竜焔の騎士【外伝】海を越えた大恋愛~北と南で同時に開く愛の花~

時雨青葉

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おまけの小話~シアノ編~

Song.3 なんて呼べば…?

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 それからというもの、あの人はぼくになんでも教えてくれた。


 技術面でいえば、音源編集ソフトの使い方やプログラミング技術。
 情報面でいえば、正しい情報と誤った情報の見分け方。
 それらに伴う基礎学力知識。


 月に一度、たった数日しかルルアに訪れないあの人だけど、ネットの世界って便利だよね。


 物理的な距離がどんなに離れていたって、電話やチャットで簡単に繋がることができるんだから。


机上きじょうの空論なんて意味なし。まずは、なんでもかんでも実践あるのみだよ♪』


 そう言うあの人の授業は、本当に七割以上が実践だった。


 たとえば、編集技術一つを学ぶにしたって、ぼくが編集したものとあの人が編集したものを別の投稿サイトにアップしてみて、どっちの再生数が伸びるかを競うといった感じ。


 歌の編集をしたことはないって言ってたくせに、あの人ったら簡単にぼくよりもすごい音源を作っちゃうんだ。


 情報操作に至っては……まあ、勝てるわけがないよね。


 あの人が持ってる情報量がすごいのは言うまでもないけど、物事の予測を立てる先見の明が光ってる。


 あの人が言うタイミングに、あの人が指定したSNSや掲示板で、あの人がヒントをくれた分野に関する情報を発信してみると、かなりの確率で反響が大きくなるんだ。


『集団心理を操作するなんて簡単さ。日常の中に落とす、ちょっとした刺激のエッセンス。それに、馬鹿な凡人たちは面白いほど食いつく。それが簡単に周囲と同調できて、なおかつ自分に実害が及ばないものであればさらにいい。いつどの情報がそのエッセンスになるかは分からないから、常に大量の情報を頭に入れておくのさ。』


 覇者の笑みと余裕で、あの人は悠然とそう語った。




 そうして一年が経つ頃には―――自分で言うのもあれだけど、まあ~すれたよね。




 あの人はぼくに色んなことを教えてくれるかたわらで、情報操作のヒントとしていくつかの情報を与えた。


 ぼくは与えられたその情報を自分なりに精査して、自分の利益になる形で活用した。


 最初は当然上手くいかなくて、このままじゃ失敗するってところで、何度もあの人に助けてもらったっけ。


 その度に丁寧な解説と考え方のコツみたいなのを教わって、次からの行動に反映させていった。


 おかげでね、今じゃネット歌手の中でもトップを走らせてもらってます。
 何度か、大きなイベントにも参加したね。


 存在を明示した上で、あえて取り上げるのが魅力的。


 そう言われたから、最初数回のイベントはあえて顔を出さずに、シルエットだけで参加したんだ。


 一つのイベントで一つずつ。
 タイミングはばらけさせて、プロフィールをちらっと公表する。


 そうするとね、みんな続きが気になるのか、どんな小さなイベントでも会場に集まってくるんだ。


 ネット中継の方も、チケットが飛ぶように売れる。


 まあその裏では、あの人と手を組んでSNSや掲示板を煽ったりしたんだけどね。


 あえてアンチの情報を流したりすると、面白いくらいファンが怒るのなんの。
 あまりにも想像どおりにネットが騒ぐもんだから、あの人と一緒に爆笑しちゃった。


 もちろん、歌の練習には力を入れてるよ?


 毎日五時間以上は個人練習をしてるし、あの人がいい先生を紹介してくれたのも大きいかな。


 体力作りでキリハに剣を習いつつ、そこにダンスの練習も取り入れてみたんだ。


 ここまで煽りに煽ってお預けにしてきたからには、満を持してスポットライトを浴びる時に完璧であるべきじゃない?


 初めて姿を見せるイベントには、ちゃんとあの人を招待したよ。
 だって、ここまでぼくを大きくしてくれたのはあの人だもん。


『シアノ君はねー、目がキリッとしてて力強いから、ワイルド系が似合うと思うんだー。声の綺麗さとのギャップもあって、ウケると思うよー♪』


 そんなことを言いながら、メイクから衣装までフルコーディネートしてくれた。


 だから、なんでそんなことまでできるの?
 でも、あの人の私服って確かにセンスあるんだよね……


 で、そんなあの人の見立てはバッチリだったみたい。


 今までのぼくを知ってたスタッフも目をまんまるにしてたし―――会場の反応は、言うまでもないよね?


 おかげで、今は忙しくて仕方ないよ。
 あっちこっちから出演交渉の連続だし、最近はモデルをやらないかって打診も来てる。


『いいんじゃなーい? ネットはそれなりに制覇したし、ファッションやテレビの世界も牛耳っちゃえばー? ただ……今までとは別の意味で、えげつないよ?』


 今さら、何言ってんのさ。
 そう言われた時の感想はそんな感じ。


 あんたがしれっとダークなものも混ぜて情報を渡してくるから、えげつない現実には慣れたって。


 もう並大抵のダークネタでは驚かないよ。


 ……まあ、最近はぼくもその手の情報を自分で集め出してんだけどさ。


 何はともあれ、今のところは順風満帆かな。
 あの人の言うとおり、裏から表を好きなように操るのはすごく楽しい。


 今じゃ、周りの奴らがみんな馬鹿に見えるんだよね。


 本当に、なんでぼくはこんな人たちに期待して、みんなに捨てられたくないって怖がってたんだろう。


 ただ……そんなぼくでも一つだけ、なかなか解消できない悩みがあるんだよね。




 ―――ぼくは、あの人のことをなんて呼べばいいんだろう?




 だって、ジョーってのは本当の名前じゃないんでしょ?
 アルっていうのは、ノアだけに許された愛称ってことになってるじゃん?


 じゃあ、研究所の人たちみたく〝旦那さん〟?
 なんか、ぼくがそう呼ぶのは違くない?


 そう考えた時に、一個思いついた呼び名はある。
 でも、そう呼ぶことをあの人が許してくれるかなぁ?


 うーん……

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