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第2章 力を嫌う少女
めんどくさい恋愛事情
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各々が各々の思いで口を閉ざす。
そんな時間を終わらせたのは、実の軽い吐息だった。
「拓也、もういいよ。そもそも俺たちには関係ないし、さっさと帰ろう。」
「……そうだな。」
実にそう言われ、拓也は同意して頷いた。
そして、次にグランから視線を逸らす。
「わっ!?」
一瞬で戒めが解けて、グランが大きくバランスを崩してよろける。
無様に尻餅をつかなかったのは、彼のプライドがさせた業だろう。
すぐに体勢を整えたグランが拓也を睨む。
一方の拓也はどんな憎まれ口にも答えてやるつもりでその視線を受けていたが、実力で劣ると思い知った後だからか、グランはそれ以上の行為には及ばなかった。
「ちっ…。おい、フェン!」
グランは拓也に背を向けると、これまでの流れを無表情で傍観していた少年へと声をかけた。
「俺は帰る。」
それだけ言うと、グランはすぐに裏通りの方へと消えていった。
グランが去ってから数秒。
それまで無表情を徹底していたフェンに、ようやく変化が表れた。
心配そうな顔をしたフェンは、ゆっくりとシェイラに近付く。
「シェイラ……」
フェンが気遣わしげに肩に手を置くと、シェイラがゆっくりと顔を上げた。
「大丈夫?」
「フェン……」
シェイラの目が、泣きそうにくしゃりと歪む。
フェンはそれに困ったように柔らかく微笑んで、静かに手を差し伸べた。
しかし、シェイラはその手を取りはせず、フェンから逃げるように一歩前へと足を踏み出す。
「大丈夫。」
「そう? じゃあ帰ろう。送るよ。」
何度もシェイラを気にしつつ、フェンがゆっくりと先を歩き始める。
その数秒後、シェイラは黙ったまま彼の後に続いた。
二人の姿が十分に見えなくなった後、実が盛大に溜め息をついた。
「はあ……めんどくさい。」
心底嫌な顔で頭を掻く実。
そんな実に対して、拓也は眉間にしわを寄せる。
「実。とりあえず、厄介なあれこれがすれ違いまくりっていう複雑なにおいがすることだけは分かるんだが……」
「他人の恋路に踏み入っても、何もいいことはないってね。」
さすがは尚希から犬並みとの評価を受けている拓也。
彼の嗅覚は人の感情も嗅ぎ分けられると聞いていたが、あの三人の関係性について、開口一番に核心を突くとは。
実は苦笑して、再び帰途につくために地面を蹴った。
「そ。グランはシェイラが好き。でも、シェイラはフェンが好き。フェンは実のところシェイラが好きだけど、グランの方が自分よりも力があると思い込んで、シェイラを譲ろうとしてる。そんなところかな。」
拓也の前を歩きながら、実は少し表情を曇らせた。
フェンは、自分がグランよりも劣っていると思い込んでいる。
そう。
思い込んでいるのだ。
実際のところ、魔力量や魔法の素質はフェンの方が高いといえる。
もしフェンがそういう面を気にしているのなら、グランに対して劣等感を抱く必要はないのだ。
しかし現実として、フェンは魔力や魔法に関しての高度な知識がない。
故に、たとえ誰かがフェンの素質を認めたとしても、彼にはそれを確かめることができないのである。
―――まるで、封印を解く前の自分のようだ。
実は自嘲ぎみに微笑む。
「俺はグランに目をつけられてるせいで、半ば巻き込まれてるけどさ。あいつらを見てると、嫌になる時も多いよ。でも、グランの気持ちもフェンの気持ちもなんとなく分かるし、嫌いにはなりきれないんだよね。」
「ええぇ……」
それを聞いた拓也が、露骨に嫌そうな顔をする。
初対面の時の出来事といい、先ほどの出来事といい、拓也にはグランに対していいイメージが全くないことだろう。
だから、自分がグランのことを嫌いになれないと言う気持ちも、いまいち分からないのかもしれない。
「まあ、俺もあいつらのやってることは、遠回りだし馬鹿だって思うよ。でも、理屈でどうこう言ってもさ、やっぱり嫌いにはなれないんだよ。だって、あいつらは……」
実の言葉が、そこで途切れた。
辺りの家には明かりが灯っておらず、実たちが歩いている道は気味が悪い暗闇に包まれている。
その暗闇の効果もあってなのか、実と拓也の間には、体がずんと重くなるような沈黙が降りていた。
それほどに、実がまとう雰囲気は深刻そうなもので……
