653 / 714
第1章 ウェールの民
双蓮の種
しおりを挟む
ひとまず、拓也がクルオルに殴りかかるような展開にはならなそうだ。
それを肌で感じ取って、実は思わずほっと胸をなで下ろした。
「とは言っても……」
拓也は眉を寄せ、クルオルの持つ箱の中をしげしげと見つめる。
「おれたちは、具体的に何をすればいいんだ? 単純に人捜しっていうわけでもないだろう。実際のところ、これがなんなのかって疑問も解決してないし。」
「見た目はただの種だよな。」
拓也の警戒が解けたことで、尚希も興味深そうな様子で拓也の後ろから箱の中を覗き込んだ。
クルオルは目を伏せる。
「申し訳ありません。私も、詳しいことは何も知らないもので。よろしければ、お手に取ってみますか? 私たちにはない力を持つあなた方になら、双蓮の種が何なのか分かるかもしれません。」
すでに調べる気満々だったのか、クルオルが差し出した箱を尚希が真っ先に受け取っていった。
尚希は箱の中に収まる種を丁寧な手つきで掴み、まじまじと観察する。
「微かに、何かの力の波動を感じるな。ただの種ってわけではなさそうだ。触れた瞬間に少し光が強くなったってことは、魔力に反応してるのか?」
尚希の言うとおり、種は尚希の指先に触れた瞬間、わずかにその光を強くした。
次に種が尚希から拓也の手に渡ると、種は一度明度を落としてから再び淡い光を放つ。
「特に精霊が反応しているような感じもないな。感じる力も、本当に微かだ。」
考え込むように眉根を寄せていた拓也だったが、しばらくして諦めたように肩を落とした。
そして、くるりと実の方を振り返る。
「実。実なら、何か分かるか? おれじゃあ、この力が何か探れねぇわ。」
拓也が差し出してきたそれを、実はまずじっと見つめた。
その小さな種子からは、二人が言うように小さな力のさざめきが見えた。
種を中心に、独特の力が波紋を作って空気中へと溶けていく。
しかしその力はかなり微弱で、こうして注意して見なければ、種に力が宿っていることすら分からなかっただろうと思う。
「……ん?」
ふと、波紋を作る力とは全く違う力の流れを察知する。
「実?」
「あ、いや……」
拓也に声をかけられ、実は口元に手をやりながら口を開く。
「多分、何かしらの植物っていうのは間違いない、かな。サルフィリアの力の波動に少し似てるもん。でも、なんかちょっと違うんだよね…。まあ、さっきから拓也の力を吸い取ってるから、サルフィリアと同じように魔力を養分にして育つものなのかもね。サルフィリアが聖域の魔力を養分にしてるなら、これはまた別の自然物の力を養分にしてるのかな。」
実の言葉に、拓也が目をまんまるにして種を凝視した。
拓也がそんな反応をするということは、拓也自身に魔力を吸われている感覚はないのだろう。
実は拓也の手から種を拾い上げる。
すると、種はその光を明らかに強いものにしてから、仄かな光に戻った。
「ふーん。魔力の質にも敏感なんだ……」
実は、すっと目を細める。
尚希が触れた時には、種は一度光を強くして微かな光になった。
それが拓也の手に渡ると一度は明度を落としたものの、拓也が手に持っている間の光は尚希の時よりは明るいものだった。
尚希が早撃ちなどの瞬発力を問われる魔法を得意とするのに対し、拓也は召喚術や封術などといった一定の魔力を持続させる大がかりな魔法でその本領を発揮する。
魔力的な二人の違いを、この小さな種は見事に表現していた。
物は試しだと、腕輪を外して種に魔力を込めてみる。
しかし、サルフィリアのように簡単には育たないようで、種は発する光を強めるだけだった。
「サルフィリアみたいにはいかないか。これ以上は、俺にも分からないや。」
「いや、それだけ分かれば十分だろ。」
相変わらずの実の分析力に、拓也も尚希も感心している。
実はそれを空気のように無視して、クルオルに種を返した。
「ごめん。やっぱり、俺たちでもこれが何かまでは分からないみたい。」
「そうですか…。こちらも、無理を言って申し訳ありませんでした。」
クルオルは種を箱の中へと戻す。
その動作を、何故か実はじっと見つめていた。
「……何か?」
実の視線に気付いたクルオルが、首を傾げて訊ねてくる。
それに実は何も答えず、食い入るように小箱を見つめるばかり。
思案げに細められた茶色い瞳が流れるように動き、壁のレリーフを捉える。
今度はレリーフをしばし見つめた実は、やがて静かに目を閉じた。
「いや、なんでもない。多分、気のせいだと思う。」
全員から怪訝そうな視線を受ける中、実はそう言って首を横に振るのだった。
それを肌で感じ取って、実は思わずほっと胸をなで下ろした。
「とは言っても……」
拓也は眉を寄せ、クルオルの持つ箱の中をしげしげと見つめる。
「おれたちは、具体的に何をすればいいんだ? 単純に人捜しっていうわけでもないだろう。実際のところ、これがなんなのかって疑問も解決してないし。」
「見た目はただの種だよな。」
拓也の警戒が解けたことで、尚希も興味深そうな様子で拓也の後ろから箱の中を覗き込んだ。
クルオルは目を伏せる。
「申し訳ありません。私も、詳しいことは何も知らないもので。よろしければ、お手に取ってみますか? 私たちにはない力を持つあなた方になら、双蓮の種が何なのか分かるかもしれません。」
すでに調べる気満々だったのか、クルオルが差し出した箱を尚希が真っ先に受け取っていった。
尚希は箱の中に収まる種を丁寧な手つきで掴み、まじまじと観察する。
「微かに、何かの力の波動を感じるな。ただの種ってわけではなさそうだ。触れた瞬間に少し光が強くなったってことは、魔力に反応してるのか?」
尚希の言うとおり、種は尚希の指先に触れた瞬間、わずかにその光を強くした。
次に種が尚希から拓也の手に渡ると、種は一度明度を落としてから再び淡い光を放つ。
「特に精霊が反応しているような感じもないな。感じる力も、本当に微かだ。」
考え込むように眉根を寄せていた拓也だったが、しばらくして諦めたように肩を落とした。
そして、くるりと実の方を振り返る。
「実。実なら、何か分かるか? おれじゃあ、この力が何か探れねぇわ。」
拓也が差し出してきたそれを、実はまずじっと見つめた。
その小さな種子からは、二人が言うように小さな力のさざめきが見えた。
種を中心に、独特の力が波紋を作って空気中へと溶けていく。
しかしその力はかなり微弱で、こうして注意して見なければ、種に力が宿っていることすら分からなかっただろうと思う。
「……ん?」
ふと、波紋を作る力とは全く違う力の流れを察知する。
「実?」
「あ、いや……」
拓也に声をかけられ、実は口元に手をやりながら口を開く。
「多分、何かしらの植物っていうのは間違いない、かな。サルフィリアの力の波動に少し似てるもん。でも、なんかちょっと違うんだよね…。まあ、さっきから拓也の力を吸い取ってるから、サルフィリアと同じように魔力を養分にして育つものなのかもね。サルフィリアが聖域の魔力を養分にしてるなら、これはまた別の自然物の力を養分にしてるのかな。」
実の言葉に、拓也が目をまんまるにして種を凝視した。
拓也がそんな反応をするということは、拓也自身に魔力を吸われている感覚はないのだろう。
実は拓也の手から種を拾い上げる。
すると、種はその光を明らかに強いものにしてから、仄かな光に戻った。
「ふーん。魔力の質にも敏感なんだ……」
実は、すっと目を細める。
尚希が触れた時には、種は一度光を強くして微かな光になった。
