中途半端な俺が異世界で全部覚えました

黒田さん信者

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22,特訓開始!

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「……おはよーう」
「…………んん、おはよう……」
 俺が目を覚ますと、あたりにいい香りが漂ってきた。
「もうご飯できるから、顔洗ってきなー」
「……あーい」
 垂れようとしてくるまぶたを必死にあげ、洗面所と思しきところで顔を洗う。
「つめてー」
 やや冷たい水をバシャバシャやっていたら目が覚めた。
「ふと思ったんだが、ご飯もマギで?」
 あたたかそうなシチューをよそうセリアに聞いてみた。
「いやいや、マギじゃなくて普通に作ったよ。魔法ばかりに頼ってはいかんのです! ……と言うのは冗談で、マギで食料は作れないよ。というより作りたくない」
「へー、なんでなの?」
 木の匙を受け取り、テーブルへ運んでいく。
「付与する性質が多すぎて、全然生成できないの。じゃがいもなんて、固い、丸い、うまい、煮れる、焼ける、蒸せる、崩せるとか、料理の手順の性質もいれなきゃいけないから、すっごく面倒。一回試したことはあるんだけど、凄い失敗をしちゃったからね。りんごを作ってみたはいいものの、性質、甘いを忘れちゃったから、本当にマズい、苦酸っぱいりんごになっちゃったの。で、それを食べちゃってからトラウマなの」
「そうなのか……」
 マギにはこんな弱点もあるのかなんて思いながら食卓につく。
「あー、そーいや、悪いな。食事の準備までしてもらっちゃって」
 夜に押しかけて、布団を借りて、挙句の果てに朝食までごちそうになってしまうとは。
「べつにいいよ。マギ習得までしっかりと付き合うって決めたからね」
「ひゃー、セリア先生の目が本気だー」
 なんてふざけているうちに、食事の用意ができた。
「じゃ、いただきます!」
 焼きたての丸パンをちぎり、口に運ぶ。
「おー! うまい!」
 小麦がいいのか? うちの村のカチカチのライ麦パンとは比べ物にはならないぜ!
「焼き立ては美味しいでしょ?」
「ああ! 軽く感動を覚えた!」
 そして、湯気が立つシチューに匙を伸ばす。
「う、うまい!」
 野菜の甘みがしっかりと出ている! さらに濃厚なこのミルクの香り! 肉が入っていないのを残念だと思った数刻前の自分をぶん殴りたい! 肉なんて、このシチューには必要ない!
「よかったー、得意料理なの、シチュー。異世界人の舌にも合うようだね」
「たまらん! おかわりある?」
「たくさんあるよ! じゃんじゃん食べてね!」
 結局丸パン四個、シチュー三杯を平らげた。うん、食いすぎたっぽいな……?





「あー、腹がいっぱいだー」
 久しぶりに朝からこんなに食った。
「ふふっ、お口に合ったようでよかったよ」
 後片付けをしながら嬉しそうに笑う。
「じゃ、お腹もいっぱいになったみたいだし、そろそろ修行の方を始めようか」
「おう! 待ってました!」
 やっと修行が始まる!
「今日からマギを習得するための修行を始めるけど、あの娘からは、手っ取り早く強くしてくれって言われたからね。同時進行で、『グラージャ』も習得してもらおうと思ってるの」
「グラージャ?」
「そう。エルフに伝わる体運びのこと。これができれば、無理な体勢からでも動くことができるから。ほら」
 セリアは洗っていた食器を置きふらりと後ろに倒れるように、虚空に体を預けた。
「――!?」
 倒れる!?
 しかし、セリアは倒れなかった。それどころか、数歩先の位置まで移動していた。
「なっ……!」
「驚いた? これが『グラージャ』なの。普通に移動するより早いし、便利だよー」
 ……便利っていうか、これ、すごくない?
「今のは基本中の基本だから、簡単だよー?」
「か、簡単って……明らかに人間技じゃなかったけどな……」
「だって人間じゃないもーん。なーんて、冗談は置いといて、人間でも可能だよ? ただ、難しいだけ」
 そう言ってセリアはまた食器洗いに戻った。
「はい、終わり!」
 最後の一枚を洗い終わったセリアは手を拭き、準備のため一旦部屋に戻ると言って、消えてしまった。





