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ラウンド41 海を越えたって
しおりを挟む「まったく、あの人は……派手にやってくれちゃって。」
もはや半分以上は自分の城になりつつあるオースクの研究室に戻ったジョーは、資料を片手に深々と溜め息をつく。
自分が手を打つまでもなく、定期的にルルアへ通わざる得ない事情ができてしまった。
あれこれ考えた天才の貴重な時間を返してくれよ。
というか、色々とばれちゃったし。
幹部の前で、大統領から期待なんてされちゃったし。
(優しさに満ちた、先進的な研究……か。)
まさか、自分の個人的な研究がそう評されるとは思いもしなかった。
ドラゴンの研究に乗り出したのは、緊急性に駆られた成り行きだったとはいえ、ロイリアを助けるためにその領域へ踏み込んだから。
一度手をつけた以上中途半端にやめるのが気持ち悪くて、ならば自分が満足できるくらいには極めてやろうと思っただけだ。
ありきたりな研究テーマなんてつまらないし、セレニアでは忌避されているドラゴン研究なら、誰にも邪魔されずに好きなように進められる。
誰にも触れられていない領域だからこそ、真実を曇らせる通説もなくて、何もかもが自分の思いのまま。
この領域に進むのは、あらゆる意味で自分に都合がよかった。
だた、それだけだ。
だけど……本当に?
本当に自分は、いつものご都合主義で利己的に判断したのだろうか。
もしかして、キリハが進む道を自分の得意分野から支えられたらなんて……気付かぬうちに、そんなことを考えてしまったのでは?
自分の気持ちに対する鈍さをこれでもかというくらい叩き込まれた今となっては、この行為は善意じゃないと一概には言い切れないから困る。
「とりあえず、今後の計画でも立てるか。」
自分自身への気持ち悪いもやもやは、一旦置いておこう。
自分の場合、自己分析をしてぐるぐる悩んでも答えなんて出なくて、何かの拍子に外部から想定外の刺激を受けた時の方が、あっさりと自分の気持ちが見えるようだから。
「研究所設立の公表は三ヶ月後……ってことは、それまでに最低限の幹部は決めておけってことだよね。なんつー無茶ぶりだよ。僕じゃなかったらできないからな。」
とりあえず、顧問にはケンゼルとオークスを生け贄に立てることで決定。
緊急時対応アドバイザーにはディアラントを据えておいて、実働部隊には旧ドラゴン殲滅部隊の面々を再招集。
残りは同じ研究者メンバーだけど……自分以外に使える人間っていたっけ?
こんなぶっ飛んだ研究をしたがる奴なんか、セレニアにいなくない?
まあいいか。
最悪、名前だけ貸してくれればいいよ。
相談すれば、ルルア側が研究者を派遣してくれるだろうし。
「………っ」
資料の次ページをめくったところで、ジョーの手がピタリと止まる。
そこに記されていたのは、二国間の連携方法についてだ。
定期的な会合の設置やら共同論文の作成方針やらが書かれている中に、ルルア側からの最低限の要望として記載されていたのが……
(予算編成期の都合上、九月と三月は確実にルルアにて現地会合を行うこと……って、おいおい。)
もっともらしい理由をこじつけなさんな。
これ、お互いの誕生日は絶対に一緒にいたいから、ルルアに来るのを義務化するってことじゃん。
立派な職権乱用だって。
(本当に……可愛い人だよ。)
自然に伸びた手が、シャツの胸元を握る。
固い感触が皮膚を刺激したことで自身の行為に気付き、ジョーは眉を下げて笑うしかなかった。
〝離れていても、互いの存在を近くに感じられるように。〟
本当に、厄介な首輪をくくりつけられてしまったものだ。
形のあるものがなくても十分だって思っていたはずなのに、もうこの首輪に依存している自分がいるではないか。
(それでもいっか……って思っちゃう辺り、僕はかなり重症だね。)
一応、周囲に誰もいないことを確認してからネックレスを引き出す。
銀色のチェーンは恋人どうしで、金色のチェーンは両家公認の婚約者および、入籍後の夫婦を示す。
なおかつ金に白い宝石を交えるのは、死に別れて片割れを失うことがあったとしても、次を求めずに生涯その人だけを想い続けていく決意の表れなんだとか。
ちゃんと調べさせてもらいましたよ。
ついでに『あえて言わなかったな、この野郎』と、クララにもバッチリと文句を言っておきました。
『だってあなた方、夫婦と言っても差し支えないほどに、凹凸が噛み合って離れなさそうでしたもの。どうせ最初から知っていたとしても、あなたは普通に受け入れたでしょう?』
結局こう言われて、反論も文句も叩き潰されたわけだが。
「あー、そうですよ。どうせ離れませんよ。……僕からはね。」
そんなことを呟きながら、ネックレスに唇をつけるジョー。
その幸せに満ちた表情を見る者は、セレニアにはまだいない―――
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