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おまけの小話~シアノ編~
Song.2 選ばれるんじゃなくて―――
しおりを挟む「ふー…」
どれくらい時間が経ったか分からなくなった頃、シアノは満足げに息を吐き出し、額に浮いていた汗を拭った。
「ものすごい量のファイルを作ったね。クラウドサーバーにアップしてリンクを送っとくから、好きな時に取りにおいで。」
「うん!」
やった。
家に帰ったら全部ダウンロードして、どの音源を公開するかじっくりと選ぼう。
嬉しそうなシアノに、ジョーはくすりと笑う。
自身のパソコンを畳んで回収した彼は、脇に避けていたシアノのノートパソコンを戻した。
「あ…」
自分のパソコンの画面を見たシアノは、赤い両目を大きく見開いた。
いつの間にか、自分のパソコンにも先ほどまで触っていた音源編集ソフトがインストールされていたのだ。
「あんまりにも楽しそうだったから、思わず買っちゃったよ。僕からのプレゼント。」
「いいの…?」
「うん。僕からしたら、そんなに高いものでもないからね。」
「………っ」
キラキラとした表情で、パソコンを見つめるシアノ。
嬉しさを全面に出したその反応に、ジョーの笑いはますます刺激されるばかりだったようだ。
「いつから活動してるの?」
「えっと……半年前、かな…?」
「あら。結構前からやってたんだね。人気はどう?」
「今、こんな感じ……」
「へえぇ、結構チャンネル登録数あるじゃん。やるねぇ。」
「まあ……たまに荒らしみたいなのもあるけど……」
「あー、そんなの無視無視。この世界はしぶといもん勝ちだよ。」
「うん…」
「どう? 楽しい?」
「………」
その問いが脳内を揺らした瞬間、言葉が出なくなってしまった。
「……あれ? 楽しくないの?」
こちらの反応が意外だったのか、ジョーは可愛らしい雰囲気に違わない仕草で目を丸くする。
「よく……分からない……」
素直な心境は、それだった。
「でも……早く次が欲しいとか、僕の歌なしじゃ生きていけないとか……そう言ってくれる人たちは、ぼくのことを捨てたりしないかなって……」
そう。
別に、歌が好きでやっているわけじゃない。
他人の気を引けるのが、たまたま歌だったってだけ。
複雑な心境で、瞼を伏せるシアノ。
そんなシアノに対し、ジョーは……
「あっはっは! だめだめ! そんな風に、馬鹿どもに期待しちゃあ!!」
子供の夢を守る気皆無。
あっけらかんとした笑顔で、シアノのささやかな期待をぶち壊した。
「生きがいーとか大袈裟なことを簡単に言う奴ほど、別に好きな人ができたらあっさり鞍替えしちゃうもんさ。そんな奴らに期待をかけるほど、何度も何度も裏切られたような気持ちを味わうことになっちゃうよ。君が踏み込んだ世界は、そういうえげつない世界さ。」
「………」
何も反論できなかった。
本当は自分も、薄々そう感じていたから。
自分にそういうコメントをくれる人は、他のアーティストのチャンネルでも似たようなことを言っている。
かと思えば、気に食わないアーティストには痛烈な批判を浴びせていた。
本当に、感心するくらいの手のひら返しだ。
「だーかーらー…」
そこでふと、ジョーの声音が変わった。
なんだか強く惹かれたような気分になって顔を上げると、彼はこちらを見て笑っている。
妖しさを伴って揺れる瑠璃色の双眸。
孤を描いた唇。
危険だけど惹きつけられるような、強い引力を持った笑顔だった。
「選ばれるんじゃなくて、選べばいいんだよ。」
どこか甘さを含んだ声で、彼はそう言った。
「選べばいい…?」
「そう。」
こちらの呟きに、ジョーは頷く。
「他人の顔色を窺って、捨てられることに怯えるなんてナンセンス。それならいっそ、誰も捨てられないくらいの高みにまで上り詰めて、頂上からお馬鹿さんたちを見下ろしてやればいいのさ。そうすれば、誰もが強く君を求めるだろう。そして―――そこから自分を裏切らない人間を選ぶのは、君の方になる。」
「―――っ!!」
「ネットやテレビの世界なんて、頭がよくて情報を上手く利用できれば、簡単に好きなように操れる。楽しいよ~? 表で自分が操ったままに動くお馬鹿さんたちを、裏から眺めてるのは♪」
にっこりと悪魔スマイルを浮かべるジョー。
その笑顔が、自分にはとてもキラキラと輝いているように見えた。
(そっか……そうだよね。期待する必要なんかないんだ……)
チカチカと。
目の前に広がる世界に星が散る。
不安が一気に晴れて、視界がクリアになったようだ。
期待をして依存したら、その分裏切られた時に泣くはめになる。
それはもう、痛いほど経験したはずだ。
それなのに、自分はまた同じ過ちを繰り返そうとしていた。
もう騙されて操られたくない。
なら、今度は騙して操る方になればいい。
こんな単純なことに、今の今まで気付かなかったなんて……
「……お…」
唇が、勝手に震えた。
「教えて!! ぼくもやりたい! 裏から操るの!!」
思わずジョーに飛びつく。
とても楽しそうだ。
ただ歌を歌って拡散するよりも、よほど。
自分に詰め寄られたジョーは、目を丸くする。
しかし、それも数秒後には何かを企むような含み笑いに取って代わった。
「いいよ~。特別だからね?」
「うん!! あとね、ソフトの使い方ももっと教えて!!」
「もちろん。せっかくいい武器を持ってるんだから、それを活かす技術はちゃーんと身につけなきゃね。」
「やったぁ!!」
久しぶりに満面の笑みを浮かべて、シアノはジョーに抱きつく。
こうして、天才科学者による闇の英才教育が始まったのであった。
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