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第6章 別れの時
地球に来た理由
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雲一つない、抜けるような晴天が広がっている。
遮るものがない太陽は、その光を街の隅々にまで届けていた。
ここ数日に比べると今日は暖かく、幾分か過ごしやすい。
今日が日曜日ということも相まって、ここから見える通りは多くの人々で賑わっていた。
二日ぶりに見るその景色を、拓也は妙に懐かしい気分で眺めていた。
ここに来たばかりの時は、アズバドルとは全く違う景色にちょっとした感動を覚えたものだ。
何日も飽きずに景色を眺めては、あれはなんだこれはなんだと、尚希にしつこく訊いていたっけ。
今思うと、随分と子供っぽいことをしていた気がする。
ここでの生活に慣れて学校の勉強に追われるようになってからは、この風景は日常のものになり、こうやってじっくり眺めることはなくなった。
空気のように見流していたそんな風景を、久しぶりにじっくりと眺める。
毎日のように見ていた景色が、何故か初めて見る景色のように感じる。
妙に明るくなったと言えばよいのだろうか。
まるで視界を覆っていた靄が晴れたかのように、目の前がクリアになった気がする。
……それは、あながち間違った表現ではないのかもしれない。
ふと、そんなことを思った。
今まで溜め込んできたものを全て吐き出した昨日。
尚希は何も言わずに頭をなでてくるだけだったけど、それが自分にはとても嬉しくて、涙が止まらなかった。
それで、ようやく気付いた。
自分が望んでいたのは、ただこの胸の内を聞いてもらうことなのだと。
どす黒く渦巻いてどうしようもなかったこの思いを、吐き出してしまいたかっただけなのだ。
言葉に出せば、なんてことはなかった。
どうやら、幼くて何も知らなかったが故の恐怖が、今まで自分を縛っていたらしい。
それを尚希が解いてくれたおかげで、気持ちの整理はかなりできたと思う。
拓也は苦笑する。
あれほど国に関わる人間は全て敵だと思ってきたのに、自分はいつの間にか、尚希のことをすっかり信じきっていたようだ。
それどころか地球に来てからは、国への憎悪も忘れていた。
国を許したのかいえば、それは違う。
だが、ずっと胸の内で暗くくすぶっていた復讐心ともいえる苛烈な激情は、不思議に感じるほどすっかり消え失せていた。
(多分、こっちの生活を楽しいと思っちまったからなんだろうな……)
これまでを振り返ってみると、明らかに分かる。
自分は間違いなく、ここでの生活を楽しんでいた。
―――そもそも、ここに来た目的は尚希に会うためだった。
尚希がアズバドルから地球へと発ったのは、アズバドルの時間で自分が地球へ発つ二年前。
次元移動を習得してから度々地球へ足を運んでいた尚希は、ある日唐突に『向こうの方が面白そうだし、本格的に色々と学んできたい。』と言ってきたのだ。
『勝手に行けば?』と冷静に返したものの、内心はかなり動揺していた。
正直、尚希がそんなことを言い出す日が来るとは想像もしていなかったのだ。
地球に足しげく通うのも、単に異世界というものが新鮮だからで、そのうち飽きるだろうと思っていた。
尚希は自分のそんな心情を知ってか知らずか、『一緒に来るか?』と訊いてきた。
それに、自分はほぼ即答で否を唱えた。
ここを離れるわけにはいかなかった。
ここを離れてしまっては、国に仕返しの一つもできないから。
『ここで学べば、一流の術師になれるよ。努力次第では、どこまでも上を目指せる。誰にも負けないくらいに技術を磨けば、あるいはここを逃げ出すことも可能だ。もちろん、仕返しだってね。』
自分は、エリオスのこの言葉を馬鹿らしいくらい真面目に受け取っていた。
その言葉と押し殺した憎悪を糧に、戦う技術を磨き続けてきていた。
誰にも並ばれない程の実力をつけて国の中枢に入り込み、そこから国をぶっ壊してやる気でいた。
そのためには、ここにいて力を磨き続けなければならない。
だから、尚希と共に行くことはできないのだ。
尚希は強要しなかった。
『いつでも来いよ。』
そう言って、あっさりと行ってしまった。
あの時、ショックがなかったかといえば嘘になる。
しばらく尚希の去った場所で茫然と立ち尽くすくらいには、ショックを受けていた。
きっと、心のどこかで信じていたのだろう。
自分が行かないと言えば、尚希は地球に行かずにここに残ってくれると。
その後は、ショックを振り払うようにひたすら訓練に明け暮れた。
そうして何も考えずにがむしゃらに突き進むことで、どうにか自分を保っていた。
しかし、自分の異変に気付くまでにそんなに時間はかからなかった。
だんだんと、感情のセーブが利かなくなったのだ。
―――憎い、憎い、許さない!!