「さー修行を始めるよ!」
 セリアはすぐに戻ってきた。大量の粘土を持って。
「これでマギの修行をするよー」
 机に敷物を敷き、ドチャッと大量の粘土を机に置く。
「すっげぇ量の粘土だな……」
「そーだね、もう腕がくたくただよー」
 と、自分の腕をマッサージするセリア。
 っていうか、よくそんな細腕で、そんな量の粘土を運んできたな? 多分十キロは下らない。
「でね? この粘土でネリアくんには粘土遊びをしてもらいます!」
「……粘土遊び?」
「そう、ただの粘土遊び。あ、でも、ちゃんと意味はあるからね? マナの修行だからね」
「これが修行になるのか?」
「そうそう、昨日言ったでしょ? マギは魔力という粘土をこねくり回すって。だからまず、粘土遊びから始めるのよ!」
 ……なるほどねぇ。理解しました。
「じゃ、始めようか。そうだねぇ、テーマは木!」
 セリアは窓の外から見える葉の茂る青々とした木を指差す。
「木?」
「そうそう、できるだけ丁寧に、本物そっくりになるまで」
 さらっと凄いことを言ってのけるセリア。いやいや、無理難題なんですけどー。
「あ、ちなみに合格が出なければ、次のステップには進ませることが出来ないから、そこんとこよろしく!」
 そこんとこよろしく! ……じゃねえよ!
「いやいや、無理だろどう考えても」
本物そっくりって、粘土でできるのか? あ、でも、粘土だし。多少ごまかせるんじゃ――
「あ、そうそう。これ、魔法の粘土だから、質感とか、色とかは自由自在だよ」
「ご丁寧に逃げ道塞いでいただきありがとうございます」
 逃げ道なぞ存在しなかった。
 こうして、俺のマギ習得のための修行が開始したのであった。






「むむむ……」
 こねくり回して崩す。こねくり回しては崩す。
「つらたん」
 これ、本当に修行になっているのかね……。
「うーん、木は流石に難しかったかなぁ?」
 セリアもむむむと唸る。出来栄え云々の問題ではない。いや、まあ、出来栄えなんだけどさ。
「難しい。できればもうちょっと簡単なもので」
 葉っぱを一枚一枚再現とか、狂気の沙汰だから。いやほんとまじで。
「んー、じゃあ、今朝食べた丸パンとかはどう?」
「丸パンか……」
 作れなくはなさそうではあるけど、難しいんだろうなぁ。
「まあ、とりあえず作ってみるよ丸パン」
 こうして、木から丸パンへと、作るものがシフトしたのである。




「で、できた……!」
 俺は喜びの声を上げる。だいたい七時間ぐらい、ひたすら粘土と格闘してた。んで、出来た渾身の丸パンがこれ。もうこれ以上似せて作るのは不可能に近い。
「……よし! 合格!」
「っしゃ!」
 辛口審査で、俺の作る丸パンをことごとくダメ出ししてきたセリアがついに認めた!
「長かったー!」
 俺は凝り固まった肩をぐるぐると回すと、バキンバキンとものすごい音がした。
「おつかれー、あ、そう言えばお昼ごはん忘れてたね」
「そうだなー。もう腹減りすぎて目が回ってきた……」
 人間の集中力の限界に挑戦した気分だぜ。
「じゃあ、適当になにか作ってくるね。少し寝てれば?」
 セリアはふわふわの毛布を出して、俺に渡してくれた。
「おー、サンキュー。じゃあ、お言葉に甘えて……」
 地面に横になり、毛布をかけ、目を閉じる。
「あー、疲労が一気に……」
 集中すると、本当に疲れ……る…………




