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第6章 3日目――決着
背中を預けてもいいかな?
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間抜けなことに、まず感じたのはものすごい空腹だった。
「う……ん……」
空腹を自覚した途端に寝苦しくなって、ごろりと一つ寝返りを打つ。
「紫苑!」
鼓膜を突き破る勢いで響いた声に、紫苑はハッと目を開いた。
「は……へ?」
目の前に広がる光景と柔らかい布団の感触に混乱して、そんなアホみたいな声しか出なかった。
勢いよく飛び起きて、紫苑は混乱したまま辺りを見回す。
そこは、神社を手伝うならと隆文が用意してくれた自分の部屋だった。
「あれ…? おれ、なんでこんな所に……」
尚希と一緒に、魔法の訓練をしていたのは覚えている。
何度も失敗して、それでも必死に挑戦し続けて、いつの間にか時間の感覚すら分からなくなって……
そして、尚希からようやく合格のサインが出て、ほっとして―――全身の力が抜けた。
(そっか。あのまま、気を失ったのか……)
それで、尚希にここまで運ばれたというわけだ。
ようやく記憶が繋がって納得していると、急に肩を揺さぶられた。
「紫苑!」
耳元で大声が響き、甲高い耳鳴りが頭を貫いた。
それに思わず顔をしかめ、紫苑は耳を塞ぐ。
「いってー……なんだよ、蓮!」
「なんだよ、じゃない! 昼過ぎても起きないし、起きたら起きたで呼んでも何も答えないし…。こっちは、死ぬほど心配したんだぞ!!」
「は?」
紫苑は固まる。
無意識に、視線が窓に向かった。
窓の外には雪が降っていた。
随分前から降っていたのだろう。
窓の向こうに見える柵には、雪が分厚く積もっている。
窓の上にある時計は、もうすぐ一時を回ろうとしていた。
「……えぇぇっ!?」
今さらながらに、驚きが込み上げてきた。
「紫苑……本当に大丈夫?」
蓮が紫苑を覗き込む。
その顔はかなり心配そうで、紫苑の肩に置いた手は微かに震えている。
そんな蓮の様子に、紫苑はきょとんと目をまたたいた。
数日前にはかなり怒っていたはずの蓮が、ここまで自分を心配してくるなんて。
なんだか、不思議に思える光景だ。
それでも、蓮が怒りを忘れるほどに自分のことを心配してくれていると思うと、不謹慎かもしれないが少し嬉しかった。
「大丈夫だって!」
紫苑は、底抜けの明るさで蓮に笑いかける。
「別に心配しなくても、おれはこの通り元気だよ。少し怪我したくらい……って、あれ?」
あることに気付いて、紫苑は自分の両手を見やる。
「怪我が……ない。」
激しい訓練の中で、打撲やかすり傷で全身傷だらけになっていたはず。
その傷の全てが、綺麗に消えていたのだ。
気を失う前はあんなに体中が痛かったのに、それもなくなっている。
「治してくれたんだ……」
全く痛まない体に感心しながら呟く。
次に、蓮にまた笑顔を向けた。
「ってなわけで、問題なしみたい。」
そう言うと、蓮はほっと安堵して息をつく。
「よかった……」
それは、今まで抱えていたものを一気に吐き出すような声音。
肩を落とした蓮は、ふと顔を下へ。
「あのさ……紫苑。」
「ん?」
紫苑は首を傾げる。
「……この前は、ごめん。」
小さいが確かに耳朶を打った言葉に、紫苑は一瞬反応を忘れてしまった。
少しの時間をかけて言葉の意味が浸透してきて、その後―――
「えええぇぇぇーっ!?」
部屋に響いたのは絶叫だった。
「蓮が謝ったー!?」
「なんでそこに驚く!?」
あたふたと慌てる紫苑に、蓮も負けない声で反論する。
「だっ……だって蓮、滅多に謝らないじゃんか!」
「人聞きの悪いことを言うな! それじゃあまるで、僕が自分の非を認めない人間みたいじゃないか!!」
「誰もそうとは言ってないだろ! うわー、どうしよう。鳥肌立っちゃったよ。明日は絶対雪が降るって。猛吹雪だ!」
「いや、雪はもう降ってるし。……じゃなくて、話の腰を折るな! 大事な話なんだから。」
蓮にそう言われ、普段からの条件反射で紫苑は口をつぐんだ。
