101 / 714
第3章 こじれ
力がない世界
しおりを挟む
気付けば、街の大通りに立っていた。
いつもと変わらない風景だ。
(あれ…?)
何故こんな場所に立っているんだろう。
いまいち思い出せない。
「シェイラ?」
ふと、声をかけられた。
後ろを振り向くと、そこには買い物袋を持ったフェンが立っている。
「どうしたの? そんな所に突っ立って。お店は?」
「あ……えっと、や、休み。」
苦し紛れに答えると、フェンは特に気にする風でもなく微笑みを浮かべた。
「そうなんだ。じゃあ、この後家に来る? これから夕飯を作るところだから。」
「え? ……う、うん!」
頷くと、フェンは少し笑みを深めて隣に並んでくれた。
なんだか、昔に戻ったみたいだ。
嬉しい。
フェンの家に行って、久しぶりに彼の手料理を食べて、何気ない話をして。
楽しい。
幸せ。
まさか、こんな日が戻ってくるなんて。
そんな夢のような日々は、あっという間に流れていった。
でも……―――何かが物足りない。
「ねえ、おばさん。」
店に仕入れた商品を並べていて、ふと疑問を持った。
「どうしたの? シェイラちゃん。」
近寄ってきた店長のおばさんに、持っていた小物を見せる。
「これ、ここを加工すればもっと便利になると思うんだけど、どうかな?」
「そうねぇ……」
おばさんは私が持つ商品をしばらく見つめた後、にっこりと笑った。
「そうかもしれないけど、みんなこれで満足してるみたいだし、わざわざそんな労力を使う必要もないんじゃないかしら?」
確かに、それも一つの考え方。
でも、その言葉は私の中にとてつもない驚きと違和感を生んだ。
(あれ…? おばさんって、こんなことを言う人だった?)
そうだ。
足りない。
おばさんの〝もっと便利に〟って言葉がない。
お客さんから〝これってどうにかならない?〟という相談もない。
皆、現状に満足している。
だから〝ありがとう〟という言葉も、とびきり弾けるような笑顔もない。
何も……何も変わらない。
「なんで!?」
叫ぶ私に、フェンは困ったような顔をする。
「ご、ごめん。僕、何か怒らせるようなことをしたかな…?」
フェンの何も分かっていないような声が、余計に神経を逆なでしてくる。
「ごめんなさい。なんでもないの。」
口先ではそう言うものの、胸の中は激情で荒れ狂っていた。
苦しい。
つらい。
何がこんなにつらいのかは分からないけど、とにかく息がつまりそうでつらいの。
「ほんと、どうしちゃったの?」
フェンが気遣わしげに肩を支えてくれる。
「ほらほら。そんなに気張ってちゃ、疲れちゃうよ。」
諭すように告げたフェンは、次に優しく笑う。
「大丈夫。何も変わらないよ。僕はずっと、君の傍にいるじゃない。」
「………」
「みんな幸せだよ。これ以上なんていらないくらいに満たされてる。」
「……そうだね。」
「うん。だから、無理に今を変えようとしなくていいじゃん。」
「そう……かな…?」
そうかもしれない。
……いや、本当にそうなのだろうか?
皆がとても満たされている。
それは知っている。
なのに、どうして―――皆の顔が、仮面にしか見えないのだろう。
皆がいつもどおり、幸せそうに笑っている。
いつも変わらない、同じ顔で。
笑っているのに、その笑顔を見て寂しくなるのは何故?
私が満たされないのは、どうして?
「―――やだ!」
私は必死に頭を振った。
「やだ、やだよ! こんな世界、嫌! 私は、もっと色んな顔が見たいよ。あなたの怒った顔も、泣いた顔も、驚いた顔も。……あなたの心が全部欲しいの!!」
『力が一切働かない世界なんて、何も変わらない退屈な世界だよ。』
どこからともなく、そんな声が聞こえたような気がした。
そのとおりだ。
風が吹いたり誰かが蹴ったりしない限り、地面に転がったボールは静止したまま。
それは当然のこと。
人間だって同じなんだ。
外からの力だけじゃなくて、わがままや希望といった自分の中から涌き出る力もない世界は、こんなに虚しいんだ。
(つらいって、こんなに疲れることだったんだ。)
今さらすぎて笑える。
当然すぎて見えなかった。
―――でも、これが一番大事なこと。
わがままも希望も、大事な力の一つ。
そして、その力の一つ一つが自分という人間と世界を創っているのだ。
もう分かった。
よく分かった。
だから……
「帰る! 私は、私がするべきことをするために帰るの! ―――帰して!!」
心の底から叫んだ。
また、目の前に花びらが舞う―――
いつもと変わらない風景だ。
(あれ…?)
