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第4章 接触
これまでとは違う拓也の姿
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尚希よりも先に動いたのは拓也だった。
拓也はやんわりとホーストンを制すと、ドアノブに手をかけて音も立てずにドアを開く。
「どうぞ。」
穏やかな微笑みを浮かべ、どこか優雅な仕草でホーストンたちを促す拓也。
そんな拓也に、尚希はしこたま驚いてしまう。
これまでの拓也は無愛想かつ攻撃的だったもので、周囲からのイメージは〝怖い〟や〝手に負えない猛獣〟といったところに収束していた。
それが今はどうだ。
高度な教養が見て取れる慇懃な態度と仕草には、ものすごい品格をが漂っている。
それに加えて、今のように物腰柔らかな雰囲気で笑えば、かなりとっつきやすい印象になるではないか。
将来的には城への登用がほとんどである知恵の園では、貴族や社交場に対応するためのマナー教育は必須だった。
確かに必須だったのだが、あの拓也がそれをここまでマスターしていたなんて。
というか、そんな態度が取れるならもっと早くやってくれ。
そうすれば、知恵の園で無駄に敵を作らずに済んだものを。
まさか、実が絡んでいるから?
実のためなら、そういう猫も被れるということなので?
だとすれば、おそるべし実効果。
(ティルと実って、相性ピッタリなのかもな……)
しみじみと、そんなことを思った。
「あ、ありがとう。」
拓也に戸惑いながらも、ホーストンが談話室へと入っていく。
「優秀な方を従えていますね。」
「……私としては、彼に執事まがいのことをさせるつもりで同行を命じたわけではないんですけどね。」
溜め息混じりにそう零しつつ、ジルフォードに続いて尚希も部屋に入った。
「ジルフォード殿、遅かったではないか。」
「おや、その子は話題の子じゃないか。」
談話室には、すでに何人かの先客がいたらしい。
部屋の中を見渡して、尚希は表に出かかった動揺を間一髪で押し殺した。
そこで待ち構えていた人々が、皆一様にこちらへ視線を注いでいる。
「………」
尚希は黙って、目だけでその人々を確認していく。
機器製造に精通している者、レイキーの政治に関わっている者など。
大臣クラスとまではいかないものの、そうそうたるメンバーが揃っていた。
これは、嫌でも背筋が伸びる。
「ふふ、驚かせてしまったみたいだね。」
表情を固くした尚希に、ジルフォードが笑い声を漏らした。
「そんなにかしこまらなくても大丈夫だよ。」
「ほら、ここに座りなさい。君のことは、私たちも非常に興味深いところなんだ。」
「……はい。」
さすがに気が進まなかったが、背後の扉は固く閉ざされている。
乗ってしまった船だ。
今さら岸には戻れない。
尚希は腹をくくって、前へと踏み出した。
それからの話で分かったことはいくつかあった。
近年のレイキーでは、王族と一部の大臣たちの間で意見の相違があるらしいこと。
国内外の流通に、国が厳しく規制をかけていること。
ワイリーが新しい仕組みの機械開発に携わっていること。
彼らは時おり尚希のことに触れつつも、様々な話を交わしている。
―――おかしい。
尚希は、そう感じずにはいられない。
こちらは初めて彼らの輪の中に入っているのだ。
今目の前で交わされている話は、そんな新参者の前で平然とする話ではない。
しかも、ニューヴェルは形式上とはいえアズバドルに属している。
これでは、他国に自国の情報を漏洩しているようなものだ。
これは、明らかに裏がある。
「そういえば、キース君はいつまでここに滞在している予定かね?」
「え…? あ……予定では、明朝にここを出発しようかと。せっかくレイキーまで来たので、見ておきたいものが他にもありますし……」
考え事をしていたところに突然話を振られて焦ったが、尚希はなんとかそう答える。
すると―――
「明朝!?」
人々の表情が、ガラリと変わった。
「そんな、もったいない。」
「この様子だと、ラルス侯爵から何も聞かされていないぞ。」
「侯爵は何をしているのだ!」
「こんな絶好の機会を……」
口々にざわめく彼らに、尚希はひどく狼狽する。
「ふむ…。ワイリー様は、キース君に例のことをお楽しみに取っておいているようだね。」
何も言えずに硬直する尚希をフォローするように口を開いたのは、ジルフォードだった。
「……例のこと?」
現状を飲み込めない尚希は、ただそう返すしかない。
そんな尚希に、ジルフォードがこんなことを訊ねた。
「失礼だが、キース君。君の招待状に落とされていた蝋の色は?」
「えっ……蝋!?」
予想外の問いに驚きながらも、尚希は記憶を手繰る。
「えっ…と……確か、黒だったと思います。」
そうだ。
大体こういう手紙に落とす封蝋は赤がスタンダードなので、珍しいなと思ったのを覚えている。
そして、尚希が答えた途端、また周囲の様子が激変した。
にやり、と。
その場にいる全員が、口の端を吊り上げたのだ。
その笑顔は、どれもが裏を含んだ怪しいもの。
「………っ」
ぞっと。
背筋を、怖気に似たものが蛇のようにうねって降りていった。
言葉をなくす尚希に、ジルフォードが告げる。
「安心しなさい、キース君。君は、こちら側の人間だ。」
「………気持ち、悪い……」
隣の拓也が真っ青な顔で呟くのを、尚希は戸惑いに揺れる頭で聞いていた。
拓也はやんわりとホーストンを制すと、ドアノブに手をかけて音も立てずにドアを開く。
「どうぞ。」
穏やかな微笑みを浮かべ、どこか優雅な仕草でホーストンたちを促す拓也。
そんな拓也に、尚希はしこたま驚いてしまう。
これまでの拓也は無愛想かつ攻撃的だったもので、周囲からのイメージは〝怖い〟や〝手に負えない猛獣〟といったところに収束していた。
それが今はどうだ。
高度な教養が見て取れる慇懃な態度と仕草には、ものすごい品格をが漂っている。
それに加えて、今のように物腰柔らかな雰囲気で笑えば、かなりとっつきやすい印象になるではないか。
将来的には城への登用がほとんどである知恵の園では、貴族や社交場に対応するためのマナー教育は必須だった。
確かに必須だったのだが、あの拓也がそれをここまでマスターしていたなんて。
というか、そんな態度が取れるならもっと早くやってくれ。
そうすれば、知恵の園で無駄に敵を作らずに済んだものを。
まさか、実が絡んでいるから?
