世界の十字路

時雨青葉

文字の大きさ
604 / 714
第4章 接触

情報という名の撒き餌

しおりを挟む

(なるほど、そうきたか……)


 それぞれがソファーに座った後、尚希は内心とは真逆の穏やかな表情を浮かべてワイリーを見つめる。


 表立った交流をけるニューヴェルの人間に接触するために、元々交流のあったベトラを間に入れることを選んだか。


 確かに、こういう手を使われると、こちらとしては面会を拒むことができない。


 ベトラも、こんな社交の場に来てまで、自分が他人との交流を拒むとも思っていないだろう。


 もしかしたら、ベトラはアイレン家へ繋がるパイプ役として、最初からワイリーに目をつけられていたのかもしれない。


「それにしても、ニューヴェルの方がいらっしゃったとは聞いていましたが、こんなにお若いお二人だったとは思いませんでしたよ。」


「ええ、そうですね。ここに来てから、多くの方に言われました。期待外れでしたら申し訳ありませんが……」


 食えない奴だ。
 愛想よく受け答えをしながら、尚希は思う。


 好意的な笑顔を浮かべてはいるものの、その裏にいくつも仄暗ほのぐらい魂胆を持っているように見える。


 実を捕らえている人間かもしれないという先入観がそう見せるのかもしれないが、ワイリーの隣にいるベトラの純な笑顔とは明らかに違うのだ。


 しかも―――


「………」


 ちらりと、尚希はワイリーの手元に目をやる。


 そこには、すい色の石がはめられた指輪があった。
 細やかなつた模様が刻まれたその指輪には、見覚えがある。


 あれは、魔法返しの指輪だ。


 元は魔法を使用した犯罪から身を守る目的で作られたもので、害意のある魔法が使用された時にその効果を術者へ返す効果がある。


(オレたちへの対策はしてあるってことか……)


 アズバドルの人間を呼ぶということもあって、それ相応の対策はしているようだ。


(油断ならないな。)


 小さく息をついた尚希は、目の前で湯気を上げる紅茶を眺める。


 彼は、この湯気のように実体が掴めない。


 こちらの警戒心を知っているのか知らないのか、ワイリーはあくまでもにこやかに笑いかけてくる。


「いやいや、逆に感心したんですよ。その若さでニューヴェルの名を背負ってこういう場に出てくるなんて。私たちのような年代の人間ばかりに捕まって、正直居心地が悪かったでしょう? それなのに、周りに引けを取らず堂々としていたと聞いて、これは一度お会いせねばと思ったのです。ニルケーウォル伯爵には、無理を言ってしまったけれど……」


「いえ、本来なら私の方からご挨拶に伺うべきだったところを、わざわざご足労いただいてしまって申し訳ありません。明日にでも伺おうかとは思っていたのですが、遅かったようですね。」


 茶目っ気を含めて言うと、ワイリーの隣に座るベトラがほっと息をつくのが分かった。


 やはり彼は、ワイリーを連れてきたことが自分を不愉快にさせたのではないかと、多少なりとも気にしていたようだ。


 こう言ったことで、彼が抱えていた心労の大体は取り去ってやれただろう。


 元々、これを機にアイレン家の方向性を変えていくつもりだったのだ。
 付き合いが長いベトラには、変な気遣いをさせたくない。


「……さすが、あのニューヴェルを率いているだけのことはありますね。」


「キース君の優秀さは、私が保証するよ。小さい頃から、キース君には商売人ならではの悪知恵がきちんと身についていたからね。私も、いつ言い負かされる日が来ることか。」


 尚希がさして気にしていないことが分かったのか、ベトラの口調が一気に明るくなった。


 ……が、その分いくらか口が軽くなっているようだ。


 彼はそのまま、上機嫌でワイリーにこちらのことを話そうとする。


「お二人とも、買い被りすぎですよ。」


 尚希は苦笑を浮かべて、やんわりと二人を制する。


 本人がいるということもあって、このままでは気をよくしたベトラが何を言い出すか分かったもんじゃない。


 だが、向こうに食いついてもらうためには、多少は情報を漏らさなければならない。


 それは計算の内だし、覚悟もできている。


「私は、まだ領主補佐の立場なんです。近年の功績は代理人が築いたものですし、そんなに持ち上げないでください。」


「でも、君がこんなおおやけの場に訪れたということは、君が領主を正式に継ぐのも時間の問題なんだろう?」


 予想したとおりの言葉をベトラが口にする。
 そして、それにワイリーが目を丸くして話に割って入ってきた。


「そうなんですか?」


 興味津々といった様子で、ワイリーが尚希を見つめる。


「ええ、まあ……」


 尚希は控えめに頷いた。


「先代の父が死んでから、かなり経ちますからね…。周りも、いつまでも代理を立てていないで、早く次の領主に収まれとうるさくて。」


「先代は、すでに亡くなられていたのですか…?」


「ええ。父が亡くなってからは親戚が一時的に領主を務めていましたが、その親戚も十年前に亡くなっています。それからは、私が指名した代理人が領主の仕事をしている状態です。」


 少し込み入った事情を話すだけで、ワイリーの表情が面白いほどに変わっていく。


「そんな……全く知りませんでした。」
「それが、私たちのやり方ですから。」


 尚希は穏やかな表情に、少しだけ意地悪い笑みを交える。


「私たちが掲げるのは平等な商売です。それを守るために、アイレン家は個人的な交流というものを徹底的にけてきました。情に走って、人々を取り締まることに必要な客観的視点を曇らせないために。」


「なるほど……」


「まあ、それでわいなどが完璧に払拭できているとは断言できませんが…。それでも、ニューヴェルが他の貿易都市よりも安定的な治世だということには自信があります。仮に個人的な交流があったとしても、仕事においての優遇は一切ありません。それは、ニルケーウォル伯爵がよくご存じだと思います。」


 ワイリーが、確認するような仕草でベトラに視線を向ける。
 それにを受けて、ベトラは深く首を縦に振った。


 アイレン家のような強い権力を持つ家が外部からの介入をけるには、周りが納得できるだけの理由がる。


 リラステの存在を隠すために、アイレン家はそういう方針を取ることで表面上の平静を装った。


 代々の領主が短期間で変わってしまうことも、普通に周りと接していたら大問題になっただろう。


 それが今の今までまかり通っていたのも、平等という理想を掲げて徹底的に自らを隔絶してきた結果なのだ。


 もちろん、その理想が認められるだけの力量を先祖が持っていたことも大きな要因だが、それだけではないことを自分自身も実感している。


「こういうことです。」


 尚希は最後に、ワイリーに対して裏を含ませた表情で笑いかけた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
コミカライズ企画進行中です!! 2巻2月9日電子版解禁です!! 紙は9日に配送開始、12日発売! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&2巻出版!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、コミカライズ決定いたしました!現在企画進行中!!そしてオリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 12日には、楽天koboにおいてファンタジー5位となりました!皆様のおかげです! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 オリコンランキングライトノベル 週間BOOKランキング 18位(2025年9月29日付)

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……

buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。 みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話

ぐだな
ファンタジー
車を買ったその日に事故にあった島屋健斗(シマヤ)は、どういう訳か車ごと異世界へ転移してしまう。 異世界には剣と魔法があるけれど、信号機もガソリンも無い!危険な魔境のど真ん中に放り出された島屋は、とりあえずカーナビに頼るしかないのだった。 「目的地を設定しました。ルート案内に従って走行してください」 異世界仕様となった車(中古車)とペーパードライバーの運命はいかに…

底辺から始まった俺の異世界冒険物語!

ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
 40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。  しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。  おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。  漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。  この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

処理中です...