無力故に国に直接向けられない憎悪と殺意が、巡り巡って自分自身を苛んだ。
今すぐにでも、この思いを爆発させてしまいたい。
そんな衝動を必死に押し殺していて、ふいに理解した。
尚希は自分にとって、憎悪と殺意を抑える枷。
そうなるほどに自分は尚希を頼り、彼に依存していたのだと。
枷が外れた激情は、今まで抑えられていた分その過激さを増して暴れ回った。
それでも自分は、ここにいなければならないから。
エリオスはそんな自分の状態に気付いていたらしく、自分が望むままに訓練の難易度を上げてくれた。
エリオスがそうやって協力してくれたこともあって、爆発しそうな激情をギリギリで保ってきた。
しかし、実の存在が国家に知られたことで、エリオスまでもが姿を消した。
それをきっかけに、日々己を焼いていた激情が爆発寸前にまで膨れ上がってしまった。
このままでは、いつ激情に駆られて国に牙を向くか分からない。
今の実力では、とてもではないが自分の目的を達成できないだろう。
必死に理性で感情を抑えて、できるだけ冷静に状況を見定めた結果、応急対策として尚希の元を訪ねることにした。
地球に移動して、その全てに圧倒されながら尚希の香りを探し、辿り着いたこのマンション。
その入り口で待ち構えていた尚希は、こちらを見るや否や―――
『ひでえ顔だな。』
笑ってそう言いながら、自分を出迎えてくれた。
遮るものがない太陽は、その光を街の隅々にまで届けていた。
ここ数日に比べると今日は暖かく、幾分か過ごしやすい。
今日が日曜日ということも相まって、ここから見える通りは多くの人々で賑わっていた。
二日ぶりに見るその景色を、拓也は妙に懐かしい気分で眺めていた。
ここに来たばかりの時は、アズバドルとは全く違う景色にちょっとした感動を覚えたものだ。
何日も飽きずに景色を眺めては、あれはなんだこれはなんだと、尚希にしつこく訊いていたっけ。
今思うと、随分と子供っぽいことをしていた気がする。
ここでの生活に慣れて学校の勉強に追われるようになってからは、この風景は日常のものになり、こうやってじっくり眺めることはなくなった。
空気のように見流していたそんな風景を、久しぶりにじっくりと眺める。
毎日のように見ていた景色が、何故か初めて見る景色のように感じる。
妙に明るくなったと言えばよいのだろうか。
まるで視界を覆っていた靄が晴れたかのように、目の前がクリアになった気がする。
……それは、あながち間違った表現ではないのかもしれない。
ふと、そんなことを思った。
今まで溜め込んできたものを全て吐き出した昨日。
尚希は何も言わずに頭をなでてくるだけだったけど、それが自分にはとても嬉しくて、涙が止まらなかった。
それで、ようやく気付いた。
自分が望んでいたのは、ただこの胸の内を聞いてもらうことなのだと。
どす黒く渦巻いてどうしようもなかったこの思いを、吐き出してしまいたかっただけなのだ。
言葉に出せば、なんてことはなかった。
どうやら、幼くて何も知らなかったが故の恐怖が、今まで自分を縛っていたらしい。
それを尚希が解いてくれたおかげで、気持ちの整理はかなりできたと思う。
拓也は苦笑する。
あれほど国に関わる人間は全て敵だと思ってきたのに、自分はいつの間にか、尚希のことをすっかり信じきっていたようだ。
それどころか地球に来てからは、国への憎悪も忘れていた。
国を許したのかいえば、それは違う。
だが、ずっと胸の内で暗くくすぶっていた復讐心ともいえる苛烈な激情は、不思議に感じるほどすっかり消え失せていた。
(多分、こっちの生活を楽しいと思っちまったからなんだろうな……)
これまでを振り返ってみると、明らかに分かる。
自分は間違いなく、ここでの生活を楽しんでいた。
