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第3章 何に代えても貫きたい想い
彼にしか訊けないこと
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実は戸惑う。
まさか、謝られるとは予想していなかったからだ。
「な……なんだよ、急に。」
こうして突然態度を変えられると、こちらの調子が狂ってしまうではないか。
訊ねる実の小さな動揺をよそに、ノルンは沈んだ声のまま続ける。
「巻き込んでしまってすまなかったと言っているのだ。本来なら、お前たちには何も気付かせることなく、我らだけで守り抜くつもりだった。ただでさえ協力してもらっているのに、それに加えて自分の身を守れと言うのはあまりにも申し訳ないだろう? お前たちには、あくまでも客人でいてもらうつもりだったのだ。……だが、虚しいな。今の私は、あまりにも無力だ。」
ノルンは自嘲的に笑った。
囁きのように微かな笑い声が、実の脳内だけに響いて消える。
「……まあ、こうなっちゃったのは仕方ないんじゃないの? 真相を吐かせたのも俺なら、そもそも頼みを引き受けたのも俺なんだし。」
少し悩んだ後に、実はそっけなくそう返した。
すると、その言葉を聞いたノルンの笑い声に若干の明るさが戻る。
「クルオルから聞いたよ。自分からクルオルを招き入れたそうだな。このお人好しめが。」
「なんだよ。そのおかげで、今こうして順調に事が進んでるんだろ?」
「まったくもってそのとおりだな。」
事実を突いてやると、ノルンは溜め息混じりにそう呟いた。
そして、ふと一呼吸。
「……ここにお前を連れてきたのは、効率的に月の力を取り入れるためだ。ここに差し込んでくる月の光は、清浄で力も強い。体のつらさも緩和されよう。好きな時に訪れるといい。」
「そっか。だから、ここの光はこんなに気持ちいいんだね。」
そういうことなら、大いに利用させてもらうとしよう。
実は大きく伸びをすると、双蓮の花の周囲に浮かんでいる大きな葉の一枚に腰を下ろした。
蓮の葉はその薄さに見合わず、実を乗せたまま何事もないかのように浮かんでいる。
「……なあ。」
差し込む月の光を眺めながら、実はふと口を開く。
「なんだ?」
「躊躇うなよ。」
低く告げると、途端にノルンが息を飲んで言葉を失うのが分かった。
きっと、今の彼は強がって笑うこともできないだろう。
自分は、それだけのことを言ったのだから。
「あんたは自分のことを無力だって言ったけど、それでもウェールの民を束ねる長なんだ。なら、どんな相手でも躊躇うな。気の毒だとは思うけど、俺だってそう何度も協力はできないんだから。それに……また殺されたくはないでしょ?」
ノルンが今置かれている立場は、残酷なほど慈悲のない場所だ。
彼がこれからしなければならないことを思うと、さすがに自分も胸が痛む。
それでも、彼はやるしかないのだ。
民の平穏を守るために、大切なものを自分の手で切り捨てなければならない。
それが、どんなにつらくても。
「……分かっている。それが、私の責務だ。」
寂しげにそう零したノルンは、次に苦笑する。
「確かにお前の言うとおり、あんな思いは何度もしたくないな。」
それは、間違いなく本心なのだろう。
いやにあっさりとしたその声は、言外にもうこりごりだと訴えているように聞こえた。
「………」
実は、次の言葉を探して黙する。
……いや。
本当は、次の言葉などもう決まっているのだ。
だけど、それはすぐに言う決心がつかない内容で。
言ってしまいたい衝動が口腔の一歩手前まで込み上げてきては、理性が全力でそれを自分の内側へと押し返す。
それでも……
「………ねえ、こうなったのも何かの縁だからさ……すっごく不躾だけど、一つ聞かせてくれない?」
意を決して、実はノルンに問いかけた。
こんなことを訊いてはいけないのだと、それは十分に理解している。
だから、ノルンの話を聞いてからというもの、こう訊きたい衝動を押し殺しながらずっと迷って悩んできた。
―――でも、訊かずにはいられないのだ。
この問いに答えられるのは、後にも先にもノルンだけだろうから……
