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第3章 新たな異世界
道を分かつ塀
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日が昇った昼下がり。
実は、一人で屋敷内をぶらぶらと歩き回っていた。
晴人はいない。
倒れた後に一気に熱が上がって、今はベッドの上だ。
今までの疲れがどっと出たのだろう。
とにかく、休ませなければならない。
晴人がまた悪夢にうなされることがないよう、彼の意識は深い眠りの淵に落としてある。
十分な睡眠と休養を取り終えないと、目覚めないはずだ。
それに加えて、晴人の周りと部屋全体に防音と侵入者防止の結界を張ってある。
ここまでしておけば、少しは安心して眠れると思うのだけど……
そんな風に晴人を心配する実はというと、昨日に引き続き情報収集に勤しんでいた。
昨日は被害者たちに片っ端から話を聞いて回ったので、今日はこの屋敷と敷地を調べるつもりだったのだ。
屋敷内をしばらく歩いた実は、階段の踊り場で手すりにもたれかかって息を吐き出した。
「何もないな……」
屋敷の中を歩き始めて、すでに二時間以上が経過している。
しかし、どこへ行っても同じような景色が続くばかりで、これといって目につくものはなかった。
客室とは違いそうなドアを開けて回りもしたが、特にそこから情報を得られたわけでもない。
「どうするかなぁ……」
手すりに突っ伏す実。
こうやって体を手すりに預けるだけで、全身を巨大な睡魔が襲う。
少し力を抜けば、あっという間に微睡みに引き込まれてしまう。
―――くすくす……
脳裏で、笑い声が木霊した。
「その人にとって、一番の恐怖となる夢……か。」
眠気を振り払うように頭を振り、ぼんやりと一言。
「来たばっかりの日は、よく眠れたのになぁ……」
それは、何気ない呟き。
だが、それが妙に脳裏に引っ掛かった。
「……そうか。」
ここに来た初日、驚くほどよく眠れた。
確かその時、ひどく懐かしい心地を抱いていたはずだ。
「あれで、記憶を読まれたのか。」
だから、ここで見る悪夢はそれぞれの恐怖を的確に映せるというわけだ。
(でも、なんのために?)
実は思案げに眉を寄せる。
記憶を読み、相手の恐怖を呼び起こすこと。
それが一体、なんの利益を生むというのだ。
自分たちを恐怖で従わせるため?
いや、それは違う気がする。
ここにいる彼らは、自分たちに対して擁護的な態度を取っている。
食事はきちんと与えているし、誰かが倒れればきちんと介抱もする。
怯える自分たちを刺激しないようにか、基本的には彼らから近寄ってくることはないし、自分たちが何をしていようと干渉もしてこない。
分からない。
誰がなんのために、こんな夢を見せてくるのか。
「……ん?」
思考が行き止まりにぶち当たった時、階下で物音がした。
実はそっと階段を下り、廊下に顔だけを出す。
そこには、黒い外套に身を包んだ彼らがいた。
そしてその中に、聖清学園の生徒が一人。
その生徒はぼうっとした目をして、彼らと同じように外套に身を包み、彼らの一人に手を引かれて歩いている。
時々ふらつく生徒に、彼らは気遣わしげに声をかけたりしていた。
どうやら、無理やりどこかに連れていこうとしているわけではなさそうだ。
実は気配を殺して、彼らの後を尾けることにする。
一階まで下りた彼らは、さらに屋敷の奥へと向かっていった。
(あれ…?)
その途中、ふと違和感に気付いた。
(こんな所、あったっけ?)