「……っあ?」
 びくんと体が跳ねた。
「あれ? 俺、どれぐらい寝てた……?」
 ね、寝すぎたか――
「あ、起きた? 大体一時間ぐらい寝てたんだよ?」
 今俺が一番気になっていることは、セリアが答えてくれた。
 一時間か……まあ、いい時間か。
「ついさっきご飯ができたから、食べようか」
「わかった。で」
「ん? どうかした?」
 キョトンとした顔で首を傾げるセリア。
「なぜ俺は膝枕されているんだい?」
 そう、今俺はセリアに膝枕されているのである。
 セリアは俺を覗き込むようにして、笑顔で話す。
「頑張ってるご褒美よ、ご褒美。お姉さん、頑張る男の子には優しいんだから!」
 えっへんと胸を張るセリア。
「別にネリアも嫌いじゃないでしょ?」
「まあ。うん、嫌いじゃないけど……」
 やっべぇ。そう言われると、なんだか急に女の子というものを意識し始めてきてしまった。柔らかい太ももの感触、俺の顔に添えられている温かい手、顔がくっつくまであと数センチという距離感。
「いっ、急いで飯食って、修行を再開しないとな!」
 俺は赤くなった顔を隠すように立ち上がり、食卓へ向かう。
「ふふっ、初々しいわ~」
 とセリアが笑う声が聞こえたが、聞こえないふりをしておこうではないか。





「今日のご飯は、これでーす!」
 ででーんとセリアが大きな皿を運んできた。
「これは……?」
 皿には一枚、厚い肉のようなものが乗っている。
「これはきのこステーキ! さあ、召し上がれ!」
「きのこ?」
 どう見ても肉にしか見えないんだけどな。
「じゃ、頂きます」
 ナイフでキノコステーキに切込みを入れる。
「おお、柔らかい!」
 スッと刃が通る。切り口からは、ふわっとバターの優しい香りが湯気とともに立ち上り、鼻腔をくすぐる。
「では……」
 食べやすい形に切り分け、いざ口へ。
 厚いきのこは、歯を立てると、途端に噛み切れる。そして、きのことは思えぬインパクトのあるガツンとした旨味が溢れ出て来る。
「…………うまい!」
 なんてジューシーなんだ! これ、本当にきのこか!?
「味付けは、胡椒と塩とバターのみ! どう?」
「最高だ! 初めてだ! きのこがこんなにおいしいと感じたのは!」
 俺は貪るようにきのこのステーキに食らいつく。
「ふふっ、良かった、気に入ってもらえて」
 嬉しそうに微笑みながら俺の食いっぷりを見るセリア。



「あー、うまかったー。ごちそうさまでした」
「おそまつさまでした」
 セリアがお茶を出してくれた。
「ふー、落ち着く」
 この世界は本当に食べ物が美味い。それにしてもだ。
「エルフは肉を食べないのか?」
 朝のシチューにも、今の食事にも入ってなかったし、やっぱりこの世界では禁忌なのかな?
「んー? 別に食べないわけじゃないんだけどねぇ……その」
「その?」
「……私、どうしても生き物が屠殺されているところかダメで……」
 少し恥ずかしそうにうつむくセリア。
「あー、なるほどね。でも、肉屋で買えば良いんじゃないか?」
 やっぱり動物性のタンパク質の不足はよろしくないじゃない?
「それがね? エルフの掟で、肉や魚を食べる場合、自分で仕留めた獲物か、自分で殺した場合以外の肉は、汚れた肉ってことで、食べられないの」
「はー、なるほど」
 エルフにはそんな掟があるのね。なるほど。
「ちなみに、汚れた肉を食べすぎると、ダークエルフとなって、ここを追い出されるの」
「ダークエルフ化するの!? 初耳!」
 驚愕の事実!
「ということで、ごめんね? 肉を食べたいなら、自分で調達してきて、お願い! この通り!」
 と、必死に俺に頼み込むセリア。でもそれは必要ないぜ?
「んー? 少し勘違いしてない?」
「へ?」
「別に俺は肉を食べたいとか、肉を出してくれなんて一言も言ってないぜ?」
「……あ、そっか」
 ぽかんとした顔で固まったセリア。
「タンパク質が足りないとか、そういうことは無いんだろ?」
「あ、うん。栄養バランスは問題ないけど……」
 ならば良しだ。俺はこのままの食事でいい。
「セリアの作ってくれる料理は、肉なんて無くたって、最高にうまいからな!」
 肉なんて邪魔だ! って言いたいぐらい、完璧に調和されている料理。むしろ肉はいらないんだ。
「あ、ありがとう……賛同してくれて、嬉しい」
 頬を赤らめ、嬉しそうにほころぶセリアを見て俺は――
「……お、おう……」
 な、なんかキュンと来ちゃった!





