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第5章 夜の獣と統一の儀
不気味な届け物
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尚希は門の前に仁王立ちになり、予期せぬ客を睥睨していた。
「なんでお前がこんな所に来るんだよ。」
剣呑な声で問いかける。
彼がここに来るとは夢にも思っていなかったし、そもそもこのタリオンの土地柄を考えても、彼がわざわざここに足を運ぶ理由などないはずだが。
「キース、怖いわよ。……知り合いなの?」
「知り合いもなにも……」
尚希は心底嫌そうに顔を歪める。
そんな尚希の視線を受けて―――
「やれやれ。私も、こんな所でまた君に会うことになるとは思ってもみなかったよ。」
サリアムは苦笑を呈した。
「別に、この土地に用があって来たわけではないのだよ? この街の人に危害を加えるつもりもない。ただ、届け物をしに来ただけさ。」
サリアムの言葉を聞き、尚希は自分の顔が余計に引きつるのを感じていた。
この街に直接用がない届け物と言われれば、深く考える必要もなく、誰に入り用なのか分かってしまう。
その証拠に―――
「用があるのは、俺にでしょ。」
後ろから、のんびりとした声が聞こえてくる。
振り返れば、拓也と狼に戻ったハエルを連れた実がこちらに向かってくるところだった。
「やあ、実君。」
まるで友人に会ったかのような好意的な挨拶。
ついこの間まで神の器にしようと実を狙っていた人物とは思えない態度だ。
「へぇ、一人なんだ。」
意外そうに目を丸くする実の態度もまた、敵を前にしているとは思えないものだった。
「君に会いに行くのに、ついてこいと言うのも酷だろう。この前の一件で、君の脅威と君への恐怖は、私の兵に浸透してしまったからね。」
「大の大人が、俺みたいな子供一人に怯えてんの? 情けない話だねぇ。」
「傍から見れば、ね。しかし、君は四大芯柱である私やセリシア様を圧倒しただけではなく、あの方とも互角にやり合ってみせた。そんな事実を聞けば、誰もが恐れるには十分だろう?」
「……あっそ。」
肩をすくめて笑う実。
サリアムと実の間に流れる空気は至って穏やかであり、周囲からは二人が仲良く談笑しているようにしか見えないことだろう。
だからこそそれは、事情を知っている拓也や尚希からすると複雑な心境にならざるを得ない光景であった。
「で、届け物って?」
世間話はそこそこに留めておき、実は単刀直入に本題へ。
「ああ、そうだったね。」
星を散らしたような光が混ざるサリアムの赤い瞳。
それが妖しく揺れた。
紅炎の目。
魔法に精通した人間の間でそう呼ばれる、引き込まれずにはいられない赤い宇宙のようなこの瞳。
元来より、この目を持って生まれる者は、暗示と炎系統の術において類い稀な才能を持つことが知られているそうだ。
サリアムが四大芯柱の中でも火の精霊を統治する〝ティートゥリー〟に選ばれたのは、この目が大きく影響しているのだろう。
またサリアムが手を出してきた時のためにと、拓也と尚希からそんな話を聞かされた。
サリアムの瞳を眺める実からは、すでに笑顔は消え失せている。
表情が一気に真剣味を帯び、身にまとう雰囲気もガラリと一変する。
急に緊張感で張り詰めた空気に拓也と尚希も背筋を伸ばし、ただ一人状況についていけていない様子のエーリリテが戸惑って視線を泳がせていた。
それぞれがそれぞれの面持ちで次の展開を待ち受ける中、サリアムは上着の内側に手を入れた。
彼は内ポケットから小さな巾着袋を取り出すと、それを実に向かって放り投げる。
投げられたそれを空中でキャッチして、実は中身をあらためるために巾着袋を逆さまにした。
中から現れたのは、手のひらに収まるほどの小さな水晶玉だった。
暗い紫色に発光するそれは、見ているだけで気持ち悪くなるような禍々しい力を放っている。
瞬間的に、これまで自分が感じていた嫌な気配の原因がこれだったのだと理解した。
「差出人は……訊くまでもないね。これは何?」
教えてもらえないことを覚悟で問うと、案の定サリアムは首を横に振った。
しかし、この後に彼の口から飛び出した言葉は、予想からは少し外れていた。