「殺されるのって……どんな気持ち?」
「………っ」
ゆっくりと吐き出された言葉に、さすがのノルンも言葉をつまらせて息を飲んでいるようだった。
当然だ。
誰がこんなことを質問されると予想できただろう。
とうとう言ってしまった気まずさと罪悪感が半分。
答えを渇望する気持ちが半分。
それらを抱え込んで、実は折り曲げた膝に自分の頭をうずめた。
返ってくる沈黙が、ナイフのように胸を抉る。
やっぱり、訊かなければよかったかもしれない。
ほんのちょっとだけ、後悔が脳裏をよぎった。
「……何故、そんなことを訊くのだ?」
長い沈黙の末、ノルンはそんなことを訊いてきた。
問われた側からすれば、それは至極当然の疑問だろう。
しかし、実はそれに答えることができなかった。
卑怯なのは分かっている。
こんな残酷な質問をしておいて、そう訊ねる理由は言えないだなんて。
でも……言えるわけがないじゃないか。
臓腑を引っ掻き回すようなこの恐怖を。
胸の中にわだかまるこの虚無感を。
脳裏を真っ黒に塗り潰すこの願望を。
言ったが最後―――きっともう、自分の衝動を止められなくなってしまう。
「………」
実は沈黙を貫き通す。
その沈黙が他でもない自分自身を傷つけていると分かっていても、自分が引き寄せた展開だ。
ここは、何がなんでも耐えるしかない。
「……分かった。」
テコでも動きそうにない実の態度に、ノルンの方が先に折れた。
そして、まるで遠い過去のことでも話すように語り始める。
「なんだろうな。不思議と、恐怖はなかったぞ。強いて言うなら……ただ、悲しかったな。痛みも怒りも、疑問も感じなかった。本当に、ただただ悲しくて切なかった。それだけだ。」
「悲しくて……切ない……か…………」
実はわずかに顔を上げ、虚ろな気持ちでノルンの言葉をなぞった。
初めて殺されかけた時に感じたのは、そこはかとない恐怖だった。
そして今、命を狙われる度に感じるのは淡い期待と妙な脱力感。
しかし、一度殺されたノルンが感じたのは悲しさと切なさだという。
(じゃあ、俺もいつかは……)
ぼんやりとそう思いながら、実はまた膝を抱えた。
まさか、謝られるとは予想していなかったからだ。
「な……なんだよ、急に。」
こうして突然態度を変えられると、こちらの調子が狂ってしまうではないか。
訊ねる実の小さな動揺をよそに、ノルンは沈んだ声のまま続ける。
「巻き込んでしまってすまなかったと言っているのだ。本来なら、お前たちには何も気付かせることなく、我らだけで守り抜くつもりだった。ただでさえ協力してもらっているのに、それに加えて自分の身を守れと言うのはあまりにも申し訳ないだろう? お前たちには、あくまでも客人でいてもらうつもりだったのだ。……だが、虚しいな。今の私は、あまりにも無力だ。」
ノルンは自嘲的に笑った。
囁きのように微かな笑い声が、実の脳内だけに響いて消える。
「……まあ、こうなっちゃったのは仕方ないんじゃないの? 真相を吐かせたのも俺なら、そもそも頼みを引き受けたのも俺なんだし。」
少し悩んだ後に、実はそっけなくそう返した。
すると、その言葉を聞いたノルンの笑い声に若干の明るさが戻る。
「クルオルから聞いたよ。自分からクルオルを招き入れたそうだな。このお人好しめが。」
「なんだよ。そのおかげで、今こうして順調に事が進んでるんだろ?」
「まったくもってそのとおりだな。」
事実を突いてやると、ノルンは溜め息混じりにそう呟いた。
そして、ふと一呼吸。
「……ここにお前を連れてきたのは、効率的に月の力を取り入れるためだ。ここに差し込んでくる月の光は、清浄で力も強い。体のつらさも緩和されよう。好きな時に訪れるといい。」
「そっか。だから、ここの光はこんなに気持ちいいんだね。」
そういうことなら、大いに利用させてもらうとしよう。
実は大きく伸びをすると、双蓮の花の周囲に浮かんでいる大きな葉の一枚に腰を下ろした。
蓮の葉はその薄さに見合わず、実を乗せたまま何事もないかのように浮かんでいる。
「……なあ。」
差し込む月の光を眺めながら、実はふと口を開く。
「なんだ?」
「躊躇うなよ。」
低く告げると、途端にノルンが息を飲んで言葉を失うのが分かった。
