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第1章 仕組まれた出会い
ピンとこないイベント
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駅前の大通り。
四車線に区切られた広い車道では、車が忙しなく行き来していた。
通りには大きなショッピングセンターや電器店、ゲームセンターなどが軒を連ね、広い歩道を通行する人々を多彩な広告で誘っている。
そんな大通りを、拓也は人の波に流されるように歩いていた。
十二月も末。
ただでさえ混んでいる大通りは、今日という日を楽しみに訪れた人々でごった返していた。
皆楽しそうな笑みを浮かべていて、ある種のお祭り状態を作り出している。
「さむ…」
拓也は一言呟いて、手袋をはめた両手をジャンパーのポケットに突っ込んだ。
その後、ぐるりと視界を巡らせる。
週末だということを加味しても、大通りはいつもに比べてやけに混んでいた。
そして、いつもと違うのは人通りの多さだけではない。
立ち並ぶ店は、全てがきらびやかに飾られていた。
街路樹には電飾が巻かれ、まだ昼間だというのにキラキラと光を放っている。
デパートやコンビニの前では、赤い服を着た店員がケーキを売っている。
よくよく見れば、街を行く人々の多くは丁寧に包装された荷物を持っており、家族やカップルなどのグループが目立っていた。
今日は十二月二十四日。
街は、クリスマスムード一色に染まっていたのだ。
拓也は、ショッピングモールの窓に貼られたクリスマスセールのポスターをまじまじと見つめ……
「クリスマス、ねえ……」
―――と、この季節に入って何度目かも分からない言葉と共に首を捻った。
地球で初めての冬を過ごしている自分にとって、クリスマスとは未知なるものであった。
周りにクリスマスのことを訊いてみようにも、まさか〝今まで別の世界で暮らしていたから、クリスマスを知りません〟と言えるはずもなく。
調べたところ、クリスマスとは元は誰かの生誕を祝う日のようだ。
しかし、アズバドルにはそのように特定の誰かの生誕を全国で祝う風習がない。
だからか、歴史的な意味を知ったところでいまいちピンとこなかった。
尚希にも話を聞いてみたが、彼は別段クリスマスに興味がなかったらしく、『よく分からん。』の一言で片付けられてしまった。
他方の実はというと、答えるのが面倒だと言わんばかりに『適当に、お祭りみたいなもんだと思っておけばいいよ。』で終わった。
まあこの雰囲気を見る限り、実の説明が簡潔で正しいのかもしれない。
とはいえ、少しでも興味を持ってしまったら、調べずにいられないのが昔からの性。
そういうわけで、拓也は街の見物も兼ねて、駅沿いの図書館へ向かっていた。
ネットで調べたことだけでは満足できないなんて、ちょっと損な性格だ。
そんなことを思った拓也は、苦笑を漏らしてポスターから目を逸らした。
大勢の人が行き交う道を、駅に向かって歩く。
今歩いているショッピングモールの前は、特に大勢の人で混み合っていた。
そのせいで全く自分のスピードで歩けないのだが、そこはあまり気にしないことにする。
ゆっくり歩みを進めながら、さりげない仕草で辺りを観察する。
本当は色々と時間をかけて観察したいところだが、この混みようではそれもできそうにない。
「……帰りに寄ってみるか。」
ショッピングモールを見上げ、そう呟く。
とりあえず、第一の目的である図書館に向かおう。
そう思った拓也は、少しだけ歩く速さを上げた。
人の波を縫って、ショッピングモール前の人ごみを一気に抜ける。
瞬間、強い北風が吹きつけてきて、拓也は思わず身震いした。
ショッピングモール前と比べると人はぐっと少なくなり、その分吹きつけてくる風の冷たさが身に沁みる。
『こういう日には、家で過ごすに限るぞ。』
家を出る時に尚希にそう言われたのだが、今ならその理由も分かる気がする。
(確かに、においがきっついな……)
思わず鼻を袖で覆いながら、そう思う。
鋭すぎる自分の嗅覚。
それは木や土といった環境の香りのみならず、生き物の魔力や、果てには生き物の感情までをも感じ取ってしまう。
この周囲に満ちるのは、喜びや幸せといった感情が大多数。
しかしながら、その幸せを妬み羨む香りもひどく鼻をつく。
負の感情から放たれる香りはひどい悪臭になるし、度を過ぎると香り酔いで体調に異変をきたすことも。
過去にこのような悪臭に当てられた結果、頭痛や吐き気といった体調不良に見舞われたことも少なくない。
なるほど。
尚希が家で過ごすことを勧めてきたのは、自分の体質を慮ってのことだったのか。
まあ、予め彼の気遣いを分かっていたところで、知識欲が抑えられたとは思わないけども。
とにかく、香り酔いがひどくなる前に、あえて嗅覚を鈍らせておくか。
そんなことを考えながら、拓也はしかめっ面で人並みを掻き分けて進む。