実の言葉の続きを待っていた拓也が、あまりにも長い沈黙に耐え兼ねて口を開く。
「実? どうした?」
「いや……」
とっさに拓也から顔を背ける実。
その顔は後ろめたいことを隠すような、はたまた何かを思い詰めているような。
「あいつらは……」
なかなか言葉が続かない。
そんな自分の機微を気にしてか、拓也がゆっくりと歩調を緩めて立ち止まった。
拓也に合わせて、自分もその場で立ち止まる。
口を開いたり閉じたりして何度も躊躇いながら、長い時間をかけて、やっとの思いで本音を声に乗せた。
「あいつらは、過去の俺だから。」
それを聞いた拓也が、眉を険しく寄せる。
実も不快感を露わにして表情を歪めた。
力がないことを理由に、全てから逃げようとしているフェン。
ただ貪欲に力を欲するグラン。
二人とも、過去の自分によく似ていた。
魔力なんて、使えなければないも同然。
俺には関係ない。
俺は、向こうの世界なんて知らなくてもよかったはず。
とにかく平和な日常に戻りたくて、嫌な現実から目を背けたかった自分。
力さえあれば……
力が欲しい。
力がなくて何もできないことが苦しくて、力が得られるならと、サリアムの甘言に乗せられて危うく破滅の道を選びそうになった自分。
フェンを見てもグランを見ても、その言動の端々に過去の自分を見てしまう。
目の前にいるのはフェンとグランという別人なのに、頭ではそれらが自分に置き換わって見えてしまう。
だからこそ腹が立って、どうしようもなく情けなくて。
(本当に、馬鹿だよね……)
実は虚空を見上げる。
暗雲が立ち込めた空。
もしかしたら、雨が降るのかもしれない。
まるで、あの三人と自分の心を代弁するような空模様だ。
「守り方は色々あるのに、あいつらは力で守る方法をよしとしてしまった。あれじゃ、たとえ気持ちが同じだとしても、絶対に交わらないよ。」
「は…?」
実の話が一気にどこかへ飛んでしまい、拓也が困惑した声をあげる。
それに苦笑しながら、実は再び歩き始めた。
「なんでもない。まあ、俺に言えることは、一段落するまではあいつらに関わるなってことだけだね。」
あの三人の関係は面倒だ。
きっと、互いの本当の気持ちを知る時が遅くなればなるほど、関係の修復は不可能になるだろう。
願わくは、こちらに火の粉が飛んでこないといいのだけど……
そんな憂いと共に、実はそっと息をつくのだった。
そんな時間を終わらせたのは、実の軽い吐息だった。
「拓也、もういいよ。そもそも俺たちには関係ないし、さっさと帰ろう。」
「……そうだな。」
実にそう言われ、拓也は同意して頷いた。
そして、次にグランから視線を逸らす。
「わっ!?」
一瞬で戒めが解けて、グランが大きくバランスを崩してよろける。
無様に尻餅をつかなかったのは、彼のプライドがさせた業だろう。
すぐに体勢を整えたグランが拓也を睨む。
一方の拓也はどんな憎まれ口にも答えてやるつもりでその視線を受けていたが、実力で劣ると思い知った後だからか、グランはそれ以上の行為には及ばなかった。
「ちっ…。おい、フェン!」
グランは拓也に背を向けると、これまでの流れを無表情で傍観していた少年へと声をかけた。
「俺は帰る。」
それだけ言うと、グランはすぐに裏通りの方へと消えていった。
グランが去ってから数秒。
それまで無表情を徹底していたフェンに、ようやく変化が表れた。
心配そうな顔をしたフェンは、ゆっくりとシェイラに近付く。
「シェイラ……」
フェンが気遣わしげに肩に手を置くと、シェイラがゆっくりと顔を上げた。
「大丈夫?」
「フェン……」
シェイラの目が、泣きそうにくしゃりと歪む。
フェンはそれに困ったように柔らかく微笑んで、静かに手を差し伸べた。
しかし、シェイラはその手を取りはせず、フェンから逃げるように一歩前へと足を踏み出す。
「大丈夫。」
「そう? じゃあ帰ろう。送るよ。」
何度もシェイラを気にしつつ、フェンがゆっくりと先を歩き始める。
その数秒後、シェイラは黙ったまま彼の後に続いた。
二人の姿が十分に見えなくなった後、実が盛大に溜め息をついた。
「はあ……めんどくさい。」
心底嫌な顔で頭を掻く実。
そんな実に対して、拓也は眉間にしわを寄せる。
「実。とりあえず、厄介なあれこれがすれ違いまくりっていう複雑なにおいがすることだけは分かるんだが……」
「他人の恋路に踏み入っても、何もいいことはないってね。」
さすがは尚希から犬並みとの評価を受けている拓也。
