてもテーブルマナーにしても、ジョーがレストランの雰囲気から浮くことはなかったのだ。
態度も堂々としたもので、場慣れしていることは言うまでもなかった。
「僕が持つネットワークをなんだと思ってるんです? こういう場所に通う知り合いくらい、たくさんいますよ。僕から情報を買いたくて、無駄な接待をしてくるお馬鹿さんも多いですし。」
「お前、何げに貢がれまくってるのか?」
「かもしれませんね。まあ、ここ最近は研究室にこもりっきりなので、そういう機会をシャットアウトしてますけど。」
「それに巻き込まれて、私もシャットアウトされたんだが?」
「すみませんって。なんでそんなに気分を害してるんです? 連絡っていっても、どうせ〝情報技術をレクチャーしろー〟っていう、いつものお誘いだったんでしょう?」
このくそガキめ。
言い方がいちいち可愛くない。
謝っておきながらも口先だけで、声に誠意の欠片もこもっていないじゃないか。
(……まあいい。ここで変に気を揉んでも、せっかくの機会を棒に振るだけだな。)
経緯はどうあれ、久々の会話だ。
ただでさえ機会がないのだから、一秒でも無駄にしたくない。
「開発部はどうだ?」
「ぼちぼちですかねぇ。オークスさんの研究室にこもらせてもらえてるので、人が来なくて楽なもんですよ。」
「それ、仕事はしてるのか…?」
「定例の業務なんて、二時間もあれば終わるんですよ。オークスさんの手伝いだって、サボってはないです。ちゃんと報告書や論文の下書きは出してます。」
「お前、それ絶対に〝僕の名前を使うのは禁止〟とか言って提出してるだろ?」
「ええ。よくお分かりで。」
「幽霊が助手を務めたなんて言えんし、出すに出せないんだろうな…。オークスとやらには同情するよ。お前な、その上司にかなり甘やかされていると分かっているか?」
「あの狸親父がー?」
ないないと、手を振りながら笑うジョー。
いや、よく考えろ。
自分の城とも言える研究室を間借りさせるなんて、お前を保護しようという思いが如実に表れているじゃないか。
お前から提出された成果を発表しないのも、お前の名前を外に出してやれるまでは伏せておこうという思いやりの表れ。
ひどい上司なら、その成果を搾取しているからな?
「なあ、アル……」
「なんですか?」
「本当に……ほんっとうに、アルシードに戻るつもりはないのか?」
今日一番訊きたかったことだ。
あんなにも活き活きとしている彼は、出会ってからの三年半で初めて見た。
頭脳レベルが合わないので一人で研究をしている方が楽だというのも事実だろうが、今日の対応を見る限りでは、他人に知識や技術を共有することもやぶさかではない様子。
しかも、他人に知識を共有する時には自分から歩み寄って、話のレベルを合わせてやることもできていた。
今の彼は、アルシードとしての人生にほぼ全身を突っ込んでいる。
名前という枷を外してしまえば、その人生はあっという間に軌道に乗るはずなのに。
「別に、どうでもいいです。たかが名前ですし。」
やはり、彼の回答はそっけない。
―――態度と言葉が噛み合ってないんだよ、このひねくれ坊主!!
カチンときて、思わず彼に詰め寄ってしまった。
「たかが名前? お前、昼間になんて言ってたか覚えてないのか? ジョーの名前にこれ以上の箔がついたら吐くって言ってたよな!?」
「………っ」
一応、そう言った自覚はあるらしい。
真っ先に痛いポイントを突かれたジョーが、ぎくりと肩を震わせた。
「それのどこが〝たかが〟なんだ? 結局のところ、お前は今の今までジョーの亡霊に憑りつかれたままじゃないか! 一体なんのために、私が背中を押してやったと思ってる!!」
「いや……だから……今さらアルシードに戻っても―――」
「自分が決めた生き方を、中途半端なところで覆すことになるって? 思い込みも大概にしとけ!! アルシードとしてやりたいことはやっているくせに、名前だけはジョーに固執している今が一番中途半端だわ!!」
「そ、それは……」
「ほう? その自覚はあるのだな? この際だから言ってみろ。周りにあれだけ望まれているのに、未だにアルシードに戻りきれない理由をな!」
「………」
とうとう黙り込んだジョーに、ノアは無言の圧力をかけた。
少し厳しい物言いをしたが、これくらいがちょうどいいのだ。
変にひねくれているこいつは、優しく諭したところでまず本音を言わない。
それに、本音を言える相手も極端に少なすぎるのだから。
「……僕が本当のことを言ったって、何もいいことはないでしょう。」
しばらくしてようやく開いた口から零れた声には、全く覇気がなかった。
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