すると、室内が驚くほどしんとした静寂に包まれる。
「………」
雪が降っているせいなのか、それとも蓮が醸し出す緊張感のせいなのか。
その静寂は、場の雰囲気をより一層固くしているように感じられた。
そんな中、蓮が緊張と不安が入り混じった面持ちで口を開く。
「あの時はカッとなって、心にもないことを言った。失望したなんて言って、本当にごめん。それと、もう一つ謝らなきゃいけない。」
袂を強く握り締める蓮。
「紫苑の気持ちは分かった。……でも、ごめん。僕は九条の人間として、この血に従って使命を果たしたいし、実君を助けたい。どうしても、これだけは譲れないんだ。もちろん、紫苑が言うとおり、死ぬ危険がないとは言いきれない。」
そこで一旦、言葉が途切れる。
蓮は一際強く袂を握ると、顔を上げてまっすぐに紫苑を見つめた。
「紫苑。僕は、危険を承知で使命を果たすよ。だから……背中を預けてもいいかな? 僕は、紫苑を一番信頼してる。紫苑が一緒なら、僕も安心して使命に集中できるんだ。」
これは、一体どういう風の吹き回しだろうか。
自分の予定とはかなり違う。
まさか、蓮にこんなことを言われる日が来るなんて。
「……蓮、ずるいや。」
口から出たのは、そんな言葉。
「え? 何が?」
蓮がきょとんとして訊ねてくる。
そんな彼に自分の顔を見られたくなくて、紫苑は前髪で顔を隠すようにうつむいた。
「だって……おれから謝ろうと思ってたのに、先にそんなこと言ってくんだもん。おれ、どうすりゃいいのさ。ははっ……なんか、調子狂うなー。………でも―――」
顔を上げて、紫苑は照れ笑いを浮かべる。
「そう言ってくれて、めちゃくちゃ嬉しい。任せとけよ。蓮の背中は、おれが絶対守るからさ。元々、そのために鍛えてもらったんだし。」
「紫苑……」
「蓮は、自分の思うとおりにやれよ。」
紫苑は蓮の肩を叩いた。
大切な従兄弟への、激励の意を込めて。
紫苑の言葉と笑顔を受けた蓮の顔から、徐々に不安が消えていく。
蓮は心底安心したように笑うと、静かに目を閉じた。
「ありがとう。頼むよ。」
紫苑もそれに、笑みを深める。
部屋にようやく、柔らかな雰囲気が漂い始めた。
その時―――
ドーンッ
大地を大きく揺らす轟音が、家中に響いた。
「う……ん……」
空腹を自覚した途端に寝苦しくなって、ごろりと一つ寝返りを打つ。
「紫苑!」
鼓膜を突き破る勢いで響いた声に、紫苑はハッと目を開いた。
「は……へ?」
目の前に広がる光景と柔らかい布団の感触に混乱して、そんなアホみたいな声しか出なかった。
勢いよく飛び起きて、紫苑は混乱したまま辺りを見回す。
そこは、神社を手伝うならと隆文が用意してくれた自分の部屋だった。
「あれ…? おれ、なんでこんな所に……」
尚希と一緒に、魔法の訓練をしていたのは覚えている。
何度も失敗して、それでも必死に挑戦し続けて、いつの間にか時間の感覚すら分からなくなって……
そして、尚希からようやく合格のサインが出て、ほっとして―――全身の力が抜けた。
(そっか。あのまま、気を失ったのか……)
それで、尚希にここまで運ばれたというわけだ。
ようやく記憶が繋がって納得していると、急に肩を揺さぶられた。
「紫苑!」
耳元で大声が響き、甲高い耳鳴りが頭を貫いた。
それに思わず顔をしかめ、紫苑は耳を塞ぐ。
「いってー……なんだよ、蓮!」
「なんだよ、じゃない! 昼過ぎても起きないし、起きたら起きたで呼んでも何も答えないし…。こっちは、死ぬほど心配したんだぞ!!」
「は?」
紫苑は固まる。
無意識に、視線が窓に向かった。
窓の外には雪が降っていた。
随分前から降っていたのだろう。
窓の向こうに見える柵には、雪が分厚く積もっている。
窓の上にある時計は、もうすぐ一時を回ろうとしていた。
「……えぇぇっ!?」
今さらながらに、驚きが込み上げてきた。
「紫苑……本当に大丈夫?」
蓮が紫苑を覗き込む。
その顔はかなり心配そうで、紫苑の肩に置いた手は微かに震えている。
そんな蓮の様子に、紫苑はきょとんと目をまたたいた。
数日前にはかなり怒っていたはずの蓮が、ここまで自分を心配してくるなんて。
