世界の十字路

時雨青葉

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第2章 平和の崩壊

過ぎ行く日々

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「実! 大丈夫!?」


 翌日学校へ行くと、自分を見つけた梨央が慌てて駆け寄ってきた。
 たかだか一日休んだだけだというのに、随分な心配ようだ。


「滅多に学校休まないから、びっくりしたんだよ?」
「大丈夫。ちょっと、風邪引いただけ。」


 正直、今は誰とも話す気力がない。
 そんな状況なもので、彼女には曖昧あいまいな返事をするにとどめておいた。


 実は、のろのろと自分の席に向かう。


 こちらが心配なのか、それとも構ってほしいのか、梨央が必死に話しかけてくる。
 それに、おぼろげな頭で相づちを打つ。


 とりあえず話を聞いておけば、そのうち満足して離れていくだろう。
 結果、見事に逆効果だった。


「実、全然話聞いてないでしょ?」
「ん…」
「ほら、やっぱり!」


 机に寝かせた腕に頭を乗せる実の顔を、梨央が覗き込む。


「まだ熱でもあるんじゃない?」
「大丈夫だって。」


 熱がないのは事実だ。
 拓也のおかげで、体だけに関しては至って健康である。


 問題なのは、心の方で……


 後ろで、ガタンと椅子を引く音がする。
 その瞬間、背筋をざわりと恐怖がなでた。


 実は、無意識がなせる速さで後ろを振り返る。


 かばんを机に置いたところだった拓也は、振り向いてきた実に穏やかな笑みを向けた。


「まだいいよ。整理ついてないだろ?」
「う……うん。」


 どうやら、こちらが考えていることは拓也にバレバレらしい。


 拓也はそれ以上何も言わず、代わりにこちらに何かを差し出してきた。
 何冊かのノートだ。


「昨日のノート。写しといた方がいいんじゃねぇか?」
「あ…。うん、ありがとう。」


 差し出されたノートを、実は躊躇ためらいがちに受け取った。
 そして、すぐに拓也に背を向けて、自分のノートも机から引っ張り出す。


 借りたからには早く返さなければならないし、何か考えるよりは勉強に集中していた方が気分が紛れる。


 パラリと拓也のノートを開くと、男子のノートとは思えないほど綺麗に整理された文字の羅列が飛び込んできた。


 色は赤と黒の二色だけというシンプルなもので、カラフルに色分けされているノートよりも見やすく感じる。


 上の余白には、丁寧に授業を受けた日付まで書いてあった。


 文字が書かれている最後のページをめくってみる。
 そこには昨日の日付と共に、受けた記憶のない授業内容が記されていた。


 ノートを写した後、何人かに昨日拓也がいたかどうかを訊ねて回ったけど、皆一様に拓也は確かに学校にいたと答えた。


 昨日の日誌の欠席者の欄にも、自分の名前しかない。


 間違いなく、拓也は学校にいた。
 しかし、実際の彼は自分の家に来ていたはず。


 学校にいたのは影であり、人の目をあざむくための身代わり。
 拓也はそう言っていた。


 否定したいことが事実だと突きつけられて、目が回るようだった。


 本当に訳が分からない。
 拓也の言うとおり、自分はまだまだ混乱のなかだ。


 こんな超次元のことに、この先ずっと悩まされなければいけないのか……




 そう思ってうつろに日々を過ごすうちに―――あっという間に、一週間が過ぎた。




 相変わらず、あの気味の悪い夢は毎日見る。


 しかしあの一件以来、〝だめだ〟という言葉に抵抗せずに夢から離れても、その夢を忘れるようなことはなかった。


 寝不足の問題は残るものの、もしかしたら慣れてしまったのかもしれない。
 正直なところ、あまり苦ではなくなっていた。


 整理がつかなかった拓也からの話も、理解までは及ばないけど〝そういうこともあるのだ〟と受け入れておくことにした。


 とはいえ、自分が別世界の人間だという話はまだ信じていないけど。


 ただ、これ以上は何を見せられても大きく取り乱したりはしないだろう。
 根拠はないけど、そういう自信だけはあった。


 一週間でそこまでの落ち着きを取り戻した自分は、学校でも特に支障なく過ごせるようになっている。


 梨央はそれに安心して、拓也は「順応が早いな。」と感心していた。


 これからどんな騒動が起こるのか。


 そんな自分の不安に反して、日々は平穏に流れていった。

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