最弱騎士だけど、最強の王女の騎士に選ばれました

黒田さん信者

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「こっちであってたよな……?」
 ルベルは昨日のあいまいな記憶を頼りに、廊下を突き進む。

「うーむ、確かこっち」
 後半、完全に忘れていたが勘を頼りにずんずん進む。

「おっ、やったぞ!」
 二度ほど行き止まりに当たったが、なんとか到着し、爽やかな風の吹き抜けるテラスに到着した。

「や、やっと着いた……」
 腹ペコではよ飯を食いたいルベルは、よろよろと中庭に出る。

「お疲れ様ですっ! ルベル様っ!」
 今日も朝から元気なマリベルがズサーッとスライディングで駆けてきた。

「お、おはよう。いい匂いがするな。俺もうお腹すいて倒れそう……」

「それはたいへんです! わたしの! おいしい! 朝ごはんで元気になってくださいっ!」
 さあさあ早く早く! と背中を押されて言われるがまま駆け足で椅子に座る。

「来たか」
 俺の向かいの席には、スカーレットが優雅に紅茶を飲んでいた。

「ああ、多少迷ったがな」
 
「ふふ、多少でよかったではないか。城内でお腹がすきすぎて行き倒れなんて事にならずに」

「それは嫌だ……」
 これ以上変な注目を浴びたくない……とゲンナリした表情でため息をついた。

「おはようございますルベル近衛騎士」
 突然ルベルの背後に、スッと音もなくクラウが現れた。

「うおっ⁉ お、おはようございます?」
 ビクッ! と肩を震わせて上ずった声で返事を反射的にする。

「こーらクラウ。私のルベルをあまりいじめてくれるな」

「あら、申し訳ございません。それにしても『私の』ルベルですか」
 ふふふ、と上品に笑う。

「そっ、それはだな! 言葉のあやみたいなものだ! ま、まあ? 実際ルベルは私の騎士だからな」
 顔を赤くしたスカーレットが反論し、少し深呼吸すると落ち着きを取り戻した。

「ごほん、今日のメニューはパンケーキだ。ホットケーキではないぞ? パンケーキだ」
 スカーレットがふふんと自慢げに話す。

「はい、そうです。おはようございますルベル様」
静かに食器を用意しているラミベルが頭を下げ、ルベルに挨拶する。

「あ、ああ、おはようラミベル」

「今回は、先ほど姫様がおっしゃられた通り、パンケーキです。ちなみにホットケーキの時もございます」

「な、なるほど。俺には違いがよくわからんが」
 どちらもうまいということしかわからないルベルは、素直にそう言った。

「ええ、そうだと予想しておりました。まあ、実際には言い方の違いなのですが」

「なんか引っかかるけどなるほど。ってことは、言い方を変えているのは気分とかそういう感じ?」

「いいえ、姫様がどこからか仕入れてきた城下町での情報では、薄いのがパンケーキ、厚いのがホットケーキだそうです」

「うむ。そして、今流行りなのがこれだ!」
 パチン! と指を鳴らすと、とてとてとマリベルが皿を持ってきた。

「生地のもとを小麦粉類と卵黄のみで作り、そして別で泡立てたメレンゲを合わせて混ぜ合わせた生地を焼いたもの、それが今流行りのパンケーキだ!」
 じゃじゃーん! と嬉しそうにスカーレットが両手を広げる。

「まあ、百聞は一見に如かず、案ずるより産むがやすし、見るより食べるべし! だ」
 ルベルの前にも直ちに同じものが運ばれてくる。

「今日は皆揃ったな。では、いただくとするか」
 ルベル、スカーレット、マリベル、ラミベル、クラウの全員にパンケーキがいきわたったのを確認し、スカーレットが声を上げる。

「いただきます!」

「「「「いただきます」」」」
 ルベルの目の前にある、狐色の表面をしたパンケーキは聞いていたものとは違い、なかなかに厚みがあった。

「ふふ、これが食べたくてマリベルに無理を言ったのだ」
 本当に嬉しそうなスカーレットは、まず一枚目のパンケーキに黄金色の蜂蜜をかける。

「甘味は希少だとかそういうわけではないが、やはりたっぷりと蜂蜜を垂らすときは一種の背徳感のようなものを感じるな」

「姫様、それはカロリーに対する背徳感なのでは」

「クラウ、無粋なことを言うな。なに、剣を振ればこの程度のカロリー、すぐ消費できる」
 スカーレットは慎重にパンケーキにナイフを入れる。

「ほほう、素晴らしい感触だ。ふんわりとしていて、かつ外はカリッと出来ている」
 カリッとしっかり焼き色をつけてある表面を過ぎ、中にナイフが差し掛かると急に抵抗が無くなったかのようにナイフがスーッと通る。