「さ、特訓夜の部!」
「おー!」
 腹も膨れたので、特訓夜の部が始まった。
「夜は魔力切れだろうから、一緒にグラージャの練習をするよ! まあ、できるようになるかはその、ネリアの才能次第だけどね」
「むむむっ、聞き捨てならないな」
 才能次第? じゃあダメだ。
「あ、才能次第って言っても、まあ、努力次第ではあるから、そんなに過剰に反応しなくても大丈夫だからね?」
「そ、そうか?」
 いかんいかん、才能アレルギーみたいになってた。……才能アレルギーってなんだ?
「とりあえず、グラージャの基本である、重力移動について教えるね」
「ああ、今朝やってたやつ?」
「そうそう! 意外と簡単だから、よく聞いてね」
「はーい先生」
「よし。でね、重力移動の基本は、重力に逆らわないこと!」
 ピッとセリアが人差し指を立てた。
「重力ってのは、私達が感じている、誰にでも無条件に降りかかる力。物は落ちると地面に吸い寄せられるよね? 私達の祖先はそれに着目したの」
「ふむふむ」
「無駄な力を入れず、倒れるように重力に身を任せる。で、地面につくかつかないかのギリギリのところで、力を入れて体を移動する方向に持っていくの」
 んん? 最初の方はわかったけど、あとの方になるとわからんぞ?
「思いっきり解らないって顔してるね……じゃあ、少しやってみるね」
 そう言ってセリアは椅子から立ち上がり、少し離れたところに立った。
「これがまずは前移動」
 セリアは倒れ込むように前に体を傾ける。そして――

 グンッ! と椅子の前まで戻ってきた。
「おおー、お見事!」
 俺は思わず拍手! 俺にできる気はしないけど、凄い!
「ありがとー! で、これは簡単だから、もう今から練習しよっか?」
「え? いやいや、無理でしょうよ」
「いけるいける! さあ、立って立って!」
「おいおいまじかよ……」
 できる気がしない。
 俺がノロノロ立ち上がっている間に、セリアは床に布団を何枚か重ねて敷き出した。
「最初は重力に逆らわず、そのまま倒れる練習からね」
 ほら、とセリアは、重ねた布団の山に、前からぼふんと倒れ込む。自然に倒れ、まったく重力というものに逆らっていない。まるで、気絶しているかのようにも見えた。
「怖くないから、一回やってごらん?」
「あ、それぐらいならまあ」
 ということで、まずは一回目。
「はい、どうぞ!」
 セリアの掛け声で俺は布団に前から倒れ込む――
「意外と怖い!」
 俺はつい反射的に腕を出し、自然に倒れ込めなかった。
「あー、やっぱり出ちゃうよねー、手」
 セリアが苦笑する。
「私も最初の方は全然ダメだったから、仕方ないよ。だって人間の無条件反射だもん」
「無条件反射……?」
 なんぞそれ?
「あー、無条件反射ってのはね、こういうことだよ。せいっ!」
「ヒッ!?」
 いきなりセリアが俺の顔面にパンチを!?
 ぎゅっと無意識の家に目をつぶる。そして恐る恐る目を開けると、セリアの拳は俺の目の前スレスレで止まっていた。
「こ、怖かった……」
 ビビった……。
「ほら、今まばたきしたでしょ?」
 腰を抜かしかけている俺とは対照的に、あっけらかんと言うセリア。
「あ、ああ」
 もうなにがなんだかわからないけど、まばたきはした。だって怖いから、自然と目が閉じてしまうんだよ。
「これが無条件反射。自分が意図していないことが起きたときに、体が勝手に反応しちゃうこと」
「ほー、じゃああれか、勉強と聞くと、嫌気がするのは」
「それは違うね」
 即否定された。





