竜焔の騎士【外伝】海を越えた大恋愛~北と南で同時に開く愛の花~

時雨青葉

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ラウンド12 バトル開始♪

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 その翌日、ジョーはキリハやシアノと共に、朝からドラゴン研究所におもむいていた。


 理由は単純で、キリハに呼ばれたからと―――昨日薬を投与したドラゴンの調子が気になったからである。


 この自分が作った薬だ。


 重篤じゅうとくな副作用が起こるなんてありえないと自負はしているが、それとは別に経過は気になる。


 あと、ルルアのドラゴンに触れられる機会など滅多にないので、貴重な生体データがめちゃくちゃ欲しい。


 休むか研究か?
 そんなの、迷うまでもなく研究の圧勝である。


「―――はい。今日は一旦、この配合の栄養剤で様子を見ようか。」
「おお。昨日に引き続きすまんのぉ。」


 これまた即席で配合した栄養剤の投与を終えると、そのドラゴンは朗らかに笑った。


「呼吸の状態はどう?」


「それが、昨日から一気に楽になってのぅ。お前さんの薬がよく効いとるようじゃ。」


「そっか。昨日の夜の薬は、昼の薬にアレンジを加えたものだったんだけど、アレンジが上手くはまったみたいだね。他に何か、変わったことは?」


「聞いてくれ! 昨日から、お前さんに伝えたとおりの食事が出るようになってな!」


「あー、体調に関係ない長話ならよそを当たってくれる? おじいちゃんの長話に付き合えるほど、人間の若者は暇じゃないの。」


「おじいちゃん!? 私はまだ二百五十歳の現役じゃ!」


「それ、人間の世界じゃ十分におじいちゃんだから。キリハ君、シアノ君、二人でお相手してあげて。」


「あ、はーい。」


 お話担当は、素直な子供たちに任せましょう。


 ドラゴンから身を引いたジョーは、入れ替わるようにキリハたちをドラゴンの前に招く。
 その折、キリハがまじまじとこちらを見ていることに気付いた。


「どうしたの?」
「いやぁ……患者をる時の様子が、だんだんエリクさんに似てきたなと思って。」
「ああ……」


 心当たりがあるので、ジョーは腕を組んで思考を過去へ飛ばす。


「まあ、あの地下の魔窟に平然と入ってくるのは、ディアとエリクくらいだから。話す機会が多い分、ちょっとした仕草が移ったのかもね。」


 以前の事件でレクトとジャミルに殺されかけ、しばらくの間宮殿本部で保護されることになったエリク。


 その前に互いに命の窮地を助け助けられるという複雑な関係にはなっていたものの、彼との縁はそれで終わらなかった。


 衰弱した体を回復させるかたわら、レクトとリュドルフリアの血を飲んだ彼の経過観察を、自分とオークスが買って出た。


 そこまでなら、まだ自然な流れ。


 しかしその後、宮殿の医療部にヘッドハンティングされたエリクが、心的外傷後ストレス障害を引きずる自分の主治医に立候補するとは思わないじゃないか。


 今や弟のルカ共々仲良く宮殿勤めになったエリクは、早くも医療部を牛耳りつつある。


 無駄に頑固でめんどくさい患者を軒並み攻略していくのだから、根っからの善人というのも怖い。


 しかも、エリクが勝手に自分を弟扱いして構ってくるものだから、苦手だったはずの彼との縁が切れないこと。


 複雑ではあるが、ミゲルが父親の会社に転職した今、宮殿で一番仲がいいのはエリクかもしれない。


 まあ……最近のエリクは、寝食を忘れる自分に食事を運んでくるか、栄養剤を打ちに来る場合がほとんどだけど。


「じゃあ、ここは任せ―――」
「おおーい!!」


 朝から底抜けに明るい声。
 相手が誰かは、見なくても分かった。


