中途半端な俺が異世界で全部覚えました

黒田さん信者

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「これとかさ、どうよ?」
「却下」
「まじかよ……」
 次に来たのは帽子屋。新しい帽子が欲しいと言うフェイウの意向で連れられて来たものの、ダメ出しが多すぎて困ってマス……。
「なぁなぁにーちゃん、ちょいとかむかむ!」
 そんな時、帽子を深く被った店員さんがこっそり手招きをしてくる。ん? 俺のことか?
「俺ですか?」
 悩むフェイウのもとからこっそりと抜け出し、店員さんのところへ行く。
「そうそう、にーちゃんや」
 彼女は少し苦笑いをしながら、こっそりと耳打ちしてきた。
「困ってるみたいやね、彼女さんの帽子選びに」
「はい……もう、かれこれ一時間ぐらいは悩んでいるんです……あと彼女じゃないです……」
 俺の疲れた顔を見かねたのか、店員さんはいい方法があると、俺に教えてくれた。
「にーちゃんはまだ女ゴコロがわかっていない! このままだとあと二時間は確実やね」
 女性の買い物は長い。これはもう太古からの真理である。
「まじか……お、俺は一体どうすればいいんですか!?」
 収穫祭に来たはずなのに、ここで時間を潰し過ぎるわけにはいかん!
「褒める」
 店員さんは、ぼそっと、ただ一言だけつぶやいた。
「……え?」
「これは最終手段や。でも、速いで。自分がいいと思ったものを猛プッシュするんや! 褒めちぎるんや! そうすれば彼女さんもいい気になって、そのプッシュしたものを買って、ショッピングは終わりや! にーちゃんも、彼女さんも、私も得して一石三鳥や!」
「な、なるほど……」
 勉強になります! 
「ちょっとネリアー? これどうー?」
 げ、フェイウが呼んでる!
「ほれ、呼んどるで? 行ってき、にーちゃん」
 頑張りや、とウインクをしてくれた店員さん。
「はい!」
 ありがとうございます!
 よっしゃ! 最速で決めさせてやるぜ!
「こ、これとかいいんじゃないかな?」
 早速俺が選んだ帽子は、さっきフェイウが選んだ帽子に少し似た、白く、つばが広いタイプ。
「うーん……」
 反応はイマイチ……だが、ここで終わらないぜ! 
「いやいや、とりあえず被ってみ? もしかしたら似合うかもよ?」
 褒めろ! 褒めちぎれ! 褒め言葉のラッシュだ! 実際被ればコイツ、美少女だから、なんでも似合う!
「わ、わかった、わかったから……そんなに?」
 ぶつくさ言いながらも、帽子を被ってくれる。
「ほれみろ! すっげぇ似合ってんぜ!」
 一応言っておくが、お世辞ではない。コイツ、フェイウはどんなものでも似合う。間違いない。美少女ってのはすげぇよなぁ。ほんとに得。まあ、性格は残念だけど。
「ほ、ほんと?」
「おう。その、なんだ、服とも良い相性だと思うぞ?」
 すいません、これは嘘です。俺には相性とかよくわかりません。それは、今、俺の着てる服を見てもらえばわかると思う。最低限のオシャレと言えばカッコイイかもしれないけど、ほとんど無地の服。せめてもと着たジャケットがなぜか虚しい。
「そ、そうなのかな……?」
 しかし、当の本人は露知らず。まんざらでもなさそうな顔で、帽子を脱いだり被ったりを繰り返す。
「そうだ! それがいい! 俺はそれがいい!」
 早く、早く飯が喰いたい! 俺の腹が叫んでいる。待ってくれ、もう少しだからな、俺の腹……。
「……あ、でも、お金足りなかったわ!」
 買おうと、店員さんに声をかけようとした時だった。フェイウがこの一時間をムダにするような言葉を発したのは。
「……は?」
「この帽子、すっごい高いの! ほら見て、三銀貨だって!」
 ……俺の想像を絶する値段がそこには印字されていた。
「…………むりだな、うん」
 俺は店員さんに謝って、店を出た。ほんとに何だったんだ、この一時間……?