「とにかく慣れが必要なんですよ!」
「慣れ、ねぇ」
 恐怖に慣れろということか。
「確かに、人間の本能だからすぐ慣れるってのは難しいけど、まあ、なんとかなるよ!」
「本当になんとかなるのかねぇ」
 本能に逆らうのって、難しいと思うんだが。
「毎日毎日やっていればいつかできるよ。私だって、まだ完全に奥義の全部を習得しているわけじゃないし」
「え? そうなのか?」
「そうよー。グラージャには二十五の奥義があるんだけど、私は今のところ、十七まで覚えたかな?」
「セリアでさえまだ十七までしか覚えてないのか?」
「そうだよー。これ、すっごく難しいし! それに、私だって最初のその技を習得するのに一年くらいかかってるし」
「そんなに! じゃあ、俺が習得するなんて夢のまた夢みたいな感じじゃん!」
「そんなことないよ? ネリアはやる気がある! それが私との決定的な違い。それに、エルフと人では求められるクオリティが違うしね。まあ、やれるだけやってみようよ! ね?」
 やれるだけやってみよう、か。
「……そうだな。泣き言はいつでも言える。なら、頑張ってみるぜ!」
 時間は限られている。なら、その限られた時間で、どれだけのことを吸収するかだ。俺は強くなりたい。それなら、なんでも覚えるしか無い。中途半端でも、何もないよりはマシだ。
「よし! じゃあ頑張ろっか!」
「おう!」
 こうして俺はほぼ一晩中、ひたすら倒れ込む練習をした。





「朝だよー!」
 ……頭がガンガンする……。
 俺はおもーい頭をさすりながら布団をたたむ。
「すげぇまだ眠い……」
 頭の芯がまだ眠ったままなんだよな……
「おはよー!」
「ぎにゃっ!?」
 急に背中にひんやりとしたものが入ってきた!
「ふふっ、どう? 氷を入れてみたんだけど、目、覚めたでしょ?」
「……おかげさまで」
 目の下が腫れぼったい。でも、しゃっきりした。
「今日のご飯は、きのこの炊き込みご飯だよー」
「ういー、顔洗ってくらぁ」
 異世界生活三日目。寝不足です。
「しっかし、人間慣れるもんだな」
 昨日の練習の終盤、いつの間にか手を出さずに倒れ込むことができるようになっていた。
「冷てー」
 キンキンに冷えた井戸水で顔を洗い、食卓へ。
「おー、今日も美味しそう……って、米!?」
 俺は何気なくよそわれていたものを見て感想を漏らしたが、よくよく考えれば米じゃん!
「何かのお祭りなのか?」
「お祭り? 別に今日は何もないけど……」
 キョトンとした表情になるセリア。
「だって、こんなに高価な米を朝から出すなんて、なにかあったに違いないじゃないか」
「……あー、なるほどね。もしかして、ネリアの世界では、米は高価なのかな?」
「え? まさか、この世界では――」
「そうよ。普通に一般家庭で食べられているわ。農民だって、貴族だって。あ、もちろんエルフもよ。さ、食べましょう? 冷めないうちに」
「あ、ああ……」
 俺はきのこの炊き込みご飯を口に入れながら考える。
 ……なんてこった……。
 俺はこの世界に来て一番のカルチャーショックを味わっている。まあ、実際に味わっているわけだが。うん、うまい!
「やっぱり米はうまいな! 久しぶりだぜ、食ったのは」
 三年前ぐらいか? 最後に食ったのは。
「そっちの世界では、稲作が普及していないのかな? それなら、後で稲作の技術について教えるね」
「ありがてぇ。これで米が食い放題か……」
 きっとこの光景を見たらフェイウは、目を輝かせるだろう。
「それにしてもうまいな……」
 欠局朝からまた二杯ほどおかわりをしてしまった。食いすぎたな……。




