竜焔の騎士【外伝】海を越えた大恋愛~北と南で同時に開く愛の花~

時雨青葉

文字の大きさ
47 / 86

ラウンド41 海を越えたって

しおりを挟む

「まったく、あの人は……派手にやってくれちゃって。」


 もはや半分以上は自分の城になりつつあるオースクの研究室に戻ったジョーは、資料を片手に深々と溜め息をつく。


 自分が手を打つまでもなく、定期的にルルアへ通わざる得ない事情ができてしまった。
 あれこれ考えた天才の貴重な時間を返してくれよ。


 というか、色々とばれちゃったし。
 幹部の前で、大統領から期待なんてされちゃったし。


(優しさに満ちた、先進的な研究……か。)


 まさか、自分の個人的な研究がそう評されるとは思いもしなかった。


 ドラゴンの研究に乗り出したのは、緊急性に駆られた成り行きだったとはいえ、ロイリアを助けるためにその領域へ踏み込んだから。


 一度手をつけた以上中途半端にやめるのが気持ち悪くて、ならば自分が満足できるくらいには極めてやろうと思っただけだ。


 ありきたりな研究テーマなんてつまらないし、セレニアでは忌避きひされているドラゴン研究なら、誰にも邪魔されずに好きなように進められる。


 誰にも触れられていない領域だからこそ、真実を曇らせる通説もなくて、何もかもが自分の思いのまま。


 この領域に進むのは、あらゆる意味で自分に都合がよかった。
 だた、それだけだ。


 だけど……本当に?


 本当に自分は、いつものご都合主義で利己的に判断したのだろうか。


 もしかして、キリハが進む道を自分の得意分野から支えられたらなんて……気付かぬうちに、そんなことを考えてしまったのでは?


 自分の気持ちに対するにぶさをこれでもかというくらい叩き込まれた今となっては、この行為は善意じゃないと一概には言い切れないから困る。


「とりあえず、今後の計画でも立てるか。」


 自分自身への気持ち悪いもやもやは、一旦置いておこう。


 自分の場合、自己分析をしてぐるぐる悩んでも答えなんて出なくて、何かの拍子に外部から想定外の刺激を受けた時の方が、あっさりと自分の気持ちが見えるようだから。


「研究所設立の公表は三ヶ月後……ってことは、それまでに最低限の幹部は決めておけってことだよね。なんつー無茶ぶりだよ。僕じゃなかったらできないからな。」


 とりあえず、顧問にはケンゼルとオークスを生けにえに立てることで決定。


 緊急時対応アドバイザーにはディアラントをえておいて、実働部隊には旧ドラゴン殲滅せんめつ部隊の面々を再招集。


 残りは同じ研究者メンバーだけど……自分以外に使える人間っていたっけ?
 こんなぶっ飛んだ研究をしたがる奴なんか、セレニアにいなくない?


 まあいいか。
 最悪、名前だけ貸してくれればいいよ。
 相談すれば、ルルア側が研究者を派遣してくれるだろうし。


「………っ」


 資料の次ページをめくったところで、ジョーの手がピタリと止まる。


 そこに記されていたのは、二国間の連携方法についてだ。


 定期的な会合の設置やら共同論文の作成方針やらが書かれている中に、ルルア側からの最低限の要望として記載されていたのが……


(予算編成期の都合上、九月と三月は確実にルルアにて現地会合を行うこと……って、おいおい。)


 もっともらしい理由をこじつけなさんな。


 これ、お互いの誕生日は絶対に一緒にいたいから、ルルアに来るのを義務化するってことじゃん。


 立派な職権乱用だって。


(本当に……可愛い人だよ。)


 自然に伸びた手が、シャツの胸元を握る。


 固い感触が皮膚を刺激したことで自身の行為に気付き、ジョーは眉を下げて笑うしかなかった。


〝離れていても、互いの存在を近くに感じられるように。〟


 本当に、厄介な首輪をくくりつけられてしまったものだ。


 形のあるものがなくても十分だって思っていたはずなのに、もうこの首輪に依存している自分がいるではないか。


(それでもいっか……って思っちゃう辺り、僕はかなり重症だね。)


 一応、周囲に誰もいないことを確認してからネックレスを引き出す。


 銀色のチェーンは恋人どうしで、金色のチェーンは両家公認の婚約者および、入籍後の夫婦を示す。


 なおかつ金に白い宝石を交えるのは、死に別れて片割れを失うことがあったとしても、次を求めずに生涯その人だけを想い続けていく決意の表れなんだとか。


 ちゃんと調べさせてもらいましたよ。


 ついでに『あえて言わなかったな、この野郎』と、クララにもバッチリと文句を言っておきました。


『だってあなた方、夫婦と言っても差し支えないほどに、凹凸おうとつが噛み合って離れなさそうでしたもの。どうせ最初から知っていたとしても、あなたは普通に受け入れたでしょう?』


 結局こう言われて、反論も文句も叩き潰されたわけだが。




「あー、そうですよ。どうせ離れませんよ。……僕からはね。」




 そんなことを呟きながら、ネックレスに唇をつけるジョー。
 その幸せに満ちた表情を見る者は、セレニアにはまだいない―――

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました

大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』

鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、 仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。 厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議―― 最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。 だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、 結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。 そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、 次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。 同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。 数々の試練が二人を襲うが―― 蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、 結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。 そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、 秘書と社長の関係を静かに越えていく。 「これからの人生も、そばで支えてほしい。」 それは、彼が初めて見せた弱さであり、 結衣だけに向けた真剣な想いだった。 秘書として。 一人の女性として。 結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。 仕事も恋も全力で駆け抜ける、 “冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

処理中です...