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33,ヤツ

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33,ヤツ


 そんなに力を出せないってどゆこと?
「この籠手はね、まだ、神様の力の一部の、そのまた一部なの」
「……もっとわかりやすく」
「んーとね、ほんとは全身に鎧のようなものを纏うんだけど、まだ一部でしかない籠手しか装着できてないじゃん?」
「……確かに」
「簡単に言えば、マナが圧倒的に足りませんってこと。もし器官を拡張していなければ、人差し指の第一関節あたりまでしか装着できなかったよ」
 笑っているが笑い事じゃない。どんだけマナを使うんだよ。つーかどれだけ拡張されたのかが気になる。
「でもまあ、ここらへんの雑魚なら一撃じゃない?」
「雑魚っすか……」
 一応魔獣なんですけど。……まあ、イケるかな? だってこんなに力が溢れているんだから。今ならできる。そんな気がする。
「じゃ、後はがんばれー」
 セリアが肩から飛び降りて、とてててと遠くに走っていった。
「ありがとうな、セリア」
 新しい力の余韻に浸る暇もなく、魔獣は押し寄せてくる。
「行くぜ!」
「おうよ!」
 大剣化したヴィーオを片手に前線まで躍り出た。
「ネリア!?」
「ネリアくん!?」
 驚く師匠とサイフォスさんをよそに、片手で大剣ヴィーオを振り回す。
「とぅおりゃぁぁぁ!」
 瞬く間に敵を切り裂く。威力もスピードも桁違いだ。
「ネ、ネリアくん、今のは……?」
 サイフォスさんがびっくりして、こっちを向いた。
「んーと、新しい力です。説明する暇が無いんで、後で話します!」
 そこら辺の魔獣を斬りながら話す。全く凄い力だぜ。こんな大剣を片手でぶん回せるなんてよ。
「ったく、おいネリア! 後でその姿で俺と戦えよ!」
 師匠が凶暴な笑みを浮かべた。怖っ!
「リースト流十一の技! 不可視の一瞥『十戎』!」
 師匠が剣を振ると、斬撃が遥か彼方まで、魔獣を切り裂きながら飛んでいった。す、すげぇ!
「師匠の威厳ってのを保たなきゃいけねぇからな」
 その後も鬼人のごとく魔獣を屠っていく師匠。いや、ほんとに怖い。
「とぅおりゃー!」
 魔獣の群れがみるみるうちに削られていく。
「お、おいネリア、う、後ろ!」
 いきなりヴィーオが何か叫んだ。
「なんだよ!」
 そう言って振り向くと――
「フェ、フェイウ!?」
 フェイウが崖の向こうに立っていた。病院にいたんじゃなかったのか!?
「行かなきゃ!」
 何故こんなところに!?
「すいません! 少し抜けます!」
「わかったわ! あ、じゃあこれ持っていって!」
 サイフォスさんはローブから薄緑色の液体が入った瓶を二本渡してくれた。
「これは?」
「私が作ったポーション第二弾! 効果はこの前の1.2倍! で、マズさは二倍!」
「ほぼマズさのグレードが上がっただけじゃないですか!」
 またなんつうもんを作ってくれてんだ!
「ま、まあ、良薬口に苦し! 頑張って飲んで!」
「……ありがとうございます……」
 よし、このポーションのお世話にならないように頑張ろう。



「フェイウー? どこだー!」
 魔獣を倒しながら、さっきフェイウのいた崖に近くを走る。
「……いた!」
 俺は開けた崖の下でフェイウを見つけた。着ている服は、ボロ布のようなものだったが、間違いない。あの月の光を浴びて輝く銀髪はフェイウだ!
「フェイウ! なんでこんなところに!? 傷が開……え?」
 俺は言葉を止めた。なぜならば、
「お前その腕――」
 フェイウに、無くなったはずの左腕があった。しかも、傷一つ無い。
「………で」
 ぼそりとフェイウが呟く。
「ん? なんだって?」
 俺は近づいて、言葉を聞き取ろうとする。
「ねえ……死んで」
 ゾクリ、と背筋が凍るような凍てついた声。そして――
「……え?」
 気がつくとその無くなったはずのフェイウの左腕が、俺の腹を貫いていた。
 

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