「あのさあ」
「ん?」
 特訓開始から早3日、今やっているのはつみ木だ。昨日やったのはトランプのタワー作り、一昨日やったのはジグゾーパズルだった。しかも真っ白。全くもってイライラする作業ばかりだ。しかもなんだよ! つみ木って言っても、ただ高く積み上げるだけじゃねぇか!
「この特訓地味じゃないか?」
 もっと派手なのを予想していたんだが。こんなイライラチマチマしてるものじゃなく。
「何事にも根気は大事!」
「いや、そーゆーことじゃなくてだな」
「これはね、初歩中の初歩の特訓だよ? まだはいはいしている段階。それすら出来ないと?」
「マジかいな……」
 きっついなぁ……。
「ま、これからがきついから頑張ってねー」
 手をひらひら振りながら、この部屋を出て行った。
「…ほんとにきっついなぁ(精神的に)」
 頑張るしか無いか。
 俺は一回立ち上がり、大きく伸びをした。













「今日は、集中力をつけてもらおうと思うので、はいこれ」
「……これは?」
 もちろん、手渡された物の正体は知っている。ただ、これの使い方がよくわからない。
「このさ、『トランプ』で何をすればいいのか?」
 まさかこれでトランプ占いをしろってわけじゃないだろうな?
「えーっとね、これで、トランプタワーを作ってもらいます!」
 長く、しなやかな指でトランプを指で弄びながら、セリアは見本を見せるねと言った。
「こうやって、何段かタワーを作っていくの」
 彼女はささっとトランプを積み重ねて、何段かタワーを形成する。
「でも、風とか少しの揺れとかに弱いから、ほら」
 フッと軽くタワーに向けて息を吹きかける。すると、タワーはあっという間に崩れ去った。
「これを五段やってみようか」
 ……これまた難しい試練を。
「これはネリアの集中力を高めるためのものだよ。ささ、頑張って!」
 トランプタワー。それは、極限に近い集中力を要求される。絶妙なバランスと、ブレない置き方。その二つを両立させるのは、非常に難しい。
「じゃあ、とりあえず……」
 そっとトランプ二枚で土台を作る。
「……うおぉ……」
 俺、まじでこういう細かい作業が苦手。イライラしちゃう。
「これは根気が必要だからねー。本当に嫌いな人は、嫌いなタイプの特訓だね」
「ぐおぉぉ……」
 なんとか一段目が完成した。もう疲れたんだけど……。
「うんうん、悪くないペースね。じゃあ、次の段行ってみましょうか」
 ……鬼ぃ。
「……くー、指が震える……」
 土台の上に更に積み重ねてく。が――
「あっ!」
 バラバラとトランプタワーは、無情にも崩れてしまった。
「はい残念。最初からだね。今日は四段行ってみよー!」
「……まじか」
 俺はこれから来るストレスに顔を青ざめさせた。





