世界の十字路

時雨青葉

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第6章 双蓮の花

長を定める花の前で

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 揺らめく青の世界。
 そこに足を踏み入れた皆の反応はそれぞれだった。


 実と同じような驚きを感じているらしく、両耳に手をやっている拓也。
 美しい景色に感嘆の息を漏らす尚希。


 これから何が起こるのか分からずに、視線をさまよわせているヴィオル。
 そして、周囲の景色には一切目もくれず、こちらを不安げな瞳で見つめてくるクルオル。


 ノルンはそんなクルオルに一度微笑みを向け、泉の中心に鎮座している双蓮そうれんつぼみへと歩を進めた。


 己の手に浮かんでいる小さな花を蕾の上にかざす。
 すると、花は淡く発光しながら蕾の中に吸い込まれていった。


 そこまで見届けたノルンは、静かに蕾から離れる。


 皆が息をひそめて見守る中、柔らかな月明かりを浴びる蕾に変化が訪れた。


 月光を反射するようにきらめく光が蕾の周囲を舞う。
 蕾を中心として、泉にいくもの波紋が広がっていく。


「うっ…」


 背後から、微かなうめき声。


 きっと、拓也や尚希がつぼみの力に反応しているのだろう。


 実の体を借りている自分も強すぎる蕾の力に当てられて、こうして立っているだけでもやっとの状態だ。


(人間の体とは、なかなかに大変なものだな。)


 普段は感じられない双蓮そうれんの花の力を全身に感じながら、ノルンは徐々に開いていくつぼみを見つめていた。


 やがて、青い泉の中心に巨大な蓮の花が開花する。


 ノルンは後ろを振り返り、ヴィオルを呼んだ。


「兄上、どうぞ。」
「これは……」
「これが、おさになるための儀式なのですよ。」


 ノルンは花を見下ろして静かに語る。


「百年に一度花を開くこの花の元で、長を目指す者はその覚悟と臣下の忠誠心を問われます。」


「臣下の忠誠心…?」


 訊き返すヴィオルに、ノルンは首を縦に振った。


「ええ、そうです。おさの臣下は、長の能力と意識の一部を共有することができます。その能力を授けるに値する忠誠心があるかどうかを見定められるのです。〝長を目指す者、その生涯を預けられる臣下を連れ立って儀式に挑め。〟言い伝えで語り継がれているこの言葉には、こういう意味があるのです。今回は特例ですし、臣下の忠誠心は不問にしましょう。儀式の方法は簡単ですよ。」


 そっと。
 ノルンは花に手を触れた。


「こうやって、花に触れるだけです。もし兄上がこの儀式を乗り越えられたなら、その瞬間から兄上がこの集落を治めるおさです。私は花の力を享受できずに消えるでしょう。」


「…………お前は、それでいいのか?」


 ヴィオルがかすれた声で訊ねてくる。
 それに、ノルンは少しだけ息をつまらせた。


 だが、微かな動揺を周囲に気取られる前に目を閉じた彼は、当然だと言わんばかりの仕草で頷いた。


「それが、兄上と双蓮そうれんの花のご意志ならば。」


 ノルンは手を伸ばし、近付いてきていたヴィオルの手を優しく取った。


「さあ……」


 ノルンに導かれて双蓮の花の前に立ち、ヴィオルは息を飲んで花を見つめていた。


 その瞳に渦巻いているのは微かな躊躇ためらいと、それを遥かにりょうするしっと憎しみだった。


 おそるおそる、花に手を近付けていくヴィオル。
 長い時間をかけ、彼の手と花との距離が縮んでいく。


 そして彼の手が花に触れた瞬間、周囲は花が放った光によって真っ白に染められたのだった。

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