「おお、すげぇ」
 中は空気をたっぷりと含んでおり、見るからにふわふわだ。

「では……」
 真剣な顔で、パンケーキを口に運ぶ。

「…………おいしい!」
 ニコニコとした顔で、ほっぺたを押さえる。

「素晴らしいぞマリベル! いい腕だ!」
 グッ、と親指を立ててマリベルを褒める。

「えへへー、頑張りました!」
 マリベルもグッ、と親指を立て返す。

「ささ、ルベル様もクラウおばさまもどうぞ」 
 マリベルが、ニコニコとルベル達にも勧める。

「よし、じゃあいただくよ」
 ルベルもサクッとパンケーキにナイフを入れた。

「うおっ、軽い」
 予想よりも軽い感覚に驚く。

「じゃあ……」
 先ほどスカーレットが切り出したものより二回りほど大きいパンケーキを口に詰め込む。

「……うまっ!」
 触感は、本当に軽く、まるで口の中で溶けるようだ。卵黄と卵白を別々に泡立てたことにより、普通に泡立てるのとは違い、多く空気を含むため、質量以上に軽い。

「本当ですね、また腕を上げましたね、マリベル」
 クラウも上品にパンケーキを食べる。

「えへへー、おばさまの教えがよかったからです!」

「それにラミベル。いいジャムだわ、甘さも控えめで、いい塩梅」

「恐縮です。マリベルより劣る分、こういうところで努力せねばなりませぬので」
 そう言いつつも、少し嬉しそうだ。

「ああ、本当にうまいよ。パンケーキも美味しいし、つけて食べるジャムもうまい」
 ジャムは甘さを控えめに作っており、果実本来の甘みを楽しむことができる。イチゴジャムは、あえて潰さずにそのまま砂糖で煮ることにより粒感を残し、リンゴジャムはざく切りの大き目のリンゴをゆっくり煮ているため、本来の触感を残している。他にも、レモンの果汁を入れたりしているなど、細かな気配りに近いこだわりを感じる。

「マリベルのパンケーキ、ラミベルのジャム。その二つが揃ったからこその味な気がするな」

「うむ! 素晴らしいだろう私のメイドは!」
 ふははー! とスカーレットがここぞとばかりに威張る。ちなみに皿はもう空になっていた。

「……さて、各々食事も終盤だろう。とりあえず、今日の予定を確認するぞ。まずはルベル!」

「俺か? そうだな、今回はあえて剣を振ることから離れるよ」

「ほう? その真意は?」

「うーん、なんて言えばいいのかわからないんだけど、まだ俺はこの剣と『対話』をしていない。だから、自室で対話をしようと思う。あと、あればでいいから、設計図が欲しい」

「ふむ、なるほどなるほど、いい考えだな。もちろん、設計図はあるぞ。あとでマリベルに届けさせる。剣との対話というのは独特な考えであるが、言わんとしたいことはわかるぞ」
 ルベルの話を聞き、うんうんと頷く。

「次はラミベル、私の予定だ。空きがあれば私もルベルと――」

「スケジュールは一杯です。一分も余裕がありません」

「ぐぬぅ……」
 ぐぬぬぬ……と悔しそうな顔をする。

「昼時などは――」

「ダメです。大臣との会食があります」

「うむぅ……。あやつらとの会食は好かぬ……。せっかくの食事がマズくなる」
 しょもしょもと肩を落とすスカーレット。

「……姫様を支援してくださる方々なのですから、どうか邪険に扱わずに」
 ここでクラウが上品に口元を拭きながら、スカーレットに注意する。

「わ、わかっておる。たしかにそうだ、私を応援しようなどというゲテモノ、キワモノは大事にせねばな。……まあ、今日はこのような感じだ。すまぬなルベル、一緒にいれなくて」

「へっ? 大丈夫ですよ、伸び伸びできそうなので!」

「…………ふん、独りでさみしく剣に語り掛けておればよいわ! ふん!」
 この言葉を聞き、メイドたちは大きなため息を三人同時についた。
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