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第6章 国境を越えて
唐突に暴かれる事実
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ユエを―――実の娘を見るヴィードの顔は、真っ黒な感情に埋め尽くされていた。
「親父がそいつを養子にするって言い出さなけりゃ、もうちょい傍に置いてやってもよかったんだよ。そいつが、変な現象を起こすことがあったとしてもな。」
それを聞いたユエの肩が大きく震えた。
変な現象とは言うまでもなく、魔力の暴走のことだろう。
顔を青くして震えるユエに、ヴィードは語る。
「なあ、ユエ。お前は、誰からも気味悪がられてきたよな。その中で、オレだけは何も言わなかった。兄貴たちに匙を投げられてオレのとこまで戻ってきて、痛い思いをするって分かってんのにオレのところから逃げなかったのは、オレだけはお前のことを気持ち悪いって言わなかったからだろう? ここにいれば、少なくとも邪険にはされなかったもんなぁ。」
ヴィードの声は優しい。
あめ玉のように優しいその声で、確実にユエの心に傷をつけていく。
怯えたユエを見つめる彼の顔は、歪みきった愉悦に満ちていた。
「だけどさ、お前はもう―――」
「ユエ、聞くな!」
実は叫んで、自分の体でユエを隠した。
腐っている。
その考え方も、何もかも。
「あんたには分からないだろうよ。勝手な都合で虐げられて、殺される奴の気持ちなんてさ…っ。何もしてないのに気味悪がられて、傷つけられる苦しさなんて!!」
……ああ、だめなのに。
激情を吐露しながら思う。
また、勝手にユエと自分を重ねている。
これはユエが受けてきた仕打ちであって、ユエは自分と違うのに。
それなのに、ユエと自分が重なって、胸にやりきれない怒りが積み重なっていく。
「何が〝いらなくなった〟だ。ユエの存在価値を決めるのは、お前じゃない!」
「存在価値? 寝言は寝て言えよ。オレが重要視するのは利用価値だ。利用価値のない奴に、もう用はない。」
返される言葉は、もはやこちらの理解の範疇を超えていた。
「そいつが親父の養子になっちまったら、立場がオレと同じになるだろ。いや、親父に娘がいない分、オレより優遇されるかもしれねぇ。それじゃあ話が違うんだよ! そいつは、オレが王位に就くための踏み台だ。オレよりも上を行くなんて許さない。だから捨ててやったんだよ! そのまま死ねばよかったのに、お前たちが拾いやがった。余計なことをしやがって!!」
ヴィードは、苛立ちとも憎悪とも取れる雰囲気を滲ませてがなり立てる。
そのあまりにも身勝手な物言いに、実は奥歯を噛み締めた。
目の前にあるのは、野心にまみれて醜く歪んだ人間の姿。
彼には何を言っても通じない。
それだけは分かった。
「まあでも―――」
ふと、ヴィードの声が穏やかに凪ぐ。
―――ヒュッ
自分目がけて飛んできたそれを、実はほとんど無意識に取っていた。
手の中に収まるほどのそれは、触れた途端に淡い光を放って崩れてしまう。
開いた手のひらを見ると、微かに光を反射する砂のようなものが残っていた。
訝しげに手のひらを凝視する実に、ヴィードは驚くべき言葉を告げる。
「やっぱ、お前が〝鍵〟なんだな。」
「!?」
瞠目して顔を上げた実に、ヴィードは五センチほどの鉱石を見せた。
「こいつには、特別な呪術が施してあってさ。〝鍵〟の人間が触れると、ぼろぼろに崩れるようになってるらしいぜ。アズバドルほど魔法に長けてはいないこの国で、〝鍵〟を見分ける唯一の方法だ。今まで嘘臭いと思っていたけど……どうやら、それの効果は本当らしいな。それを手にして石が崩れたのは、お前が初めてだ。」
「………」
実は険しい表情のまま、手に残る砂と化した石を睨む。
こんなものがあるから、今までどんな国でも〝鍵〟は漏れなく殺されていたのか。
そう思うと、ざわざわと胸の奥がざわついた。
………ザッ……
ノイズが耳を通過する。