それが拓也の手に渡ると一度は明度を落としたものの、拓也が手に持っている間の光は尚希の時よりは明るいものだった。
尚希が早撃ちなどの瞬発力を問われる魔法を得意とするのに対し、拓也は召喚術や封術などといった一定の魔力を持続させる大がかりな魔法でその本領を発揮する。
魔力的な二人の違いを、この小さな種は見事に表現していた。
物は試しだと、腕輪を外して種に魔力を込めてみる。
しかし、サルフィリアのように簡単には育たないようで、種は発する光を強めるだけだった。
「サルフィリアみたいにはいかないか。これ以上は、俺にも分からないや。」
「いや、それだけ分かれば十分だろ。」
相変わらずの実の分析力に、拓也も尚希も感心している。
実はそれを空気のように無視して、クルオルに種を返した。
「ごめん。やっぱり、俺たちでもこれが何かまでは分からないみたい。」
「そうですか…。こちらも、無理を言って申し訳ありませんでした。」
クルオルは種を箱の中へと戻す。
その動作を、何故か実はじっと見つめていた。
「……何か?」
実の視線に気付いたクルオルが、首を傾げて訊ねてくる。
それに実は何も答えず、食い入るように小箱を見つめるばかり。
思案げに細められた茶色い瞳が流れるように動き、壁のレリーフを捉える。
今度はレリーフをしばし見つめた実は、やがて静かに目を閉じた。
「いや、なんでもない。多分、気のせいだと思う。」
全員から怪訝そうな視線を受ける中、実はそう言って首を横に振るのだった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
コミカライズ企画進行中です!!
2巻2月9日電子版解禁です!!
紙は9日に配送開始、12日発売!
【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&2巻出版!】
皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、コミカライズ決定いたしました!現在企画進行中!!そしてオリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました!
12日には、楽天koboにおいてファンタジー5位となりました!皆様のおかげです!
本当に、本当にありがとうございます!
皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。
市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です!
【作品紹介】
欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。
だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。
彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。
【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc.
その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。
欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。
気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる!
【書誌情報】
タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』
著者: よっしぃ
イラスト: 市丸きすけ 先生
出版社: アルファポリス
ご購入はこちらから:
Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/
楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/
【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞
復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞
オリコンランキングライトノベル 週間BOOKランキング 18位(2025年9月29日付)
【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……
buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。
みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……
[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。
底辺から始まった俺の異世界冒険物語!
ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。
しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。
おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。
漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。
この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――
ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話
ぐだな
ファンタジー
車を買ったその日に事故にあった島屋健斗(シマヤ)は、どういう訳か車ごと異世界へ転移してしまう。
異世界には剣と魔法があるけれど、信号機もガソリンも無い!危険な魔境のど真ん中に放り出された島屋は、とりあえずカーナビに頼るしかないのだった。
「目的地を設定しました。ルート案内に従って走行してください」
異世界仕様となった車(中古車)とペーパードライバーの運命はいかに…
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~
石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。
ありがとうございます
主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。
転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。
ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。
『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。
ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする
「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる