73 / 86
ラウンド67 最初で最後の論文発表
しおりを挟む
アルシード・レインとして、最初の論文を直接発表する。
その一報が知れ渡ると、セレニア中が大きく沸いた。
テレビカメラやマイクの同席を許可したら、たくさんのテレビやラジオで特別生中継の枠が組まれたほどだ。
ああ、期待しているがいいさ。
天才の世界は違うんだと、この才能を余りなく見せつけてやろうとも。
早急に準備が整えられる中、先んじて一部の人には、自分を意志を伝えておいた。
誰も、自分を止めなかった。
〝あなたが本当に幸せになれる道を選べばいい。〟
ターニャやランドルフ、ケンゼルにオークス。
常に国の利益のために動くはずの彼らは、自分の選択が国の損失になると分かっていて、それでもこの選択を尊重して応援してくれた。
この気持ちとは関係なく、あなた方のことは尊敬しています。
素直にそう告げると、彼らは天変地異を見たかのように驚いて―――心の底から喜んでくれた。
かくして、ノアと僕によるとっておきの復讐を見せつける舞台は整った。
そして僕は白衣で武装して、論文という武器を手に、無能な有象無象が集まるステージへと立ったのだった。
最初の論文として選んだのは、〈竜使い特有の瞳を戻す技術開発着手に至る序論〉。
能力持ちの竜使いとなったキリハの生体観察に始まり、偶発性脳機能障害に陥ったロイリアを完治させた薬の開発に至るまでの経緯を解説するものだ。
意味を理解していたのかはともかく、自分が論文を発表している間は、誰も彼もが全力で集中していた。
そして自分が発表を終えると……講堂内は、呆れるほどうるさい拍手喝采に満ちあふれた。
「なんとすばらしい論文だ!」
「竜使いの瞳を元に戻すなんて、こんなにも献身的な研究があるだろうか!!」
「過去の審問会で話題になった偶発性脳機能障害の特効薬は、彼の手で開発されたものだったんですね!!」
「固有性が高く応用は難しいとは言っていたものの、それを二週間足らずで開発してしまうなんて……」
「やはり彼は天才だ!!」
「これは、再び奇跡を見られる日も近いですよ!!」
矢継ぎ早に飛んでくる称賛や質問の嵐。
うざいフラッシュの中ですっと片手を上げると、その場はすぐに静かになった。
「この論文に対するご質問は、メールおよび書面でのみ受け付けます。一つだけ……どうして僕がこのテーマを専攻したかという質問にのみ、この場でお答えしましょう。」
アルシードは軽く視線を下に向け、両手を軽く握る。
「―――似ていたからです。」
彼は最初、そう告げた。
「望まない謂れによって、理不尽な目に遭ってしまう……そんな竜使いの皆さんが、望んでもいないのに天才と囃し立てられた僕と重なりました。とても、他人事にはできなかったんです。」
望んでもいないのに、天才と囃し立てられた。
アルシードの口から漏れたその本音に、講堂内がざわざわとざわめき出した。
「竜使いの人々に、明確な罪はない。それなのに理不尽を被る原因が、竜使いを示すその目にあるというなら、僕が天才の力を持ってその目を消し去ってやる。そのためなら、僕は―――」
アルシードは顔を伏せ、目元に手をやった。
何が起こるのか分からない人々の前で、用を済ませた彼はゆっくりと顔を上げる。
「このように、喜んで竜使いの一員となりましょう。」
その片目は、綺麗な深紅色。
指先には、瑠璃色のコンタクトレンズが乗っていた。
「なっ…!?」
「なんてことをしたんだ、なんて……ナンセンスなことは言わないでくださいね?」
一気にどよめく人々に、アルシードはわざとらしく肩をすくめた。
「天才に常識なんてないんですよ。竜使いの研究をするのに、竜使いの協力は必要不可欠。簡単に竜使いになれる方法があるなら、喜んでなるに決まってるじゃないですか。自分を実験台に使えるなんて、研究においてこんなに楽なことはありません♪」
ここでも天才節を炸裂させながら、アルシードは一気に声のトーンを下げる。
「さて、質問です。こうして竜使いの一員となった僕のことを、あなた方は蔑みますか?」
答えは沈黙。
「―――はっ、くだらない。あなた方凡人が作る世相や風潮なんざ、所詮はこの程度のものなんですよ。竜使いの方々も、お可哀想に。」
痛烈に吐き捨てたアルシードは、気まずげな静寂に満ちた空気を無視してコンタクトレンズをつけ直した。
「それでは、質問にはお答えしましたので……最後に僕の今後についてお伝えし、この場はお開きといたしましょう。」
白衣の襟を正し、アルシードは深呼吸を一つ。
再び瑠璃色に戻った双眸で群衆を睨んだ彼は、こう宣言した。
「僕は今後、両親と共にセレニアからルルアへと国籍を移します。研究者としての籍もルルアの薬学会に置き、今後の研究は基本的に全てルルアで行います。論文や特許の帰属権も、ルルアに与えるつもりです。セレニアで発表する論文は―――これが、最初で最後です。」
その一報が知れ渡ると、セレニア中が大きく沸いた。
テレビカメラやマイクの同席を許可したら、たくさんのテレビやラジオで特別生中継の枠が組まれたほどだ。
ああ、期待しているがいいさ。
天才の世界は違うんだと、この才能を余りなく見せつけてやろうとも。
早急に準備が整えられる中、先んじて一部の人には、自分を意志を伝えておいた。
誰も、自分を止めなかった。
〝あなたが本当に幸せになれる道を選べばいい。〟
ターニャやランドルフ、ケンゼルにオークス。
常に国の利益のために動くはずの彼らは、自分の選択が国の損失になると分かっていて、それでもこの選択を尊重して応援してくれた。
この気持ちとは関係なく、あなた方のことは尊敬しています。
素直にそう告げると、彼らは天変地異を見たかのように驚いて―――心の底から喜んでくれた。
かくして、ノアと僕によるとっておきの復讐を見せつける舞台は整った。
そして僕は白衣で武装して、論文という武器を手に、無能な有象無象が集まるステージへと立ったのだった。
最初の論文として選んだのは、〈竜使い特有の瞳を戻す技術開発着手に至る序論〉。
能力持ちの竜使いとなったキリハの生体観察に始まり、偶発性脳機能障害に陥ったロイリアを完治させた薬の開発に至るまでの経緯を解説するものだ。
意味を理解していたのかはともかく、自分が論文を発表している間は、誰も彼もが全力で集中していた。
そして自分が発表を終えると……講堂内は、呆れるほどうるさい拍手喝采に満ちあふれた。
「なんとすばらしい論文だ!」
「竜使いの瞳を元に戻すなんて、こんなにも献身的な研究があるだろうか!!」
「過去の審問会で話題になった偶発性脳機能障害の特効薬は、彼の手で開発されたものだったんですね!!」
「固有性が高く応用は難しいとは言っていたものの、それを二週間足らずで開発してしまうなんて……」
「やはり彼は天才だ!!」
「これは、再び奇跡を見られる日も近いですよ!!」
矢継ぎ早に飛んでくる称賛や質問の嵐。
うざいフラッシュの中ですっと片手を上げると、その場はすぐに静かになった。
「この論文に対するご質問は、メールおよび書面でのみ受け付けます。一つだけ……どうして僕がこのテーマを専攻したかという質問にのみ、この場でお答えしましょう。」
アルシードは軽く視線を下に向け、両手を軽く握る。
「―――似ていたからです。」
彼は最初、そう告げた。
「望まない謂れによって、理不尽な目に遭ってしまう……そんな竜使いの皆さんが、望んでもいないのに天才と囃し立てられた僕と重なりました。とても、他人事にはできなかったんです。」
望んでもいないのに、天才と囃し立てられた。
アルシードの口から漏れたその本音に、講堂内がざわざわとざわめき出した。
「竜使いの人々に、明確な罪はない。それなのに理不尽を被る原因が、竜使いを示すその目にあるというなら、僕が天才の力を持ってその目を消し去ってやる。そのためなら、僕は―――」
アルシードは顔を伏せ、目元に手をやった。
何が起こるのか分からない人々の前で、用を済ませた彼はゆっくりと顔を上げる。
「このように、喜んで竜使いの一員となりましょう。」
その片目は、綺麗な深紅色。
指先には、瑠璃色のコンタクトレンズが乗っていた。
「なっ…!?」
「なんてことをしたんだ、なんて……ナンセンスなことは言わないでくださいね?」
一気にどよめく人々に、アルシードはわざとらしく肩をすくめた。
「天才に常識なんてないんですよ。竜使いの研究をするのに、竜使いの協力は必要不可欠。簡単に竜使いになれる方法があるなら、喜んでなるに決まってるじゃないですか。自分を実験台に使えるなんて、研究においてこんなに楽なことはありません♪」
ここでも天才節を炸裂させながら、アルシードは一気に声のトーンを下げる。
「さて、質問です。こうして竜使いの一員となった僕のことを、あなた方は蔑みますか?」
答えは沈黙。
「―――はっ、くだらない。あなた方凡人が作る世相や風潮なんざ、所詮はこの程度のものなんですよ。竜使いの方々も、お可哀想に。」
痛烈に吐き捨てたアルシードは、気まずげな静寂に満ちた空気を無視してコンタクトレンズをつけ直した。
「それでは、質問にはお答えしましたので……最後に僕の今後についてお伝えし、この場はお開きといたしましょう。」
白衣の襟を正し、アルシードは深呼吸を一つ。
再び瑠璃色に戻った双眸で群衆を睨んだ彼は、こう宣言した。
「僕は今後、両親と共にセレニアからルルアへと国籍を移します。研究者としての籍もルルアの薬学会に置き、今後の研究は基本的に全てルルアで行います。論文や特許の帰属権も、ルルアに与えるつもりです。セレニアで発表する論文は―――これが、最初で最後です。」
0
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました
大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』
鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、
仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。
厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議――
最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。
だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、
結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。
そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、
次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。
同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。
数々の試練が二人を襲うが――
蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、
結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。
そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、
秘書と社長の関係を静かに越えていく。
「これからの人生も、そばで支えてほしい。」
それは、彼が初めて見せた弱さであり、
結衣だけに向けた真剣な想いだった。
秘書として。
一人の女性として。
結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。
仕事も恋も全力で駆け抜ける、
“冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる