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222、赦す
しおりを挟む「おーいフェイウ? なんだよ、寝ちまったのか?」
おやすみ、なんて言ってポスッとベッドに倒れこみ、目を閉じた。
「まあ、いいか。また今度聞けば……」
俺がそう言った瞬間、フェイウの目がパチリと開いた。
「あ、起きた。なんだよ、寝てなかったのか」
「……おはよう、ネリア・ハラベスト。久しぶりね」
むくりと体を起こして、俺を見つめる。
「フェイウ……? いや、誰だお前……」
そのフェイウらしくない目の細め方。それを見た瞬間、急にゾワリとした感覚が蘇る。
「いや、俺は知っている、お前を……」
体が自然と強張る。呼吸が荒くなる、
「そう、お前はアタシを知っている」
「その言い方……お前はッ!」
俺は立ち上がり、戦闘態勢を取る。
「まあまあ、構えないで。アタシは争う気はない」
「戯言を! テメェは、テメェは……! フェイウの腕を食った魔獣!」
どうして⁉ まさか腕に意識が残ってたのか⁉
「あー……もしかしてフェイウから何も聞いてない?」
「……あ?」
「フェイウのアホぉ……」
そいつは頭を抱え、俺を見る。
「いい? 今からいうことは嘘偽り無し。だからとりあえずアタシの説明を聞いて。ほら、とりあえずそこの椅子に座ってよ」
……信用できねぇ。
「本当に面倒ね……なんならあのロリなり赤髪の和服の姉さんなりを引っ張ってきても構わない。話は通っているから」
「……それなら話は聞く」
俺は警戒は緩めず椅子に座る。
「じゃー、どこから話そうか……」
「ってこと。理解したー?」
「……納得は出来ねぇ。だが、理解はした」
未だに信じられないけどな。
「それと、アタシとお前は似たものどうしなんだから。迦具土の眷属って点でね」
「ずいぶんとフリーダムだな神様……」
信じざるを得ない。
「で、ざっくり午後十時までがフェイウの時間。それから午前二時ぐらいまでがアタシの時間ってわけ」
「なるほどな。だからさっきおやすみって言ってたのか」
しかし、一日の四時間をあげているのか……。
「なんだよー、アタシは一時間でもいいって言ったんだよ。でも、フェイウが譲らなかった。だからこれはアタシなりの妥協した時間なんだ」
俺の考えを感じ取ったのか、口をとがらせる。
「悪かったよ、えーっと……俺はお前をなんて呼べばいいんだ?」
腕を食った魔獣なんて呼びづらいからな。
「……リーナ。だけど、その名前は捨てた。だから好きに呼んで。あとフェイウがつけた名前は嫌」
フイッとそっぽを向いた。
「ほー、フェイウはお前を何と名づけたんだ?」
「い、いいじゃん別に。なんとでも呼んでいいから、ほら」
ほーう、この慌て様、なかなかヤバい名前を貰ったな?
「フェイウと認識共有しにくくなるだろ、いいから教えろ」
「ぐぅ……」
俺が正論で攻めると口を尖らせた。
「…………アだよ」
顔を赤らめて、小声でぼそりと言ったが、残念ながら聞き取れなかった。
「声が小さくて聞こえなかった、もう一回」
「……フェイアよ! フェイア! 悪い⁉」
諦めたのか、がーっと吠えるように大きな声で名前を言った。
……フェイウにしてはいいネーミングセンスじゃねぇか?
「いい名前じゃないか?」
恥ずかしがる理由がわからんけどな。
「いいってお前……! 姉妹みたいな名前にしちゃって! ふつーに恥ずかしいでしょう!」
「いいじゃんいいじゃんフェイア」
「良くない! あああ、もう……!」
……フェイウの顔で恥ずかしそうにしてるのなんかいいな……。
「はぁ、そして、アタシからハラベスト、お前に言っておきたいことが」
「なんだよ」
「どうか、アタシを赦さないで。アタシの罪を消さないで」
真剣な目で俺を捉える。
「……赦しはしねぇよ。というか、赦せるわけがない」
「だよね、それでいい。ありがとう。本来アタシはこんな幸せを甘受できる立場じゃないんだ」
「なるほど、殊勝な心掛けだな」
「んふふ、そうしておかないと、アタシは罪悪感で押しつぶされそうだ。お前から向けられる怒りと憎しみがあって初めてアタシを保てる」
「……少し違うぞ」
俺はフェイアに訥々と話し出す。
「俺はお前を赦さない。これは変わらない。ただ、怒りもしないし、憎しみもしない。その負の感情をお前に向けることはない」
本当に俺はフェイアを憎んでいない。怒ってもいない。確かに、フェイウの腕を奪ったことは赦すことのできない所業だ。だけども、それでは人は前に進むことができない。負の感情を持ったまま前に進むのは、とても疲れる。だから、その感情を完全にとは言わないが、できるだけ置いていく。
「フェイア、お前はお前自身を赦せ。そんな生き方、間違っている」
「そ、そんなこと言っても、アタシは……」
「いいから。俺もフェイウも罪を背負って生きろなんて酷なことは言わない。ただ、その罪を忘れなければいいだけだ。これが、俺が十数年生きて出した結論」
もちろん、考え方は十人十色。中にはそんな生き方認めないという声もあるだろう。でも、でもよ……
「俺たちはお気楽な人間なんだよ。いわば脳みそ空っぽ。俺もアホだし、フェイウもアホ。そんな人間たちの中で気を張って生きてくのって、疲れるぜ?」
「う……あ……」
フェイアは何か言いたいのか、口を開いた。けれども、言葉は続かない。
「罪悪感? 知らん。んなもんは幻想だ。あと、フェイウがこの話を聞いて、お前になんていうと思う?」
「わ、わかんない……」
「だろうな。俺にもわからん。でも、マイナスなことは何一つ言わないはずだぜ。多分気にしなくていいから、おいしーものでも食べて元気出そ? とか言うぞ」
「……あははっ、確かに言いそうね」
そう言い、フェイアは笑った。
「あー、なんか、真剣に考えてたアタシがバカみたい」
「そうだぜ。肩の力を抜けよ」
「そうね。アタシもその方がいい気がしてきた気がする」
そして、スッキリした表情で、ベッドに仰向けになる。
「ありがとうハラベスト。アタシはアタシを赦せそうだ」
「おう、どういたしまして」
「っていうか、お前はすごいね。その齢で人生観を語れるとは」
「そうか?」
「んー、ジジ臭い、ってやつ?」
「なっ……テメ……!」
「あははっ! ひー、お腹痛……!」
……フェイア、俺も感謝を述べないといけない。ありがとう。お前のおかげで俺は一つ前に進めた気がする。何がどう進んだって説明できるわけじゃないけど、でも、確かに何かが進んだ。人として、成長できた気がする。
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