「ふうん。否定しないんだな。―――なあ、取引しようぜ。」
やけに上機嫌な様子で、ヴィードはこちらに近付いてくる。
「お前がオレに協力するなら、ユエとの契約を解除してもいいぜ。兄貴たちにも掛け合ってやるよ。」
「………っ!?」
予想外の取引に、実は返答も忘れてヴィードを見つめた。
どういう意味だ。
彼は自分を―――〝鍵〟を殺すのではなく、協力させようとしている。
一体、何を企んでいるというのか。
〝鍵〟は諸刃の剣。
関われば、自らを不利な状況に追い込みかねないというのに。
ヴィードの魂胆を探る目つきの実。
そんな実を眺めていたヴィードは、しばらくして大きく息を吐き出す。
「その様子だと、素直に応じる気はないみたいだな。まあいいさ。あんまり簡単に手に入ったんじゃあ、面白味がねぇしな!」
「―――っ!!」
その刹那、実は直感だけでユエを抱いて床を蹴っていた。
遅れて、さっきまで自分がいた場所を何かが横切る音がする。
「へぇ、よく避けられたな。」
ヴィードは、にやりと笑って剣を振った。
「ドラード。ユエを連れて、俺らから離れろ。」
危険を感じ取って全身を緊張させる実は、早口にドラードへ命じた。
ドラードが固い表情で頷いて、ユエと一緒に離れていく。
ヴィードはそれを邪魔することなく、ただ見送るだけだった。
どうやら、今の彼はこちらにしか関心がないらしい。
「お前を見つけたのはラッキーだったぜ。そこのところは、死に損なったユエを褒めてやってもいいな。ユエを追ってわざわざここまで来るとか、どれだけお人好しなんだか。」
嘲るように言い、ヴィードは腰にかかるもう一本の剣を抜いた。
そして、それを実に投げる。
「?」
「構えろよ。」
剣を取り上げつつも懐疑的な視線を投げかける実に対し、ヴィードは自分が持つ剣で実を指し示す。
「さっきのは、ただのテストだ。あんなのも避けられないような弱い奴なら、いくら〝鍵〟でも利用価値はないと思ってたが、そこそこやるみたいだからな。丸腰の奴を屈服させるのは、オレの趣味じゃない。」
ヴィードの笑みが、不気味に深まる。
「強い奴を無理やりねじ伏せる方が、気持ちがいいだろう?」
そう言ったヴィードは、剣を構えた途端にものすごい速さで実との距離を詰めていた。
「親父がそいつを養子にするって言い出さなけりゃ、もうちょい傍に置いてやってもよかったんだよ。そいつが、変な現象を起こすことがあったとしてもな。」
それを聞いたユエの肩が大きく震えた。
変な現象とは言うまでもなく、魔力の暴走のことだろう。
顔を青くして震えるユエに、ヴィードは語る。
「なあ、ユエ。お前は、誰からも気味悪がられてきたよな。その中で、オレだけは何も言わなかった。兄貴たちに匙を投げられてオレのとこまで戻ってきて、痛い思いをするって分かってんのにオレのところから逃げなかったのは、オレだけはお前のことを気持ち悪いって言わなかったからだろう? ここにいれば、少なくとも邪険にはされなかったもんなぁ。」
ヴィードの声は優しい。
あめ玉のように優しいその声で、確実にユエの心に傷をつけていく。
怯えたユエを見つめる彼の顔は、歪みきった愉悦に満ちていた。
「だけどさ、お前はもう―――」
「ユエ、聞くな!」
実は叫んで、自分の体でユエを隠した。
腐っている。
その考え方も、何もかも。
「あんたには分からないだろうよ。勝手な都合で虐げられて、殺される奴の気持ちなんてさ…っ。何もしてないのに気味悪がられて、傷つけられる苦しさなんて!!」
……ああ、だめなのに。
激情を吐露しながら思う。
また、勝手にユエと自分を重ねている。
これはユエが受けてきた仕打ちであって、ユエは自分と違うのに。
それなのに、ユエと自分が重なって、胸にやりきれない怒りが積み重なっていく。
「何が〝いらなくなった〟だ。ユエの存在価値を決めるのは、お前じゃない!」
「存在価値? 寝言は寝て言えよ。オレが重要視するのは利用価値だ。利用価値のない奴に、もう用はない。」
返される言葉は、もはやこちらの理解の範疇を超えていた。
「そいつが親父の養子になっちまったら、立場がオレと同じになるだろ。いや、親父に娘がいない分、オレより優遇されるかもしれねぇ。それじゃあ話が違うんだよ! そいつは、オレが王位に就くための踏み台だ。オレよりも上を行くなんて許さない。だから捨ててやったんだよ! そのまま死ねばよかったのに、お前たちが拾いやがった。余計なことをしやがって!!」
ヴィードは、苛立ちとも憎悪とも取れる雰囲気を滲ませてがなり立てる。
そのあまりにも身勝手な物言いに、実は奥歯を噛み締めた。
目の前にあるのは、野心にまみれて醜く歪んだ人間の姿。
彼には何を言っても通じない。
それだけは分かった。
「まあでも―――」
ふと、ヴィードの声が穏やかに凪ぐ。
―――ヒュッ
自分目がけて飛んできたそれを、実はほとんど無意識に取っていた。
手の中に収まるほどのそれは、触れた途端に淡い光を放って崩れてしまう。
開いた手のひらを見ると、微かに光を反射する砂のようなものが残っていた。
訝しげに手のひらを凝視する実に、ヴィードは驚くべき言葉を告げる。
「やっぱ、お前が〝鍵〟なんだな。」
「!?」
瞠目して顔を上げた実に、ヴィードは五センチほどの鉱石を見せた。
「こいつには、特別な呪術が施してあってさ。〝鍵〟の人間が触れると、ぼろぼろに崩れるようになってるらしいぜ。アズバドルほど魔法に長けてはいないこの国で、〝鍵〟を見分ける唯一の方法だ。今まで嘘臭いと思っていたけど……どうやら、それの効果は本当らしいな。それを手にして石が崩れたのは、お前が初めてだ。」
「………」
実は険しい表情のまま、手に残る砂と化した石を睨む。
こんなものがあるから、今までどんな国でも〝鍵〟は漏れなく殺されていたのか。
そう思うと、ざわざわと胸の奥がざわついた。
………ザッ……
ノイズが耳を通過する。
「ふうん。否定しないんだな。―――なあ、取引しようぜ。」
やけに上機嫌な様子で、ヴィードはこちらに近付いてくる。
「お前がオレに協力するなら、ユエとの契約を解除してもいいぜ。兄貴たちにも掛け合ってやるよ。」
「………っ!?」
予想外の取引に、実は返答も忘れてヴィードを見つめた。
どういう意味だ。
彼は自分を―――〝鍵〟を殺すのではなく、協力させようとしている。
一体、何を企んでいるというのか。
〝鍵〟は諸刃の剣。
関われば、自らを不利な状況に追い込みかねないというのに。
ヴィードの魂胆を探る目つきの実。
そんな実を眺めていたヴィードは、しばらくして大きく息を吐き出す。
「その様子だと、素直に応じる気はないみたいだな。まあいいさ。あんまり簡単に手に入ったんじゃあ、面白味がねぇしな!」
「―――っ!!」
その刹那、実は直感だけでユエを抱いて床を蹴っていた。
遅れて、さっきまで自分がいた場所を何かが横切る音がする。
「へぇ、よく避けられたな。」
ヴィードは、にやりと笑って剣を振った。
「ドラード。ユエを連れて、俺らから離れろ。」
危険を感じ取って全身を緊張させる実は、早口にドラードへ命じた。
ドラードが固い表情で頷いて、ユエと一緒に離れていく。
ヴィードはそれを邪魔することなく、ただ見送るだけだった。
どうやら、今の彼はこちらにしか関心がないらしい。
「お前を見つけたのはラッキーだったぜ。そこのところは、死に損なったユエを褒めてやってもいいな。ユエを追ってわざわざここまで来るとか、どれだけお人好しなんだか。」
嘲るように言い、ヴィードは腰にかかるもう一本の剣を抜いた。
そして、それを実に投げる。
「?」
「構えろよ。」
剣を取り上げつつも懐疑的な視線を投げかける実に対し、ヴィードは自分が持つ剣で実を指し示す。
「さっきのは、ただのテストだ。あんなのも避けられないような弱い奴なら、いくら〝鍵〟でも利用価値はないと思ってたが、そこそこやるみたいだからな。丸腰の奴を屈服させるのは、オレの趣味じゃない。」
ヴィードの笑みが、不気味に深まる。
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