「なあんだ! 休暇中だと言っていたくせに、自分から研究所に来てるじゃないか! お前、今までどうやってその研究バカを我慢できてたんだ?」


「そう言うあなたは、朝から研究所に来るなんて、暇なんで―――」


 嫌味には嫌味で返してやろうと、後ろを振り向く。


 瞬間、耳元をかすっていく細い腕。
 その腕はそっと自分の首に回され、香水の香りと柔らかな温もりがぐっと近付いてくる。




 そして―――ちゅ、と。




 頬に何かが触れて、自分のものではない息遣いが耳朶じだをくすぐった。


「!?」


 突然の出来事に、ジョーは完全に石化。


「ええぇっ!?」


 間近で一部始終を目撃することになったキリハが顔を真っ赤にし、その後慌ててシアノの両目を塞ぐ。


 目撃者がこの二人だけなら、まだ内輪揉めで済んだだろう。
 しかし、昨日自分が下手に注目を浴びすぎたことがいけなかった。


「きゃーっ♪」
「えっ……お二人って……えっ!?」
「ちょっ……大ニュースなんだけど!!」


 自分の講義欲しさに群がっていたのは何人だったっけ?
 くそ、口封じをするには数が多すぎる!


 わなわなと震え出すジョーの体。


 そんな彼の頬に熱烈なキスをお見舞いしたノアは、ゆうに十秒は頬ずりをしてから身を離した。


「おはよう! 愛しのフィアンセ殿♪」


 そして、この大爆弾発言である。


「こ、この…っ」


 さしものジョーも赤面。
 ひきつった口の端が、ピクピクと痙攣けいれんしていた。


「な、なんつーことをしてくれてんですか!? フィアンセって何なんです!?」


「何を言う! 昨日、あんなに熱い告白をしてくれたくせに!」


「はあぁっ!? 僕がいつ、あなたに告白したと!?」


「照れるな、照れるな。何年の付き合いだと思ってるんだ? ひねくれたお前の言葉に秘められた真意を察するなど、もはや朝飯前なのだよ♪」


「ちょっとーっ!? 勝手に、拡大解釈してません!? 事実誤認もいいとこですよ!!」


「お前は相変わらず、素直に認めることができない奴だな。今回ルルアに来てくれたのは、ようやく腹を決めたからだろう?」


 ごめん、通訳さん教えて!
 この人、さっきから何を言ってるのかな!?
 こんなの、まるで……


「そ、そうだったのね…っ」


「だからノア様は、あんなにも切実にジョーさんを呼べってキリハ君に頼んだのか!」


「そりゃ、遠距離恋愛は寂しいもんなぁ……」


「でも、お互いにドラゴン討伐と大統領の仕事って、国を離れられない事情があったわけでしょ…?」


「それを乗り越えて、今こうして……って、すごくロマンチックじゃない!?」


 ほらほらほら!
 誤解がものすごいスピードで深まっていくじゃん!!


「いやぁー、皆の衆! 朝から騒がしくてすまんな! 何せ、こうして直接会えたのは半年ぶりのことでな。昨日はなんとか我慢したんだが、もう無理だった!」


「いえいえ、お気になさらず!」
「むしろ、ごちそうさまでーす♪」


「そう言ってくれると助かる。こいつもこいつで今はこんなんだが、そのうち開き直ると思うから、まあ長い目で見といてくれ。」


「はーい♪」


「いい加減に―――」


「ではフィアンセ殿、私はこれで! さっきのキスで、今日一日の政務がはかどりそうだ♪」


「こらーっ!!」


「おや? 外まで見送りに来てくれるのか? 口先ではどんなにひねくれたことを言ってても、やっぱり…♪」


「違うっつってんでしょーっ!!」


 完全にいつもの調子を崩されたジョーは、必死にノアを追いかける。
 そこから逃げるノアは、心底楽しそうな顔で笑った。


 ―――なあ、アルシード。


 本当は、まんざらでもないんだろう?
 だったら私は、遠慮なくお前を手に入れるぞ?




 さあ、楽しいラブバトルを始めようじゃないか!



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