「それがね、私にも分からないのだよ。教えてもらえなかったんだ。日が暮れれば分かるとだけ、あの方はおっしゃっていたよ。」
困ったように笑うサリアム。
本当に何も教えられていないのだろう。
その態度には、嘘がないように見えた。
そんなサリアムの様子にふと疑問を抱いたが、この時は特に取り合わずにその疑問を頭の隅に追いやることにした。
「日が暮れたら……って……」
実は困惑し、サリアムの遥か後ろを見つめる。
太陽はすでに半分以上を街並みの向こうへと沈めている。
完全に日が暮れるまで、もうそんなに時間はかからないだろう。
実の視線を追って困惑の理由に気付いたのか、サリアムは同情するような笑顔を浮かべた。
「ああ、もう時間がないね。まあ、頑張ってくれよ。」
軽く言い、サリアムはくるりと実に背を向けた。
「帰るの? これに興味がありそうだったのに。」
ちょっと意外だったので、思わず呼び止めてしまった。
サリアムはこちらの呼びかけに半身だけ振り返り、やれやれと肩を落とす。
「見物していきたいのは山々なんだけどね。何しろ、あの方の用意するものには得体の知れないものが多い。私の好奇心は自分の命を削るほど旺盛じゃないから、ここは素直に退散させてもらうさ。」
……やはり、分からない。
先ほど隅に追いやったはずの疑問が再燃する。
そして、その疑問を今度は無視することができなかった。
「そういうところまで分かってて……なんでそこまで尽くせるのかね、あいつに。」
純粋に、不思議でならなかった。
詳細を聞かされず、なおかつ託されたものが危険であると分かっているにもかかわらず、ただ命令されただけでこうも簡単に従えるものだろうか。
一歩間違えば巻き込まれる可能性も十分にあったというのに、その危険性を十分に理解した上でサリアムはここにいる。
「多分、言っても君には理解できないんじゃないかな。君は誰にも従わない……というか、逆に人を従える立場の人間だもの。」
「は?」
言われたことが全く理解できず、実は顔をしかめた。
だが、サリアムはそれ以上答えず、微笑みを浮かべたままあっさりとその場から姿を消した。
後に残されたのは棒立ちになる実たちと、サリアムから渡された水晶玉のみだった。
「なんでお前がこんな所に来るんだよ。」
剣呑な声で問いかける。
彼がここに来るとは夢にも思っていなかったし、そもそもこのタリオンの土地柄を考えても、彼がわざわざここに足を運ぶ理由などないはずだが。
「キース、怖いわよ。……知り合いなの?」
「知り合いもなにも……」
尚希は心底嫌そうに顔を歪める。
そんな尚希の視線を受けて―――
「やれやれ。私も、こんな所でまた君に会うことになるとは思ってもみなかったよ。」
サリアムは苦笑を呈した。
「別に、この土地に用があって来たわけではないのだよ? この街の人に危害を加えるつもりもない。ただ、届け物をしに来ただけさ。」
サリアムの言葉を聞き、尚希は自分の顔が余計に引きつるのを感じていた。
この街に直接用がない届け物と言われれば、深く考える必要もなく、誰に入り用なのか分かってしまう。
その証拠に―――
「用があるのは、俺にでしょ。」
後ろから、のんびりとした声が聞こえてくる。
振り返れば、拓也と狼に戻ったハエルを連れた実がこちらに向かってくるところだった。
「やあ、実君。」
まるで友人に会ったかのような好意的な挨拶。
ついこの間まで神の器にしようと実を狙っていた人物とは思えない態度だ。
「へぇ、一人なんだ。」
意外そうに目を丸くする実の態度もまた、敵を前にしているとは思えないものだった。
「君に会いに行くのに、ついてこいと言うのも酷だろう。この前の一件で、君の脅威と君への恐怖は、私の兵に浸透してしまったからね。」
「大の大人が、俺みたいな子供一人に怯えてんの? 情けない話だねぇ。」
「傍から見れば、ね。しかし、君は四大芯柱である私やセリシア様を圧倒しただけではなく、あの方とも互角にやり合ってみせた。そんな事実を聞けば、誰もが恐れるには十分だろう?」
「……あっそ。」
肩をすくめて笑う実。
サリアムと実の間に流れる空気は至って穏やかであり、周囲からは二人が仲良く談笑しているようにしか見えないことだろう。