―――そもそも、ここに来た目的は尚希に会うためだった。
尚希がアズバドルから地球へと発ったのは、アズバドルの時間で自分が地球へ発つ二年前。
次元移動を習得してから度々地球へ足を運んでいた尚希は、ある日唐突に『向こうの方が面白そうだし、本格的に色々と学んできたい。』と言ってきたのだ。
『勝手に行けば?』と冷静に返したものの、内心はかなり動揺していた。
正直、尚希がそんなことを言い出す日が来るとは想像もしていなかったのだ。
地球に足しげく通うのも、単に異世界というものが新鮮だからで、そのうち飽きるだろうと思っていた。
尚希は自分のそんな心情を知ってか知らずか、『一緒に来るか?』と訊いてきた。
それに、自分はほぼ即答で否を唱えた。
ここを離れるわけにはいかなかった。
ここを離れてしまっては、国に仕返しの一つもできないから。
『ここで学べば、一流の術師になれるよ。努力次第では、どこまでも上を目指せる。誰にも負けないくらいに技術を磨けば、あるいはここを逃げ出すことも可能だ。もちろん、仕返しだってね。』
自分は、エリオスのこの言葉を馬鹿らしいくらい真面目に受け取っていた。
その言葉と押し殺した憎悪を糧に、戦う技術を磨き続けてきていた。
誰にも並ばれない程の実力をつけて国の中枢に入り込み、そこから国をぶっ壊してやる気でいた。
そのためには、ここにいて力を磨き続けなければならない。
だから、尚希と共に行くことはできないのだ。
尚希は強要しなかった。
『いつでも来いよ。』
そう言って、あっさりと行ってしまった。
あの時、ショックがなかったかといえば嘘になる。
しばらく尚希の去った場所で茫然と立ち尽くすくらいには、ショックを受けていた。
きっと、心のどこかで信じていたのだろう。
自分が行かないと言えば、尚希は地球に行かずにここに残ってくれると。
その後は、ショックを振り払うようにひたすら訓練に明け暮れた。
そうして何も考えずにがむしゃらに突き進むことで、どうにか自分を保っていた。
しかし、自分の異変に気付くまでにそんなに時間はかからなかった。
だんだんと、感情のセーブが利かなくなったのだ。
―――憎い、憎い、許さない!!
無力故に国に直接向けられない憎悪と殺意が、巡り巡って自分自身を苛んだ。
今すぐにでも、この思いを爆発させてしまいたい。
そんな衝動を必死に押し殺していて、ふいに理解した。
尚希は自分にとって、憎悪と殺意を抑える枷。
そうなるほどに自分は尚希を頼り、彼に依存していたのだと。
枷が外れた激情は、今まで抑えられていた分その過激さを増して暴れ回った。
それでも自分は、ここにいなければならないから。
エリオスはそんな自分の状態に気付いていたらしく、自分が望むままに訓練の難易度を上げてくれた。
エリオスがそうやって協力してくれたこともあって、爆発しそうな激情をギリギリで保ってきた。
しかし、実の存在が国家に知られたことで、エリオスまでもが姿を消した。
それをきっかけに、日々己を焼いていた激情が爆発寸前にまで膨れ上がってしまった。
このままでは、いつ激情に駆られて国に牙を向くか分からない。
今の実力では、とてもではないが自分の目的を達成できないだろう。
必死に理性で感情を抑えて、できるだけ冷静に状況を見定めた結果、応急対策として尚希の元を訪ねることにした。
地球に移動して、その全てに圧倒されながら尚希の香りを探し、辿り着いたこのマンション。
その入り口で待ち構えていた尚希は、こちらを見るや否や―――
『ひでえ顔だな。』
笑ってそう言いながら、自分を出迎えてくれた。
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