世界の十字路

時雨青葉

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第3章 何に代えても貫きたい想い

待ち受けていた人物

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 いつものように、誰もが寝静まった空を一人で飛び回る。


 一日を締めくくる仕事だ。


 周囲の環境に異変は見られないか、不審な者はいないか。
 それらを注意深く観察し、何かがあればあるじに報告して指示を仰ぐ。
 それが日常だった。


 ―――だが、今は違う。


 こうして日常をなぞりながらも、決定的にいつもと違うことがある。


 主がいない。
 自分の日常において最も重要な存在が、今はいないのだ。


 それだけで、今目の前に映る景色は精巧な日常をまとった非日常になってしまっている。


「………」


 胸中に渦巻く複雑な気持ちを持て余しながら、クルオルは一人夜空を駆け抜ける。
 そうして、最後の見回り地点を目指した。


 集落がある渓谷から少し離れた場所。
 この辺りで珍しく植物が見られるここには、たっぷりと水をたたえた湖がある。
 湖面は時おり吹く風にゆらゆらとさざ波を立て、水面に映る月を揺らしていた。


 ここは、集落から人の世界へと移動できる唯一の場所だ。


「………?」


 クルオルは首を傾げる。


 眼下に広がる青い湖。
 その縁に、小さく人の姿が見えたのである。


 皆が寝静まっているこの時間に、一体誰がなんの用だというのか。


 そう警戒して下降したのだが、湖の側にたたずむその姿が明瞭になるにつれて、警戒心は薄れていった。


「こんな所で何をしているのですか? 拓也さん?」


 声をかけると、こちらに背を向けて湖を眺めていた拓也が振り向き、ふわりと穏やかな微笑を浮かべた。


「ああ、ようやく来たのか。」


 まるで、自分がここに来ることを知っていたかのような口振り。
 それに微かな違和感をいだきつつ、クルオルは周囲を見渡す。


「よくここを見つけられましたね。」


 ここは、集落からかなり離れている。


 翼がある自分たちならともかく、人間である拓也の足で簡単に来られるような場所ではない。


 それ以前に、拓也たちにはこの場所の存在すら教えていなかったはずだが……


「精霊に教えてもらったんだ。ここなら、誰にも見られないってな。」


 拓也は右手に握っていた物を一振り。


 それは、拓也の背を越えるほどもある、青から藍色へのグラデーションが美しいやりだった。


「さすがに、体がなまっちゃってさ。これから何かと物騒になりそうだし、ちょっとはほぐしておこうと思って。」


 優しげに槍をなで、拓也はふいに何かを思いついたかのように顔を上げてクルオルを見た。


「あ、そうだ。ちょっと手合わせしないか?」
「私と、ですか?」


 拓也の提案に、クルオルはわずかに目を丸くした。
 拓也は頷く。


「お前、強いんだろ? 仕草を見てれば分かる。ちょっとその腕前を見せてもらいたいな……っていうのは建前で―――」


 そのせつ、拓也の表情から笑顔が消える。


 穏やかな雰囲気はまばたき一つの間に霧散し、拓也の全身から殺気とも感じられるすさまじい闘気が噴き出す。


 激情を内包した静かな紺碧こんぺき色の双眸が、まっすぐにクルオルをとらえた。




「いい加減我慢の限界だからさ、一発殴らせてくんねぇ?」



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