屋敷の中は隈なく見たはずだ。
それなのに、今歩いている場所には全く見覚えがなかった。
もしかして、見落としたのだろうか。
反射的にそう思ったが、冷静に考え直してすぐさま否定。
少なくとも、二回は同じ場所を回ったのだ。
こんなに広い廊下を見落とすなんて、ありえない。
―――と、いうことは。
「………」
大方の事情を察した実は、冷静な表情で軽く息を吐いた。
「あーあ、無事に帰れるといいんだけど……」
暢気にそんなことを呟く実の顔には、薄い笑みすら浮かんでいる。
ここがどこであれ、引き返すという選択肢はない。
新たな情報を得られるなら、前進あるのみだ。
(一応、細工はしておくか。)
後ろ手に細工を施しながら、気を取り直して彼らの尾行を再開する。
彼らが辿り着いたのは、巨大な扉の前だった。
「あれは……」
しげしげと扉とその周りを遠目に観察していたら、ふとした拍子にここがどこなのか分かった。
屋敷の後ろにそびえ立っていた、この世界の空間を両断するような塀。
今目の前にあるのは、その塀だ。
彼らの一人が扉に近付き、扉を細く開く。
そこから、一人の生徒を連れた彼らは次々に向こう側へと消えていった。
その様子をじっと見ていると、背後で金属がこすれる音がした。
まばたき一つの間に、後ろから刃が突きつけられる。
「大胆な尾行ですね。ここまで来られたのは、あなたが初めてですよ。」
聞き覚えのある声だ。
背後の人物が誰であるかを察した実は、肩をすくめて息をついた。
「たまたま見かけたから、興味でついてきただけだよ。一緒になって向こうに行く気はないから、その物騒なもんを下げてくれないかな?」
抵抗する気はないと示すために諸手を挙げると、後ろの人物はあっさりと剣を下げた。
振り向いた先で、透き通るようなアイスブルーの瞳と目が合う。
「抵抗しないんですね。」
「だから、抵抗するだけ無駄だって。どうしてもって理由がない限り、俺は暴れないよ。」
にやりと意地悪く笑ってやると、彼は参ったと言わんばかりに溜め息をついた。
「あなたが本気を出さないことを祈りますよ。こちらとしては、きっと分が悪いでしょうから。」
彼の本音に、実は苦笑した。
そして、ゆっくりと扉を見上げる。
「ねえ、あの先には何があるの?」
期待はしないで問う。
案の定、彼は首を横に振った。
「あの先のことは、扉をくぐった人だけが知ればいいのです。あなたも、元の世界に戻りたいのなら、不用意に詮索しようとするのはやめた方がいいですよ。」
「戻りたいのなら?」
実は懐疑的な声で彼に訊ねる。
しかし、これ以上核心に触れさせるつもりはないのか、彼は実に背を向けた。
「私たちは所詮、ただの案内人。あの扉をくぐるのか、くぐらないのか。それを決めるのは、ここに来た人自身です。」
「ここに来た人……自身?」
訊き返す。
彼は静かに頷くと―――
「私は、あなたのことを割と気に入っていますよ。だから、一つ忠告です。―――自分を、強く持ちなさい。」
そう言い残して、ここから去っていった。
実は、一人で屋敷内をぶらぶらと歩き回っていた。
晴人はいない。
倒れた後に一気に熱が上がって、今はベッドの上だ。
今までの疲れがどっと出たのだろう。
とにかく、休ませなければならない。
晴人がまた悪夢にうなされることがないよう、彼の意識は深い眠りの淵に落としてある。
十分な睡眠と休養を取り終えないと、目覚めないはずだ。
それに加えて、晴人の周りと部屋全体に防音と侵入者防止の結界を張ってある。
ここまでしておけば、少しは安心して眠れると思うのだけど……
そんな風に晴人を心配する実はというと、昨日に引き続き情報収集に勤しんでいた。
昨日は被害者たちに片っ端から話を聞いて回ったので、今日はこの屋敷と敷地を調べるつもりだったのだ。
屋敷内をしばらく歩いた実は、階段の踊り場で手すりにもたれかかって息を吐き出した。
「何もないな……」
屋敷の中を歩き始めて、すでに二時間以上が経過している。
しかし、どこへ行っても同じような景色が続くばかりで、これといって目につくものはなかった。
客室とは違いそうなドアを開けて回りもしたが、特にそこから情報を得られたわけでもない。
「どうするかなぁ……」
手すりに突っ伏す実。
こうやって体を手すりに預けるだけで、全身を巨大な睡魔が襲う。
少し力を抜けば、あっという間に微睡みに引き込まれてしまう。
―――くすくす……
脳裏で、笑い声が木霊した。
「その人にとって、一番の恐怖となる夢……か。」
眠気を振り払うように頭を振り、ぼんやりと一言。
「来たばっかりの日は、よく眠れたのになぁ……」
それは、何気ない呟き。
だが、それが妙に脳裏に引っ掛かった。
「……そうか。」
ここに来た初日、驚くほどよく眠れた。
確かその時、ひどく懐かしい心地を抱いていたはずだ。
「あれで、記憶を読まれたのか。」
だから、ここで見る悪夢はそれぞれの恐怖を的確に映せるというわけだ。
(でも、なんのために?)