何故こんな場所に立っているんだろう。
いまいち思い出せない。
「シェイラ?」
ふと、声をかけられた。
後ろを振り向くと、そこには買い物袋を持ったフェンが立っている。
「どうしたの? そんな所に突っ立って。お店は?」
「あ……えっと、や、休み。」
苦し紛れに答えると、フェンは特に気にする風でもなく微笑みを浮かべた。
「そうなんだ。じゃあ、この後家に来る? これから夕飯を作るところだから。」
「え? ……う、うん!」
頷くと、フェンは少し笑みを深めて隣に並んでくれた。
なんだか、昔に戻ったみたいだ。
嬉しい。
フェンの家に行って、久しぶりに彼の手料理を食べて、何気ない話をして。
楽しい。
幸せ。
まさか、こんな日が戻ってくるなんて。
そんな夢のような日々は、あっという間に流れていった。
でも……―――何かが物足りない。
「ねえ、おばさん。」
店に仕入れた商品を並べていて、ふと疑問を持った。
「どうしたの? シェイラちゃん。」
近寄ってきた店長のおばさんに、持っていた小物を見せる。
「これ、ここを加工すればもっと便利になると思うんだけど、どうかな?」
「そうねぇ……」
おばさんは私が持つ商品をしばらく見つめた後、にっこりと笑った。
「そうかもしれないけど、みんなこれで満足してるみたいだし、わざわざそんな労力を使う必要もないんじゃないかしら?」
確かに、それも一つの考え方。
でも、その言葉は私の中にとてつもない驚きと違和感を生んだ。
(あれ…? おばさんって、こんなことを言う人だった?)
そうだ。
足りない。
おばさんの〝もっと便利に〟って言葉がない。
お客さんから〝これってどうにかならない?〟という相談もない。
皆、現状に満足している。
だから〝ありがとう〟という言葉も、とびきり弾けるような笑顔もない。
何も……何も変わらない。
「なんで!?」
叫ぶ私に、フェンは困ったような顔をする。
「ご、ごめん。僕、何か怒らせるようなことをしたかな…?」
フェンの何も分かっていないような声が、余計に神経を逆なでしてくる。
「ごめんなさい。なんでもないの。」
口先ではそう言うものの、胸の中は激情で荒れ狂っていた。
苦しい。
つらい。
何がこんなにつらいのかは分からないけど、とにかく息がつまりそうでつらいの。
「ほんと、どうしちゃったの?」
フェンが気遣わしげに肩を支えてくれる。
「ほらほら。そんなに気張ってちゃ、疲れちゃうよ。」
諭すように告げたフェンは、次に優しく笑う。
「大丈夫。何も変わらないよ。僕はずっと、君の傍にいるじゃない。」
「………」
「みんな幸せだよ。これ以上なんていらないくらいに満たされてる。」
「……そうだね。」
「うん。だから、無理に今を変えようとしなくていいじゃん。」
「そう……かな…?」
そうかもしれない。
……いや、本当にそうなのだろうか?
皆がとても満たされている。
それは知っている。
なのに、どうして―――皆の顔が、仮面にしか見えないのだろう。
皆がいつもどおり、幸せそうに笑っている。
いつも変わらない、同じ顔で。
笑っているのに、その笑顔を見て寂しくなるのは何故?
私が満たされないのは、どうして?
「―――やだ!」
私は必死に頭を振った。
「やだ、やだよ! こんな世界、嫌! 私は、もっと色んな顔が見たいよ。あなたの怒った顔も、泣いた顔も、驚いた顔も。……あなたの心が全部欲しいの!!」
『力が一切働かない世界なんて、何も変わらない退屈な世界だよ。』
どこからともなく、そんな声が聞こえたような気がした。
そのとおりだ。
風が吹いたり誰かが蹴ったりしない限り、地面に転がったボールは静止したまま。
それは当然のこと。
人間だって同じなんだ。
外からの力だけじゃなくて、わがままや希望といった自分の中から涌き出る力もない世界は、こんなに虚しいんだ。
(つらいって、こんなに疲れることだったんだ。)
今さらすぎて笑える。
当然すぎて見えなかった。
―――でも、これが一番大事なこと。
わがままも希望も、大事な力の一つ。
そして、その力の一つ一つが自分という人間と世界を創っているのだ。
もう分かった。
よく分かった。
だから……
「帰る! 私は、私がするべきことをするために帰るの! ―――帰して!!」
心の底から叫んだ。
また、目の前に花びらが舞う―――
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
コミカライズ企画進行中です!!
2巻2月9日電子版解禁です!!
紙は9日に配送開始、12日発売!
【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&2巻出版!】
皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、コミカライズ決定いたしました!現在企画進行中!!そしてオリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました!
12日には、楽天koboにおいてファンタジー5位となりました!皆様のおかげです!
本当に、本当にありがとうございます!
皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。
市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です!
【作品紹介】
欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。
だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。
彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。
【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc.
その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。
欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。
気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる!
【書誌情報】
タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』
著者: よっしぃ
イラスト: 市丸きすけ 先生
出版社: アルファポリス
ご購入はこちらから:
Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/
楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/
【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞
復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞
オリコンランキングライトノベル 週間BOOKランキング 18位(2025年9月29日付)
【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……
buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。
みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……
ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話
ぐだな
ファンタジー
車を買ったその日に事故にあった島屋健斗(シマヤ)は、どういう訳か車ごと異世界へ転移してしまう。
異世界には剣と魔法があるけれど、信号機もガソリンも無い!危険な魔境のど真ん中に放り出された島屋は、とりあえずカーナビに頼るしかないのだった。
「目的地を設定しました。ルート案内に従って走行してください」
異世界仕様となった車(中古車)とペーパードライバーの運命はいかに…
底辺から始まった俺の異世界冒険物語!
ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。
しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。
おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。
漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。
この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――
[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。
【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~
石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。
ありがとうございます
主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。
転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。
ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。
『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。
ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする
「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。
最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる