最弱騎士だけど、最強の王女の騎士に選ばれました

黒田さん信者

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 異様な熱気が押し寄せるコロシアム。そこの中心に二人の少年が立っていた。一人は黒髪の少年。雰囲気は落ち着いており、どこか鋭く研がれた刃を連想させる。もう一人は赤髪の少年。赤髪の方は気のせいか、余裕そうだ。
「……始め!」
 審判の始まりの合図と共に両者は駆け出した。そして、砂塵が舞う。
 黒髪の少年――ルベルは左手に刃を潰した剣を持ち、右手には何も持っていない。対して赤髪の少年は右手に剣、左手に丸盾とオーソドックスなスタイルだ。



「はっ!」

 ルベルは先手必勝と、剣を上段から相手に振り下ろす。素早い特攻、並の相手ならば面くらい、脳天に直撃するスピードとコースだ。

 しかし、ここまで勝ち残ってきた強者。こんな単純な攻撃ではくたばらない。丸盾で防ぎ、そのまま押し返す。

「チッ!」

 バランスを崩したルベルはあえてそのまま後ろに倒れ、転がって体勢を整えた。そして、もう一度果敢に攻め入るも、盾に弾かれる。

「ふぅ……」

 やはり一筋縄では行かない。ルベルは思考を巡らせる。相手は序列十二位。俺のようなランク外とは格が違う。剣の腕だけで見ればまだ全然同等に戦える。しかし――

「燃えよ! ファイアーボール!」
「っ!」

 ルベルは慌ててその場から離れ、距離を詰めようとする。直後、今しがたルベルがいたところに火球が火柱をあげて着弾した。冷や汗をかきながらも果敢に距離を詰め、詠唱の隙を突こうと考えていたのだが、相手は近接戦では不利と見て、両手の武器をその場に捨て距離を取り、二発目のファイアーボールを撃とうとしている。



 魔法。この世界では常識とされてきた、生活の一部。火、水、木、雷、光、闇の六属性があり、なかでも基本の三属性である火、水、木はたとえ一般人でもどれかは使える。

 しかし、ごく稀に魔法適性を持たない者――欠落者が存在する。


 それが彼――ルベル・ライヴァーである。




「クソがっ!」

 ルベルは悪態をつき、必死に競技場内を走り回る。ファイアーボールが一発でも当たれば一瞬で大ダメージを受けるため、うかつに近寄れない。

「いい的だな欠落者! ここまで来れた奇跡に感謝し、ここで散れ!」

 魔法VS剣。この状況になってしまったら、もう勝ち目はない。それが普通だからか、相手は余裕の表情を浮かべた。

 この試合……序列九位を賭けた戦いである『学園闘技』では、第三級魔法までしか使用は認められていない。火属性だと、ファイアーボール、ファイアーショット、ファイアーウィップまで。大魔法使用により、魔法一撃で戦闘終了ということはないものの、魔力切れなどという安直な結末は望めない。最低でもあと二十発は飛んでくるだろう。

「やっぱりファイアーボールは遅いな……よし、ファイアーショット!」

「……うぐっ!?」

 相手はスピードの遅いファイアーボールが当たらないことにしびれを切らし、威力は低いが、速いファイアーショットに切り替え、ルベルを撃ち抜いた。

 うぉぉぉぉぉ! と会場全体が熱い歓声をあげる。

「……ってぇな……」

 被弾したものの、威力が低いため少し吹っ飛んだ程度で済んだルベルは再び走り出す。今度は当てづらいようにジグザグに競技場内を走り回る。さらに急なストップアンドゴーを繰り返し、的を絞らせない。

 ファイアーショットは速いが、動きは直線的だ。そのため、ジグザグ走っていれば当たる可能性は激減する。しかし、その分体力の減りが激しいため、誰がどう見ても不利なのは明らか。

 もちろん、相手もそのことは十分理解している。なんとか魔法を当てようと、相手も競技場内を走り、少しでも近付こうとする。


(マズイ……このまま消耗戦だと、相手に分があるか……)
 
