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第6章 帰郷
無機質な攻撃性
しおりを挟む「ん?」
レティルがふいに眉を寄せる。
その視線の先には、闇にすっぽりと包まれた実が。
さて、これは何が起こったのか。
予定では、闇に飲まれた実は心を食らい尽くされて、意思のない人形と化すはずだったのだが……
レティルが見つめる中、実を包む闇がのっそりと蠢き始める。
大きく波打ち始めた闇が向かうのは、実の手。
それが腕を伝って手に集まるにつれて、実の全身が闇から姿を現していく。
やがて、アメーバのようだった闇は、小さな黒い球体へと戻って実の手に浮かんだ。
ゆらりと立ち上がる実。
実は深くうつむいたまま、無言で黒い球体をレティルに向けて放った。
実の動きに見合わず、球体は目にも止まらぬ速さで彼の脇を通り抜けていく。
次の瞬間、レティルの後ろでこれまで以上に激しい爆発が起こった。
その衝撃は、地面を大きく揺らして大量の砂煙で全員の視界を潰すほど。
「………っ」
砂煙が収まった後、 誰もが息を飲んだ。
球体が爆発したと思われる場所から半径五メートルの範囲にある木と下草が、完全に消失していたのだ。
それだけではなく、植物が消失した空間から数メートル範囲の木々が無惨に薙ぎ払われている。
そこにあった光景は、悲惨たるものだった。
「私の力を、支配するとは……」
ここで、レティルが初めて驚愕の表情を浮かべた。
「………」
実は何も答えない。
数秒後、言葉による返事の代わりか、うつむいていた顔が静かに上がった。
「―――っ!?」
その瞬間、レティル以外の全員が身をすくませた。
実の表情からは、感情という感情が消え失せていた。
瞳はぞっとするような果てしない虚無をたたえており、無機質な鏡のようにレティルを映しているだけ。
全身からは先ほどとは比べ物にならないくらいに強い、そして洗練された魔力が立ち上り、蜃気楼のように周りの景色を歪めていた。
「………っ」
あまりに巨大な力に、拓也は思わず袖口で口元を覆った。
なんとも表現し難い気分だ。
嗅覚を刺激する香りは悪意でも善意でもないのに、実の魔力からは無慈悲なほどに強烈な攻撃性を感じる。
それは、目の前の神に引けを取らない威圧感を作り上げていた。
その威圧感に押し潰されそうで息ができず、あまりにも濃密な魔力に吐き気がする。
「……だめだ。」
気付かぬうちに、そう呟いていた。
無機質な香りが訴えてくる。
今の実は、完全に自分の魔力に飲まれている。
攻撃的な魔力を無感動に振りまくだけの姿は、壊れた機械のようだ。
「実、やめろ!!」
―――ヒュンッ
叫ぶと同時に、頬に鋭い痛みが走った。
無意識に手でそこに触れると、ぬるりと濡れた感触が。
拓也は茫然と、手のひらを染めた己の血を見つめた。
「邪魔しないでよ。……死にたくないでしょ?」
とても、実のものとは思えない声。
拓也を横目に一瞥して無邪気に笑う実は、ぞっとするほどに冷たい目をしていた。
「ふふふ……」
微かな笑い声がしたのはその時。
それで全員の注目を集めたレティルは、笑いを抑えきれなくなったのか―――
「あっはははは!!」
大声をあげて笑い出した。
心から愉快そうな、この状況には到底そぐわない明るい笑い声が森に響き渡る。
「面白い。想像以上だ! お前こそ、まさに私の後継にふさわしい。気が変わったよ。もっとお前と遊んでみたくなった。お前を器にするのは、もう少し後にしよう。思う存分、この私に抵抗してみせるがいい。」
楽しそうに、レティルは笑う。
そしてその言葉を最後に、彼はサリアムを連れて去っていった。
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