実のためなら、そういう猫も被れるということなので?
だとすれば、おそるべし実効果。
(ティルと実って、相性ピッタリなのかもな……)
しみじみと、そんなことを思った。
「あ、ありがとう。」
拓也に戸惑いながらも、ホーストンが談話室へと入っていく。
「優秀な方を従えていますね。」
「……私としては、彼に執事まがいのことをさせるつもりで同行を命じたわけではないんですけどね。」
溜め息混じりにそう零しつつ、ジルフォードに続いて尚希も部屋に入った。
「ジルフォード殿、遅かったではないか。」
「おや、その子は話題の子じゃないか。」
談話室には、すでに何人かの先客がいたらしい。
部屋の中を見渡して、尚希は表に出かかった動揺を間一髪で押し殺した。
そこで待ち構えていた人々が、皆一様にこちらへ視線を注いでいる。
「………」
尚希は黙って、目だけでその人々を確認していく。
機器製造に精通している者、レイキーの政治に関わっている者など。
大臣クラスとまではいかないものの、そうそうたるメンバーが揃っていた。
これは、嫌でも背筋が伸びる。
「ふふ、驚かせてしまったみたいだね。」
表情を固くした尚希に、ジルフォードが笑い声を漏らした。
「そんなにかしこまらなくても大丈夫だよ。」
「ほら、ここに座りなさい。君のことは、私たちも非常に興味深いところなんだ。」
「……はい。」
さすがに気が進まなかったが、背後の扉は固く閉ざされている。
乗ってしまった船だ。
今さら岸には戻れない。
尚希は腹をくくって、前へと踏み出した。
それからの話で分かったことはいくつかあった。
近年のレイキーでは、王族と一部の大臣たちの間で意見の相違があるらしいこと。
国内外の流通に、国が厳しく規制をかけていること。
ワイリーが新しい仕組みの機械開発に携わっていること。
彼らは時おり尚希のことに触れつつも、様々な話を交わしている。
―――おかしい。
尚希は、そう感じずにはいられない。
こちらは初めて彼らの輪の中に入っているのだ。
今目の前で交わされている話は、そんな新参者の前で平然とする話ではない。
しかも、ニューヴェルは形式上とはいえアズバドルに属している。
これでは、他国に自国の情報を漏洩しているようなものだ。
これは、明らかに裏がある。
「そういえば、キース君はいつまでここに滞在している予定かね?」
「え…? あ……予定では、明朝にここを出発しようかと。せっかくレイキーまで来たので、見ておきたいものが他にもありますし……」
考え事をしていたところに突然話を振られて焦ったが、尚希はなんとかそう答える。
すると―――
「明朝!?」
人々の表情が、ガラリと変わった。
「そんな、もったいない。」
「この様子だと、ラルス侯爵から何も聞かされていないぞ。」
「侯爵は何をしているのだ!」
「こんな絶好の機会を……」
口々にざわめく彼らに、尚希はひどく狼狽する。
「ふむ…。ワイリー様は、キース君に例のことをお楽しみに取っておいているようだね。」
何も言えずに硬直する尚希をフォローするように口を開いたのは、ジルフォードだった。
「……例のこと?」
現状を飲み込めない尚希は、ただそう返すしかない。
そんな尚希に、ジルフォードがこんなことを訊ねた。
「失礼だが、キース君。君の招待状に落とされていた蝋の色は?」
「えっ……蝋!?」
予想外の問いに驚きながらも、尚希は記憶を手繰る。
「えっ…と……確か、黒だったと思います。」
そうだ。
大体こういう手紙に落とす封蝋は赤がスタンダードなので、珍しいなと思ったのを覚えている。
そして、尚希が答えた途端、また周囲の様子が激変した。
にやり、と。
その場にいる全員が、口の端を吊り上げたのだ。
その笑顔は、どれもが裏を含んだ怪しいもの。
「………っ」
ぞっと。
背筋を、怖気に似たものが蛇のようにうねって降りていった。
言葉をなくす尚希に、ジルフォードが告げる。
「安心しなさい、キース君。君は、こちら側の人間だ。」
「………気持ち、悪い……」
隣の拓也が真っ青な顔で呟くのを、尚希は戸惑いに揺れる頭で聞いていた。
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