中途半端な俺が異世界で全部覚えました

黒田さん信者

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214,似た者同士

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214,似た者同士


「ぐぅぅ……!」
 ガクガクと膝が笑う。呼吸が苦しい。それでも攻撃は止まないだろうと考え、がむしゃらに拳を振り回す。
「おっと」
 流石に追撃をやめ、距離をとる隊長。
「ふーっ、ふーっ……!」
 苦しい、気持ちが悪い。膝をついてしまいたい。ただ、それを許してくれる相手ではない。
「どうやら効いたようですね。まだまだ腹筋の鍛えが甘いですよ」
「い、いやぁ、甘いというか、これはどうしようもないのでは……?」
 多分、今のガードを無理やりこじ開けた攻撃は、『カラテ』だろう。


 空手。沖縄(琉球王国)で始まったとされる、日本古来の拳法。実戦重視で無いと言われるも、やはりその威力は絶大。空手家の拳は岩を砕き、手刀は木をも断つ。彼らの拳はもはや凶器と言っても過言ではないだろう。
「すげぇ色々やってますね隊長」
 しかし、隊長は空手家だとは思えない。空手独自の上半身に重きをおいた動きというのが、あまり感じられない。それに、最初の動きはどちらかというと、ボクシングに近い。
「ええ、まあ。なんでもやってみることは重要ですからね。かくいうネリアくんも、色々やっていますものね」
 笑顔で返す隊長。ただ、目はいつでも俺を仕留められるように笑っていない。
「ネリアくん、きみの動きは面白い。どこの武術とも取れない、独自の動きだ。しかし、よく練られている。多分、異世界の体術ですかね。そしてもう一つ。君は臆病であり、勇敢だ。前回の戦い、僕もしっかりと動きを学ばせてもらいましたからね。だからあえて言います――きみは中途半端だ」
 ビクリ。その言葉を聞いた瞬間、体が勝手に震えた。
「一つ問うてもいいですか? きみは学んだこと、ものをどこまで自分のものにしていますか?」
「自分のもの、ですか?」
「ええ。習得するとは本来、学んだものを自分で吟味し、反芻し、進化させ、自分に適応させること。でも、きみの動きはどこかおかしい。ズレがある。まるで、借りてきたかのような動きだ。その防御も、足さばきも、攻撃の仕方も。借り物を無理やり詰め込んで、張り合わせたもの。それがきみだ」
 ……返す言葉も出ない。
「悪いとは言いませんよ。ただ、惜しいな、と思ったわけです。まあ、そろそろ休憩はいいでしょう。続きは戦いながらにしましょう!」
 そして隊長は、もう一度力強く踏み込んで接近してきた。
「っ! リースト流無形小破――」
「遅い!」
 今度は足を大きくしならせ、ハイキックを繰り出してきた。
「くうっ⁉」
 無形小破をむりやり止め、体を捻って回避する。だが、もちろん躱すだけではなく、俺も攻撃を仕掛ける。
「せやっ!」
 腕全体を振り、ラリアートに近い形の攻撃を繰り出す。
「おっと」
 しかし、かなりいいタイミングで繰り出せたのにも関わらず、あっさりと俺のラリアートは躱されてしまった。
「技の選択は素晴らしい。よく練り上げられている。でも、僕には通用しない」
 ラリアートは空を切り、俺は前方にバランスを崩した。
「発ッ!」
 その好機を逃しはしまいと、右足を軸に回転を加えた裏拳が俺の背中を襲った。
「ぎぃっ⁉」
 俺は地面に叩きつけられる形で顔面を強打した。
「ッ~⁉」
 しかし体は勝手に動いていた。すべての力を込めて、右腕はその場から逃れようと衝撃を感じた瞬間、地面を押し出し、間髪入れず左へ跳ね飛んだ。
「追撃は……させてくれなそうですね。いやぁ、まいった」
 たはは、と笑い追撃を諦めてくれた。
「いやはや、すごい技術だ。生存に関する能力はピカイチだ。よほど怖い目にあってきたんでしょうか?」
「ええ、まあ……」
