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ラウンド24 デートしたいってことでしょ?
しおりを挟む「まったくもう……今日も今日で、話が長いねぇ……」
草木も眠る深夜帯。
両耳に取りつけたイヤホンから流れてくる声に、ジョーは毎度恒例の一言。
「アルが悪いんじゃないかぁ!!」
電話の相手は、拗ねた子供のようにそう言ってくる。
「あれからもう一ヶ月だぞ!? それなのに、毎朝私から会いに行くだけで、お前からは会いに来てくれないじゃないか!!」
「なんで僕が、わざわざノアに会いに行かなくちゃいけないの? 別に会いに行く用事もないんだけど。それにノアの家の場所だって知らないし、大統領御殿は関係者以外立入禁止だし? それはもうお忙しい大統領様の、貴重なお時間を割くなんてねぇ~?」
「いや。私の家の場所を知らんというのは、絶対に嘘だろうが。それに、ウルドが手配してくれて、アルについては御殿への出入りが自由になっておるわ!!」
「おい。防衛省に一言物申しとけ。要人の守りがザルすぎるって。」
「じゃあ、正式に中途採用の入省試験を受けるか? アルなら、一発で合格するだろう?」
「するだろうけど、冗談もほどほどにして。セレニアに帰れなくなるわ。」
「帰らなくていいんだぞ? 御殿も研究所も、お前の出張期間を引き延ばす気満々だからな♪」
「こうしてディアの出張期間もずるずるに伸ばしたんだね? あの時の僕が、どんだけ交渉に手間取ったと思ってる…っ」
ああもう。
話せば話すほど、ノアの傍若無人な暴走に苛立ちが増してくる。
ここまで自分をイライラさせてくれる人は、彼女くらいだ。
それに連動して……自分がこんな風に素の口調で暴言を吐けるのも、彼女くらいなんだけど。
「ああもう。うるさい、うるさい。」
自分の思考が妙な方向に行きかけたことを察したジョーは、ノアを煙たがるように手を振った。
「会いに行かないから何さ? こうして電話には付き合ってあげてるわけだし、十分に甘い対応はしてるじゃないの。」
「じゃあ訊くが、お前今何やってるんだ。」
「んー? 昨日作ったドラゴン専用栄養剤の配合をいじってるけど?」
「ほら見ろ! まーた研究所に泊まり込んでるな!? 私の話、何割聞いてた!?」
「まともに聞いたのは五割?」
「それでよく付き合ってやってると言えたな!?」
「えー…。まともにってのが五割なだけで、意識半分でも話は全部覚えてるよ。」
「天才たるその有能さが、今はすこぶる憎たらしいわ…っ」
どこか悔しそうなノア。
研究よりも自分を優先してもらえないことが、不満で仕方ないらしい。
(ざまあみろー。さっさと諦めやがれー。)
ちょっと気分がよくなったジョーは、意地悪な笑顔で研究を続行する。
「仕方ないでしょー? ノアたちがどんなつもりだろうと、あと一ヶ月もすればセレニアに帰るんだし、時間は無駄にしたくないのよ。搾り取れるデータは、カスまで残さずに搾り取ってやる。」
「それを持ってセレニアにトンズラこくと同時に、私との関係もうやむやにするつもりじゃないだろうな?」
「あら、よくお分かりで?」
「アル!!」
「ノアは一度僕と離れて、さっさと幻想から目覚めなさい。」
「離れた結果がこれなんだが!? どうせまた離れても、お前への想いが募って余計に惚れ込むだけだ!! 今さらもう、お前なしの生活なんて考えられないんだよ!!」
今日のラブコールも、非常にお熱いことで。
赤面して照れる可愛げがなくてごめんなさいねー。
一片の動揺も見せず、薬品の調合を続けるジョー。
実験器具が微かにこすれ合う音が響く中、ふとノアの声が調子を落とした。
「セレニアに帰りたいなら、帰ればいいさ。」
「………っ」
しおらしい声音で告げられたセリフに、試験管を振る手が勝手に止まった。
「あちらにはご両親がいるんだ。お前がジョーとして敵を作った分、敵の悪意からご両親を守るために力を尽くしていることくらい知っている。その守りに自信はあっても、やっぱり近くにいないことには安心できないから、早くセレニアに帰りたいのだろう?」
「………」
「きっかけこそ強引だったが、今後隣に寄り添っていくつもりなのだ。アルの望みを聞かないまま、私のためだけにルルアに繋ぎ止めることはしない。正直……大統領の任を次に引き渡す時が来たら、アルと一緒にセレニアに渡っていいと思っている。」
「………っ!!」
その時、試験管を落とさずにいられたのは奇跡だと思った。
「ただな……」
こちらの動揺に気付いていないのか、ノアの言葉は続く。
「いずれ距離が離れることは避けられないから……それを乗り越えられる繋がりが……もう少し欲しい。だから、その……朝や電話だけじゃなくて……その……」
もじもじとして、何を伝えたいのかはっきりさせないノア。
そんな時間が十秒ほど経ったところで。
「―――はぁ。」
ジョーが溜め息をついた。
「そこまで言うなら……今度の土曜日、空けといてよ。」
「………っ!!」
あーあー。
分かりやすく息をつまらせて、感動を噛み締めちゃって。
まあ、多少ご要望にお応えしてセレニアに帰らせてもらえるなら、こっちとしては安い取引か。
「ようは、デートしたいってことでしょ? 一日くらいなら付き合ってあげるよ。」
「いいのか…?」
「それと、セレニアに帰ったとしても、ノアからの連絡はもう無視しません。」
「ほ、本当に!?」
「一度それで痛い目を見たからね。同じことを繰り返してさらに痛い目を見るなんて、愚の骨頂みたいなことはしないさ。」
「はわわ…っ」
「というわけで、今日はもう寝なさい。僕はいつだって仮眠を取れるけど、ノアはそうもいかないでしょ? 待ち合わせ場所は、後でメールしとく。」
手早く用件を済ませて電話を切ろうとして……ふと、あることを思いついた。
「……そうだ。どうせなら、とびっきり可愛い格好してきてよ。お淑やかに見える感じがいいな。」
「お……お淑やか……」
「ふふ。どんな風に化けるのか、楽しみしてるよ。おやすみ♪」
どうせこの後、〝お淑やか〟が分からずにテンパるんだろうな。
慌てふためくノアを想像すると面白くて、ジョーは一切フォローを入れずに、イヤホンマイクの終話ボタンに手をかける。
「………」
先ほどの笑みは泡沫の幻か。
電話を切ったジョーの表情は、触れれば切れそうなほどに冷たい感情で彩られていた。
「さて……ちょうどいいし、仕掛けてみるか。」
そう呟いた彼はノートパソコンを開くと、目にも止まらぬ早さでキーボードを叩き始める―――
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