「おっと……」
大きな横断歩道を渡って人と人の間を通り抜けたところで、拓也は慌てて足を止めた。
目の前に、小さな女の子がいたのだ。
少女は、ガラスの向こうに並んだお菓子やおもちゃを食い入るように見つめている。
「あやかー。もう行くわよー?」
少し離れた場所から、少女の母親がそう呼びかける。
カラフルなケーキの包みを持った彼女は、母親らしい穏やかな笑みをたたえて、少女を困ったように眺めていた。
(母さん、か……)
ふとそんなことを心の中で呟くと、少しだけ胸に苦いものが広がった気がした。
「ほら、あやか! 通れなくて困ってる人がいるから!」
足を止めている自分を見て誤解したのか、少女の母親が少し口調を強くして少女に再度呼びかけた。
すると、少女は名残惜しそうな目で母親を見つめ、今度はゆっくりとこちらを見上げてきた。
〝もっと見てちゃだめなの?〟
目だけでそう問われ、拓也は思わずたじろいでしまう。
そんなことを自分に訊かれても困るというか、なんというか。
そもそも、自分はこういう子供との触れ合い方を心得ていないのだ。
こちらの沈黙をどう受け取ったのか、少女は可愛らしく頬を膨らませて下を向いてしまった。
「あやか!」
再三の母親の声。
それで、ようやく諦めがついたのだろう。
少女は窓ガラスから手を離し、母親の方へと体の向きを変えた。
そのまま、その場を駆け出そうとした少女だったのだが……
「あっ…」
何かにつまずいてしまったのか、少女は大きくバランスを崩して転んでしまった。
「あー、もう……」
見かねた母親が、仕方ないと言わんばかりの溜め息を吐いてこちらへと歩いてくる。
それを視界の端で確認しながら、拓也は少女へと手を伸ばした。
「だ……大丈夫か?」
近くにしゃがんで軽い体を持ち上げてやると、少女は泣くのを必死に我慢しているところだった。
涙を零すのをこらえるように顔をしかめ、すりむいてしまった手のひらを見つめて肩を震わせている。
放置するのもどうかと思って一応体を起こしてやったが、この場合はどういう態度を取るのが正解なのか。
少女にかける言葉が思いつかず固まる拓也の前に、遅れて到着した母親が立った。
「あやか、大丈夫? すみませんね、この子ったら……」
「いいえ、大丈夫ですよ。」
これ以上困る前に、ぜひとも早く回収していってくれ。
そんなことを思いながら、拓也は頭を下げてくる母親に人当たりのいい笑顔を向けて、無難な受け答えをする。
その時。
キキィ――――ッ
たくさんの人々の悲鳴と、車の急ブレーキ音。
それが、すぐ近くで響いた。
四車線に区切られた広い車道では、車が忙しなく行き来していた。
通りには大きなショッピングセンターや電器店、ゲームセンターなどが軒を連ね、広い歩道を通行する人々を多彩な広告で誘っている。
そんな大通りを、拓也は人の波に流されるように歩いていた。
十二月も末。
ただでさえ混んでいる大通りは、今日という日を楽しみに訪れた人々でごった返していた。
皆楽しそうな笑みを浮かべていて、ある種のお祭り状態を作り出している。
「さむ…」
拓也は一言呟いて、手袋をはめた両手をジャンパーのポケットに突っ込んだ。
その後、ぐるりと視界を巡らせる。
週末だということを加味しても、大通りはいつもに比べてやけに混んでいた。
そして、いつもと違うのは人通りの多さだけではない。
立ち並ぶ店は、全てがきらびやかに飾られていた。
街路樹には電飾が巻かれ、まだ昼間だというのにキラキラと光を放っている。
デパートやコンビニの前では、赤い服を着た店員がケーキを売っている。
よくよく見れば、街を行く人々の多くは丁寧に包装された荷物を持っており、家族やカップルなどのグループが目立っていた。
今日は十二月二十四日。
街は、クリスマスムード一色に染まっていたのだ。
拓也は、ショッピングモールの窓に貼られたクリスマスセールのポスターをまじまじと見つめ……
「クリスマス、ねえ……」
―――と、この季節に入って何度目かも分からない言葉と共に首を捻った。
地球で初めての冬を過ごしている自分にとって、クリスマスとは未知なるものであった。
周りにクリスマスのことを訊いてみようにも、まさか〝今まで別の世界で暮らしていたから、クリスマスを知りません〟と言えるはずもなく。
調べたところ、クリスマスとは元は誰かの生誕を祝う日のようだ。
しかし、アズバドルにはそのように特定の誰かの生誕を全国で祝う風習がない。
だからか、歴史的な意味を知ったところでいまいちピンとこなかった。
尚希にも話を聞いてみたが、彼は別段クリスマスに興味がなかったらしく、『よく分からん。』の一言で片付けられてしまった。
他方の実はというと、答えるのが面倒だと言わんばかりに『適当に、お祭りみたいなもんだと思っておけばいいよ。』で終わった。
まあこの雰囲気を見る限り、実の説明が簡潔で正しいのかもしれない。