 師匠とかソアさんとかが恐ろしすぎて……。
「にしても……っと」
 俺が立ち上がると、どろり、鼻から何かが垂れてきた。これは……結構派手にやられたな。
「ふっ!」
 鼻に力を入れ、とりあえず今出ている分を鼻腔内から吐き出す。
「うへぇ……」
 びちゃびちゃと手に吹き出た血は予想よりも多く、思わず顔をしかめてしまった。
「にしても、本当に凄いですね。結構今の攻撃、自信あったんですけどね」
「ああ、それはそうですね。普通なら決まってましたよ普通なら」
「……普通なら?」
「はい。あ、でも、なんか変なことはしてないですよ。未来予知とか」
 慌てて補足する隊長。
「ただ、僕は生まれつき鋭いんですよ。感覚が鋭敏と言うか。だから、怪異、超常現象、そして危険なもの、それらが察知できる。もちろん最初はすべて察知なんてできなかったです。でも、この力を磨いていくうちに、いつの間にかほとんどのことがわかるようになった。でも、それだけです」
 そう言い、また構え直す。
「君は僕に似ている。大きな才能も持たず、平凡である。まるで昔の僕を見ているようだ。だから、先人として、先を示してあげたい」
 もう一度! と言うようにまた俺に攻撃を仕掛けてくる。
「僕と君の違い! それがわかりますか!」
 拳が目の前に迫ってくる。
「さあ! なんでしょうね! 筋肉とか、年季とかですか⁉」
 俺は拳をまるで包み込むように両手で受け止める。
「若干正解ではありますが、違います! はっ!」
 俺がその拳をリリースしようとした瞬間、ものすごい衝撃が全身を襲った。
「ぐぁぁぁ⁉」
 まるで電流が流れたようだ。これは……発勁⁉
「ぐぅぅ……」
 内蔵全体に衝撃がまるで染み込むように流れ渡り、苦悶に顔を歪める。
「正解は、成長の方向性です!」
 そのまま拳に力を入れ、俺を押し込み、弾き飛ばす。
「きみは色々なものを、広く浅く受け入れようとしている。それは正しい。ですが、浅すぎる! 学び得たものすべてがまだ浅い!」
「そ、そうは言ってもすべて深くなんて無理ですよ!」
 俺はそう叫びながら、歯を食いしばり腰を低く落としてラッシュを繰り出す姿勢に入る。
「ええ、もちろん。そんなのは誰だって無理です。天才はどうか知りませんが!」
 それに答えるのように、隊長もまた姿勢を低くする。
「だから、君がすべきことは取捨選択です! 具体的に言うと、長所を伸ばすことです! そして、短所を極力減らすこと!」
 俺が細かく拳を放つ。それを最小限のスウェーで避ける隊長。細かい、ほとんど効きそうもない拳は無視され頑強な筋肉という鎧に弾き飛ばされる。
「きみは焦りすぎだ。もっと腰を据えて、一度じっくりと取り組んでみなさい!」
 今度はこちらの番だと拳を固めて俺の攻撃が一瞬途切れた瞬間攻守が変わった。
「うおぉぉ⁉」
 俺と同じく細かい攻撃。ただ、テンポもスピードも俺より圧倒的に早く、威力も俺とは比べ物にならないぐらい重い。スウェーとガードを織り交ぜているが、それでもすべてを捌き切ることは不可能なので、何発も俺の肩や、腕、胸を襲う。
「自分の持つ刀を極限まで研ぎ澄まし、弱みは見せない。それが日本男児の生き様です。……ふう、言いたいこともほとんど言い終えたので、そろそろ終わりにしましょうか」
 そう言い、満身創痍の俺のガードが甘くなったところに――
「ふうっ!」
 重いアッパーが飛んできた。
「がぐっ⁉」
 慌てて緩衝材代わりに左手を挟み込むことには成功したが、しっかりと腰のはいったアッパーを止めるには至らず、俺は宙を舞った。
「……つ、強すぎる……」
 視界がチカチカと点滅する。逃げろと体が警告を発したが、もう動かない。
「お疲れさまでした。これで今回の演習は終わりにしたいと思います」
 とてもスッキリした顔をした麻田隊長が、いつもと変わらぬ笑顔で俺に手を差し伸べた。
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