だからこそそれは、事情を知っている拓也や尚希からすると複雑な心境にならざるを得ない光景であった。
「で、届け物って?」
世間話はそこそこに留めておき、実は単刀直入に本題へ。
「ああ、そうだったね。」
星を散らしたような光が混ざるサリアムの赤い瞳。
それが妖しく揺れた。
紅炎の目。
魔法に精通した人間の間でそう呼ばれる、引き込まれずにはいられない赤い宇宙のようなこの瞳。
元来より、この目を持って生まれる者は、暗示と炎系統の術において類い稀な才能を持つことが知られているそうだ。
サリアムが四大芯柱の中でも火の精霊を統治する〝ティートゥリー〟に選ばれたのは、この目が大きく影響しているのだろう。
またサリアムが手を出してきた時のためにと、拓也と尚希からそんな話を聞かされた。
サリアムの瞳を眺める実からは、すでに笑顔は消え失せている。
表情が一気に真剣味を帯び、身にまとう雰囲気もガラリと一変する。
急に緊張感で張り詰めた空気に拓也と尚希も背筋を伸ばし、ただ一人状況についていけていない様子のエーリリテが戸惑って視線を泳がせていた。
それぞれがそれぞれの面持ちで次の展開を待ち受ける中、サリアムは上着の内側に手を入れた。
彼は内ポケットから小さな巾着袋を取り出すと、それを実に向かって放り投げる。
投げられたそれを空中でキャッチして、実は中身をあらためるために巾着袋を逆さまにした。
中から現れたのは、手のひらに収まるほどの小さな水晶玉だった。
暗い紫色に発光するそれは、見ているだけで気持ち悪くなるような禍々しい力を放っている。
瞬間的に、これまで自分が感じていた嫌な気配の原因がこれだったのだと理解した。
「差出人は……訊くまでもないね。これは何?」
教えてもらえないことを覚悟で問うと、案の定サリアムは首を横に振った。
しかし、この後に彼の口から飛び出した言葉は、予想からは少し外れていた。
「それがね、私にも分からないのだよ。教えてもらえなかったんだ。日が暮れれば分かるとだけ、あの方はおっしゃっていたよ。」
困ったように笑うサリアム。
本当に何も教えられていないのだろう。
その態度には、嘘がないように見えた。
そんなサリアムの様子にふと疑問を抱いたが、この時は特に取り合わずにその疑問を頭の隅に追いやることにした。
「日が暮れたら……って……」
実は困惑し、サリアムの遥か後ろを見つめる。
太陽はすでに半分以上を街並みの向こうへと沈めている。
完全に日が暮れるまで、もうそんなに時間はかからないだろう。
実の視線を追って困惑の理由に気付いたのか、サリアムは同情するような笑顔を浮かべた。
「ああ、もう時間がないね。まあ、頑張ってくれよ。」
軽く言い、サリアムはくるりと実に背を向けた。
「帰るの? これに興味がありそうだったのに。」
ちょっと意外だったので、思わず呼び止めてしまった。
サリアムはこちらの呼びかけに半身だけ振り返り、やれやれと肩を落とす。
「見物していきたいのは山々なんだけどね。何しろ、あの方の用意するものには得体の知れないものが多い。私の好奇心は自分の命を削るほど旺盛じゃないから、ここは素直に退散させてもらうさ。」
……やはり、分からない。
先ほど隅に追いやったはずの疑問が再燃する。
そして、その疑問を今度は無視することができなかった。
「そういうところまで分かってて……なんでそこまで尽くせるのかね、あいつに。」
純粋に、不思議でならなかった。
詳細を聞かされず、なおかつ託されたものが危険であると分かっているにもかかわらず、ただ命令されただけでこうも簡単に従えるものだろうか。
一歩間違えば巻き込まれる可能性も十分にあったというのに、その危険性を十分に理解した上でサリアムはここにいる。
「多分、言っても君には理解できないんじゃないかな。君は誰にも従わない……というか、逆に人を従える立場の人間だもの。」
「は?」
言われたことが全く理解できず、実は顔をしかめた。
だが、サリアムはそれ以上答えず、微笑みを浮かべたままあっさりとその場から姿を消した。
後に残されたのは棒立ちになる実たちと、サリアムから渡された水晶玉のみだった。
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