とはいえ、少しでも興味を持ってしまったら、調べずにいられないのが昔からの性。
そういうわけで、拓也は街の見物も兼ねて、駅沿いの図書館へ向かっていた。
ネットで調べたことだけでは満足できないなんて、ちょっと損な性格だ。
そんなことを思った拓也は、苦笑を漏らしてポスターから目を逸らした。
大勢の人が行き交う道を、駅に向かって歩く。
今歩いているショッピングモールの前は、特に大勢の人で混み合っていた。
そのせいで全く自分のスピードで歩けないのだが、そこはあまり気にしないことにする。
ゆっくり歩みを進めながら、さりげない仕草で辺りを観察する。
本当は色々と時間をかけて観察したいところだが、この混みようではそれもできそうにない。
「……帰りに寄ってみるか。」
ショッピングモールを見上げ、そう呟く。
とりあえず、第一の目的である図書館に向かおう。
そう思った拓也は、少しだけ歩く速さを上げた。
人の波を縫って、ショッピングモール前の人ごみを一気に抜ける。
瞬間、強い北風が吹きつけてきて、拓也は思わず身震いした。
ショッピングモール前と比べると人はぐっと少なくなり、その分吹きつけてくる風の冷たさが身に沁みる。
『こういう日には、家で過ごすに限るぞ。』
家を出る時に尚希にそう言われたのだが、今ならその理由も分かる気がする。
(確かに、においがきっついな……)
思わず鼻を袖で覆いながら、そう思う。
鋭すぎる自分の嗅覚。
それは木や土といった環境の香りのみならず、生き物の魔力や、果てには生き物の感情までをも感じ取ってしまう。
この周囲に満ちるのは、喜びや幸せといった感情が大多数。
しかしながら、その幸せを妬み羨む香りもひどく鼻をつく。
負の感情から放たれる香りはひどい悪臭になるし、度を過ぎると香り酔いで体調に異変をきたすことも。
過去にこのような悪臭に当てられた結果、頭痛や吐き気といった体調不良に見舞われたことも少なくない。
なるほど。
尚希が家で過ごすことを勧めてきたのは、自分の体質を慮ってのことだったのか。
まあ、予め彼の気遣いを分かっていたところで、知識欲が抑えられたとは思わないけども。
とにかく、香り酔いがひどくなる前に、あえて嗅覚を鈍らせておくか。
そんなことを考えながら、拓也はしかめっ面で人並みを掻き分けて進む。
「おっと……」
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目の前に、小さな女の子がいたのだ。
少女は、ガラスの向こうに並んだお菓子やおもちゃを食い入るように見つめている。
「あやかー。もう行くわよー?」
少し離れた場所から、少女の母親がそう呼びかける。
カラフルなケーキの包みを持った彼女は、母親らしい穏やかな笑みをたたえて、少女を困ったように眺めていた。
(母さん、か……)
ふとそんなことを心の中で呟くと、少しだけ胸に苦いものが広がった気がした。
「ほら、あやか! 通れなくて困ってる人がいるから!」
足を止めている自分を見て誤解したのか、少女の母親が少し口調を強くして少女に再度呼びかけた。
すると、少女は名残惜しそうな目で母親を見つめ、今度はゆっくりとこちらを見上げてきた。
〝もっと見てちゃだめなの?〟
目だけでそう問われ、拓也は思わずたじろいでしまう。
そんなことを自分に訊かれても困るというか、なんというか。
そもそも、自分はこういう子供との触れ合い方を心得ていないのだ。
こちらの沈黙をどう受け取ったのか、少女は可愛らしく頬を膨らませて下を向いてしまった。
「あやか!」
再三の母親の声。
それで、ようやく諦めがついたのだろう。
少女は窓ガラスから手を離し、母親の方へと体の向きを変えた。
そのまま、その場を駆け出そうとした少女だったのだが……
「あっ…」
何かにつまずいてしまったのか、少女は大きくバランスを崩して転んでしまった。
「あー、もう……」
見かねた母親が、仕方ないと言わんばかりの溜め息を吐いてこちらへと歩いてくる。
それを視界の端で確認しながら、拓也は少女へと手を伸ばした。
「だ……大丈夫か?」
近くにしゃがんで軽い体を持ち上げてやると、少女は泣くのを必死に我慢しているところだった。
涙を零すのをこらえるように顔をしかめ、すりむいてしまった手のひらを見つめて肩を震わせている。
放置するのもどうかと思って一応体を起こしてやったが、この場合はどういう態度を取るのが正解なのか。
少女にかける言葉が思いつかず固まる拓也の前に、遅れて到着した母親が立った。
「あやか、大丈夫? すみませんね、この子ったら……」
「いいえ、大丈夫ですよ。」
これ以上困る前に、ぜひとも早く回収していってくれ。
そんなことを思いながら、拓也は頭を下げてくる母親に人当たりのいい笑顔を向けて、無難な受け答えをする。
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