実は思案げに眉を寄せる。
記憶を読み、相手の恐怖を呼び起こすこと。
それが一体、なんの利益を生むというのだ。
自分たちを恐怖で従わせるため?
いや、それは違う気がする。
ここにいる彼らは、自分たちに対して擁護的な態度を取っている。
食事はきちんと与えているし、誰かが倒れればきちんと介抱もする。
怯える自分たちを刺激しないようにか、基本的には彼らから近寄ってくることはないし、自分たちが何をしていようと干渉もしてこない。
分からない。
誰がなんのために、こんな夢を見せてくるのか。
「……ん?」
思考が行き止まりにぶち当たった時、階下で物音がした。
実はそっと階段を下り、廊下に顔だけを出す。
そこには、黒い外套に身を包んだ彼らがいた。
そしてその中に、聖清学園の生徒が一人。
その生徒はぼうっとした目をして、彼らと同じように外套に身を包み、彼らの一人に手を引かれて歩いている。
時々ふらつく生徒に、彼らは気遣わしげに声をかけたりしていた。
どうやら、無理やりどこかに連れていこうとしているわけではなさそうだ。
実は気配を殺して、彼らの後を尾けることにする。
一階まで下りた彼らは、さらに屋敷の奥へと向かっていった。
(あれ…?)
その途中、ふと違和感に気付いた。
(こんな所、あったっけ?)
屋敷の中は隈なく見たはずだ。
それなのに、今歩いている場所には全く見覚えがなかった。
もしかして、見落としたのだろうか。
反射的にそう思ったが、冷静に考え直してすぐさま否定。
少なくとも、二回は同じ場所を回ったのだ。
こんなに広い廊下を見落とすなんて、ありえない。
―――と、いうことは。
「………」
大方の事情を察した実は、冷静な表情で軽く息を吐いた。
「あーあ、無事に帰れるといいんだけど……」
暢気にそんなことを呟く実の顔には、薄い笑みすら浮かんでいる。
ここがどこであれ、引き返すという選択肢はない。
新たな情報を得られるなら、前進あるのみだ。
(一応、細工はしておくか。)
後ろ手に細工を施しながら、気を取り直して彼らの尾行を再開する。
彼らが辿り着いたのは、巨大な扉の前だった。
「あれは……」
しげしげと扉とその周りを遠目に観察していたら、ふとした拍子にここがどこなのか分かった。
屋敷の後ろにそびえ立っていた、この世界の空間を両断するような塀。
今目の前にあるのは、その塀だ。
彼らの一人が扉に近付き、扉を細く開く。
そこから、一人の生徒を連れた彼らは次々に向こう側へと消えていった。
その様子をじっと見ていると、背後で金属がこすれる音がした。
まばたき一つの間に、後ろから刃が突きつけられる。
「大胆な尾行ですね。ここまで来られたのは、あなたが初めてですよ。」
聞き覚えのある声だ。
背後の人物が誰であるかを察した実は、肩をすくめて息をついた。
「たまたま見かけたから、興味でついてきただけだよ。一緒になって向こうに行く気はないから、その物騒なもんを下げてくれないかな?」
抵抗する気はないと示すために諸手を挙げると、後ろの人物はあっさりと剣を下げた。
振り向いた先で、透き通るようなアイスブルーの瞳と目が合う。
「抵抗しないんですね。」
「だから、抵抗するだけ無駄だって。どうしてもって理由がない限り、俺は暴れないよ。」
にやりと意地悪く笑ってやると、彼は参ったと言わんばかりに溜め息をついた。
「あなたが本気を出さないことを祈りますよ。こちらとしては、きっと分が悪いでしょうから。」
彼の本音に、実は苦笑した。
そして、ゆっくりと扉を見上げる。
「ねえ、あの先には何があるの?」
期待はしないで問う。
案の定、彼は首を横に振った。
「あの先のことは、扉をくぐった人だけが知ればいいのです。あなたも、元の世界に戻りたいのなら、不用意に詮索しようとするのはやめた方がいいですよ。」
「戻りたいのなら?」
実は懐疑的な声で彼に訊ねる。
しかし、これ以上核心に触れさせるつもりはないのか、彼は実に背を向けた。
「私たちは所詮、ただの案内人。あの扉をくぐるのか、くぐらないのか。それを決めるのは、ここに来た人自身です。」
「ここに来た人……自身?」
訊き返す。
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