――開始から5日――
「今日からマナを捕らえる修行に入るよー」
 トランプのタワーが組み終わり、ジグゾーパズルが完成し、つみ木が七段を超えた。
 ついに本格的に始まったぜ! 長い戦いだったなぁ。あまりのイライラに何回叫んだことか。あ、精神異常者じゃないのでご安心ください!
「じゃあ、これを見て!」
 俺の苦労を知らずか、生き生きとしているセリア。
 そしてセリアが指差したのは……プール? の中に入っている数匹の魚。
「これからはこのワラエフェッシュを手で掴んで捕まえてもらうよ」
「……はいぃ?」
 こりゃまた地味な作業だなぁ。
 プールで悠々と泳いでいる数匹の魚は、くすんだ褐色をしている。正直言って、あまりうまそうじゃない。というか食いたくない部類の魚だ。
「じゃ、頑張ってねー」 
 またふっと消えてしまった。
 きっついなぁ……。
「でもまあ、なんとかいけそうだ」 
 この魚は、とてもノロい。これなら行けるんじゃないか? 子供の頃、川で遊んだ思い出が蘇るなぁ。
 なんて感傷に浸りながら、プールに近づいて手を突っ込んだ。すると――
 フヒュン! 魚がなんか高速で動き始めた。
「……ナニコレ、いやほんとナニコレ」
 魚影が線でしか見えない。鬼のような難易度だ。絶対捕まえらねんぇよ!
「……きっついなぁ……」 
 涙で前が見えないレベルだぜ……。





「この、この、くそっ!」
 必死に手を出すものの、全然つかめない。
「ああもう!」
 やけくそ気味に手を振る。すると鱗に指先がちょびっと触れた。
「おっ!」
 なんて思っていたら――
「あああああぁぁぁぁ!?」
 いきなり電撃が!? しかも物凄く痛い!
「……おいおい、そりゃ反則だぜ……」
 ぷすぷすと焦げ臭い香りがあたりに充満する。
「いつつ……」
 俺は水の中に突っ込んでいた左手を見る。左手はひどい水ぶくれになっていた。


「あーこりゃ、派手にやられたねぇ」
 俺は一時中断ということで、セリアに薬を塗ってもらうことにした。どうやらセリアはわらエフィッシュが電撃を放つことを知っていたらしい。
「なあ、こりゃ無理だぜ……?」
 ごそごそと薬を探すセリアに向かって呟く。
 速いし、強いし。まさか電撃まで使えるとは。もう最強じゃない?
「んーじゃあ、コツを教えようか?」
「ぜ、是非お願いします……」
「コツはね……」
「コツは?」
 ここで一呼吸。
「感じることだよ」
 ものすごいドヤ顔で言われた。
「……へ?」
 なにそれ? 感じること?
 ためになるアドバイスを期待してたのに。
「あとは……まあ、頑張ってねー。電撃は少しずつ慣れていくはずだから!」
 薬を戸棚から取り出しながら、アドバイス? をくれた。
 これで何かが大きく変わるわけでは無いだろうが、大きな心の支えとはなった。
「よし、ワラエフィッシュ、俺が捕まえてや痛い! 薬をそんなに強く塗りこまないで! 痛い痛い!」
 この薬、しみるなぁ……。
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​「お前のような、一日中デスクに座って何もしない無能はクビだ!」 国内最大のギルド『栄光の剣』で、底辺の付与術師として働いていたアルスは、ある日突然、強欲なギルドマスターから追放を言い渡される。 しかし、彼らは知らなかった。ギルドの武器の自動修復、物流の最適化、資金管理に至るまで、すべてアルスの固有スキル【全自動化(ワークフロー構築)】によって完璧にシステム化され、回っていたことを。 「俺がいなくなったら、あの自動化システム、全部止まるけど……まあいいか」 管理権限を解除し、辺境へと旅立ったアルス。彼は自身のスキルを使って、圧倒的な耐久力を誇る銀色の四輪型重装ゴーレムを作り出し、気ままな行商を始める。 一度構築すれば無限に富を生み出す「全自動」のチートスキルで、アルスの商会は瞬く間に世界規模へとスケールしていく! 一方、すべてを失ったギルドは、生産ラインが崩壊し、絶望のどん底へと突き落とされていくのだった……。

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