世界の十字路

時雨青葉

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【第4部】エピローグ

狩人

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「拓也、尚希さん…っ」


 実は、ここに来るはずのない二人に目を奪われる。
 一方の拓也たちも、実の様子に絶句していた。


 傷は塞がっているものの、裂け目と血だらけの制服。
 大きく上下する胸と肩と、限界をにじませる表情。


 まさに満身そうとも言えるその状態に、二人―――特に、拓也は驚愕を隠しきれなかった。


「二人とも、どうして……―――っ!!」


 実は身を強張らせる。
 自分が口を開いたのとほぼ同時に、前方にいた黒い影が音も立てず動いたのだ。


 死神は拓也たちの元へあっという間に辿り着くと、混乱で何もできずに棒立ちになる拓也へと鎌を振り下ろした。


「拓也!!」


 実はとっさに、ズボンのポケットに手を突っ込む。
 そこで掴んだものを、懇願にも似た思いと力を込めて勢いよく放った。


 両手で自分をかばう拓也と死神の間に、一枚の紙が滑り込む。
 その紙は拓也を守る結界を作り上げ、死神の鎌を受けた。


 鎌と結界の間に激しい火花が散り、電撃のようなものが鎌を伝って死神に至る。


「くっ…」


 死神が今までにあげなかったうめき声をあげ、慌てたようにそこから退いた。
 役目を終えた紙は、はらりと拓也の前に落ちる。


 それは、槻代つきしろ神社で蓮から受け取った護符だった。


「やっぱり……こっちのものの方が、効き目はいいらしいな。」


 腕を押さえる死神に、実は大きく呼吸しながら告げる。


 本当に、とっさの判断だった。


 拓也に危機が迫ったと理解するや否や、脳裏に蓮がくれた護符と彼の言葉がよみがえったのだ。


 しかし、よく考えてみれば、いにしえよりこの死神と戦ってきた九条家が作ったものだ。
 彼に効かないはずはない。


「お主……私にゆかりのある土地へ行ったのか。」


 死神が実に厳しい視線を送る。


 先ほどまで余裕しか見せていなかった死神が、こんなに態度を変えるとは。


 蓮は自分たちの力が及ばなかったといった旨の発言をしていたが、九条家を初めとする古来の術者たちは、この死神にとってかなりの脅威となっているのかもしれない。


「別に、拓也にあんたのことを話したわけじゃないんだ。ルール違反ではないだろ?」


 それに驚きを示したのは、他でもない拓也だ。


 何故急に自分の名が出されたのかと、懐疑と困惑が混ざったような色がその表情に浮かぶ。


「確かに、違反ではないな。だが―――」


 低く零した死神の目が、底冷えするようなすごみを帯びた。
 次の瞬間、死神の姿がそこから消える。


「!?」


 実は息を飲む。
 まばたき一つの間に、死神の姿が目の前にあったからだ。


 死神が、胸に手を当ててくる。


 しまったと思った時には、死神の手から全身にかけて落雷にも似た衝撃が貫いた後だった。


「―――っ」


 その衝撃に弾き飛ばされ、着地することもできず地面に背中から叩きつけられる実。
 そんな実の肩口に、死神の鎌のが叩き込まれた。


「うっ…」


 実はうめき声をあげて、反射的に鎌の柄に手をかけた。
 しかし、容赦ない力で押し込まれる柄は、限界が近い力ではびくともしない。


 しかも、さっきの衝撃で気力と体力をほぼがれてしまい、全身に入る力もひどく弱かった。


 自分を真上から見下ろす死神の目は冷たく、そして鋭い。


「お主はよくやった。この私を相手に、こんなにも食らいついてきたのは賞賛に値する。だが―――ここまでだ。」


 冷酷に言い渡される、最終宣告。
 それを、実はどこか遠い意識で聞いた。


 全身をさいなむ疲労感や苦痛、肩に走る痛みも全て、じわじわとしたしびれに侵食され、おぼろげになってくる。


 疲弊しきった体の奥から脱力感と眠気があふれ出してきて、それが津波のように思考を覆い尽くそうとしていた。


(やばいなぁ……)


 実は、死神をぼうっと見る。


 かすんだ視界に映る死神の姿はゆらゆらと揺れていて、拓也の背後にいていたあの影を彷彿とさせた。


 くぐもってきた音の世界。
 微かな耳鳴りがする中、やけにはっきりとした音が聴覚を刺激した。


 その音を聞いた実は、弱々しく微笑む。
 追い詰められ、死を目前にしているにもかかわらずだ。


「そう……簡単に、渡すかよ。」


 この一言を言うのに、途方もない労力を要した。
 もう、指一本を動かす力もない。


 するり、と。
 実の手が、鎌のから離れた。


 死神は、そんなを無表情で見下ろすだけ。
 実の言葉や微笑みに、これといった危機感はいだいていないようだ。


 抵抗するすべを失った状態の獲物だ。
 実が態度で強がったところで、所詮は最後の悪あがきにしか見えないのだろう。


 死神は、無言で鎌を大きく振り上げる。
 拓也たちが弾かれたように動き出すが、死神の動きの方が格段に速かった。




 にぶい音を立てて、実の胸に鎌が突き刺さる。




「―――っ!? 実――っ!!」




 拓也と尚希の叫びが、大きく響く―――




 ◆ ◇ ◆

 ここまでお読みくださり、誠にありがとうございました!!


【第5部~死の遊び~】あらすじ


 命を懸けたゲーム、延長戦開始!!
 勝つのはどっちだ!?


 死神と実の間で行われた命をかけたゲームは、実の死で幕を閉じたかに思われた。
 しかし、実はある抜け道を使い、間一髪で死の危機をかいくぐることに成功する。


 だが、これもただの一時しのぎ。
 悠長に構えている時間はない。


 延長戦に入ったゲームは、尚希と拓也だけではなく、蓮や紫苑たちも巻き込んでいく。


 綱渡りだらけの異世界ファンタジー第5弾!
 果たして、最後に笑うのは―――!?


■おまけ:カットイラスト01


■おまけ:カットイラスト02


■おまけ:4コマ漫画01


■おまけ:4コマ漫画02


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