きっと、今の彼は強がって笑うこともできないだろう。
自分は、それだけのことを言ったのだから。
「あんたは自分のことを無力だって言ったけど、それでもウェールの民を束ねる長なんだ。なら、どんな相手でも躊躇うな。気の毒だとは思うけど、俺だってそう何度も協力はできないんだから。それに……また殺されたくはないでしょ?」
ノルンが今置かれている立場は、残酷なほど慈悲のない場所だ。
彼がこれからしなければならないことを思うと、さすがに自分も胸が痛む。
それでも、彼はやるしかないのだ。
民の平穏を守るために、大切なものを自分の手で切り捨てなければならない。
それが、どんなにつらくても。
「……分かっている。それが、私の責務だ。」
寂しげにそう零したノルンは、次に苦笑する。
「確かにお前の言うとおり、あんな思いは何度もしたくないな。」
それは、間違いなく本心なのだろう。
いやにあっさりとしたその声は、言外にもうこりごりだと訴えているように聞こえた。
「………」
実は、次の言葉を探して黙する。
……いや。
本当は、次の言葉などもう決まっているのだ。
だけど、それはすぐに言う決心がつかない内容で。
言ってしまいたい衝動が口腔の一歩手前まで込み上げてきては、理性が全力でそれを自分の内側へと押し返す。
それでも……
「………ねえ、こうなったのも何かの縁だからさ……すっごく不躾だけど、一つ聞かせてくれない?」
意を決して、実はノルンに問いかけた。
こんなことを訊いてはいけないのだと、それは十分に理解している。
だから、ノルンの話を聞いてからというもの、こう訊きたい衝動を押し殺しながらずっと迷って悩んできた。
―――でも、訊かずにはいられないのだ。
この問いに答えられるのは、後にも先にもノルンだけだろうから……
「殺されるのって……どんな気持ち?」
「………っ」
ゆっくりと吐き出された言葉に、さすがのノルンも言葉をつまらせて息を飲んでいるようだった。
当然だ。
誰がこんなことを質問されると予想できただろう。
とうとう言ってしまった気まずさと罪悪感が半分。
答えを渇望する気持ちが半分。
それらを抱え込んで、実は折り曲げた膝に自分の頭をうずめた。
返ってくる沈黙が、ナイフのように胸を抉る。
やっぱり、訊かなければよかったかもしれない。
ほんのちょっとだけ、後悔が脳裏をよぎった。
「……何故、そんなことを訊くのだ?」
長い沈黙の末、ノルンはそんなことを訊いてきた。
問われた側からすれば、それは至極当然の疑問だろう。
しかし、実はそれに答えることができなかった。
卑怯なのは分かっている。
こんな残酷な質問をしておいて、そう訊ねる理由は言えないだなんて。
でも……言えるわけがないじゃないか。
臓腑を引っ掻き回すようなこの恐怖を。
胸の中にわだかまるこの虚無感を。
脳裏を真っ黒に塗り潰すこの願望を。
言ったが最後―――きっともう、自分の衝動を止められなくなってしまう。
「………」
実は沈黙を貫き通す。
その沈黙が他でもない自分自身を傷つけていると分かっていても、自分が引き寄せた展開だ。
ここは、何がなんでも耐えるしかない。
「……分かった。」
テコでも動きそうにない実の態度に、ノルンの方が先に折れた。
そして、まるで遠い過去のことでも話すように語り始める。
「なんだろうな。不思議と、恐怖はなかったぞ。強いて言うなら……ただ、悲しかったな。痛みも怒りも、疑問も感じなかった。本当に、ただただ悲しくて切なかった。それだけだ。」
「悲しくて……切ない……か…………」
実はわずかに顔を上げ、虚ろな気持ちでノルンの言葉をなぞった。
初めて殺されかけた時に感じたのは、そこはかとない恐怖だった。
そして今、命を狙われる度に感じるのは淡い期待と妙な脱力感。
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魔法・魔物あり。
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恋愛要素あり。
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