彼の嗅覚は人の感情も嗅ぎ分けられると聞いていたが、あの三人の関係性について、開口一番に核心を突くとは。
実は苦笑して、再び帰途につくために地面を蹴った。
「そ。グランはシェイラが好き。でも、シェイラはフェンが好き。フェンは実のところシェイラが好きだけど、グランの方が自分よりも力があると思い込んで、シェイラを譲ろうとしてる。そんなところかな。」
拓也の前を歩きながら、実は少し表情を曇らせた。
フェンは、自分がグランよりも劣っていると思い込んでいる。
そう。
思い込んでいるのだ。
実際のところ、魔力量や魔法の素質はフェンの方が高いといえる。
もしフェンがそういう面を気にしているのなら、グランに対して劣等感を抱く必要はないのだ。
しかし現実として、フェンは魔力や魔法に関しての高度な知識がない。
故に、たとえ誰かがフェンの素質を認めたとしても、彼にはそれを確かめることができないのである。
―――まるで、封印を解く前の自分のようだ。
実は自嘲ぎみに微笑む。
「俺はグランに目をつけられてるせいで、半ば巻き込まれてるけどさ。あいつらを見てると、嫌になる時も多いよ。でも、グランの気持ちもフェンの気持ちもなんとなく分かるし、嫌いにはなりきれないんだよね。」
「ええぇ……」
それを聞いた拓也が、露骨に嫌そうな顔をする。
初対面の時の出来事といい、先ほどの出来事といい、拓也にはグランに対していいイメージが全くないことだろう。
だから、自分がグランのことを嫌いになれないと言う気持ちも、いまいち分からないのかもしれない。
「まあ、俺もあいつらのやってることは、遠回りだし馬鹿だって思うよ。でも、理屈でどうこう言ってもさ、やっぱり嫌いにはなれないんだよ。だって、あいつらは……」
実の言葉が、そこで途切れた。
辺りの家には明かりが灯っておらず、実たちが歩いている道は気味が悪い暗闇に包まれている。
その暗闇の効果もあってなのか、実と拓也の間には、体がずんと重くなるような沈黙が降りていた。
それほどに、実がまとう雰囲気は深刻そうなもので……
実の言葉の続きを待っていた拓也が、あまりにも長い沈黙に耐え兼ねて口を開く。
「実? どうした?」
「いや……」
とっさに拓也から顔を背ける実。
その顔は後ろめたいことを隠すような、はたまた何かを思い詰めているような。
「あいつらは……」
なかなか言葉が続かない。
そんな自分の機微を気にしてか、拓也がゆっくりと歩調を緩めて立ち止まった。
拓也に合わせて、自分もその場で立ち止まる。
口を開いたり閉じたりして何度も躊躇いながら、長い時間をかけて、やっとの思いで本音を声に乗せた。
「あいつらは、過去の俺だから。」
それを聞いた拓也が、眉を険しく寄せる。
実も不快感を露わにして表情を歪めた。
力がないことを理由に、全てから逃げようとしているフェン。
ただ貪欲に力を欲するグラン。
二人とも、過去の自分によく似ていた。
魔力なんて、使えなければないも同然。
俺には関係ない。
俺は、向こうの世界なんて知らなくてもよかったはず。
とにかく平和な日常に戻りたくて、嫌な現実から目を背けたかった自分。
力さえあれば……
力が欲しい。
力がなくて何もできないことが苦しくて、力が得られるならと、サリアムの甘言に乗せられて危うく破滅の道を選びそうになった自分。
フェンを見てもグランを見ても、その言動の端々に過去の自分を見てしまう。
目の前にいるのはフェンとグランという別人なのに、頭ではそれらが自分に置き換わって見えてしまう。
だからこそ腹が立って、どうしようもなく情けなくて。
(本当に、馬鹿だよね……)
実は虚空を見上げる。
暗雲が立ち込めた空。
もしかしたら、雨が降るのかもしれない。
まるで、あの三人と自分の心を代弁するような空模様だ。
「守り方は色々あるのに、あいつらは力で守る方法をよしとしてしまった。あれじゃ、たとえ気持ちが同じだとしても、絶対に交わらないよ。」
「は…?」
実の話が一気にどこかへ飛んでしまい、拓也が困惑した声をあげる。
それに苦笑しながら、実は再び歩き始めた。
「なんでもない。まあ、俺に言えることは、一段落するまではあいつらに関わるなってことだけだね。」
あの三人の関係は面倒だ。
きっと、互いの本当の気持ちを知る時が遅くなればなるほど、関係の修復は不可能になるだろう。
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