 ルベルは他の人と比べれば、体力はあるが、精神的にも消耗するこの状況下を十分以上続けられないことは理解していた。

 なにか手はないか……そう考えていたその時、ルベルの目はあるものを捉えた。

「ふっ!」

 無理やり足にブレーキをかけ、先程まで相手が立っていた場所へ転がり、近くに落ちていた相手の剣を拾う。そして構えた。

「二刀流か? 無駄なことを。魔法のほうが速く、射程もあると言うのに。だが、近接戦でも負ける気は無い」

 相手は近接戦に付き合ってやろうとファイアーウィップを発動、燃える灼熱の鞭を作り出す。ファイアーウィップは、中距離から近距離に対応できる魔法である。炎を鞭の形にし、振り回す。鞭はファイアーボールやファイアーショットとは違い、軌道がまず読めない。それに、先端のスピードはマッハをも超えるため、回避は困難。セオリーとしては、長距離魔法を放つのが手だが、ルベルは長距離魔法など持ち合わせていない。

 相手の判断は間違ってはいない。むしろ理想的な判断だとも言えるだろう。しかし――

「……誰が近接戦なんて言ったよ!」

 ルベルは剣を両方上に投げ、すばやく落ちていた丸盾を拾う。そして――

「うぉぉりゃぁぁ!」

 丸盾を相手にフリスビーの要領で投げつけた!

「どふっ!?」

 いきなりの飛来物に面食らった相手は、防ぐことも避けることもできず、顔面で丸盾を受け止めた。鼻のあたりから赤い鮮血が舞った。

「うぉぉぉぉ!」

 空中に放った剣を取り、ルベルは弾丸のごとく相手に突進する。二本の剣の先を少し地面に擦るほど低い姿勢で、突撃のスピードを限界まで高める。

「ふぁ、ファイアーショット!」

 慌てて相手は速攻魔法であるファイアーショットを撃ち、ルベルを弾き飛ばそうとするが――

「……ふぅー」

 ルベルは二本の剣をクロスに構え、ファイアーショットを防いだ。しかし、余波である熱波は容赦なくルベルの頬を焼いた。皮膚が焦げる嫌な匂いがした。闇夜のように黒い髪も多少焦げたようだ。

「ふぁ……ファイアーショット! ファイアーショット! ファイアーショット!」

 魔法一発で決着がつく戦いに慣れた相手はパニックに陥いり、ルベルへ向けてファイアーショットを連発する。

「はぁ……はぁ……はぁ……」
 流石に沈んだだろうと思い、相手がようやく笑みを取り戻すも――

「……ヌルいんだよ」
 
 しかし、そこにルベルは立っていた。あちこちが焼け焦げていた。制服はボロボロで、ところどころ炭化していた。でも立っている。二本の足でしっかりと立ち、ギラギラとした目で相手を捉え続ける。
 
「……ギブアップ、もしくは失神がこの試合における敗北だ」

 
 ルベルは苦しそうな表情を浮かべたまま、腰を抜かし座りこんでいる相手の前に立つ。

「……誰がギブアップなんて――」

 上級貴族ということもあり、プライドの塊である相手はギブアップをしない。下級貴族……それどころか、欠落者にギブアップするなんて恥だと考え、頑なにギブアップを拒む。

「……まあ、しないだろうな。だから、こうすることにする」

 ジュッ。ルベルはためらいなく相手の頬に魔法ですっかり焼け、熱くなった剣を押し当てた。

「うぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 相手は跳ね飛ばされたかのように転がり、ルベルから逃げた。

「ひっ……!」

 会場が悲鳴に染まった。しかし、ルベルは気にしない。

「い、いだぃぃぃ……! わ、わかった、俺の負け――」


「よく聞こえなかったので、もう一度行くぞ」


 無慈悲に、静かにもう一度剣を近づける――

「ひぃぃぃ! 俺の負け! 負けだからやめてぇぇぇ……」

 絶叫し、剣が届こうとした瞬間、意識を手放した。カクン、と首が重力に逆らわずに下がった。

「……しょ、勝者、ルベル・ライヴァー!」

 シン……と凍りついた会場にその声が響いた。

 無論、誰もが予想していなかった展開に、固まって動くことのできない観客はただ突っ立っていた。

 しかし、パチパチと拍手が聞こえた。

「……おめでとう、いい試合だった」

 そう言って拍手の主――第七王女は不敵な笑みを浮かべた。

 その後、魔法が溶けたかのごとく、拍手が湧き上がった。

「……ッチ、都合のいい奴らだぜ……」

 ルベルはやれやれとため息を吐き、そのまま倒れた。



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