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16,旅立ち
しおりを挟む俺が家の外に大きな荷物を運び出すと、外にはソアさんと、サイフォスさんが来てくれていた。
「やっほー、見送りに来たよ」
「くふふっ、生きて帰ってこれるのかのぉ」
「怖いこと言わないでください」
今から出発する人に対してのセリフじゃないねそれ。
「じゃ、三ヶ月後ぐらいには帰って来るから」
親父、サイフォスさん、ソアさん、フェイウにひとときの別れを告げる。
挨拶も済んだし、よし、行くか! 待ってろ異世界!
俺はナナカの作り出したゲートに向けて脚を踏み出――
「ちょいまち」
「ぐえっ!」
フェイウに服の後ろを掴まれた!
「な、何!?」
苦しいんですけど!?
「ん」
フェイウは自分のほっぺたをちょいちょいとつついて、俺をじっと見つめる。
「……何?」
俺のほっぺたになんか付いてる? 麦粒とか。
「お別れのキスは?」
…………へ?
「きききききき、キス!?」
何故に!?
突拍子もないその発言に俺は驚いて飛び退いた。
「むー、いいじゃん別に、素直にキスしてくれたってさ」
……ああ! そういえば他の国ではお別れのキスというものがあったな。いつか本で読んだ気がする。頬に軽くキスするんだ。で、そのキスは、いつか必ず再会するって意味だったような……。その本、フェイウにも貸したっけ?
「そーいや、そんな風習もあったな」
「そうそう! ネリアの無事を祈って! ……ダメ、かな?」
無事を祈ってくれていることは嬉しいが、みんなの前でやる意味あるか?
…………まあ、ほっぺたにキスぐらいならいいか。減るもんじゃないし。
「……仕方ない、ほっぺただからな」
意を決してフェイウの顔に近づく。
俺の唇がほっぺたに近づく。ドキン、ドキン。鼓動がどんどん速くなる。
あ、こいつ、肌めっちゃ綺麗だな、なんて客観的に思い、自分の心を鎮める。
チュッ。唇がほんの少し肌に触れた。すごく滑らかだった。
「ほら、これでいいだろ?」
俺が聞くとフェイウは頬を真っ赤にして――
「う、うん……まさかほんとにキ、キスしてくれるなんて。ほんのちょっとした冗談だったのに……」
「おい待て、ちょっとした冗談だと?」
とんでもない事を聞いてしまった。俺のドキドキを返してくれ! 純情を弄ばれた!
「いや、まあ、いいじゃない。結局してくれたんだし」
うーむ、納得がいかん。
俺がモヤモヤしていると、さっきから俺たちのやり取りをニヤニヤしながら眺めていたサイフォスさんが手招きしてきた。
「頑張ったネリアくんには、私からキスをしてあげよう」
握手しようよぐらいの軽さで、キスを迫ってきた。
「い、いいですよ」
「遠慮するな、少年よ!」
キャラが変わってしまっている。
「はあ、じゃあ、お願いします」
どうしてだろう。美人にキスしてもらえるはずなのに、全くときめかない。
「じゃ、目をつむって」
言われた通りに目を閉じた。まあ、ほっぺただし――
ムチュッ。
…………あれ? 口内に物凄く柔らかい感触があるんだが?
うっすら瞼を上げると――
唇にダイレクトキスされていた。
「んー!? んーん、んー!」
俺が慌ててもがくものの、しっかりと俺の顔を掴んだサイフォスさんは離さない。
めちゃくちゃにディープなキス。口内では舌と舌が絡み合う。そして、お互いの唾液を交換し、嚥下する。サイフォスさんの口の中は、暖かくて、甘かった。
…………ファーストキスを奪われた!
「ぷはっ、誰もほっぺただなんて言ってないよ?」
ようやく唇を離したサイフォスさんの口の端から、つーっと煌めく唾液の糸が垂れる。なんかエロいね! ……じゃねえよ!
「じゃ、もう一回いこうか」
恍惚としたサイフォスさんの顔が迫ってくる。
「ちょい待っ」
もう俺の理性はボロボロだ!
「だめーっ!」
「わぷっ!」
フェイウが割り込んできた。ナイス!
「なにしているんですかサイフォスさん! まさか、唇にキスだなんて! 私もしていないのにぃぃぃぃ!」
「まあまあ、フェイウちゃんはしてもらったんだし、これでおあいこ?」
「おあいこじゃありません! 私はほっぺた! サイフォスさんは口!」
「まうすとぅまうすじゃったな」
ソアさんも楽しそうに入ってきた。
「わしともするか?」
「しませんよ!」
悪ノリが過ぎますよソアさん!
「口もほっぺたもそんなに変わらないよ!」
「変わりますぅぅぅぅぅ! ネリアと聖剣士様と同じぐらい変わりますぅぅぅぅ!」
一方でフェイウが口を尖らせて叫んでいる。
ってあれ? なんか俺ディスられてないか?
「そこまで変わらないよぉ!」
「変わるんですってば!」
ヤバい。ガチ修羅場が展開されそう!
「いやー、ご主人はモテますねぇ」
いつの間にか出てきたナナカがのんきな感想を述べている。
「もうかんべんしてくれ……」
出発はまだまだ先になりそうだった。
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