「ふぃー、食った食ったー」
「ごちそうさまー」
 俺は手にしていた箸を皿に置く。もう食えないぜ……。
「やー、満足満足。美味しいね、ここ!」
「まあな、週一で俺はお世話になっている」
 フェイウも大満足のここは俺の行きつけの飯屋。安い割に量も多く、さらに美味い! 
「色々回ったね~」
 フェイウが食後のコル茶を飲みながら、ふぅ、と一息つく。
  いやはや本当にいろんな店を回った。俺の財布はかなり軽くなったぞ。わかるか? 主にお前に奢らされたんだよ!
「次は……」
 どこに行く? と言いかけたところで、店内がざわついた。
「なんだ?」
 俺がその方向を見ると――
「やっほー、ネリアくん、来ちゃった」
 ひらひらと俺たちに向かって、手を振る女性。
それは、いつものローブではなく、青色のワンピースを着たサイフォスさんだった。
「な、なぜに!?」
 万年引きこもり……とまでは言わないが、ほとんど外に出ないサイフォスさんが外にでるなんて!
「こーら。私だって、外に出ます。うーん、一ヶ月に一回ぐらいは? わーお、すごく外出してる!」
「いや、ほとんど出てないじゃないっすか」
 思わずツッコミを入れてしまった。インドアガチ勢である。
「ほら、言ったでしょ? 収穫祭のときに師匠が来るって」
「あー! もう今から行ったほうがいいですか?」
 しまった! 色紙置いて来ちゃったよ!
「ううん、もう少し後でいいよ。そうじゃなくて、私も収穫祭に誘って欲しかったの!」
 …………へ?
「他の女の子と遊びに行くなんて、ネリアくんのプレイボーイ!」
 褒めてるのかけなしているのかわからない言葉を頂いた。あー、それはすいません。
「あ、あの、サイフォスさん! 私、フェイウと言います。ネリアのなんというか、あー、幼なじみです!」
 しばらくポカンとしていたフェイウは、サイフォスさんに向かって自己紹介を始めた。ああ、なんかサイフォスさんに憧れてるとかなんとか言ってたな。
「ああ、フェイウちゃんね、ネリアくんからよく聞いているよ」
 サイフォスさんは思い出したように、ポンと手を叩いた。
「ほ、本当ですか!?」
 フェイウが妙なとこで食いついた。
「うん、よく俺のおやつを奪ってくるって」
 するとフェイウから、きょとんとした視線が俺に飛んできた。
「……机にいつも置いてあるおやつ、私のために用意してくれたやつじゃないの?」
「違うよ! 俺のだよ! せっかくも貰ったおやつを机の上に置くといつの間にかこつぜんと消える、棚に入れても消える、挙句の果てには自分で買ったおやつさえも消える……犯人がお前と判明するまでに、くっ、一体俺がどれだけ悲しい思いをしたか……」
 思い出すだけで悲しくなる日々。楽しみにしていたおやつが目を話した隙に消えていった苦い記憶……。
「ネリアくん、おやつなら私が作ってあげるからさ、元気だしなよ」
 サイフォスさんに慰めてもらった。はい、ありがとうございます……。っうかサイフォスさんの手作りおやつとかむしろラッキーかも! はい、切り替えの速い俺です。
「ご、ごめんねネリア……そうだ! んー」
 少し申し訳無さそうにした後、いきなり口を尖らせて、突き出して来た。
「……なに?」
 何がしたいの? タコの真似か?
「お詫びのチュー、する?」
 ……なんかすごい事言ってる!?
「馬鹿か!?」
 とりあえずフェイウの頭をチョップした。このばかちん!
 ずびし、とフェイウの頭から小気味いい音がした。
「痛い! なんで!? 美少女のキスは金貨百枚の価値があるって、お母さんが言ってたのに!?」
 涙目で俺を見てくる。何だコイツは! 馬鹿の子じゃん!
「なんで気安く自分の唇差し出してんだよ! もっと躊躇とか恥じらいとかためらいとかないのかよ!?」
「ないっ!」
 きっぱり言い切られた。ここまで断言できる人間は、そう多くないだろう。いや、多分、コイツぐらいなんじゃね……?
「お前な……」
 呆れて天を仰ぐ。ああ、なんでこんな馬鹿の子みたいに育ってしまったのか……
「こ、こんなことするのはネリアだけだもん! 他の人になんて絶対やらない! ……もん……」
と、フェイウは必死に反論するも、流石に恥ずかしさを感じたのか、最後の方は尻すぼみになった。
「……お、おう、そうか……」
 ……恥ずかしいな、この雰囲気。しかもここは沢山の人がいる飯屋、もうここ通えないぜ……。
 俺たちはお互い顔を赤くしながらそっぽを向いた。
「青春だねぇ」
 サイフォスさんはお茶をすすりながらニコニコと俺達の会話を聞いていた。
 
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