なんだか、不思議に思える光景だ。
それでも、蓮が怒りを忘れるほどに自分のことを心配してくれていると思うと、不謹慎かもしれないが少し嬉しかった。
「大丈夫だって!」
紫苑は、底抜けの明るさで蓮に笑いかける。
「別に心配しなくても、おれはこの通り元気だよ。少し怪我したくらい……って、あれ?」
あることに気付いて、紫苑は自分の両手を見やる。
「怪我が……ない。」
激しい訓練の中で、打撲やかすり傷で全身傷だらけになっていたはず。
その傷の全てが、綺麗に消えていたのだ。
気を失う前はあんなに体中が痛かったのに、それもなくなっている。
「治してくれたんだ……」
全く痛まない体に感心しながら呟く。
次に、蓮にまた笑顔を向けた。
「ってなわけで、問題なしみたい。」
そう言うと、蓮はほっと安堵して息をつく。
「よかった……」
それは、今まで抱えていたものを一気に吐き出すような声音。
肩を落とした蓮は、ふと顔を下へ。
「あのさ……紫苑。」
「ん?」
紫苑は首を傾げる。
「……この前は、ごめん。」
小さいが確かに耳朶を打った言葉に、紫苑は一瞬反応を忘れてしまった。
少しの時間をかけて言葉の意味が浸透してきて、その後―――
「えええぇぇぇーっ!?」
部屋に響いたのは絶叫だった。
「蓮が謝ったー!?」
「なんでそこに驚く!?」
あたふたと慌てる紫苑に、蓮も負けない声で反論する。
「だっ……だって蓮、滅多に謝らないじゃんか!」
「人聞きの悪いことを言うな! それじゃあまるで、僕が自分の非を認めない人間みたいじゃないか!!」
「誰もそうとは言ってないだろ! うわー、どうしよう。鳥肌立っちゃったよ。明日は絶対雪が降るって。猛吹雪だ!」
「いや、雪はもう降ってるし。……じゃなくて、話の腰を折るな! 大事な話なんだから。」
蓮にそう言われ、普段からの条件反射で紫苑は口をつぐんだ。
すると、室内が驚くほどしんとした静寂に包まれる。
「………」
雪が降っているせいなのか、それとも蓮が醸し出す緊張感のせいなのか。
その静寂は、場の雰囲気をより一層固くしているように感じられた。
そんな中、蓮が緊張と不安が入り混じった面持ちで口を開く。
「あの時はカッとなって、心にもないことを言った。失望したなんて言って、本当にごめん。それと、もう一つ謝らなきゃいけない。」
袂を強く握り締める蓮。
「紫苑の気持ちは分かった。……でも、ごめん。僕は九条の人間として、この血に従って使命を果たしたいし、実君を助けたい。どうしても、これだけは譲れないんだ。もちろん、紫苑が言うとおり、死ぬ危険がないとは言いきれない。」
そこで一旦、言葉が途切れる。
蓮は一際強く袂を握ると、顔を上げてまっすぐに紫苑を見つめた。
「紫苑。僕は、危険を承知で使命を果たすよ。だから……背中を預けてもいいかな? 僕は、紫苑を一番信頼してる。紫苑が一緒なら、僕も安心して使命に集中できるんだ。」
これは、一体どういう風の吹き回しだろうか。
自分の予定とはかなり違う。
まさか、蓮にこんなことを言われる日が来るなんて。
「……蓮、ずるいや。」
口から出たのは、そんな言葉。
「え? 何が?」
蓮がきょとんとして訊ねてくる。
そんな彼に自分の顔を見られたくなくて、紫苑は前髪で顔を隠すようにうつむいた。
「だって……おれから謝ろうと思ってたのに、先にそんなこと言ってくんだもん。おれ、どうすりゃいいのさ。ははっ……なんか、調子狂うなー。………でも―――」
顔を上げて、紫苑は照れ笑いを浮かべる。
「そう言ってくれて、めちゃくちゃ嬉しい。任せとけよ。蓮の背中は、おれが絶対守るからさ。元々、そのために鍛えてもらったんだし。」
「紫苑……」
「蓮は、自分の思うとおりにやれよ。」
紫苑は蓮の肩を叩いた。
大切な従兄弟への、激励の意を込めて。
紫苑の言葉と笑顔を受けた蓮の顔から、徐々に不安が消えていく。
蓮は心底安心したように笑うと、静かに目を閉じた。
「ありがとう。頼むよ。」
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